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10歳

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「シエル・・・」

 アル兄様が切なそうな顔で、私を見遣る。だけど、目を逸らしたのは、アル兄様の方が先だった。

「アル兄様。アル兄様がどの道を選ぼうと、私は何も言うつもりはありません。ですが、亡くなった伯父様たちのお気持ちをよくお考えになった上で、自分が正しいと思う道を進んで下さい。それから・・・」

 私はそこで一旦、言葉を切った。
目を逸らしたままのアル兄様の横顔を、じっと見つめる。

「アル兄様のことは、家族としての好きとしか思えませんでした。ずっと大切にしてくださっていたのに、お気持ちに応えられず、申し訳ありません」

「・・・」

 アル兄様は何も答えない。
私も別に答えが欲しくて言ったわけじゃないから、構わない。

 学園を卒業する年齢まで、誰も好きにならなかったなら、婚約者になってもいい。
 そう思ったのは、本心だ。
決してアル兄様を嫌いではないから、政略結婚と思えば、よく知っている相手の方がいいと思った。

 でも今回、お父様はアル兄様に罰という形で婚約者を別に決めることを申し付けた。

 その意図は、私にはわからない。
でも、自分を王太子としてふさわしくないと言って、後ろ向きなままのアル兄様を変える存在は、私ではなくシャンティーヌ様なのだろう。

 アル兄様の目の前には、2つの道がある。

 1つは、シャンティーヌ様と婚約し、王太子としてもう一度やり直すこと。

 もう1つは、身分を剥奪され、イチ貴族としてやり直すこと。

 どちらの道を選んでも、私と結ばれることはない。

 お父様たちは、私がどんな身分の人間と結ばれてもいいと思ってくれているけど、アル兄様が王太子でなくなるなら、私は王女として、未来の国王となるに相応しい相手と結婚する必要がある。

 前国王陛下の伯父様の子供はアル兄様だけだったし、親戚身内も、弟であるお父様だけだった。
 つまりは、王家の血筋は、アル兄様か私だけなのだ。

 私は王族という身分にはこだわりはないけど、私を大切に愛してくれる、お父様やお母様のことは大切にしたい。

「話は以上だ。アレクセイは、3日後までにどうするのか決めること。それから、マモンは今夜はブロワー伯爵家に泊まりなさい。辺境には知らせておく。明日、マモンとマズルは登城し、シエルと共に辺境へ行きなさい」

「陛下。ですが、俺はもうブロワー伯爵家には・・・」

「結婚することも、伯爵夫人にも話してあげるように。伯爵家に籍を戻すことはできないが、マモンもマズルも、伯爵の子供であることには変わりない。元気な姿を見せてあげなさい」

 お父様の言葉に、ブロワー伯爵も、マモンもマズルも深く深く、頭を下げたのだった。







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