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第2章

15話―レンくんには秘密がありました。『前編』

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 教会の言い分は最もな話だったと思う。
『聖騎士団』に所属するシャルくんの大事な儀式に、参加するどころか携わる事すら出来なかったのだから。
 教皇様から国王様へ直々に苦情が入ったそうだ。
 だがこちらにも言い分がある。
 何しろ事は急を要する。
 魔王が復活したのだ。
 世界の一大事なのだ。
 そして幸運にも教皇様の代わりを務められる人間が一人だけいた。
『黒の巫女』つまり私だ。
 その弁明に対し、教会からはそもそもその巫女が信用に値する人間なのかと言われた。未だ人前に姿を見せず、巫女と言っているのは王宮の一部の人間のみだ。
 ホルケウと契約したというのも事実なのか?  との事だった。
 流石にカチンと来たので、ハワード様と共に教会に乗り込んでやった。
 しぶしぶなソラと共に。
 いきなりやって来たハワード様と小娘とホルケウ(その時は通常サイズに戻って頂きました)に、教会の人達はさぞ驚きおののいたことでしょう。
 おまけにハワード様に言われてシャルくんから聖剣をお借りする。ただ手に持っただけなのに、教会を出る頃には、全員平伏していた。
 何かよくわからないけど、ちょっと勝った気分。


 と言った内容を話しながら、王都のアルクさんのお屋敷で今はティータイム中だ。

「教会の連中はこれで大人しくなるだろう」

 何故かそこにハワード様もいる。
 王子って暇なの?
 いつもいるじゃん!!
 と言うか、儀式の件まだ許してないからね!!
 という目を向けるが、なに食わぬ顔で茶すすってやがる。


 女神様の言葉は伝えてある。
 残念ながら、ハワード様もアルクさんも精霊を進化させる為の条件は知らないようだ。
 まぁそうだろうね。
 ワサビちゃんが初めてらしいし。
 イグニス達に『ご飯食べてもらおう作戦』は実行することになった。
 ただ、これ以上シャルくんを王宮に常駐させて教会の反感を買うのは後々面倒なので、遠征が始まってからと言うことになった。
 レシピ考えておこう。


 今日は珍しくアルクさんがお休みなので、朝からラフな格好で過ごしている。
 ここのところずっと忙しそうだったから、体を休める時間が取れて良かった。
 少しでもリラックス出来るように、今日のお茶はハーブを使ったものに、お茶菓子はスコーンと数種類の果物のジャムを用意した。
 そうして談笑していると、訓練を終えたレンくんが帰ってきた。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 表情が少し固いのが気になった。
 レンくんはアルクさんとハワード様を見つけると、二人の席へ近付いていく。

「ん?」

「レン?  どうした?」

「殿下、アルクさん。お願いがあります」

 レンくんの真剣な表情に、二人の顔から笑みが消えた。

「どうした?  改まって」

「明後日の騎士昇格試験を受けようと思います。受かったら、オレを遠征メンバーに入れてください」

「……え…?」

 思わずメアリとメリッサと共に凝視してしまった。
 二人の表情も固い。

「それは出来ない」

 口を開いたのはアルクさんだった。

「オレは魔力持ちです!  魔族とだって戦えます!!」

「だが実戦はほぼ無いだろう。経験不足だ」

「まて、アル。……何故志望する?  その理由を教えてくれ」

 レンくんは拳をぐっと握りしめる。

「自分が役に立てると思うから」

「根拠は?」

 ハワード様の鋭い視線がレンくんを捉えている。
 彼はうつむき、拳が僅かに震えている。

「そう言う奴は五万といる。今でも調査部隊への入隊希望は毎日山のように来る。名を上げたい、目立ちたい、そんな理由ではまかり通らないことくらいわかるだろう?  なら、オレが納得出来る理由を示せ。それが出来ないならアルの言うとおり却下だ」

 レンくんは何も言わないまま俯いている。その瞳は不安げに揺れ、何か迷っているようにも見える。


「見せてやるがいい」

「え?」

「!?」

 口を開いたのはソラだった。

「力を示せと言われた。見せてやればよい」

「……でもっ」

 話が見えない。
 ソラは何か知っているのか?

「えみも皆もその程度の事でぬしを無下にしたりせぬよ。ぬしとてわかっている筈だ」

「……っ……」

「何の話だ?  レン」

 アルクさんの問いかけに、レンくんは遂に決意したように顔を上げた。

「すみません、アルクさん。……ずっと……隠してた事があります」

「え?」

「オレの、正体……」

 そう言うと、レンくんが白く発光した。
 光が収まると共に姿が変化している。

「「「!?」」」

 頭の上に生えた三角の耳。ブロンドの髪は白くその色を変えていた。
 袖から見える手はゴツく大きくなり、甲は白い毛で覆われ爪は鋭く尖っている。
 何より目を引いたのは、お尻に生えた大きな尻尾だった。
 これまた真っ白な長いふっさふさの毛で覆われ、艶々している。


「獣人……か……」

 アルクさんとハワード様は驚きに目を見開いていた。

「……言おうと、思ってたけど……拒絶されるのが、怖くて……」

 声に僅かに震えが混じっている。
 私は、立ち上がると真っ直ぐにレンくんの側へ行く。
 正面に立つと彼を見上げた。


「尻尾、触ってもいい?」

「……え?」

 揺れていた瞳が驚きに開かれた。
 今じゃない事くらいわかってる!最悪のタイミングだろう。でも!  それでも、こんなの見せられたら我慢なんか出来なかった。

「尻尾!!  触ってもいい?  お願い!!!」

 私の目は期待と好奇心でキラっキラしていたことでしょう!!
 だって見てよこの尻尾。
 ふっさふさのもっふもふ!!
 絶対気持ちいいに決まってるじゃない!!
 ソラの手触りも良いけど、レンくんの方が毛が細くて柔らかそう。

「い、…いいけど……」

「やった!」

 遠慮なく両手で触れると、案の定柔らかくてふわふわだった。

「何これ、スッゴい!  柔らかっ!  気持ちいい」

「私も触りたい!!」
「あの…私も……」

 メアリとメリッサもやってくる。瞳をキラっキラに輝かせて。

「いいけど……怖くないのか?  気味悪いって――」

「何で?  怖さで言ったらソラの方が百倍怖いよー」

 ソラがフフンと鼻を鳴らした。

「レンはレンでしょ?  もふもふしててもそんなの変わらないじゃない」

「……抱き枕にしたい……」


 あははとハワードが声を出して笑い出した。

「『畏怖の象徴』もアルカン家では形無しだな」

「……本当に」

 アルクはどこかホッとしたような呆れたような表情だ。

「ホルケウ殿のお陰で女性陣に免疫がついたかな?」

「ソラとえみのお蔭…かな」

 レンとその周りではしゃぐえみ達を、アルクは柔らかな笑みを浮かべて見ていた。
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