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最終章
16話——困惑
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レーヴェの記憶を写していた水鏡が光を失うと、水面が暗く静けさを取り戻していく。
周りを囲み一部始終を見ていたパーティメンバーは、一様に困惑の表情を浮かべ言葉を発する事が出来ないまま、その場へ立ち尽くしていた。
「…どう言う事だ…? 魔王を倒せば世界の平和が守られるのではないのか……?」
ハワードの自問にシャガールが僅かに目を伏せる。
えみを取り戻し魔王を倒す。そうすれば全てが元通り。以前のように平和が訪れ、穏やかな日々を取り戻せる。誰もがそう考え、それ以外に道は無いのだと信じて疑わなかった。
そうではないのかもしれない
その現実を初めて知り、どう言えば良いのか分からないと言った表情だ。
「確かに戦いは終わった」
頭に直接響くようなレーヴェの声に、彼へと視線が集まる。
「魔王は消え、魔族の力は急激に弱体化した。その代償として多くの犠牲を払い、勇者もまた力を失った」
「最後の言葉の真意は何だ? もし仮に、彼の行いが間違いだと言うのなら、我々は何故、何の為に此処にいる!?」
ハワードが語気を強め、レーヴェへ詰め寄る。意識的に冷静さを取り繕っている事を知っている者たちは、彼が感情剥き出しのまま声を荒げた事に驚いた。が、誰もが同じ疑問を持っている。どうしても答えが欲しかった。
と、レーヴェの言葉を待つ彼等の背後から答えが返ってくる。口を開いたのは今生の勇者、シャガールだ。
「シャルナンドは『歴史を繰り返すな』と、そう言いたいんだと思う」
「歴史を繰り返す? どう言う事だ?」
「シャガール殿、何かご存じなのですか?」
ハワードとルーベルがいち早く反応し、全員の視線が今度はシャガールへ向けられる。
「魔力を解放して眠りに付いた時、女神様から呼び出されて、この世界の創生の話をされました」
「この世界の創生? 何故そんな話が…」
「魔王と勇者の関係を知っておけと、そう言う事だったんじゃないかと思います」
初めにこの世界に誕生したのは魔族と精霊。陰と陽の力だった。対局の関係だった二つの種族は互いに干渉する事はなく、世界が発展する事も無かった。
やがて人が生まれ落ち、彼等は知恵を出し合う事で村を作り、街を作り、世界は飛躍的に発達していった。
技術が進歩し、街が大きくなるにつれ、人は生活圏を広げていく。やがて国が生まれ、階級が定まり、人が人を支配するようになると、人同士で領土を巡り争いが起こるようになった。
どんどん領土を拡大していく人間達と、住処を奪われそうになった魔族との間でも争いが起こるようになっていった。
人は精霊と手を取り合い、魔族の持つ魔力に対抗した。
魔族が人を襲うと人は精霊の力を借り、魔族を殲滅する。そんな人を殲滅する為魔族が力をつけていく。
そうして互いの力が増していくうちに、突然変異で魔王が誕生してしまった。
圧倒的な力の差に人は絶望し、バランスを失った世界は崩壊寸前となってしまったのである。
「そんな中で創り出されたのが『勇者』だ」
勇者とは苦肉の策で女神が生み出した産物。
人でも精霊でも無い、魔王を倒す為だけに造られた道具に過ぎない。
よって何もかも規格外、まさに化物だ。
魔王さえ倒せば勇者は要らない。力を失うのはその為だ。強すぎる力は世界のバランスを崩してしまう。
全てはこの世界のため
「シャルナンドはその事を知ったんだと思います。だから一人を選んだ。力を失ったとはいえ、魔王のいない世界に化物は必要ないから」
「そんな……そんなの……酷いよ」
マーレが小さく呟き、俯いてしまう。声も肩も僅かに震えている。
そんな彼女の肩をプラーミアが優しく抱き寄せた。
「オレにはシャルナンドの気持ちが良く分かります。大切な人達には、やっぱり生きていて欲しいと思うから」
最初から一人だったこんな自分を仲間だと言って受け入れてくれた皆には、生きて幸せになって貰いたい。平和で穏やかな、何の脅威も無い世界で。
「だからそれは、こっちだって同じなんだよ」
語気を強めたレンの言葉に、シャガールが目を見開いた。
シャガールの肩に手を置いて、アルクが目元を緩く歪める。
「ちあきも言っていただろう? 彼女にとって、シャルナンドもそうあって欲しい大切な人だった。シャガールが我々を大切だと思うように、我々も君を大切な仲間だと思ってる。えみだってそう思ってるよ」
「でもオレは……――」
「お前が何であろうと、オレの友である事、ここにいる皆の仲間である事は揺るがない!」
「どんな理由があったとしても、私は絶対にシャルくんを一人で行かせたりなんかしない!!」
「……っ……」
レンの熱い想いと涙が光るマーレの真っ直ぐな眼差しに、シャガールのサファイアブルーが揺れる。
「ここまで来て一人で行くなんて言ってくれるなよ?」
「足手まといなんて言わせませんわ」
冷静さを取り戻したハワードが不敵な笑みを浮かべ、艶やかな笑みを纏うプラーミアは松明の灯によって妖艶さが倍増している。
「想いは皆同じです。だったら一人より全員で、ですよ」
ルーベルのダメ押しに、シャガールがフッと表情を崩した。
一度顔を伏せ瞳を閉じる。長く長く息を吐き出し拳を握ると、強い光を宿したサファイヤブルーが仲間達へと向けられる。
「オレはえみを取り戻したい。みんなの力を貸してくれ!」
「最初からそのつもりだ!」
レンの言葉に全員が頷く。迷いや恐れを抱く者は誰一人としていなかった。
「やはりそうなるか」
彼らの話を黙って聞いていたレーヴェが重い口を開く。
また同じ歴史を繰り返すしか無いのか、と黄金色の瞳を伏せた。
そんな彼の正面にシャガールが歩み寄る。
「同じじゃないさ。えみが囚われた今、戦いは避けられない。だけど、今度こそオレが終わらせてみせる。ここに居る仲間達と一緒に!」
レーヴェはそうかとだけ呟き、それ以上は何も言わなかった。
「レーヴェ殿。ちあきが作った魔物探知機は今何処にあるだろうか?」
ハワードが知る限り、そんな魔道具の記録は無い。
シャガールが知らなかった事からも、教会にも残っていないと考えるのが妥当だろう。
だとすれば、唯一の手掛かりはレーヴェだけだ。
やっと見つけた魔王への手掛かり。道しるべだと思われた。
「……残念だが残っておらぬ」
周りを囲み一部始終を見ていたパーティメンバーは、一様に困惑の表情を浮かべ言葉を発する事が出来ないまま、その場へ立ち尽くしていた。
「…どう言う事だ…? 魔王を倒せば世界の平和が守られるのではないのか……?」
ハワードの自問にシャガールが僅かに目を伏せる。
えみを取り戻し魔王を倒す。そうすれば全てが元通り。以前のように平和が訪れ、穏やかな日々を取り戻せる。誰もがそう考え、それ以外に道は無いのだと信じて疑わなかった。
そうではないのかもしれない
その現実を初めて知り、どう言えば良いのか分からないと言った表情だ。
「確かに戦いは終わった」
頭に直接響くようなレーヴェの声に、彼へと視線が集まる。
「魔王は消え、魔族の力は急激に弱体化した。その代償として多くの犠牲を払い、勇者もまた力を失った」
「最後の言葉の真意は何だ? もし仮に、彼の行いが間違いだと言うのなら、我々は何故、何の為に此処にいる!?」
ハワードが語気を強め、レーヴェへ詰め寄る。意識的に冷静さを取り繕っている事を知っている者たちは、彼が感情剥き出しのまま声を荒げた事に驚いた。が、誰もが同じ疑問を持っている。どうしても答えが欲しかった。
と、レーヴェの言葉を待つ彼等の背後から答えが返ってくる。口を開いたのは今生の勇者、シャガールだ。
「シャルナンドは『歴史を繰り返すな』と、そう言いたいんだと思う」
「歴史を繰り返す? どう言う事だ?」
「シャガール殿、何かご存じなのですか?」
ハワードとルーベルがいち早く反応し、全員の視線が今度はシャガールへ向けられる。
「魔力を解放して眠りに付いた時、女神様から呼び出されて、この世界の創生の話をされました」
「この世界の創生? 何故そんな話が…」
「魔王と勇者の関係を知っておけと、そう言う事だったんじゃないかと思います」
初めにこの世界に誕生したのは魔族と精霊。陰と陽の力だった。対局の関係だった二つの種族は互いに干渉する事はなく、世界が発展する事も無かった。
やがて人が生まれ落ち、彼等は知恵を出し合う事で村を作り、街を作り、世界は飛躍的に発達していった。
技術が進歩し、街が大きくなるにつれ、人は生活圏を広げていく。やがて国が生まれ、階級が定まり、人が人を支配するようになると、人同士で領土を巡り争いが起こるようになった。
どんどん領土を拡大していく人間達と、住処を奪われそうになった魔族との間でも争いが起こるようになっていった。
人は精霊と手を取り合い、魔族の持つ魔力に対抗した。
魔族が人を襲うと人は精霊の力を借り、魔族を殲滅する。そんな人を殲滅する為魔族が力をつけていく。
そうして互いの力が増していくうちに、突然変異で魔王が誕生してしまった。
圧倒的な力の差に人は絶望し、バランスを失った世界は崩壊寸前となってしまったのである。
「そんな中で創り出されたのが『勇者』だ」
勇者とは苦肉の策で女神が生み出した産物。
人でも精霊でも無い、魔王を倒す為だけに造られた道具に過ぎない。
よって何もかも規格外、まさに化物だ。
魔王さえ倒せば勇者は要らない。力を失うのはその為だ。強すぎる力は世界のバランスを崩してしまう。
全てはこの世界のため
「シャルナンドはその事を知ったんだと思います。だから一人を選んだ。力を失ったとはいえ、魔王のいない世界に化物は必要ないから」
「そんな……そんなの……酷いよ」
マーレが小さく呟き、俯いてしまう。声も肩も僅かに震えている。
そんな彼女の肩をプラーミアが優しく抱き寄せた。
「オレにはシャルナンドの気持ちが良く分かります。大切な人達には、やっぱり生きていて欲しいと思うから」
最初から一人だったこんな自分を仲間だと言って受け入れてくれた皆には、生きて幸せになって貰いたい。平和で穏やかな、何の脅威も無い世界で。
「だからそれは、こっちだって同じなんだよ」
語気を強めたレンの言葉に、シャガールが目を見開いた。
シャガールの肩に手を置いて、アルクが目元を緩く歪める。
「ちあきも言っていただろう? 彼女にとって、シャルナンドもそうあって欲しい大切な人だった。シャガールが我々を大切だと思うように、我々も君を大切な仲間だと思ってる。えみだってそう思ってるよ」
「でもオレは……――」
「お前が何であろうと、オレの友である事、ここにいる皆の仲間である事は揺るがない!」
「どんな理由があったとしても、私は絶対にシャルくんを一人で行かせたりなんかしない!!」
「……っ……」
レンの熱い想いと涙が光るマーレの真っ直ぐな眼差しに、シャガールのサファイアブルーが揺れる。
「ここまで来て一人で行くなんて言ってくれるなよ?」
「足手まといなんて言わせませんわ」
冷静さを取り戻したハワードが不敵な笑みを浮かべ、艶やかな笑みを纏うプラーミアは松明の灯によって妖艶さが倍増している。
「想いは皆同じです。だったら一人より全員で、ですよ」
ルーベルのダメ押しに、シャガールがフッと表情を崩した。
一度顔を伏せ瞳を閉じる。長く長く息を吐き出し拳を握ると、強い光を宿したサファイヤブルーが仲間達へと向けられる。
「オレはえみを取り戻したい。みんなの力を貸してくれ!」
「最初からそのつもりだ!」
レンの言葉に全員が頷く。迷いや恐れを抱く者は誰一人としていなかった。
「やはりそうなるか」
彼らの話を黙って聞いていたレーヴェが重い口を開く。
また同じ歴史を繰り返すしか無いのか、と黄金色の瞳を伏せた。
そんな彼の正面にシャガールが歩み寄る。
「同じじゃないさ。えみが囚われた今、戦いは避けられない。だけど、今度こそオレが終わらせてみせる。ここに居る仲間達と一緒に!」
レーヴェはそうかとだけ呟き、それ以上は何も言わなかった。
「レーヴェ殿。ちあきが作った魔物探知機は今何処にあるだろうか?」
ハワードが知る限り、そんな魔道具の記録は無い。
シャガールが知らなかった事からも、教会にも残っていないと考えるのが妥当だろう。
だとすれば、唯一の手掛かりはレーヴェだけだ。
やっと見つけた魔王への手掛かり。道しるべだと思われた。
「……残念だが残っておらぬ」
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