39 / 52
第三章
13 もう一度約束を
しおりを挟む
※
アースィムは、瑠璃色のタイルに囲まれた一室に屹立する水の柱の中で、ただ生かされていた。
全身が水で覆われているはずだが、苦痛はない。食事をとらずとも、目を閉じることが叶わなくとも、呼吸すらできなくても、ただそこに存在するだけだ。肉体を失い精神だけになったとしたら、このような感覚なのだろうか。
どれほど時間が経ったのか、わからない。ほんの数日だったようにも思えるし、数か月経ったようにも感じられる。
時の流れすら曖昧なその部屋に、久しぶりに来訪者が現われた。
上階から続く階段を、三つの足音が下って来る。一人は、青年姿の精霊王、もう一人は露出度の高い衣裳を纏った赤毛の女。どこかで見たことがあるような気もするが、思い出せない。そして最後にやって来た姿を目にし、アースィムの思考は停止した。
闇に溶けてしまいそうな紫紺の長衣を纏い、空色をした絹のスカーフを頭頂からすっぽりと被るその人物は紛れもなく、愛おしい妻ラフィア。
身体の自由が利く状況であったならば、彼女の名を呼んでいただろう。
アースィムを助けるために来てくれたのだろうか。それならば、一刻も早く翻意させなくては。精霊王は狂っている。彼は、我が子の中に眠る精霊としての力を目覚めさせ、無聊を慰めるための玩具にしようとしているのだ。すぐにでも逃げろと叫びたい。しかし、自由を奪われたこの身体では、唇を動かすことすら叶わない。
精霊王と赤毛の女が足を止め、ラフィアだけが進み出る。ほっそりとした指先が、アースィムの頬の辺りの水流に触れた。爪に弾かれた流れが音を立てて飛沫を上げる。ラフィアの指が透明な水壁を侵入し、アースィムの頬に触れる。いや、触れたと思ったが、感触はない。
「アースィム」
微かに震える声が囁いた。スカーフに覆われたその表情は判然としない。
マルシブ帝国の女性がスカーフを被るのは、灼熱の陽光から頭部を守るためであり、決して他者から顔を隠すためではない。にもかかわらず、室内でも頭部を覆い続けるのは、感情を悟らせないためだろうか。
水盤を通し最後に見たラフィアの泣き顔が、脳裏を過る。今この瞬間、妻はどんな顔をしているのだろう。
「ラフィア、これで信じてくれたね? アースィムを砂漠へ帰す。君が僕の後継者になってくれさえすれば」
精霊王の楽し気な声に呼ばれ、ラフィアは肩越しに振り返る。
「僕のことが憎いだろう。それで良いんだよ。怒りの感情が、水を動かす大きな力となる」
「憎くないわ」
凛と発せられた言葉は、風のない夜の水面のように穏やかだ。そして。
「憎くない。楽しいわ。この上なく」
声はどこか狂気を宿している。
ラフィアはスカーフの陰から、信じられない言葉を吐き出し続ける。
「あなたも知っているでしょう、子供の頃からずっと、私は自由が欲しかった。広い世界に出て、色々なものを見たかった。小さな集落で人間として暮らすよりも、精霊として水と共に生きる方が楽しいわ。これからは、水に纏わる全てを意のままに扱える。これ以上の自由はあるかしら」
精霊王は虚を衝かれた様子で目を丸くしてから、次第に歓喜を滲ませ、最後にはうっとりとした笑みを浮かべて手を叩いた。
「素晴らしいよラフィア。それでこそ我が娘。さあ、彼をそこから出してあげて。僕が集落まで送り届けるから」
「ええ」
ラフィアの腕に抱かれ、アースィムは水の柱から脱した。
肌が空気に触れた途端、急激に息苦しさを覚え、身体を折って咳込む。苦痛に喘ぎながら辛うじて顔を上げ、アースィムは訴えた。
「ラフィア、どうしたんです。こんなのあなたじゃない」
「最初に言ったでしょう? 私が欲しかったのは自由。後宮から出るために、あなたの妻である必要があったから、一緒にいただけよ」
アースィムは、濡れた前髪から滴り落ちる水滴の間から、ラフィアの姿を凝視する。
ラフィアは小さく鼻を鳴らし、アースィムの腕を引いて精霊王の方へと進んだ。
アースィムの身体は、ラフィアの腕から無邪気な青年に託される。頬のすぐ横に、精霊王の顔がある。
「君はラフィアを大切にしてくれたんだよね。ありがとう。そのお礼に、白の氏族、だったっけ? 君の仲間には手を出さないよ。他の人間は血祭りだけど」
「いいえ、お父様」
ラフィアが精霊王の腕を撫でた。
「氏族なんて関係ないわ。この国には、天竜も砂竜もいらない。私達の土地に後からやって来た侵略者だもの」
「へえ?」
「この国から精霊がいなくなったのは、精霊王に代わる水神の使徒として天竜がやって来たからなのでしょう? それなら、天竜とその子である砂竜がいなくなればまた、私達の暮らしが戻ってくる」
「ラフィア」
思わず名を呼んで、ふと、空色のスカーフにほつれた部分があることに気づく。糸が抜けて薄くなった小さな隙間から、ラフィアの青い瞳が覗いた。すぐに顔を背けられてしまったが、そこに浮かぶ感情を目にし、アースィムは息を吞んだ。
「でもアースィムには恩がある」
「じゃあどうするんだい、我が娘よ」
「私達の土地から追放するの。アースィムも含めて、砂竜族を全員」
「ふうん、甘いんじゃない? 皆殺しにしちゃおうよ」
「いいえ、それではつまらないわ。だって一瞬で全部終わってしまうのよ」
「そりゃそうだけど」
「ゆっくりと苦しむ様を見て、楽しみましょう、お父様。精霊王の力は水を意のままにする。水神の眷属である砂竜にも影響を与えられるはずでしょう? 後から反旗を翻そうとされたなら、その時制裁を下せば良いのだわ」
「……まあ、そういう筋書きも面白いか」
精霊王は明るく言って、アースィムを背負い直した。そのまま、日差しが降り注ぐ中庭へと引き摺られる。
長らく、人知の及ばぬ奇妙な場所に幽閉されていたためか、身体が麻痺してほとんど動かない。されるがまま精霊王に全身を預けていたが、建物を出て眼球を刺す光を浴びたと同時にアースィムは我に返り、声を張った。
「止まってくれ。なあ、ラフィア!」
精霊王の歩みが止まる。ラフィアが、絹を透かしてこちらを見詰めている。
アースィムは強張る手で懐を探る。触れたものを潰さぬよう柔らかく握り、ラフィアの方へと腕を伸ばした。スカーフから覗く鼻先に拳を差し出して、蕾が開くように指を解く。不自由に震える手のひらの上にあるものを見て、ラフィアの肩が微かに揺れた。ずぶ濡れになった小さな白い花。アースィムは細い茎を指先で摘み直す。
「聖地に生えている高山花です。白の氏族では、大切な人にこれを贈ります。最初の新婚旅行の際、約束しましたよね。あなたのために摘んで来ますと」
さあ、と促せば、長衣の袖からラフィアの細い指が伸ばされる。アースィムは茎を掴んでいない三本の指で妻の手を捉えた。
「最初の新婚旅行は俺のせいで台無しでした。悔いています。今はただ、あなたと聖地に行きたい」
震える指先から、ラフィアの心が流れ込むような錯覚を覚えた。彼女は変わってなどいない。スカーフの陰で、彼女は泣いている。青い瞳を覆い尽くす砂嵐のような絶望を、アースィムは先ほど垣間見た。決して見間違いなどではないはずだ。
「これは少し枯れかけていますが、次はもっと綺麗な花をたくさん摘んで来ますから、待っていてください。必ず約束は守ります」
ラフィアは言葉を発しなかったが、確かにその花を受け取った。
衣擦れの音すらせぬ沈黙が、空間を満たした。やがて、やや離れた場所に佇んでいる赤毛の女が、すんと洟を啜った音で、静寂が破られる。
それが合図だったかのように、精霊王が哄笑を上げた。
「おいおい、実父の前で娘を口説くとは、やるねえ、アースィム」
「彼女はあなたの娘かもしれませんが、俺の妻です」
「あ、そう」
精霊王はつまらなそうに吐き捨てて、アースィムを芝生に放り投げた。
自由にならぬ身体では満足に受け身すら取れず、したたかに全身を打ち付けて呻く。辛うじて細く開いた視界を、作り物のような黄色い太陽を背にした精霊王の上体が埋め尽くした。
「残念だけど、ラフィアは人間ではなく精霊として生きるんだ。肉体という枷を捨て、精神だけの存在となり、純然たる水に一歩近づいて。そうして、偉大な精霊王となる。あの子にとっては人間など、ちっぽけで、短命で、取るに足らない存在なんだよ」
精霊王の足裏が、眼前に迫る。
蹴られる、と思ったと同時、頭部に衝撃を覚え、アースィムの意識は暗転した。
アースィムは、瑠璃色のタイルに囲まれた一室に屹立する水の柱の中で、ただ生かされていた。
全身が水で覆われているはずだが、苦痛はない。食事をとらずとも、目を閉じることが叶わなくとも、呼吸すらできなくても、ただそこに存在するだけだ。肉体を失い精神だけになったとしたら、このような感覚なのだろうか。
どれほど時間が経ったのか、わからない。ほんの数日だったようにも思えるし、数か月経ったようにも感じられる。
時の流れすら曖昧なその部屋に、久しぶりに来訪者が現われた。
上階から続く階段を、三つの足音が下って来る。一人は、青年姿の精霊王、もう一人は露出度の高い衣裳を纏った赤毛の女。どこかで見たことがあるような気もするが、思い出せない。そして最後にやって来た姿を目にし、アースィムの思考は停止した。
闇に溶けてしまいそうな紫紺の長衣を纏い、空色をした絹のスカーフを頭頂からすっぽりと被るその人物は紛れもなく、愛おしい妻ラフィア。
身体の自由が利く状況であったならば、彼女の名を呼んでいただろう。
アースィムを助けるために来てくれたのだろうか。それならば、一刻も早く翻意させなくては。精霊王は狂っている。彼は、我が子の中に眠る精霊としての力を目覚めさせ、無聊を慰めるための玩具にしようとしているのだ。すぐにでも逃げろと叫びたい。しかし、自由を奪われたこの身体では、唇を動かすことすら叶わない。
精霊王と赤毛の女が足を止め、ラフィアだけが進み出る。ほっそりとした指先が、アースィムの頬の辺りの水流に触れた。爪に弾かれた流れが音を立てて飛沫を上げる。ラフィアの指が透明な水壁を侵入し、アースィムの頬に触れる。いや、触れたと思ったが、感触はない。
「アースィム」
微かに震える声が囁いた。スカーフに覆われたその表情は判然としない。
マルシブ帝国の女性がスカーフを被るのは、灼熱の陽光から頭部を守るためであり、決して他者から顔を隠すためではない。にもかかわらず、室内でも頭部を覆い続けるのは、感情を悟らせないためだろうか。
水盤を通し最後に見たラフィアの泣き顔が、脳裏を過る。今この瞬間、妻はどんな顔をしているのだろう。
「ラフィア、これで信じてくれたね? アースィムを砂漠へ帰す。君が僕の後継者になってくれさえすれば」
精霊王の楽し気な声に呼ばれ、ラフィアは肩越しに振り返る。
「僕のことが憎いだろう。それで良いんだよ。怒りの感情が、水を動かす大きな力となる」
「憎くないわ」
凛と発せられた言葉は、風のない夜の水面のように穏やかだ。そして。
「憎くない。楽しいわ。この上なく」
声はどこか狂気を宿している。
ラフィアはスカーフの陰から、信じられない言葉を吐き出し続ける。
「あなたも知っているでしょう、子供の頃からずっと、私は自由が欲しかった。広い世界に出て、色々なものを見たかった。小さな集落で人間として暮らすよりも、精霊として水と共に生きる方が楽しいわ。これからは、水に纏わる全てを意のままに扱える。これ以上の自由はあるかしら」
精霊王は虚を衝かれた様子で目を丸くしてから、次第に歓喜を滲ませ、最後にはうっとりとした笑みを浮かべて手を叩いた。
「素晴らしいよラフィア。それでこそ我が娘。さあ、彼をそこから出してあげて。僕が集落まで送り届けるから」
「ええ」
ラフィアの腕に抱かれ、アースィムは水の柱から脱した。
肌が空気に触れた途端、急激に息苦しさを覚え、身体を折って咳込む。苦痛に喘ぎながら辛うじて顔を上げ、アースィムは訴えた。
「ラフィア、どうしたんです。こんなのあなたじゃない」
「最初に言ったでしょう? 私が欲しかったのは自由。後宮から出るために、あなたの妻である必要があったから、一緒にいただけよ」
アースィムは、濡れた前髪から滴り落ちる水滴の間から、ラフィアの姿を凝視する。
ラフィアは小さく鼻を鳴らし、アースィムの腕を引いて精霊王の方へと進んだ。
アースィムの身体は、ラフィアの腕から無邪気な青年に託される。頬のすぐ横に、精霊王の顔がある。
「君はラフィアを大切にしてくれたんだよね。ありがとう。そのお礼に、白の氏族、だったっけ? 君の仲間には手を出さないよ。他の人間は血祭りだけど」
「いいえ、お父様」
ラフィアが精霊王の腕を撫でた。
「氏族なんて関係ないわ。この国には、天竜も砂竜もいらない。私達の土地に後からやって来た侵略者だもの」
「へえ?」
「この国から精霊がいなくなったのは、精霊王に代わる水神の使徒として天竜がやって来たからなのでしょう? それなら、天竜とその子である砂竜がいなくなればまた、私達の暮らしが戻ってくる」
「ラフィア」
思わず名を呼んで、ふと、空色のスカーフにほつれた部分があることに気づく。糸が抜けて薄くなった小さな隙間から、ラフィアの青い瞳が覗いた。すぐに顔を背けられてしまったが、そこに浮かぶ感情を目にし、アースィムは息を吞んだ。
「でもアースィムには恩がある」
「じゃあどうするんだい、我が娘よ」
「私達の土地から追放するの。アースィムも含めて、砂竜族を全員」
「ふうん、甘いんじゃない? 皆殺しにしちゃおうよ」
「いいえ、それではつまらないわ。だって一瞬で全部終わってしまうのよ」
「そりゃそうだけど」
「ゆっくりと苦しむ様を見て、楽しみましょう、お父様。精霊王の力は水を意のままにする。水神の眷属である砂竜にも影響を与えられるはずでしょう? 後から反旗を翻そうとされたなら、その時制裁を下せば良いのだわ」
「……まあ、そういう筋書きも面白いか」
精霊王は明るく言って、アースィムを背負い直した。そのまま、日差しが降り注ぐ中庭へと引き摺られる。
長らく、人知の及ばぬ奇妙な場所に幽閉されていたためか、身体が麻痺してほとんど動かない。されるがまま精霊王に全身を預けていたが、建物を出て眼球を刺す光を浴びたと同時にアースィムは我に返り、声を張った。
「止まってくれ。なあ、ラフィア!」
精霊王の歩みが止まる。ラフィアが、絹を透かしてこちらを見詰めている。
アースィムは強張る手で懐を探る。触れたものを潰さぬよう柔らかく握り、ラフィアの方へと腕を伸ばした。スカーフから覗く鼻先に拳を差し出して、蕾が開くように指を解く。不自由に震える手のひらの上にあるものを見て、ラフィアの肩が微かに揺れた。ずぶ濡れになった小さな白い花。アースィムは細い茎を指先で摘み直す。
「聖地に生えている高山花です。白の氏族では、大切な人にこれを贈ります。最初の新婚旅行の際、約束しましたよね。あなたのために摘んで来ますと」
さあ、と促せば、長衣の袖からラフィアの細い指が伸ばされる。アースィムは茎を掴んでいない三本の指で妻の手を捉えた。
「最初の新婚旅行は俺のせいで台無しでした。悔いています。今はただ、あなたと聖地に行きたい」
震える指先から、ラフィアの心が流れ込むような錯覚を覚えた。彼女は変わってなどいない。スカーフの陰で、彼女は泣いている。青い瞳を覆い尽くす砂嵐のような絶望を、アースィムは先ほど垣間見た。決して見間違いなどではないはずだ。
「これは少し枯れかけていますが、次はもっと綺麗な花をたくさん摘んで来ますから、待っていてください。必ず約束は守ります」
ラフィアは言葉を発しなかったが、確かにその花を受け取った。
衣擦れの音すらせぬ沈黙が、空間を満たした。やがて、やや離れた場所に佇んでいる赤毛の女が、すんと洟を啜った音で、静寂が破られる。
それが合図だったかのように、精霊王が哄笑を上げた。
「おいおい、実父の前で娘を口説くとは、やるねえ、アースィム」
「彼女はあなたの娘かもしれませんが、俺の妻です」
「あ、そう」
精霊王はつまらなそうに吐き捨てて、アースィムを芝生に放り投げた。
自由にならぬ身体では満足に受け身すら取れず、したたかに全身を打ち付けて呻く。辛うじて細く開いた視界を、作り物のような黄色い太陽を背にした精霊王の上体が埋め尽くした。
「残念だけど、ラフィアは人間ではなく精霊として生きるんだ。肉体という枷を捨て、精神だけの存在となり、純然たる水に一歩近づいて。そうして、偉大な精霊王となる。あの子にとっては人間など、ちっぽけで、短命で、取るに足らない存在なんだよ」
精霊王の足裏が、眼前に迫る。
蹴られる、と思ったと同時、頭部に衝撃を覚え、アースィムの意識は暗転した。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる