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6話 三人組
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「心配してたんだぞ、どこでいるんだ!お前に何かあったのかと!」とミリオの怒鳴り声から会話が始まった。
ヨハクにはその直情的なことが懐かしく思えてうれしくなった。寝ていたので体感的には昨日のあったぐらいの感覚なのだが……。
それよりもうれしいことにどうやらグリとゴンの二人も一緒にいるらしい!
次々と電話口に出てくれた。
「おおっ、ヨハク無事だったか、心配させやがて、この野郎」とゴンがいつものノリで答えくれた。
「僕は、最初から、ヨハクが、無事だと、信じて、ました。変わり、ます」とグリが途切れ途切れに答えるのに不審に思っていると、電話の向こうから「グリ泣くなよ」「泣いてねーし」という会話が聞こえてきた。
その後ミリオにまた電話が変わり、ヨハク今までのこと、といっても先ほどまで寝ていたのでたいしたことはないが、アイリスに出会ったこと、害虫(ペスター)に襲われたことや少々恥ずかしいが、どうやら力に目覚めたことなどを話した。
そしたら、ヨハクの予想通り案の定だった。
「ヨハク、目覚める前に目を覚ませ」とミリオの真面目な口調に、電話の向こうから吹き出す声をが聞こえてくる。
「ブッ!!ミリオ、まあそういってやるなよ。10日間も昏睡してたんだ、そういう夢もみるさ」
「中二乙。俺の涙、返せよ」
「やっぱり泣いてたんじゃないかよ!」
「泣いてねーし!」
う~ん、やっぱり信じてもらえないよね。どうしたらいいのかなとヨハクが悩んでいたら、電話口がゴソゴソとしていた。
「おおっ、ヨハクさんや」
どうやら、グリに変わったらしい。
「ヨハクさん、僕はねぇ、君のことを信じたい気持ちでいっぱいだよ」
日ごろ“さん”づけなどしないし、嘘くさい口調だったが、とりあえず「ありがとう」とヨハクは応えた。
「でもね、あまりにも中二すぎることだ。理性がそれを邪魔するのさ。つまりね、証明してほしいんだよ。アイリスたんという少女と会い、その能力に目覚めたことを」
証明、グリのいうことは最もだった。自分でも見せてみろというだろう。しかし、光るベレッタを見せたところで、エフェクトと言われそうだし、本当なら害虫(ペスター)を倒すところを見せるのがいいのだろうが、極力出会いたくはないし。
思案にくれるヨハクに、妙に熱っぽい声をしたグリが提案をしてきた。
「そこでだよ、ヨハクさん。ここはやはりアイリスたんの存在の証明が必要なんじゃないかな!」
そういうことか、とヨハクは思った。
「電話口に、いや外人さんなんだっけ? 写真。そう写真だよ、パシャってLIONで送ってよ!信じるよ、そうしたら、俺信じるよ、ヨハクさん!」とグリはまくしたててきた。
アイリスの写真を送ってと言われてもなぁ、小さい子とはいえ、女の子に写真を撮らせてくれと頼むのは気恥ずかしい。アイリスはなんというか、「いいわよ」と気にもせず言ってくれる気もするし、「何を考えてるの?」と冷たくあしらわれる気もするしなぁ、とヨハクがヤキモキしていると、シューティングレンジから、「ああっ、もう!」というアイリスの声が届いてきた。
アイリスが何かしているらしい。そろそろ戻ったほうがよさそうだ。
「ヨハク、グリがすまんな」
ちょうどミリオに変わったようだ。電話の向こうから、ああっ、アイリスたんとグリの声が聞こえてきて、なんだが笑えた。
ヨハクは、そろそろ電話を切ることを告げた
「分かった。1日に一度は連絡を取り合おう。基本正午で。ヨハクまだ電気は使えている、充電はこまめにしてくれ」
「分かったよ、ミリオ。その色々と……いや、グリにアイリスには撮らせてもらえるよう頼んでみるって伝えてくれ。」
ありがとう。そう言おうとしたが、なんだか照れ臭くてヨハクは誤魔化すようにそう言った。
「そちらは問題ない、と言いたいところだが、じつは俺も気になってる。自称妖精さんだろ?俺のノーズアートになるかもしれんしな。期待しているよ」
そうミリオは笑いながら、電話を切った。
ツゥーツゥーという切断音を、ヨハクは安堵の気持ちとともにスマホを操作して切った。
目が覚めてから様々なことがあって、緊張しっぱなしだったが、久しぶりに皆と馬鹿話も出来て、なんだが日常の一部が帰ってきた気がした。
この分なら、店長さんや奥さんも隠れていて生きているかもしれない。
そんな期待をしながら、ヨハクはシューティングレンジへと戻った。
ヨハクが戻ると、もぅ!と怒りながら、アイリスが緑色の木箱をちょうど蹴り飛ばしているところだった。
髪色は派手だが、見た目は妖精のように可愛く、良いところのお嬢様といった感じなのだが、こういうガサツというか乱暴なところがあるんだよな。朝霞さんなら、清楚な見た目そのままに、こんなことはしないなとヨハクは思った。
「ああっ、スノード、……ヨハク。いいところに来たわね。これが空かないのよ」
そう言って振り返ったアイリスは、二丁拳銃(ダブルハンド)の備品を拝借したのだろう。
ミリタリーファッションになっていた。
迷彩柄の360度ツバがついたブーニーハットをかぶり、あご紐は緩く結ばれ、胸元で揺れていた。肩からはアメリカ映画のマッチョな主人公みたいに、薬莢がたくさんついたベルトをななめがけしており、両手で抱えるようにアイリスの身長ほどはありそうな大きな銃。穴が空いたバレル部分に、銃身の横からベルト状の弾薬が連なっている。機関銃だろうか。小さなアイリスがそんなものを持っているとミリタリー系のコスプレみたいで、わりかしミリオは好きそうだな、とヨハクは思った。
「アイリス、アイテムボックスは鍵がないと空かないよ。1階のカウンターじゃないかな」
「そうなの? めんどくさいわね、これで空かないかしら!」
そういうとアイリスは、機関銃の銃口を緑の木箱、通称アイテムボックスの錠部分に向け、躊躇なく引き金を引いた。
轟音とともに、火花が飛び散り、空になった薬莢が宙へとばらまかれ、なんてことはなく、しぃんと何も起こらなかった。なぜなら。
「アイリス、言うの忘れたけど、それって写真撮影用のモデルガンなんだよ」
「モデルガン? ヨハクが使っている銃とは違うの?」
「僕が使っているのは、まぁなんというかエアーガンていうBB弾を発射するものなんだけど、モデルガンはその名の通りモデルだから、球は出ないんだ。その代わりに見た目はより本物に近いんだけどね」
「つまり、これ使えないってこと?」
「うん、そうなるね」
ヨハクがそう言い切ると、アイリスは眉間に皺を寄せ、「何よ、重いだけじゃない!」と機関銃を地面に落とし、バレットベルトを肩から外して放り投げた。
重い金属の音が甲高く響いた。
……確か、あの手のモデルガンって結構何十万とかするんだよなーと、怒れる店長さんの顔を想像してしまい、ヒヤリとした。
「この中身は、使える銃が入っているんでしょう?球はいっぱいあったのだけど、銃が見つからないのよね」
「確か、リボルバーとかサブマシンガンとか、いくつか入っていたと思うけど、鍵がないとな」
「う~ん、まぁでもただの木箱だし、壊しましょう!」
「えっ、壊すのはちょっと。道具もないし」
「これを使えばいいじゃない」
アイリスが、先ほど落とした機関銃を足先でチョンチョンと蹴りながら、そう言った。でもな~壊すのはちょっとな、ヨハクが迷っているとアイリスが決定的な一言を言ってきた。
「じゃあ、1階まで鍵を取りに行くぅ?その銃一つで」
うっ、それは……。とヨハクもさすがに思った。ガスブローバック式のベレッタ1丁で、またあの害虫(ペスター)と戦えというのは、しかも今度は複数かもしれない。いや確実にそうだろう、なにせ世界は害虫(ペスター)に侵食されているのだ。集団戦は何れ免れないだろう。そう考えるとここで銃は複数手にしておきたい。一丁では玉詰まり(ジャムる)や故障したら致命的だ。
「やってみるよ」
そう考えて、ヨハクは結局アイリスの言う通りに壊すことにした。アイリスの捨てた機関銃を手に取ると、ずっしりと重かった。たぶん10kg以上はありそうだ。
店長さん、非常事態なんです、すみません。と心の中で謝りながら、機関銃の銃床を振り落とした。
さすが重い鉄製のものだけあって、簡単にバキッ、と音がして木が割れる。力を入れて何度か機関銃を振り下ろしていくとバキッバキッバキッとそのたびに木が割れ、剥がれ、壊れていく。
八割がた壊れたところで、ヨハクは機関銃をそっと地面に置き、壊れた箱の蓋をどけていく。アイテムボックスを壊してしまった罪悪感もあったが、何が入っているんだろうというワクワク感のほうが強かったが、普段のヨハクならそんなことは思わなかっただろうが、この時は特に気にしなかった。
どこけてみると、箱の大きさの割には2箱しか入っていなかった。
「何よ、全然入ってないじゃない!」とアイリスががっかりというように両手を広げて見せた。ヨハクもアイリスと同意見だったが、愚痴っていてもしょうがない。箱を取り出し見てみることにした。
一つ目は、取っ手付きの黒い樹脂製ケースに黄色のパッケージが巻かれている。パッケージにはWH製mini UZIと書かれていた。開けてみると、凹凸のついた緩衝剤の上に、サブマシンガンが1丁、ほかにもマガジンやら棒やら備品が入っていた。
2つ目の箱は、先ほどケースタイプとは違いプラモデルでも入っていそうな紙製の箱だった。箱には、デカデカとシルバーに輝く映画やアニメでもよく見るマグナム銃の写真が乗り、TOKYO ZEROI製 COLT PYTHON 357MAGと書かれていた。開けてみると写真と同じマグナム銃が発泡スチロールを同形にくり抜いて作られた緩衝剤の上に乗り、六発の薬莢と備品が入っていた。
さて、使うためには、弾入れとガスの注入をしなければならないだろう。アイリスがカウンター裏をあさり、ガスボンベもBB弾も見つけておいてくれたので入れるだけだ。ただヨハクはミリオがやっているところを見てことはあってもやったことはなかった。
うーん、取説見るか。いや、考えて見ればミリオに聞けばいいんだ。
よし、そうしたら……チラリと横を見ると、アイリスが何処からか持ってきた茶色のリュックサックにBB弾やガスボンベを乱暴に詰めていた。
あとで入れ直そう、ヨハクはそう思いつつ、アイリスにさっきの件をお願いしてみることにした。
「あの、アイリス」
「なにぃ、ヨハク」
綺麗な金色の瞳がこちらを向く、緊張して「うっ、」と言葉に詰まってしまうと、
「もぅ~なんだっていうのよ」
とアイリスがせっついてくる。機嫌は良くも悪くもなさそうだ。ヨハクは意を決しった。
「あ、あ、アイリシュ、写真撮ってもいいかな?」
が、噛んだ。顔に熱を帯びていくのが分かる。一方のアイリスは特に感情の変化は見られず、可愛らしく首を傾げた。
「よく分からないのだけど、それはヨハクのためになるの?」
「なります、とてもなります」
そう、とだけ呟いてアイリスは立ち上がった。
「なら、早くして。やることいっぱいあるんだから、何をすればいいの?」
「えっと、そこに立っててもらえればいいです」
アイリスが殊の外、素直に応じてくれたので気が変わらないうちに撮ることにした。
ヨハクは、スマホの撮影機能を呼び出し、一枚パシャりと撮る。
確認してみると、コンテナの中に、ただ無表情に立っている。それだけの写真。そのはずなのに、さびたコンテナの中、壊れた木箱を傍らに、地には機関銃が横たわり、ベルトから外れた薬莢が散らばっている。そんな荒廃的な背景にアイリスが立っていると、まさしく荒野に咲く一輪の花のようだ。
濃い紫の髪色は、グラデーションとなっており、肩先でカールした毛先に行くにつれ藍色に変わっている。
それにアクセントを加えるように前髪はまばゆい金髪、その奥から覗くのは前髪と同じ金色の瞳が強い意志を感じさせるように光っている。
若草色のワンピースと相まって茎と見違えるように細く流線的な体。ワンピースから伸びる手足も細く触れば折れてしまいそうな程に感じた。
「もういいのかしら?」
「ああ、ありがとう。これで大丈夫」
「なら良かったわ」と、クスッと小さく笑いながら、アイリスはがさつにいれたリュックの中身を今度は押し込みながら、無理やり詰め込み始めた。
できれば笑っているのも一枚……そういいたいところだったが、アイリスが真剣に作業しているので邪魔するのあれだなと思い、それ以上は言わなかった。
先ほどかけたばかりだが、もう一度ミリオの携帯にかけることにした。
プッルルルルルルルルルルルルルル
プッルルルルルルルルルルルルルル
今度は2コール目ですぐに応答した、しかし「どうしたっ、ヨハク。何かあったか?」と電話口からゴンの声が聞こえてきた。
確かにミリオに掛けた気がしたんだけどな……。
「ああ、グリか。ごめん、別に何かあったわけではないんだけどね。ちょっと聞きたいことがあって、ミリオは?」
「ああっ、ミリオは今、トイレに行ってるは。で、聞きたいことって?」
「そうなんだ。ちょっと今、エアーガンに球こめと、ガスの注入をしようと思っているんだけど、ミリオに教えてもらうかなと思ってさ」
「いや、おまえこんな時に、何してるんだよ。ほかになんかすることあるだろう。それにあんまりに音出すなよ。その……寄ってくるんだよ、なんつーのあいつら?」
あいつら……害虫(ペスター)のことだろう。音に反応する習性があるようだ、覚えておこう。
「分かったよ。極力音を出すことは控えるよ。じゃあ、ミリオが戻ったら折り返しくれる?」
「どんだけ、撃ちたいんだよ。ヨハクってそんなサバゲー好きだったけ?」
「いや、そういうわけじゃ」とヨハクは説明した能力についてグリは完全に信用していないということが分かった。話が長引きそうだったので切り札を使うことにした。
「とにかく、教えてくれ。そしたら送るよ、アイリスの写真」
「まじで!撮らしてくれたの?!」
「一枚だけだけどね」
「グリ、聞いたかっ、今すぐミリオ呼んでこい!」
「イエッサー!!」と威勢のいいグリの声が聞こえ、バタバタと音が聞こえてきた。
まったく音を出しちゃいけないんじゃなかったのかよ。とヨハクは心の中でツッコミを入れる。
ヨハクにはその直情的なことが懐かしく思えてうれしくなった。寝ていたので体感的には昨日のあったぐらいの感覚なのだが……。
それよりもうれしいことにどうやらグリとゴンの二人も一緒にいるらしい!
次々と電話口に出てくれた。
「おおっ、ヨハク無事だったか、心配させやがて、この野郎」とゴンがいつものノリで答えくれた。
「僕は、最初から、ヨハクが、無事だと、信じて、ました。変わり、ます」とグリが途切れ途切れに答えるのに不審に思っていると、電話の向こうから「グリ泣くなよ」「泣いてねーし」という会話が聞こえてきた。
その後ミリオにまた電話が変わり、ヨハク今までのこと、といっても先ほどまで寝ていたのでたいしたことはないが、アイリスに出会ったこと、害虫(ペスター)に襲われたことや少々恥ずかしいが、どうやら力に目覚めたことなどを話した。
そしたら、ヨハクの予想通り案の定だった。
「ヨハク、目覚める前に目を覚ませ」とミリオの真面目な口調に、電話の向こうから吹き出す声をが聞こえてくる。
「ブッ!!ミリオ、まあそういってやるなよ。10日間も昏睡してたんだ、そういう夢もみるさ」
「中二乙。俺の涙、返せよ」
「やっぱり泣いてたんじゃないかよ!」
「泣いてねーし!」
う~ん、やっぱり信じてもらえないよね。どうしたらいいのかなとヨハクが悩んでいたら、電話口がゴソゴソとしていた。
「おおっ、ヨハクさんや」
どうやら、グリに変わったらしい。
「ヨハクさん、僕はねぇ、君のことを信じたい気持ちでいっぱいだよ」
日ごろ“さん”づけなどしないし、嘘くさい口調だったが、とりあえず「ありがとう」とヨハクは応えた。
「でもね、あまりにも中二すぎることだ。理性がそれを邪魔するのさ。つまりね、証明してほしいんだよ。アイリスたんという少女と会い、その能力に目覚めたことを」
証明、グリのいうことは最もだった。自分でも見せてみろというだろう。しかし、光るベレッタを見せたところで、エフェクトと言われそうだし、本当なら害虫(ペスター)を倒すところを見せるのがいいのだろうが、極力出会いたくはないし。
思案にくれるヨハクに、妙に熱っぽい声をしたグリが提案をしてきた。
「そこでだよ、ヨハクさん。ここはやはりアイリスたんの存在の証明が必要なんじゃないかな!」
そういうことか、とヨハクは思った。
「電話口に、いや外人さんなんだっけ? 写真。そう写真だよ、パシャってLIONで送ってよ!信じるよ、そうしたら、俺信じるよ、ヨハクさん!」とグリはまくしたててきた。
アイリスの写真を送ってと言われてもなぁ、小さい子とはいえ、女の子に写真を撮らせてくれと頼むのは気恥ずかしい。アイリスはなんというか、「いいわよ」と気にもせず言ってくれる気もするし、「何を考えてるの?」と冷たくあしらわれる気もするしなぁ、とヨハクがヤキモキしていると、シューティングレンジから、「ああっ、もう!」というアイリスの声が届いてきた。
アイリスが何かしているらしい。そろそろ戻ったほうがよさそうだ。
「ヨハク、グリがすまんな」
ちょうどミリオに変わったようだ。電話の向こうから、ああっ、アイリスたんとグリの声が聞こえてきて、なんだが笑えた。
ヨハクは、そろそろ電話を切ることを告げた
「分かった。1日に一度は連絡を取り合おう。基本正午で。ヨハクまだ電気は使えている、充電はこまめにしてくれ」
「分かったよ、ミリオ。その色々と……いや、グリにアイリスには撮らせてもらえるよう頼んでみるって伝えてくれ。」
ありがとう。そう言おうとしたが、なんだか照れ臭くてヨハクは誤魔化すようにそう言った。
「そちらは問題ない、と言いたいところだが、じつは俺も気になってる。自称妖精さんだろ?俺のノーズアートになるかもしれんしな。期待しているよ」
そうミリオは笑いながら、電話を切った。
ツゥーツゥーという切断音を、ヨハクは安堵の気持ちとともにスマホを操作して切った。
目が覚めてから様々なことがあって、緊張しっぱなしだったが、久しぶりに皆と馬鹿話も出来て、なんだが日常の一部が帰ってきた気がした。
この分なら、店長さんや奥さんも隠れていて生きているかもしれない。
そんな期待をしながら、ヨハクはシューティングレンジへと戻った。
ヨハクが戻ると、もぅ!と怒りながら、アイリスが緑色の木箱をちょうど蹴り飛ばしているところだった。
髪色は派手だが、見た目は妖精のように可愛く、良いところのお嬢様といった感じなのだが、こういうガサツというか乱暴なところがあるんだよな。朝霞さんなら、清楚な見た目そのままに、こんなことはしないなとヨハクは思った。
「ああっ、スノード、……ヨハク。いいところに来たわね。これが空かないのよ」
そう言って振り返ったアイリスは、二丁拳銃(ダブルハンド)の備品を拝借したのだろう。
ミリタリーファッションになっていた。
迷彩柄の360度ツバがついたブーニーハットをかぶり、あご紐は緩く結ばれ、胸元で揺れていた。肩からはアメリカ映画のマッチョな主人公みたいに、薬莢がたくさんついたベルトをななめがけしており、両手で抱えるようにアイリスの身長ほどはありそうな大きな銃。穴が空いたバレル部分に、銃身の横からベルト状の弾薬が連なっている。機関銃だろうか。小さなアイリスがそんなものを持っているとミリタリー系のコスプレみたいで、わりかしミリオは好きそうだな、とヨハクは思った。
「アイリス、アイテムボックスは鍵がないと空かないよ。1階のカウンターじゃないかな」
「そうなの? めんどくさいわね、これで空かないかしら!」
そういうとアイリスは、機関銃の銃口を緑の木箱、通称アイテムボックスの錠部分に向け、躊躇なく引き金を引いた。
轟音とともに、火花が飛び散り、空になった薬莢が宙へとばらまかれ、なんてことはなく、しぃんと何も起こらなかった。なぜなら。
「アイリス、言うの忘れたけど、それって写真撮影用のモデルガンなんだよ」
「モデルガン? ヨハクが使っている銃とは違うの?」
「僕が使っているのは、まぁなんというかエアーガンていうBB弾を発射するものなんだけど、モデルガンはその名の通りモデルだから、球は出ないんだ。その代わりに見た目はより本物に近いんだけどね」
「つまり、これ使えないってこと?」
「うん、そうなるね」
ヨハクがそう言い切ると、アイリスは眉間に皺を寄せ、「何よ、重いだけじゃない!」と機関銃を地面に落とし、バレットベルトを肩から外して放り投げた。
重い金属の音が甲高く響いた。
……確か、あの手のモデルガンって結構何十万とかするんだよなーと、怒れる店長さんの顔を想像してしまい、ヒヤリとした。
「この中身は、使える銃が入っているんでしょう?球はいっぱいあったのだけど、銃が見つからないのよね」
「確か、リボルバーとかサブマシンガンとか、いくつか入っていたと思うけど、鍵がないとな」
「う~ん、まぁでもただの木箱だし、壊しましょう!」
「えっ、壊すのはちょっと。道具もないし」
「これを使えばいいじゃない」
アイリスが、先ほど落とした機関銃を足先でチョンチョンと蹴りながら、そう言った。でもな~壊すのはちょっとな、ヨハクが迷っているとアイリスが決定的な一言を言ってきた。
「じゃあ、1階まで鍵を取りに行くぅ?その銃一つで」
うっ、それは……。とヨハクもさすがに思った。ガスブローバック式のベレッタ1丁で、またあの害虫(ペスター)と戦えというのは、しかも今度は複数かもしれない。いや確実にそうだろう、なにせ世界は害虫(ペスター)に侵食されているのだ。集団戦は何れ免れないだろう。そう考えるとここで銃は複数手にしておきたい。一丁では玉詰まり(ジャムる)や故障したら致命的だ。
「やってみるよ」
そう考えて、ヨハクは結局アイリスの言う通りに壊すことにした。アイリスの捨てた機関銃を手に取ると、ずっしりと重かった。たぶん10kg以上はありそうだ。
店長さん、非常事態なんです、すみません。と心の中で謝りながら、機関銃の銃床を振り落とした。
さすが重い鉄製のものだけあって、簡単にバキッ、と音がして木が割れる。力を入れて何度か機関銃を振り下ろしていくとバキッバキッバキッとそのたびに木が割れ、剥がれ、壊れていく。
八割がた壊れたところで、ヨハクは機関銃をそっと地面に置き、壊れた箱の蓋をどけていく。アイテムボックスを壊してしまった罪悪感もあったが、何が入っているんだろうというワクワク感のほうが強かったが、普段のヨハクならそんなことは思わなかっただろうが、この時は特に気にしなかった。
どこけてみると、箱の大きさの割には2箱しか入っていなかった。
「何よ、全然入ってないじゃない!」とアイリスががっかりというように両手を広げて見せた。ヨハクもアイリスと同意見だったが、愚痴っていてもしょうがない。箱を取り出し見てみることにした。
一つ目は、取っ手付きの黒い樹脂製ケースに黄色のパッケージが巻かれている。パッケージにはWH製mini UZIと書かれていた。開けてみると、凹凸のついた緩衝剤の上に、サブマシンガンが1丁、ほかにもマガジンやら棒やら備品が入っていた。
2つ目の箱は、先ほどケースタイプとは違いプラモデルでも入っていそうな紙製の箱だった。箱には、デカデカとシルバーに輝く映画やアニメでもよく見るマグナム銃の写真が乗り、TOKYO ZEROI製 COLT PYTHON 357MAGと書かれていた。開けてみると写真と同じマグナム銃が発泡スチロールを同形にくり抜いて作られた緩衝剤の上に乗り、六発の薬莢と備品が入っていた。
さて、使うためには、弾入れとガスの注入をしなければならないだろう。アイリスがカウンター裏をあさり、ガスボンベもBB弾も見つけておいてくれたので入れるだけだ。ただヨハクはミリオがやっているところを見てことはあってもやったことはなかった。
うーん、取説見るか。いや、考えて見ればミリオに聞けばいいんだ。
よし、そうしたら……チラリと横を見ると、アイリスが何処からか持ってきた茶色のリュックサックにBB弾やガスボンベを乱暴に詰めていた。
あとで入れ直そう、ヨハクはそう思いつつ、アイリスにさっきの件をお願いしてみることにした。
「あの、アイリス」
「なにぃ、ヨハク」
綺麗な金色の瞳がこちらを向く、緊張して「うっ、」と言葉に詰まってしまうと、
「もぅ~なんだっていうのよ」
とアイリスがせっついてくる。機嫌は良くも悪くもなさそうだ。ヨハクは意を決しった。
「あ、あ、アイリシュ、写真撮ってもいいかな?」
が、噛んだ。顔に熱を帯びていくのが分かる。一方のアイリスは特に感情の変化は見られず、可愛らしく首を傾げた。
「よく分からないのだけど、それはヨハクのためになるの?」
「なります、とてもなります」
そう、とだけ呟いてアイリスは立ち上がった。
「なら、早くして。やることいっぱいあるんだから、何をすればいいの?」
「えっと、そこに立っててもらえればいいです」
アイリスが殊の外、素直に応じてくれたので気が変わらないうちに撮ることにした。
ヨハクは、スマホの撮影機能を呼び出し、一枚パシャりと撮る。
確認してみると、コンテナの中に、ただ無表情に立っている。それだけの写真。そのはずなのに、さびたコンテナの中、壊れた木箱を傍らに、地には機関銃が横たわり、ベルトから外れた薬莢が散らばっている。そんな荒廃的な背景にアイリスが立っていると、まさしく荒野に咲く一輪の花のようだ。
濃い紫の髪色は、グラデーションとなっており、肩先でカールした毛先に行くにつれ藍色に変わっている。
それにアクセントを加えるように前髪はまばゆい金髪、その奥から覗くのは前髪と同じ金色の瞳が強い意志を感じさせるように光っている。
若草色のワンピースと相まって茎と見違えるように細く流線的な体。ワンピースから伸びる手足も細く触れば折れてしまいそうな程に感じた。
「もういいのかしら?」
「ああ、ありがとう。これで大丈夫」
「なら良かったわ」と、クスッと小さく笑いながら、アイリスはがさつにいれたリュックの中身を今度は押し込みながら、無理やり詰め込み始めた。
できれば笑っているのも一枚……そういいたいところだったが、アイリスが真剣に作業しているので邪魔するのあれだなと思い、それ以上は言わなかった。
先ほどかけたばかりだが、もう一度ミリオの携帯にかけることにした。
プッルルルルルルルルルルルルルル
プッルルルルルルルルルルルルルル
今度は2コール目ですぐに応答した、しかし「どうしたっ、ヨハク。何かあったか?」と電話口からゴンの声が聞こえてきた。
確かにミリオに掛けた気がしたんだけどな……。
「ああ、グリか。ごめん、別に何かあったわけではないんだけどね。ちょっと聞きたいことがあって、ミリオは?」
「ああっ、ミリオは今、トイレに行ってるは。で、聞きたいことって?」
「そうなんだ。ちょっと今、エアーガンに球こめと、ガスの注入をしようと思っているんだけど、ミリオに教えてもらうかなと思ってさ」
「いや、おまえこんな時に、何してるんだよ。ほかになんかすることあるだろう。それにあんまりに音出すなよ。その……寄ってくるんだよ、なんつーのあいつら?」
あいつら……害虫(ペスター)のことだろう。音に反応する習性があるようだ、覚えておこう。
「分かったよ。極力音を出すことは控えるよ。じゃあ、ミリオが戻ったら折り返しくれる?」
「どんだけ、撃ちたいんだよ。ヨハクってそんなサバゲー好きだったけ?」
「いや、そういうわけじゃ」とヨハクは説明した能力についてグリは完全に信用していないということが分かった。話が長引きそうだったので切り札を使うことにした。
「とにかく、教えてくれ。そしたら送るよ、アイリスの写真」
「まじで!撮らしてくれたの?!」
「一枚だけだけどね」
「グリ、聞いたかっ、今すぐミリオ呼んでこい!」
「イエッサー!!」と威勢のいいグリの声が聞こえ、バタバタと音が聞こえてきた。
まったく音を出しちゃいけないんじゃなかったのかよ。とヨハクは心の中でツッコミを入れる。
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