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盗賊
マルゲリーターを乗せた馬車が、オルターナ公爵邸からどんどん離れて行く。
小さくなっていく邸に別れを告げ、王都の見慣れた風景を、懐かしく眺めていた。
「アル様と一緒に見た景色。学園に行く時は、いつも迎えに来てくれていたな…」
途中で退学してしまった、王立学園の前も通り過ぎた。
「ちゃんとお勉強しておけば、今でもアル様の婚約者でいられたのかな…」
アルフレッドが毎朝迎えに来て、一緒に学園へ通っていたのはつい最近の話しなのだが、遥か遠い昔の記憶の様に感じていた。
繁華街を通り過ぎると、王都を囲む門が見えてくる。
本来なら重罪人は、護送馬車が迎えに来るのだが、公爵夫妻はオルターナ公爵家の家紋のついた馬車で一足先に出て行った。
公爵領を視察している途中での事故死として発表される事になると、ルーカスから聞かされていたのである。
王家を謀った事が公になってしまえば、オルターナ公爵家は取り潰しになってしまう。
それを避ける為に、国王が苦肉の策を取ったのだと、マルゲリーターは理解していた。
ならばどうして、マルゲリーターだけが別行動にされたのか?
その詳しい理由までは、聞かされてはいなかったのだ。
「一人で毒杯を飲むのは、怖いな」
ぼそりと呟いた言葉は、誰の耳にも届いてはいなかった。
程なくして馬車が、静かに停止した。
マルゲリーターが馬車の窓を開けると、同行している護衛騎士が、休憩を告げる。
「馬を休ませますので、マルゲリーター様も、昼食を摂ってください。予約しているレストランに、ご案内いたします」
「いらないわ。私は、毒杯を飲むのでしょう。どうせ死ぬのだから、食べても意味がないもの」
「いいえ。規則ですから、食事は必ず摂ってください」
護衛騎士は、馬車の扉を開けると、マルゲリーターに手を差し伸べた
『最後まで、私を公爵令嬢として扱ってくれるのね。罪人が相手なのに、優しい人だわ』
「中へ入ったら、お好きな物を注文してください。料金は、既にルーカス様がお支払いになっております」
レストランの入り口には(本日貸し切り)の札がぶら下がっていた。
『お兄様…』
もう二度と会う事のない、腹違いの兄の顔を思い浮かべ、視界が滲んでいくのが分かった。
マルゲリーターは、ピンクダイヤのネックレスを握りしめ、涙を堪える様にひとつ大きく深呼吸をしてから店内へと踏み入れた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
店主の穏やかな声が、レストランの中に響き渡った。
マルゲリーターは、案内された席に、一人だけで腰を下ろす。
付き添いの護衛騎士たちは、少し離れた場所に、それぞれ腰をかけていた。
「ご注文は何にいたしましょうか」
ウエイターは、明るい笑顔で、マルゲリーターへ問いかけた。
このレストランの従業員は皆、マルゲリーターがこれから処刑される事を、知らされていないのだ。
領地で静養する為に、途中で立ち寄ると言われただけなのである。
貴族が店を貸し切るのは珍しくもないので、特に怪しまれる事もなかった。
この日は公爵家一行の接客だけなので、早く帰れると喜んでおり、いつも以上に明るく振舞っていたのである。
「チキン料理を、持って来てちょうだい。食欲がないから、少なめでお願いするわ」
「畏まりました」
マルゲリーターが注文を終えると、護衛騎士たちもそれぞれに食べたい物を頼んでいた。
『私…何処で毒杯を飲むんだろう…お父様たちは、領地に行ってから飲むのかな?』
ルーカスからは、もう二度と両親に会えない事を聞いていたので、マルゲリーターが領地に行く事はないと思っていた。
詳しい事は何も聞かされていなかったので、美味しい筈の料理は、味がよく分からなかったのである。
失恋をした事もあり、以前よりもかなり食欲が落ちてしまった為、胃が小さくなったのだろう。
思ったよりも食べる事が出来ず残してしまい、店主に申し訳なく思うのだった。
『もっと早く、この気持ちを持っていたら、私の人生変わっていたのかな?』
マルゲリーターは、他人の事を気遣える様になったのを、自分自身が一番驚いていた。
幼い頃は、大嫌いなにんじんを料理に入れたというだけで、料理長を解雇していたくらいなのだ。
人は、死を目の前にすると、人格が変るのだと変に冷静な自分に可笑しさを感じてしまった。
「お兄様たちは、何を食べているのかな。学園の食堂の料理は、あまり好きじゃなかったな」
小さな独り言は、傍に控えていたウエイターの耳には届いていたが、公爵令嬢は贅沢な人なのだと思われるだけだった。
昼食を食べ終わると直ぐにレストランを出て、再び馬車に乗り走り出す。
王都の門には検問所があるのだが、通行許可証など必要もなく、オルターナ公爵家の馬車は素通り出来た。
護衛騎士たちに付き添われたまま止まる事もなく門を通過すると、王都の街並みとは景色がガラリと変わった。
広大な田園地帯が地平線の向こうまで広がっており、所々に民家らしきものが、ポツリポツリとあるだけだった。
マルゲリーターは、王都から出た事がなかったので、見る物全てが新鮮に感じたのである。
もう直ぐ処刑されるのだという事も忘れてしまう程に、長閑で豊かな自然の景色に、目を奪われてしまったのだ。
もう王都の門がだいぶ遠くになった時、馬のいななきと共に、大きな怒声が聞こえて来た。
「なに?どうしたの?」
思わず窓から身を乗り出そうとしたのだが、付き添いの護衛騎士に妨げられてしまう。
「盗賊です。馬車から出ないでください」
マルゲリーターは、恐ろしくなって馬車の足元に丸くなって身を隠した。
『盗賊?どうして私の馬車が狙われるの?嫌だ、怖いよ』
いつ処刑されても良いと思っていたが、いざ命の危険を感じると、恐ろしさで心臓が鋼の様に鼓動し始めた。
剣と剣がぶつかり合う金属音が聞こえ、騎士たちの怒声と、盗賊らしき男たちの怒号も聞こえてきた。
思わず耳を塞ぐと、唐突に馬車の扉が何かで叩かれ、無理やりこじ開けようとしているのがわかった。
「ヒッ」
思わず声にならない悲鳴が漏れる。
マルゲリーターは、貧弱だといって嫌っていた公爵令嬢専用の馬車が、平民にとっては宝箱と同じなのだという事を知らない。
掘り込まれる様に嵌められた金銀や宝石は、下位貴族から見ても豪華な品物なのだった。
盗賊たちは、装飾として使われていた金銀をこそげ取っているのだろう、ガリガリというおかしな音が聞こえてきた。
騎士たちは必死に馬車を守ろうとしているのだが、盗賊の人数が多過ぎて、あっという間に囲まれてしまったらしい。
「いやっ。怖いよ、助けて。お兄様!アル様!」
マルゲリーターの叫びも虚しく、馬車の扉は破壊されて、無理やり外へと引き摺り下ろされてしまったのだった。
辺りは砂煙で視界がぼやけている。
騎士たちが応戦しているのだろうが、誰もマルゲリーターの方は見ていなかった。
一瞬で口を塞がれ担がれると、そのまま馬に乗せられ連れ去られてしまったのである。
「マルゲリーター様!」
誰かが名を呼んだ気もするが、もう手遅れだった。
マルゲリーターが乗って来た馬車は、無残に破壊されてしまったのである。
小さくなっていく邸に別れを告げ、王都の見慣れた風景を、懐かしく眺めていた。
「アル様と一緒に見た景色。学園に行く時は、いつも迎えに来てくれていたな…」
途中で退学してしまった、王立学園の前も通り過ぎた。
「ちゃんとお勉強しておけば、今でもアル様の婚約者でいられたのかな…」
アルフレッドが毎朝迎えに来て、一緒に学園へ通っていたのはつい最近の話しなのだが、遥か遠い昔の記憶の様に感じていた。
繁華街を通り過ぎると、王都を囲む門が見えてくる。
本来なら重罪人は、護送馬車が迎えに来るのだが、公爵夫妻はオルターナ公爵家の家紋のついた馬車で一足先に出て行った。
公爵領を視察している途中での事故死として発表される事になると、ルーカスから聞かされていたのである。
王家を謀った事が公になってしまえば、オルターナ公爵家は取り潰しになってしまう。
それを避ける為に、国王が苦肉の策を取ったのだと、マルゲリーターは理解していた。
ならばどうして、マルゲリーターだけが別行動にされたのか?
その詳しい理由までは、聞かされてはいなかったのだ。
「一人で毒杯を飲むのは、怖いな」
ぼそりと呟いた言葉は、誰の耳にも届いてはいなかった。
程なくして馬車が、静かに停止した。
マルゲリーターが馬車の窓を開けると、同行している護衛騎士が、休憩を告げる。
「馬を休ませますので、マルゲリーター様も、昼食を摂ってください。予約しているレストランに、ご案内いたします」
「いらないわ。私は、毒杯を飲むのでしょう。どうせ死ぬのだから、食べても意味がないもの」
「いいえ。規則ですから、食事は必ず摂ってください」
護衛騎士は、馬車の扉を開けると、マルゲリーターに手を差し伸べた
『最後まで、私を公爵令嬢として扱ってくれるのね。罪人が相手なのに、優しい人だわ』
「中へ入ったら、お好きな物を注文してください。料金は、既にルーカス様がお支払いになっております」
レストランの入り口には(本日貸し切り)の札がぶら下がっていた。
『お兄様…』
もう二度と会う事のない、腹違いの兄の顔を思い浮かべ、視界が滲んでいくのが分かった。
マルゲリーターは、ピンクダイヤのネックレスを握りしめ、涙を堪える様にひとつ大きく深呼吸をしてから店内へと踏み入れた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
店主の穏やかな声が、レストランの中に響き渡った。
マルゲリーターは、案内された席に、一人だけで腰を下ろす。
付き添いの護衛騎士たちは、少し離れた場所に、それぞれ腰をかけていた。
「ご注文は何にいたしましょうか」
ウエイターは、明るい笑顔で、マルゲリーターへ問いかけた。
このレストランの従業員は皆、マルゲリーターがこれから処刑される事を、知らされていないのだ。
領地で静養する為に、途中で立ち寄ると言われただけなのである。
貴族が店を貸し切るのは珍しくもないので、特に怪しまれる事もなかった。
この日は公爵家一行の接客だけなので、早く帰れると喜んでおり、いつも以上に明るく振舞っていたのである。
「チキン料理を、持って来てちょうだい。食欲がないから、少なめでお願いするわ」
「畏まりました」
マルゲリーターが注文を終えると、護衛騎士たちもそれぞれに食べたい物を頼んでいた。
『私…何処で毒杯を飲むんだろう…お父様たちは、領地に行ってから飲むのかな?』
ルーカスからは、もう二度と両親に会えない事を聞いていたので、マルゲリーターが領地に行く事はないと思っていた。
詳しい事は何も聞かされていなかったので、美味しい筈の料理は、味がよく分からなかったのである。
失恋をした事もあり、以前よりもかなり食欲が落ちてしまった為、胃が小さくなったのだろう。
思ったよりも食べる事が出来ず残してしまい、店主に申し訳なく思うのだった。
『もっと早く、この気持ちを持っていたら、私の人生変わっていたのかな?』
マルゲリーターは、他人の事を気遣える様になったのを、自分自身が一番驚いていた。
幼い頃は、大嫌いなにんじんを料理に入れたというだけで、料理長を解雇していたくらいなのだ。
人は、死を目の前にすると、人格が変るのだと変に冷静な自分に可笑しさを感じてしまった。
「お兄様たちは、何を食べているのかな。学園の食堂の料理は、あまり好きじゃなかったな」
小さな独り言は、傍に控えていたウエイターの耳には届いていたが、公爵令嬢は贅沢な人なのだと思われるだけだった。
昼食を食べ終わると直ぐにレストランを出て、再び馬車に乗り走り出す。
王都の門には検問所があるのだが、通行許可証など必要もなく、オルターナ公爵家の馬車は素通り出来た。
護衛騎士たちに付き添われたまま止まる事もなく門を通過すると、王都の街並みとは景色がガラリと変わった。
広大な田園地帯が地平線の向こうまで広がっており、所々に民家らしきものが、ポツリポツリとあるだけだった。
マルゲリーターは、王都から出た事がなかったので、見る物全てが新鮮に感じたのである。
もう直ぐ処刑されるのだという事も忘れてしまう程に、長閑で豊かな自然の景色に、目を奪われてしまったのだ。
もう王都の門がだいぶ遠くになった時、馬のいななきと共に、大きな怒声が聞こえて来た。
「なに?どうしたの?」
思わず窓から身を乗り出そうとしたのだが、付き添いの護衛騎士に妨げられてしまう。
「盗賊です。馬車から出ないでください」
マルゲリーターは、恐ろしくなって馬車の足元に丸くなって身を隠した。
『盗賊?どうして私の馬車が狙われるの?嫌だ、怖いよ』
いつ処刑されても良いと思っていたが、いざ命の危険を感じると、恐ろしさで心臓が鋼の様に鼓動し始めた。
剣と剣がぶつかり合う金属音が聞こえ、騎士たちの怒声と、盗賊らしき男たちの怒号も聞こえてきた。
思わず耳を塞ぐと、唐突に馬車の扉が何かで叩かれ、無理やりこじ開けようとしているのがわかった。
「ヒッ」
思わず声にならない悲鳴が漏れる。
マルゲリーターは、貧弱だといって嫌っていた公爵令嬢専用の馬車が、平民にとっては宝箱と同じなのだという事を知らない。
掘り込まれる様に嵌められた金銀や宝石は、下位貴族から見ても豪華な品物なのだった。
盗賊たちは、装飾として使われていた金銀をこそげ取っているのだろう、ガリガリというおかしな音が聞こえてきた。
騎士たちは必死に馬車を守ろうとしているのだが、盗賊の人数が多過ぎて、あっという間に囲まれてしまったらしい。
「いやっ。怖いよ、助けて。お兄様!アル様!」
マルゲリーターの叫びも虚しく、馬車の扉は破壊されて、無理やり外へと引き摺り下ろされてしまったのだった。
辺りは砂煙で視界がぼやけている。
騎士たちが応戦しているのだろうが、誰もマルゲリーターの方は見ていなかった。
一瞬で口を塞がれ担がれると、そのまま馬に乗せられ連れ去られてしまったのである。
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