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キャサリンとの対面
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キャサリンの元に、速達が届いたのは、ほんの数か月前だった。
手紙にはたった一言、こう書かれていた。
【僕の大切な妹のマルゲリーターを、助けてください】
キャサリンは、やはりこうなったのかと思ったのである。
【心配しなくても、大丈夫よ。準備は、全て整っているわ】
返信も、簡単な言葉だけだった。
速達は、鷹の脚に括り付けて飛ばす為、長文が書けないのである。
だが、王国で起こる事を知っていたキャサリンは、この言葉だけで充分理解出来たのだった。
『うふふ。使える物は、親でも使うのね。とても良い心掛けだわ』
キャサリンは、何処か楽しそうに笑っていた。
『近衛騎士団長を、呼んで来てちょうだい』
傍に控えていた侍女に告げると、程なくして、皇弟妃付きの近衛騎士団長がやって来た。
帝国は、巨大な国である。
近衛騎士団長と呼ばれる人材も、複数いるのだ。
皇帝付き、皇帝妃付き、皇弟付きといった状況である
近衛騎士団長の頭には、必ず〇〇付きと付けなければ、どの近衛騎士団長なのか混乱する程だ。
今回は、キャサリンが直接命令を下せる近衛騎士団長は一人だけだったので、侍女は迷う事なく呼んで来る事が出来たのである。
『お呼びでしょうか、妃殿下』
『ええ。作戦を実行してちょうだい。ルーカスから、救援要請が来たのよ』
『畏まりました』
近衛騎士団長には、事前にマルゲリーターを救い出して欲しい事を伝えていたので、綿密な計画を立てさせていたのだった。
キャサリンの命を受けた近衛騎士団長は、予定通りマルゲリーターを救出させるべく、近衛騎士たちを動かしたのである。
キャサリンは、計画通りマルゲリーターを救い出す事が出来たと、先に帰国していた近衛騎士からの連絡で知る事になる。
ほっと胸を撫で下ろすと、マルゲリーターに直接会ってみたいと思ったのだった。
マルゲリーターと、キャサリンに血の繋がりはなかったが、一度は心から愛した男の娘である。
心にわだかまりがあったのは随分と前の話しで、今では夫であるアンドレイから溺愛されているので、既に過去の思い出になっていた。
今は単純に、ルーカスが大切だと言った娘がどんな人物なのか、興味が湧いただけである。
執事が、イザベラと、マリーと改名したマルゲリーターを連れてやって来た。
随分と緊張しているのが、直ぐに理解出来たのだ。
顔からは血の気が引き、今にも倒れてしまいそうに見えたが、初恋の相手であるシルベスによく似ているとも感じていた。
「よく来てくれたわね。私が誘拐犯の親玉、キャサリンよ。宜しくね」
キャサリンは、緊張を解してあげようと、態とおどけた仕草で挨拶をしたのである。
「あ………」
マリーは、何度も練習して来た挨拶をしようとしたのだが、緊張し過ぎて頭の中が真っ白になってしまったのだった。
何も言葉に出来ないまま立ち尽くしているマリーは、まるで蝋人形の様だと、キャサリンは思うのであった。
「マリーと、いったわね。そんなに怖がらせるつもりはないのよ、楽にしてちょうだい。ルーカスとエレインは、元気だったかしら?」
母として、子供たちの事を聞いてみたいと思い声をかけてみると、マリーの肩が飛び跳ねた。
「あ………っはい!お兄様も、エレインも、とても元気でした。少し早いけれどと言って、誕生日プレゼントに、ピンクダイヤのネックレスをくれたんです。これです、見て下さい。綺麗でしょう。エレインはブルーダイヤで、姉妹でお揃いなの。あ、エレインからも、お守りを貰って、手作りなの。とても綺麗な刺繍をしてあって、私の宝物なんです。素敵でしょう」
マリーは、息継ぎもせず、捲し立てる様に話しきったのである。
右手にはネックレス、左手にはお守りを持っており、キャサリンへ突き出す様に見せていた。
『やってしまった』
そう思った時には既に遅く、執事は眉間に皺を寄せており、イザベラは顔面蒼白になっていた。
しかしキャサリンは、穏やかな表情で、マリーが差し出したプレゼントを見つめている。
「まあ、素敵ね。私が、触らせて貰っても良いのかしら?」
「え…」
コホンと執事が一つ咳払いをすると、マルゲリーターはビクッと跳ね上がり、丁寧に手に持っている物をキャサリンへと差し出したのだった。
キャサリンは、ネックレスとお守りを受け取ると、とても楽し気に眺めている。
「ルーカスが、このネックレスを買ってくれたのね。とても良い趣味だと思うわ。石も、凄く綺麗よ」
光にかざすと、キラキラと虹色の輝きを見せたのである。
ネックレスの次は、お守りを静かに眺めていた。
「うふふ。余程、嬉しい事があったのね。刺繍が、喜びで満ち溢れているわ」
今度は、エレインが刺した刺繍を、指でそっと撫でていた。
「良いプレゼントを、見せてくれてありがとう」
満足したキャサリンは、優しい笑顔で、マリーへプレゼントを返したのだった。
「マリー。貴方は、今日から私の使用人です。イザベラについてしっかりと学び、働いてちょうだいね」
「はい、妃殿下。誠心誠意、努めさせていただきます。命を救ってくださった御恩は、生涯忘れる事はございません。マリーは、妃殿下へ、永遠の忠誠を誓います」
今度は緊張する事なく、マリーは、見事なカーテシーを披露したのである。
「ありがとう、マリー。ひとつ聞いておきたいのだけれど…貴方は、自分の誕生日が何時なのか、知っているのかしら?」
突然質問されると思っていなかったマリーは、何を聞かれているのか、理解出来ずにいた。
「オルターナ公爵から聞かされている誕生日は、貴方の本当の誕生日ではないのよ。三か月くらい、早く産まれていたの。来年からは、本当の誕生日を伝えて、祝って貰うようにしなさいね」
「畏まりました」
マリーは、キャサリンの情報収集能力は凄いのだと、驚きを隠せずにいた。
キャサリンが、凄いのではない。
帝国の皇族が、それぞれの情報網を持っていて凄いのだという事に気付くのは、まだまだ先の話しである。
挨拶を終えたマリーたちは、キャサリンの私室を出て、執事の後ろを付いて長い廊下を歩いている。
この時、緊張が嘘の様に解れている事に、気付いたのであった。
『エレインに、そっくりだったわ。エレインも、歳を重ねたら、妃殿下みたいになるのかしら』
「イザベラさん。妃殿下って、とても素敵な人ですね」
「だから言ったじゃない。もう、マリーがちゃんと挨拶出来なかった時は、口から心臓が飛び出すかと思ったわよ」
「ごめんなさい。あんなに練習に付き合って貰ったのに、私、何も上手に出来ませんでした」
「そんな事ないわ。初めてなんだもの、誰だって緊張するわよ。それに、最後はきちんと挨拶していたじゃない」
イザベラは、笑顔でマリーを褒めてくれたのだった。
それからマリーは、皇弟妃付の使用人として、必死に働いたのである。
覚える事も沢山あり、分からない言葉も多かったが、毎日が驚く程充実していた。
公爵令嬢として生きていた頃よりも、今の暮らしの方が、余程性に合っていたのだと感じていたのである。
時間を忘れてしまう程、毎日忙しなく暮らしていたのだった。
そうして、帝国での暮らしに慣れてきた頃、オルターナ公爵夫妻が事故死した事を聞かされたのだった。
王国で公表されてから、マリーの耳に届くまでに時間差があったのは、仕方のない事なのである。
枯葉も落ち切ってしまった、冬の初めのとても寒い日であり、エレインの誕生日でもあった。
「お父様…お母様…」
最期を知らないマリーだったが、二人が安らかに眠った事を、神に祈るのだった。
手紙にはたった一言、こう書かれていた。
【僕の大切な妹のマルゲリーターを、助けてください】
キャサリンは、やはりこうなったのかと思ったのである。
【心配しなくても、大丈夫よ。準備は、全て整っているわ】
返信も、簡単な言葉だけだった。
速達は、鷹の脚に括り付けて飛ばす為、長文が書けないのである。
だが、王国で起こる事を知っていたキャサリンは、この言葉だけで充分理解出来たのだった。
『うふふ。使える物は、親でも使うのね。とても良い心掛けだわ』
キャサリンは、何処か楽しそうに笑っていた。
『近衛騎士団長を、呼んで来てちょうだい』
傍に控えていた侍女に告げると、程なくして、皇弟妃付きの近衛騎士団長がやって来た。
帝国は、巨大な国である。
近衛騎士団長と呼ばれる人材も、複数いるのだ。
皇帝付き、皇帝妃付き、皇弟付きといった状況である
近衛騎士団長の頭には、必ず〇〇付きと付けなければ、どの近衛騎士団長なのか混乱する程だ。
今回は、キャサリンが直接命令を下せる近衛騎士団長は一人だけだったので、侍女は迷う事なく呼んで来る事が出来たのである。
『お呼びでしょうか、妃殿下』
『ええ。作戦を実行してちょうだい。ルーカスから、救援要請が来たのよ』
『畏まりました』
近衛騎士団長には、事前にマルゲリーターを救い出して欲しい事を伝えていたので、綿密な計画を立てさせていたのだった。
キャサリンの命を受けた近衛騎士団長は、予定通りマルゲリーターを救出させるべく、近衛騎士たちを動かしたのである。
キャサリンは、計画通りマルゲリーターを救い出す事が出来たと、先に帰国していた近衛騎士からの連絡で知る事になる。
ほっと胸を撫で下ろすと、マルゲリーターに直接会ってみたいと思ったのだった。
マルゲリーターと、キャサリンに血の繋がりはなかったが、一度は心から愛した男の娘である。
心にわだかまりがあったのは随分と前の話しで、今では夫であるアンドレイから溺愛されているので、既に過去の思い出になっていた。
今は単純に、ルーカスが大切だと言った娘がどんな人物なのか、興味が湧いただけである。
執事が、イザベラと、マリーと改名したマルゲリーターを連れてやって来た。
随分と緊張しているのが、直ぐに理解出来たのだ。
顔からは血の気が引き、今にも倒れてしまいそうに見えたが、初恋の相手であるシルベスによく似ているとも感じていた。
「よく来てくれたわね。私が誘拐犯の親玉、キャサリンよ。宜しくね」
キャサリンは、緊張を解してあげようと、態とおどけた仕草で挨拶をしたのである。
「あ………」
マリーは、何度も練習して来た挨拶をしようとしたのだが、緊張し過ぎて頭の中が真っ白になってしまったのだった。
何も言葉に出来ないまま立ち尽くしているマリーは、まるで蝋人形の様だと、キャサリンは思うのであった。
「マリーと、いったわね。そんなに怖がらせるつもりはないのよ、楽にしてちょうだい。ルーカスとエレインは、元気だったかしら?」
母として、子供たちの事を聞いてみたいと思い声をかけてみると、マリーの肩が飛び跳ねた。
「あ………っはい!お兄様も、エレインも、とても元気でした。少し早いけれどと言って、誕生日プレゼントに、ピンクダイヤのネックレスをくれたんです。これです、見て下さい。綺麗でしょう。エレインはブルーダイヤで、姉妹でお揃いなの。あ、エレインからも、お守りを貰って、手作りなの。とても綺麗な刺繍をしてあって、私の宝物なんです。素敵でしょう」
マリーは、息継ぎもせず、捲し立てる様に話しきったのである。
右手にはネックレス、左手にはお守りを持っており、キャサリンへ突き出す様に見せていた。
『やってしまった』
そう思った時には既に遅く、執事は眉間に皺を寄せており、イザベラは顔面蒼白になっていた。
しかしキャサリンは、穏やかな表情で、マリーが差し出したプレゼントを見つめている。
「まあ、素敵ね。私が、触らせて貰っても良いのかしら?」
「え…」
コホンと執事が一つ咳払いをすると、マルゲリーターはビクッと跳ね上がり、丁寧に手に持っている物をキャサリンへと差し出したのだった。
キャサリンは、ネックレスとお守りを受け取ると、とても楽し気に眺めている。
「ルーカスが、このネックレスを買ってくれたのね。とても良い趣味だと思うわ。石も、凄く綺麗よ」
光にかざすと、キラキラと虹色の輝きを見せたのである。
ネックレスの次は、お守りを静かに眺めていた。
「うふふ。余程、嬉しい事があったのね。刺繍が、喜びで満ち溢れているわ」
今度は、エレインが刺した刺繍を、指でそっと撫でていた。
「良いプレゼントを、見せてくれてありがとう」
満足したキャサリンは、優しい笑顔で、マリーへプレゼントを返したのだった。
「マリー。貴方は、今日から私の使用人です。イザベラについてしっかりと学び、働いてちょうだいね」
「はい、妃殿下。誠心誠意、努めさせていただきます。命を救ってくださった御恩は、生涯忘れる事はございません。マリーは、妃殿下へ、永遠の忠誠を誓います」
今度は緊張する事なく、マリーは、見事なカーテシーを披露したのである。
「ありがとう、マリー。ひとつ聞いておきたいのだけれど…貴方は、自分の誕生日が何時なのか、知っているのかしら?」
突然質問されると思っていなかったマリーは、何を聞かれているのか、理解出来ずにいた。
「オルターナ公爵から聞かされている誕生日は、貴方の本当の誕生日ではないのよ。三か月くらい、早く産まれていたの。来年からは、本当の誕生日を伝えて、祝って貰うようにしなさいね」
「畏まりました」
マリーは、キャサリンの情報収集能力は凄いのだと、驚きを隠せずにいた。
キャサリンが、凄いのではない。
帝国の皇族が、それぞれの情報網を持っていて凄いのだという事に気付くのは、まだまだ先の話しである。
挨拶を終えたマリーたちは、キャサリンの私室を出て、執事の後ろを付いて長い廊下を歩いている。
この時、緊張が嘘の様に解れている事に、気付いたのであった。
『エレインに、そっくりだったわ。エレインも、歳を重ねたら、妃殿下みたいになるのかしら』
「イザベラさん。妃殿下って、とても素敵な人ですね」
「だから言ったじゃない。もう、マリーがちゃんと挨拶出来なかった時は、口から心臓が飛び出すかと思ったわよ」
「ごめんなさい。あんなに練習に付き合って貰ったのに、私、何も上手に出来ませんでした」
「そんな事ないわ。初めてなんだもの、誰だって緊張するわよ。それに、最後はきちんと挨拶していたじゃない」
イザベラは、笑顔でマリーを褒めてくれたのだった。
それからマリーは、皇弟妃付の使用人として、必死に働いたのである。
覚える事も沢山あり、分からない言葉も多かったが、毎日が驚く程充実していた。
公爵令嬢として生きていた頃よりも、今の暮らしの方が、余程性に合っていたのだと感じていたのである。
時間を忘れてしまう程、毎日忙しなく暮らしていたのだった。
そうして、帝国での暮らしに慣れてきた頃、オルターナ公爵夫妻が事故死した事を聞かされたのだった。
王国で公表されてから、マリーの耳に届くまでに時間差があったのは、仕方のない事なのである。
枯葉も落ち切ってしまった、冬の初めのとても寒い日であり、エレインの誕生日でもあった。
「お父様…お母様…」
最期を知らないマリーだったが、二人が安らかに眠った事を、神に祈るのだった。
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