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マルゲリーターの過去
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マルゲリーターは、物心が付いた時には、アマンダと二人で暮らしていた。
シルベスが用意した屋敷で、通いの使用人は来るが、極力マルゲリーターを人目に晒さない様にしていたのだ。
『おかあさま。おとうさまは、いつくるの』
『お父様は忙しいのよ。お仕事が終わったら、遊びに来てくれるわ』
『どうして、いっしょにくらしては、だめなの』
『マルゲリーターは、高貴な血筋なのよ。将来は王妃様になるのだから、特別にここで暮らしているの。もう直ぐお父様とも一緒に暮らせる様になるから、それまでは我慢するのよ』
『わかった。たのしみだね』
本当の意味など分かってはいなかったのだが、高貴な血筋だから我慢しなくてはいけないのだと、理解したのだった。
本来ならば言葉を覚え始めた頃から、貴族令嬢としての教育を施さなければならないのだが、変に知恵を付けてしまっては困るのだ。
自分の境遇が可笑しい事を、悟らせない様に、何も教えずに育てていたのである。
『お母様、そとに出ても良いでしょう。ひとりは、つまんない』
『駄目よ。外には、怖い人が沢山いるのよ。可愛いマルゲリーターを、連れて行こうとしている人が沢山いるの』
『でも、そとであそびたいわ。おともだちがほしいの』
『何を言っているの。下賤な平民なんて、相手にしてはいけません。マルゲリーターは、高貴な血筋なのよ。お母様が、相応しいお友達を連れて来てあげるわ。だから、それまで我慢してちょうだい』
『は~い』
アマンダは、マルゲリーターが友達を欲しがっていても、決して屋敷の外に連れ出す事はしなかった。
早くキャサリンに出て行って貰わないと、誤魔化しきれなくなると焦っており、何度もシルベスに苦言を晒していたのだ。
しかし、それもに限界があった。
成長と共に、マルゲリーターの不満も、大きくなっていったのだ。
『どうして私は、屋敷から出てはいけないの。お友達が欲しいの。遊びに行きたいの』
『何度も同じ事を言わせないで頂戴。マルゲリーターは、高貴な血筋なのよ。誘拐でもされたら、大変な事になるわ』
『私、高貴じゃなくてもいいわ。皆と遊べるなら、高貴じゃなくてもいいんでしょう』
『何を言っているの。高貴じゃなくては、王妃様にはなれないのよ』
『遊べないなら、王妃様にならなくてもいいよ』
『いけません。マルゲリーターは、素敵な王子様と結婚して、王妃様にならなくてはいけないのよ。王妃様になったら、何でも好きな物が買えるのよ。とても幸せになれるの』
『私は、お母様とお父様が、いてくれるだけでいいよ』
『高貴でいないと、お父様とも一緒にいられなくなるのよ』
『どうして』
『お父様は、高貴な血筋が好きなのよ。だからマルゲリーターは、王子様と結婚をして、王妃にならなくてはいけないのよ』
『そうなの?』
マルゲリーターは、アマンダの言い付けを守り、それ以降は外に出たいとは言わなくなっていた。
シルベスが屋敷にやって来ると、マルゲリーターをとても可愛がった。
『マルゲリーター、ドレスを沢山買って来たよ。靴も全部、特別に仕立てた物だからね。着てみてごらん』
『お父様大好きよ、ありがとう』
シルベスは、別邸にいる娘の予算を使って、マルゲリーターに物を買い与えていたのだ。
その為、帳簿上ではエレインに用意された筈のドレス等が、マルゲリーターに渡されていたのである。
屋敷に閉じ込めているのも、ここが別邸である事を刷り込ませる為であった。
幼いマルゲリーターの口から、余計な事が漏れない様にしていたのである。
こんなに窮屈な生活をさせている事もあって、負い目を感じマルゲリーターを甘やかしていたのだ。
『マルゲリーター。私の愛しい娘は、お前一人だけだ。公爵邸に戻るまでは、窮屈な思いをさせてしまうが、もう少しの辛抱だからね』
『私、お父様と一緒に暮らせるのが楽しみ。早く迎えに来てね』
『勿論だとも。私も、マルゲリーターと一緒に暮らせるのを、楽しみにしているよ』
シルベスは何時も同じ事を言うだけで、なかなか迎えには来てくれない。
これに不満を持っていたのは、アマンダの方だった。
もしもキャサリンが出て行かなかった場合、愛人として生きて行く事になる。
せっかく立てた計画が台無しになるだけではなく、本来ならば公爵夫人になれた筈の未来まで、取り戻せなくなってしまうのだ。
将来を不安に感じているのに、シルベスはキャサリンを中々追い出してくれない事に、怒りを募らせている。
しかし本性を知られては、シルベスに愛想を尽かされてしまうので、健気に待つ元婚約者であり続けたのだ。
その為シルベスが帰った後は、誰も見ていないのを良い事に、好き放題に罵倒を始めるのだった。
『あの女狐が!さっさと出て行けば良いのに、何時まで居座るつもりなのよ。公爵夫人になるのは、私だったのよ。人の婚約者を横取りしただけではなく、私をこんなに惨めな気持ちにさせるなんて、絶対に許せないわ』
シルベスに見つからない様、クッションを使って壁や床を叩き付けて、鬱憤を晴らしていたのだ。
当然だが、そんな母親を目の当たりにしたマルゲリーターは、怯えていた。
しかし、何度も同じ光景を見ているうちに、それが当たり前だと思ってしまったのだった。
幼い頃から刷り込まれていた光景は、成長するにつれて当たり前の事として受け止める様になってしまった。
『お母様!私はえらいのでしょう。それなのに、どうしてお父様はお迎えに来てくれないのよ。何時まで待たされるの』
『もう少しよ、だから我慢して頂戴。お母様だって、早く公爵邸に行きたいのよ。それなのに、私たちの邪魔をしている女がいるの。お父様が早く追い出してくれないから、悪いのよ』
『そんな女は、クビにしてあげるわよ。私はえらいんだから、当たり前でしょう』
『そうね。お父様が来たら、相談しましょうね』
屋敷でアマンダと共に生活をしているだけで、何の教育も受けていないマルゲリーターは、我儘で自分勝手な少女に育っていた。
それは、公爵家に来てから顕著に現れる様になったのである。
キャサリンが出て行き、シルベスが公爵邸に連れて来たその日から、我が物顔で使用人を扱き下ろしていた。
『あんた、クビ。あんたも、クビ』
気に入らない相手には、何も考えずに暇を出して歩いていた。
そんなマルゲリーターの後を、ルーカスが付いて来ており、諫めるのだ。
『マルゲリーター、何故彼らをクビにするの。僕たちには、そんな権限はないんだよ。使用人は、大切にしないと駄目だって、教わらなかったのかい』
『あんたもクビよ。私に逆らう人はいらないの』
『マルゲリーター。僕は、君の兄だよ、お父様から聞いたでしょう。僕は公爵家の子供だから、クビには出来ないんだよ』
『どうしてよ。私は偉いんだからね!あんたは、偉くはないんでしょう。だからクビでいいでしょう』
『この家で一番偉いのは、お父様だよ。僕は偉くはないけれど、クビには出来ないんだよ』
『どうしてよ。偉くないなら、クビに出来るじゃない』
『………』
ルーカスは、マルゲリーターが、クビの意味を理解していないと思うのだった。
マルゲリーターがアマンダと屋敷にいる時は、どんなに我儘を言っても叶えられない事の方が多かった。
もう我慢する事はないのだからと、好き放題始めてしまったのである。
友達を欲しがっていた事もあり、ルーカスが遊んでくれるのが嬉しく、大きな屋敷で走り回るのも楽しくて仕方がなかった。
『マルゲリーター。女の子が、そんなに走り回ってはいけないよ。転んで怪我をしたら、大変だから、静かに歩こうよ』
『お兄様だって、走っているじゃない』
『マルゲリーターが走るから、追いかけているだけだ。言う事を聞けないのなら、もう遊んであげないよ』
『どうしてよ。転ばなければいいんでしょう』
『もう直ぐ家庭教師が来る時間だよ。部屋に戻らないと、教師を待たせてしまう』
『待たせておけばいいのよ。私がお願いしたんじゃないもの』
『駄目だ。マルゲリーターは、全然令嬢らしくないから、ちゃんと勉強をしなさい』
ルーカスは、手を繋いで無理やり勉強部屋に連れて行こうとしたが、抵抗されてしまった。
『嫌だって言っているでしょう。もっと遊びたいのよ、離してよ』
何も言わず、手を離してくれない事に苛立ったマルゲリーターは、大声で泣き出したのだった。
すると直ぐにアマンダが飛んで来て、マルゲリーターを庇ってくれる。
『ルーカス。どうしてマルゲリーターを泣かせているの。仲良く遊びなさいと言ったでしょう』
『もう直ぐ家庭教師が来る時間です。部屋に連れて行くので、邪魔しないでください』
『嫌よ、お母様。助けて』
『ルーカス。マルゲリーターを離しなさい。こんなに嫌がっているのに、妹を大切に出来ないなんて、貴方は次期公爵として失格よ』
ルーカスは唖然としたが、この女には何を言っても無駄だと言う事を既に悟っていた為、何も言い返す事はしなかった。
マルゲリーターが泣けば、何でも願いが叶ったのだ。
しかしルーカスには、泣こうが喚こうが、いつも怒られていた。
何度も行儀が悪いと言われたが、行儀と言う物が何なのか知らないのだから、どうしようもない。
そして六歳になったマルゲリーターは、アルフレッドと初めて面会をして、一目惚れをするのだった。
『初めまして、マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢。私はアルフレッドと言う。これからは婚約者として、仲良くしようね』
『うん。仲良くしてあげる。ええと…アルフレッドだから、アルって呼ぶね』
『あはは。流石にそれは困るかな…せめて人前では、様を付けて欲しいな』
『そうだね、王子様だから、偉いんだもんね。じゃあ、アル様って呼んであげる。あんたの事好きだから、特別だよ』
『………ありがとう。これから宜しくね』
『アル様、大好き』
ルーカスの思いとは裏腹に、時間だけが虚しく過ぎて行った。
『マルゲリーター。アルフレッド殿下の婚約者になったのだから、いい加減文字位読める様にならないと、本当に手遅れになるぞ。王妃教育が始まる前に、最低限の教養を身に付けないと、公爵家の恥さらしと言われる事を、理解しているのか』
『文字なんて、読めなくたって関係ないでしょう。五月蠅いお兄様は嫌いよ』
『僕も、お前みたいな我儘で自分勝手な妹なんて、大嫌いだ』
『酷い…お兄様が苛めるの~』
マルゲリーターは、シルベスの元へ走って行き、告げ口をするとルーカスを叱ってくれた。
『妹を泣かせるとは、紳士として失格だぞ、ルーカス』
『しかし、父上。マルゲリーターは、文字の読み書きすら出来ないのです。もう七歳になると言うのに、公爵邸へ来た頃と何も変わっておりません。このままでは…』
『黙りなさい。まだ七歳になっていないのだから、今は好きな事だけしていれば良いのだ。読み書きなんて、放っておいても覚えられるだろう』
そんな馬鹿な事があってたまるかと、ルーカスは思うのだが、父親には逆らえなかった。
『僕が間違っておりました。すみません』
『お父様。私凄く悲しい思いをしたの。ドレスを買ってくれたら、元気になれるわ』
『そうか、分かった。今から仕立て屋を呼ぼう』
マルゲリーターは、何でも思い通りになる事が当たり前となってしまい、考える事すら出来ないまま成長してしまったのである。
シルベスが用意した屋敷で、通いの使用人は来るが、極力マルゲリーターを人目に晒さない様にしていたのだ。
『おかあさま。おとうさまは、いつくるの』
『お父様は忙しいのよ。お仕事が終わったら、遊びに来てくれるわ』
『どうして、いっしょにくらしては、だめなの』
『マルゲリーターは、高貴な血筋なのよ。将来は王妃様になるのだから、特別にここで暮らしているの。もう直ぐお父様とも一緒に暮らせる様になるから、それまでは我慢するのよ』
『わかった。たのしみだね』
本当の意味など分かってはいなかったのだが、高貴な血筋だから我慢しなくてはいけないのだと、理解したのだった。
本来ならば言葉を覚え始めた頃から、貴族令嬢としての教育を施さなければならないのだが、変に知恵を付けてしまっては困るのだ。
自分の境遇が可笑しい事を、悟らせない様に、何も教えずに育てていたのである。
『お母様、そとに出ても良いでしょう。ひとりは、つまんない』
『駄目よ。外には、怖い人が沢山いるのよ。可愛いマルゲリーターを、連れて行こうとしている人が沢山いるの』
『でも、そとであそびたいわ。おともだちがほしいの』
『何を言っているの。下賤な平民なんて、相手にしてはいけません。マルゲリーターは、高貴な血筋なのよ。お母様が、相応しいお友達を連れて来てあげるわ。だから、それまで我慢してちょうだい』
『は~い』
アマンダは、マルゲリーターが友達を欲しがっていても、決して屋敷の外に連れ出す事はしなかった。
早くキャサリンに出て行って貰わないと、誤魔化しきれなくなると焦っており、何度もシルベスに苦言を晒していたのだ。
しかし、それもに限界があった。
成長と共に、マルゲリーターの不満も、大きくなっていったのだ。
『どうして私は、屋敷から出てはいけないの。お友達が欲しいの。遊びに行きたいの』
『何度も同じ事を言わせないで頂戴。マルゲリーターは、高貴な血筋なのよ。誘拐でもされたら、大変な事になるわ』
『私、高貴じゃなくてもいいわ。皆と遊べるなら、高貴じゃなくてもいいんでしょう』
『何を言っているの。高貴じゃなくては、王妃様にはなれないのよ』
『遊べないなら、王妃様にならなくてもいいよ』
『いけません。マルゲリーターは、素敵な王子様と結婚して、王妃様にならなくてはいけないのよ。王妃様になったら、何でも好きな物が買えるのよ。とても幸せになれるの』
『私は、お母様とお父様が、いてくれるだけでいいよ』
『高貴でいないと、お父様とも一緒にいられなくなるのよ』
『どうして』
『お父様は、高貴な血筋が好きなのよ。だからマルゲリーターは、王子様と結婚をして、王妃にならなくてはいけないのよ』
『そうなの?』
マルゲリーターは、アマンダの言い付けを守り、それ以降は外に出たいとは言わなくなっていた。
シルベスが屋敷にやって来ると、マルゲリーターをとても可愛がった。
『マルゲリーター、ドレスを沢山買って来たよ。靴も全部、特別に仕立てた物だからね。着てみてごらん』
『お父様大好きよ、ありがとう』
シルベスは、別邸にいる娘の予算を使って、マルゲリーターに物を買い与えていたのだ。
その為、帳簿上ではエレインに用意された筈のドレス等が、マルゲリーターに渡されていたのである。
屋敷に閉じ込めているのも、ここが別邸である事を刷り込ませる為であった。
幼いマルゲリーターの口から、余計な事が漏れない様にしていたのである。
こんなに窮屈な生活をさせている事もあって、負い目を感じマルゲリーターを甘やかしていたのだ。
『マルゲリーター。私の愛しい娘は、お前一人だけだ。公爵邸に戻るまでは、窮屈な思いをさせてしまうが、もう少しの辛抱だからね』
『私、お父様と一緒に暮らせるのが楽しみ。早く迎えに来てね』
『勿論だとも。私も、マルゲリーターと一緒に暮らせるのを、楽しみにしているよ』
シルベスは何時も同じ事を言うだけで、なかなか迎えには来てくれない。
これに不満を持っていたのは、アマンダの方だった。
もしもキャサリンが出て行かなかった場合、愛人として生きて行く事になる。
せっかく立てた計画が台無しになるだけではなく、本来ならば公爵夫人になれた筈の未来まで、取り戻せなくなってしまうのだ。
将来を不安に感じているのに、シルベスはキャサリンを中々追い出してくれない事に、怒りを募らせている。
しかし本性を知られては、シルベスに愛想を尽かされてしまうので、健気に待つ元婚約者であり続けたのだ。
その為シルベスが帰った後は、誰も見ていないのを良い事に、好き放題に罵倒を始めるのだった。
『あの女狐が!さっさと出て行けば良いのに、何時まで居座るつもりなのよ。公爵夫人になるのは、私だったのよ。人の婚約者を横取りしただけではなく、私をこんなに惨めな気持ちにさせるなんて、絶対に許せないわ』
シルベスに見つからない様、クッションを使って壁や床を叩き付けて、鬱憤を晴らしていたのだ。
当然だが、そんな母親を目の当たりにしたマルゲリーターは、怯えていた。
しかし、何度も同じ光景を見ているうちに、それが当たり前だと思ってしまったのだった。
幼い頃から刷り込まれていた光景は、成長するにつれて当たり前の事として受け止める様になってしまった。
『お母様!私はえらいのでしょう。それなのに、どうしてお父様はお迎えに来てくれないのよ。何時まで待たされるの』
『もう少しよ、だから我慢して頂戴。お母様だって、早く公爵邸に行きたいのよ。それなのに、私たちの邪魔をしている女がいるの。お父様が早く追い出してくれないから、悪いのよ』
『そんな女は、クビにしてあげるわよ。私はえらいんだから、当たり前でしょう』
『そうね。お父様が来たら、相談しましょうね』
屋敷でアマンダと共に生活をしているだけで、何の教育も受けていないマルゲリーターは、我儘で自分勝手な少女に育っていた。
それは、公爵家に来てから顕著に現れる様になったのである。
キャサリンが出て行き、シルベスが公爵邸に連れて来たその日から、我が物顔で使用人を扱き下ろしていた。
『あんた、クビ。あんたも、クビ』
気に入らない相手には、何も考えずに暇を出して歩いていた。
そんなマルゲリーターの後を、ルーカスが付いて来ており、諫めるのだ。
『マルゲリーター、何故彼らをクビにするの。僕たちには、そんな権限はないんだよ。使用人は、大切にしないと駄目だって、教わらなかったのかい』
『あんたもクビよ。私に逆らう人はいらないの』
『マルゲリーター。僕は、君の兄だよ、お父様から聞いたでしょう。僕は公爵家の子供だから、クビには出来ないんだよ』
『どうしてよ。私は偉いんだからね!あんたは、偉くはないんでしょう。だからクビでいいでしょう』
『この家で一番偉いのは、お父様だよ。僕は偉くはないけれど、クビには出来ないんだよ』
『どうしてよ。偉くないなら、クビに出来るじゃない』
『………』
ルーカスは、マルゲリーターが、クビの意味を理解していないと思うのだった。
マルゲリーターがアマンダと屋敷にいる時は、どんなに我儘を言っても叶えられない事の方が多かった。
もう我慢する事はないのだからと、好き放題始めてしまったのである。
友達を欲しがっていた事もあり、ルーカスが遊んでくれるのが嬉しく、大きな屋敷で走り回るのも楽しくて仕方がなかった。
『マルゲリーター。女の子が、そんなに走り回ってはいけないよ。転んで怪我をしたら、大変だから、静かに歩こうよ』
『お兄様だって、走っているじゃない』
『マルゲリーターが走るから、追いかけているだけだ。言う事を聞けないのなら、もう遊んであげないよ』
『どうしてよ。転ばなければいいんでしょう』
『もう直ぐ家庭教師が来る時間だよ。部屋に戻らないと、教師を待たせてしまう』
『待たせておけばいいのよ。私がお願いしたんじゃないもの』
『駄目だ。マルゲリーターは、全然令嬢らしくないから、ちゃんと勉強をしなさい』
ルーカスは、手を繋いで無理やり勉強部屋に連れて行こうとしたが、抵抗されてしまった。
『嫌だって言っているでしょう。もっと遊びたいのよ、離してよ』
何も言わず、手を離してくれない事に苛立ったマルゲリーターは、大声で泣き出したのだった。
すると直ぐにアマンダが飛んで来て、マルゲリーターを庇ってくれる。
『ルーカス。どうしてマルゲリーターを泣かせているの。仲良く遊びなさいと言ったでしょう』
『もう直ぐ家庭教師が来る時間です。部屋に連れて行くので、邪魔しないでください』
『嫌よ、お母様。助けて』
『ルーカス。マルゲリーターを離しなさい。こんなに嫌がっているのに、妹を大切に出来ないなんて、貴方は次期公爵として失格よ』
ルーカスは唖然としたが、この女には何を言っても無駄だと言う事を既に悟っていた為、何も言い返す事はしなかった。
マルゲリーターが泣けば、何でも願いが叶ったのだ。
しかしルーカスには、泣こうが喚こうが、いつも怒られていた。
何度も行儀が悪いと言われたが、行儀と言う物が何なのか知らないのだから、どうしようもない。
そして六歳になったマルゲリーターは、アルフレッドと初めて面会をして、一目惚れをするのだった。
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『文字なんて、読めなくたって関係ないでしょう。五月蠅いお兄様は嫌いよ』
『僕も、お前みたいな我儘で自分勝手な妹なんて、大嫌いだ』
『酷い…お兄様が苛めるの~』
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『妹を泣かせるとは、紳士として失格だぞ、ルーカス』
『しかし、父上。マルゲリーターは、文字の読み書きすら出来ないのです。もう七歳になると言うのに、公爵邸へ来た頃と何も変わっておりません。このままでは…』
『黙りなさい。まだ七歳になっていないのだから、今は好きな事だけしていれば良いのだ。読み書きなんて、放っておいても覚えられるだろう』
そんな馬鹿な事があってたまるかと、ルーカスは思うのだが、父親には逆らえなかった。
『僕が間違っておりました。すみません』
『お父様。私凄く悲しい思いをしたの。ドレスを買ってくれたら、元気になれるわ』
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