【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭

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お揃いのプレゼント

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 翌日早めに帰宅したルーカスと、マルゲリーターは仕立て屋に来たのだが、既成の部屋着を三枚購入しただけだった。
 その後は王都の街中を少し歩いただけで、屋敷へと戻って来たのだ。
 以前とは別人の様になったマルゲリーターは、エレインとは一定の距離を置いて接している。
 シルベスはルーカスが帝国から帰って来てからも、部屋から出て来る事はなく、一人で考え事をする時間が増えて行った。
 アマンダは相変わらずで、毎日暴言を吐く為だけに、本邸の傍まで来ている。
 ガラスが刺さった個所は醜い傷跡となっており、洗濯も掃除も入浴さえ行っていない様で、まるでスラム街の住民の様な風貌になっていた。
 マルゲリーターは、そんな両親とは顔を合わす事もせず、相変わらず引き籠ったままなのだ。
 学園は随分前に退学しており、家庭教師を付けようとしたが勉強は嫌いだと拒否したので、毎日何をして時間を潰しているのかは分からない。
 時々庭を散歩している姿を、庭師や護衛騎士が静かに見守っている。
 エレインが何度も部屋に訪れているが、食事時以外は会おうともせず、ルーカスとも自然と距離を置く様になっていた。
 そんなマルゲリーターを、ルーカスは心痛な面持ちで見ている事しか出来ず、静かに時間だけが過ぎて行った。
 

 何時もの様に学園へ行くと、珍しくアルフレッドが作り笑いを浮かべている。
 王族として常に笑顔を絶やす事はないのだが、今日は優しさが消えた蝋人形の様であった。
 「ごきげんよう、ルーカス。エレイン嬢、今日も美しいね」
 「ごきげんよう。殿下も素敵ですわ」
 「ごきげんよう。竹馬の友よ」
 「一年と言うのは、こんなにも早く過ぎてしまう物なのか。私たちは、卒業論文を提出しなくてはいけない。あと数か月で、このお気楽な立場とお別れかと思うと、寂しく感じるね我が友よ」
 「そうだな。僕たちが卒業したら、エレインの傍にいる事が出来なくなってしまう。死活問題だ」 
 「それは困るな。私はまだ、エレイン嬢と親睦を深めていないと言うのに…留年を願い出るとしようか」
 「諦めろ。既に卒業資格を取ってしまっているのに、留まる理由が不謹慎だ」
 「殿下。親睦なら、充分深まっておりますわ。毎朝図書室でお勉強を見て下さり、クラブ活動でもご一緒させて頂いております。それに、化石展示場の設計にまで携わらせて頂いておりますもの」
 「それはそうなのだが…困ったね」
 アルフレッドは、苦笑いを浮かべてルーカスを見つめていた。
 エレインは、アルフレッドに好意的な感情は抱いているが、身分不相応だと思い心に蓋をしていたのだ。
 がっちりと鍵を掛けてしまっているので、抉じ開けるのは至難の業かと思われていた。
 しかし帝国でキャサリンと会話をした事で、少し緩みが出て来たのである。
 
 図書室から教室へと戻って来たエレインは、パトリシアと共に過ごしている。
 アルフレッドの恋敵であるエレインへ、嫉妬の眼差しを向けて来る令嬢ばかりで、他に友達を作れずにいるのだ。
 最近では小さな嫌がらせをされる事も多くなっており、パトリシアが目を光らせて守っていた。
 大きな嫌がらせを受けないのは皇女と言う身分もあるのだが、ルーカスの婚約者の座を狙っている令嬢が、親衛隊の様に纏わりついているからでもある。
 「エレイン様、今日も美しいですわ。今度我が家でお茶会を致しますの、是非お兄様とご一緒に来て下さいまし」
 「あら。その日は、我が家でも茶会を開きましてよ。家格が上の我が家の方へ、お越しくださいませ」
 エレインが何と言って断ろうかと考えていると、パトリシアが先に断ってくれたのだ。
 「あら。ごめんなさいね、皆様。その日は、化石研究クラブの集まりがありましてよ。茶会には参加出来ませんの。そうですわよね!エレイン様」
 「はい。クラブ活動を優先する様にと、お兄様から言い付けられておりますの」
 「それは、残念ですわ。またの機会に…」
 そこへすかさず、アルフレッドの親衛隊が口を挟んで来た。
 「まあ。皆様、お聞きになりましたか?社交よりも、クラブ活動を優先されるなんて、はしたないですわね」
 「ええ。とても王妃の器では、ありませんわ。化石等よりも、他に学ぶべき事が沢山ございますでしょう。それに、あのクラブは殿方しかおりませんのよ。破廉恥ですわ」
 「あらあら、アルフレッド殿下が所属していらっしゃる化石研究クラブが破廉恥だなんて、何を根拠に仰っているのかしらねえ」
 「入会をお断りされたから、妬んでいらっしゃるのでしょう。なんと醜い事でしょう、とても王妃の器ではありませんわね。エレイン様の、足元にも及びませんわ」
 毎日アルフレッドを狙う令嬢と、ルーカスを狙う令嬢の罵り合いを見ているエレインは、どちらの令嬢とも仲良くはなれないと思うのであった。
 
 学園から戻り夕餉の時間になると、珍しくマルゲリーターが先に食堂に来ており、二人が来るのを待ち構えていた。
 「遅いわよ。私を待たせるなんて、何様のつもりなの」
 「お前の兄のつもりだが、不満か」
 「そんなの、知っているわよ」
 「すみません、お姉様。明日はもう少し早く来ますわ」
 「早く来なくていいよ、明日はゆっくりするから。はいこれ、お兄様とエレインにプレゼント」
 マルゲリーターは、拙い刺繍のハンカチを、差し出したのだ。
 「嬉しい、お姉様。刺繍をなさっていたのですね。素敵なハンカチを、ありがとうございます」
 「これは、マリーが刺したのか。エリーと揃いの模様にしてくれたのだな。ありがとう、大切に使わせて貰う」
 「使わなくてもいいよ。下手くそだもん」
 「そんな事はない。世界に一枚だけの、心の籠ったハンカチではないか」
 「うん。エレインは、泣いているの?」
 「すみません。嬉しくて…」
 「変な子」
 「先を越されてしまったが、僕からも二人に贈り物がある。少し早いが、誕生日プレゼントだ」
 「やった!お兄様大好き」
 「ありがとうございます。開けて見ても良いですか」
 「勿論だ」
 ルーカスは、お揃いのネックレスを、買っていたのだ。
 マルゲリーターにはピンクダイヤモンドを、エレインにはブルーダイヤモンドが、揃いの台座に嵌められている。
 「綺麗」
 たった一粒のカラーダイヤモンドが付いたネックレスだったが、清楚なデザインが二人の白い肌にはよく似合っていた。
 マルゲリーターは、今まで沢山の装身具を身に着けて来たが、これ程嬉しく思ったプレゼントは無かった。
 「お兄様ありがとう。死ぬまで大切にするね」
 「家宝だ。お前の子孫に残しなさい」
 「…うん」
 「お兄様、ありがとうございます。お姉様とお揃いなんて、嬉しいです」
 「泣かないのか」
 「え?」
 「マリーからのプレゼントでは、泣いていただろう」
 「ええと…」
 「私のプレゼントの方が、嬉しかったのよ」
 「そうか」
 「それは…その…」
 「僕も刺繍のハンカチにしたら、良かったのだろうか」
 「お兄様が刺繍だなんて、笑わせないでよ」
 その日は、とても和やかな時間を過ごしたのだった。

 夕餉の後で、ルーカスはシルベスの元に来ていた。
 「明日。王城へ来る様にと、アルフレッド殿下が申しておりました」
 「そうか…」
 「アマンダも一緒にとの事です」
 「分かった。マルゲリーターは…」
 「僕に言わせたいのですか、貴方は残酷な人だ。マルゲリーターは同じ馬車では無く、違う馬車で行く事になっています」
 「そうか…」
 シルベスは全てを受け入れたのか何も聞き返しては来なかったが、ルーカスが立ち去ろうとした時、一言だけ呟く様に囁いていた。
 「すまなかった」
 ルーカスは、聞こえない振りをして、部屋を後にするのだった。

 翌朝、眠そうな顔でエレインは食堂に来ていた。
 「どうした。昨夜は眠れなかったのか」
 「ふふっ。内緒です」
 マルゲリーターが食堂に姿を現し、席に着くとエレインはおもむろに小さな包みを差し出した。
 「こちらは、お兄様で、こちらがお姉様のです。昨日頂いたプレゼントのお返しに、私からはお守りを贈りますわ」
 小さな掌にすっぽりと収まるお守りは、ルーカスとマルゲリーターとで、お揃いになっていた。
 「あんた器用だね。夜のうちに作ったの?」
 「はい。どうしても、今朝の内に渡しておきたかったので、頑張りました」
 「ふーん。凄いね」
 マルゲリーターは、小さなお守りを、何処か複雑な表情で眺めていた」
 不安になったエレインは、気に入って貰えなかったのかと思い、気持ちが沈みかけている。
 「あの…気に入って頂けませんでしたか」
 「ありがとう。ポケットに入れて持ち歩くわ」
 「嬉しいですわ。次も、素敵なお守りを作るので、受け取ってくださいね」
 「気が向いたらね」
 「はい」
 エレインは、無表情のままお守りを見ていたルーカスに視線を向けた。
 何時もなら喜んでくれる筈なのだが、心ここに在らずでじっとお守りを見つめていたのだ。
 「お兄様?」
 「ああ。見惚れていたよ、ありがとうエリー。僕も、ポケットに入れて持ち歩くとしよう」
 ルーカスは、笑顔を見せてお守りを大事そうに胸ポケットへと仕舞ったのだ。
 そして何時もと変わらぬ食事を摂り、珍しくマルゲリーターに見送られながら、ルーカスと共に登園したのだった。
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