【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭

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姉妹

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 マルゲリーターと毎日一緒に食事をしているうちに、エレインはとある事に気付いたのである。
 何時もの様にマルゲリーターが食堂に姿を現し、ルーカスの隣に腰かけた時だった。
 「お兄様!何時もお姉様ばっかり隣に座らせるなんて、狡いですわ。私も、お兄様の隣に座りたいのです。席を交代させてください」
 突然のエレインの我儘に、ルーカスは呆気にとられたのだが、直ぐに意図を汲み取ったのは流石の洞察力である。
 「エリー。僕の隣は、マルゲリーターの席なのだから、我慢しなさい」
 「そうよ。ここは私の席なの。あんたは、そっちで寂しく食べていれば良いのよ」
 勝ち誇った顔でエレインを見て来るマルゲリーターに、悔しそうな表情を浮かべてエレインは黙るのだった。
 気分を良くしたマルゲリーターは、その日は大人しく自分で食事をしていた。
 それからエレインは、毎回ルーカスを独り占めするマルゲリーターに悔しそうな表情を見せる様にしていたので、この日もいつも通り文句を言ったのだ。
 すると、予想外の言葉が返って来たのである。
 「いいよ。そんなに隣に座りたいなら、変わってあげる」
 マルゲリーターは、エレインの希望通りに、席を交代してくれたのだ。
 これにはルーカスもエレインも驚きを隠せなかった。
 「あ。う、嬉しい。お兄様の隣だわ」
 「もう、やらなくていいよ」
 「そ、そうですか…」
 エレインは、バツが悪そうにルーカスの隣の席に腰を下ろした。
 マルゲリーターは、静かに食事をしており、何時もとは様子が違っていたのだ。
 「どうした。今日は、随分と静かだな。どこか調子でも悪いのか」
 「別に。今日は、お兄様の前で食べたかっただけ」
 「そうか…」
 マルゲリーターは、エレインの方を向くと、初めて普通に声を掛けてきたのだ。
 「ねえ。私、痩せすぎて、着れるドレスが無くなっちゃったの。サイズ、直して貰ったんだけど、なんか気に入らないんだ。あんたの要らないドレスがあったら、一枚貸してくれない。心配しなくても、ちゃんと洗って返すわよ」
 エレインは、話しかけて貰えるとは思っていなかったので、かなり驚いていた。
 「あ…あの。お姉様に、似合いそうなドレスなら持っておりますの。宜しければ、お部屋にお持ち致しますわ」
 「そう。後で持って来て頂戴」
 「はい、喜んで」
 少しだけ、マルゲリーターとの距離が縮まった気がして、エレインは嬉しくなったのだ。
 「マリー。明日、一緒にドレスを買いに行こう。早めに帰って来るから、待っていなさい」
 「お兄様と、二人だけ?」
 「二人で行きたいのなら、そうしよう」
 「嬉しい。早く帰って来てね」
 「分かった」
 マルゲリーターはルーカスから愛称で呼ばれた事と、二人だけで外出出来る事で、勝ち誇った顔をしエレインを見つめたのだ。
 エレインは、胸の奥がチクリと痛む感覚がして、戸惑っている。
 一緒に行きたいと思う気持ちと、連れて行って貰えない事に、寂しさを感じたのだ。
 『まだ、妹としては、認めて貰えないのですね…一緒にお姉様のドレスを選ぶのは楽しそうですが、我儘は言えませんわ』

 夕餉の後でエレインは、マルゲリーターに似合いそうだと思ったドレスを見繕い、ルーカスと共に部屋を訪れ言葉を失っていた。
 「このお部屋は…」
 「私が暴れて壊したの。気にしなくていいよ、買い替える気も無いし。それよりさ、ドレス貸してよ」
 「はい、どうぞ」
 「ちょっと着替えたいからさ、お兄様は出て行ってくれる」
 「しかし」
 「叩いたりしないわよ。女の子同士、話がしたいだけ」
 「だが…」
 「信じられないよね。分かった、もう戻っていいよ」
 「いいえ。私も女の子同士、お話しがたいですわ。お兄様、お部屋に戻ってくださいませ」
 「エリー」
 ルーカスは不安を覚えながらも、廊下で待つと言う約束をして部屋を出たのだ。
 大きな音が聞こえたら、容赦なく部屋に飛び込む算段である。
 マルゲリーターは、エレインに手伝って貰いながら、ドレスを着る事にした。
 痩せた事で二人の体型が同じになったのは、腹違いでも姉妹として似ている部分なのかもしれない。
 「ねえ。あんたってさ、胸もお尻も小さいね。ちょっとキツイわこのドレス」
 「ごめんなさい。もう少しゆったりしたのを、探して来ますわ」
 「何言ってんの?そこは怒るところだよ」
 「そうなのですか」
 「………私たち、似ていないよね」
 「そうですね。幼い頃は、よく似ていたと聞いておりますわ」
 「私たち、双子じゃないって知ってた?」
 「え?」
 「知らないのなら、教えてあげる。私はお母様とお父様の娘で、あんたとは腹違い」
 エレインは絶句した、マルゲリーターが何処で真実を聞いたのか、分からなかったからである。
 「ビックリするよね。でもさ、見たら分かるよ。あんたとお兄様はそっくりだけど、私だけ似てないもん。お母様と似ているなって、ずっと思っていたんだ。でもさ、信じたくなかったんだ~特別になれないじゃない。庶子は平民なんだよ、だから絶対に秘密にしてよね。バレたら、処刑されちゃうんだよ」
 「そんな…」
 「嘘じゃないよ」
 マルゲリーターは、エレインが思っている以上に、周りを見ていた事が伺えたのだ。
 言葉を失っているエレインに、ここぞとばかりに質問を繰り返して来た。
 「アル様は、優しい?」
 「え?」
 「アルフレッド殿下の事だよ。婚約者だったからね、私。ずっと愛称で呼んでた。今は人前で呼ぶ事出来なくなっちゃったけどね。誰も聞いていないところでは、アル様。私だけの、優しい王子様だよ」
 「そうですか」
 「怒らないの?」
 「何故です?」
 「…別に」
 「?」
 「あんたってさ、すぐ薬指触るよね、なんか見えているの?」
 「え?」
 「無意識?私は、薬指に赤い糸が見えているよ。アル様と繋がっているの」
 「本当ですか!」
 「嘘に決まってんじゃん」
 「………あ」
 「簡単に騙されていたら、王妃様にはなれないよ」
 「……はい。気を付けます」
 「子供の頃はね、アル様と赤い糸を結んで遊んでいたんだ。いっぱい抱きしめてもらって、おでこにもキスしてくれたの。あの頃は、幸せだったな」
 「羨ましいです」
 「本当?」
 「はい。私は、遊んで貰えるお友達がおりませんでしたから、楽しい思い出は何もないのです」
 「そうなんだ…ねえ。孤児院て、どんな所なの?…やっぱいいわ。帝国って、どんな所だった?」
 「とても大きくて、綺麗な所でしたわ。次はお姉様も、一緒に行きましょう」
 「気が向いたらね。あんたのお母様は皇弟妃なんでしょう。いいね、どんな人」
 「寡黙ですが、素敵な方です」
 「ふ~ん。お母様の事、自慢なんだ」
 「私には三人母がいますが、皆大切な方たちです」
 「三人?お母様は、あんたの母親じゃないでしょう」
 「ええと、皇弟妃と、養母と、孤児院の院長です」
 「へ~幸せそうだね」
 「はい。幸せです」
 「私は…幸せじゃなかったな」
 「そうなのですか」
 「あんたに比べたら、ずっと幸せだったかもね」
 「え?」
 「お兄様の事は、好き?」
 「はい。大好きです」
 「良かったね。愛されていて」
 「お兄様は、お姉様の事も、愛しておりますわ」
 「どうかな」
 「絶対に愛しております」
 「あんたって、おめでたい頭しているね」
 「え?」
 「私の事は、好きになれそう?」
 「はい。お姉様と一緒に、かくれんぼとかしたいです」
 「そう。気が向いたらね」
 「楽しみにしております」
 「私がいなくなっても、お兄様を恨んだら駄目だよ」
 「え?」
 「何でもない。もう行っていいよ」
 「お姉様」
 「なに?」
 エレインは、ポケットからシルクのリボンを取り出した。
 「もし嫌でなければ、こちらのリボンを、お使い頂けませんか」
 「要らない」
 「どうしてですか。私も色違いのリボンを持っているので、姉妹なのですから、お揃いにしたいのです」
 「ふ~ん」
 マルゲリーターは、暫くリボンを眺めて考えている様だった。
 「じゃあ、それは貰ってあげる。だけど、もう余計な事はしなくてもいいからね」
 「そんな…余計だなんて…」
 「五月蠅い!言う事聞かないと、口利いてあげないよ」
 「すみません」
 「おやすみ、また明日ね…そうだ、今日の話しは、絶対に二人だけの秘密だよ」
 「はい、二人だけの秘密ですね、お約束致しますわ。おやすみなさい、お姉様。また明日」
 エレインが、マルゲリーターの部屋に入ったのは、この日が最初で最後であった。
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