あした僕は鬼になる

高谷 ゆうと

文字の大きさ
15 / 15
終幕

3

しおりを挟む
 その後、意識を取り戻した磯泰輔と磯鷹之の身柄は警察へと引き渡され、タイスケは救急車で病院へ運ばれていった。
 僕と、その場に運悪く居合わせることになったレンジは、事情聴取を受けた後、パトカーでそれぞれの自宅まで送られた。
 母さんの取り乱しようには焦ったけれど、叱られることはなかった。
 タイスケの怪我は、見た目ほど酷くなく、打撲と切り傷、かすり傷はすぐに治ると得意げに言っていたが、左腕はやっぱり折れていたらしい。
 病室でのタイスケは、三角巾で左腕を支えていた。
「体、なまるんだよなー。コースケ、オレの代わりに筋トレして、その筋肉オレにくれ」
 無茶な事を言うタイスケと僕は、すっかり仲直りしていた。僕は学校帰りに毎日、タイスケの病室を訪れている。
 これは余談だけど、母さんが買ってきて、「持って行きなさい」と押し付けてきたフルーツの盛り合わせは、タイスケが何と二時間ですべてをたいらげてしまった。
 その次の日、フルーツを切っただけの僕の腕が筋肉痛になったのは、内緒だ。
「タイスケが退院したら、僕達感謝状をもらえるらしいよ」
 僕は夕陽が差し込む病室で、ベッドについている「遠藤 大典」と書かれた名札を無意識に眺めながらそう言った。
「このオレがケーサツに感謝されるなんてさ、本物の萩野もびっくりしてるにちがいないよな」
「僕はタイスケにすごく感謝してるけどね」
「みずくせー話は嫌いだって言ってんだろ。退院したら、ラーメン奢れよ」
「うん」
「そういやさ、颯太さんは大丈夫だったのか?磯に何かされてたんだろ」
「大丈夫だった。僕に電話しろって脅されてただけで、他には何もされてないみたいだよ」
「へえ。キセキみたいだな」
 タイスケはケラケラと笑った。
「紅蓮のリーダー、いなくなっちまったな。あのルールが適用されるんなら、コースケ、お前が次のリーダーだぞ」
「はあ!?」
 どうしてそうなるんだ。そもそも僕は紅蓮のメンバーじゃないぞ。などと言おうとしたが、言えなかった。僕はどこまでも口下手だ。
「そうだ、退院したら、遼一さんの墓参り、させてくれよ」
「うん、いいけどさ……」
「なんだよ」
「遼一や颯太には、さん付けするのに、どうして僕はコースケなの?」
「コースケは怒るとすげーこえーけど、普段はセンパイって感じがしないからさ」
「顔面に空き缶ぶつけてやろうか?」
「はー?コースケのくせに生意気だなー。オレの真似すんじゃねーよ」
 笑い合う。やっぱり、平和な日常はいいなと思った。
 面会時間が終わったら、紅蓮に挨拶をしに行こう。タイスケは元気ですと、伝えてあげよう。
 磯兄弟がどんな裁きを受けるのかは、僕が決めることじゃない。大人達の決める事だ。
 これは余談だけど、磯鷹之が「柏原」と名乗っていた理由や、磯泰輔が刑事の萩野さんに成りすましていた理由。僕の推測でしかないけれど、磯賢治と名前が同じ、宮沢賢治に関係した名前を、彼らは敢えて使っていたのかもしれない。なんだか気になって調べてみたら、宮沢賢治はかつて大阪の柏原というところに訪れたことがあるという逸話や、彼の遺した詩などを利用して日本語の読み書きを味わうというような本を出している著者が萩野という苗字の人だったりしたのだ。
 その仮説が正しければ、磯兄弟は本当に賢治さんを想っていたのだろう。彼にちなんだ(というか、彼と同じ名前の有名人にちなんだ)偽名を名乗るなんて、彼らなりの愛を感じたりもする。ただのこじつけのような気もするけれど、僕はそう思いたい。
 磯兄弟といえばもう一つ、あの日彼らが部屋に入ってくるのが何分か遅かったら、今頃僕やタイスケは生きていなかったかもしれない。僕があれ以上タイスケを痛めつけて動けなくしてしまって、その後に二人とも磯兄弟にやられてしまう。
 そんな最悪の想像をして、僕は激しく身震いした。あの時偶然、タイスケが静かになって、磯泰輔が勘違いして行動を早まってくれて、本当に良かった。
 
 そう、すべては、偶然だったのだ。遼一が磯賢治さんの殺害現場に出くわしたこと。それを(気付かずに)磯兄弟の前で懺悔したこと。遼一と磯泰輔が争っているときにトラックが通ったこと。いろんな導きをうけて真実にたどり着いたこと。
 そして今、ここに僕がいること。タイスケが珍しく夕陽を眺めていること。窓ガラスに、変なシミがついていること。
 いろんな偶然が重なって、この世界はあるんじゃないかと、その時僕は思ったりした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

処理中です...