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終幕
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その後、意識を取り戻した磯泰輔と磯鷹之の身柄は警察へと引き渡され、タイスケは救急車で病院へ運ばれていった。
僕と、その場に運悪く居合わせることになったレンジは、事情聴取を受けた後、パトカーでそれぞれの自宅まで送られた。
母さんの取り乱しようには焦ったけれど、叱られることはなかった。
タイスケの怪我は、見た目ほど酷くなく、打撲と切り傷、かすり傷はすぐに治ると得意げに言っていたが、左腕はやっぱり折れていたらしい。
病室でのタイスケは、三角巾で左腕を支えていた。
「体、なまるんだよなー。コースケ、オレの代わりに筋トレして、その筋肉オレにくれ」
無茶な事を言うタイスケと僕は、すっかり仲直りしていた。僕は学校帰りに毎日、タイスケの病室を訪れている。
これは余談だけど、母さんが買ってきて、「持って行きなさい」と押し付けてきたフルーツの盛り合わせは、タイスケが何と二時間ですべてをたいらげてしまった。
その次の日、フルーツを切っただけの僕の腕が筋肉痛になったのは、内緒だ。
「タイスケが退院したら、僕達感謝状をもらえるらしいよ」
僕は夕陽が差し込む病室で、ベッドについている「遠藤 大典」と書かれた名札を無意識に眺めながらそう言った。
「このオレがケーサツに感謝されるなんてさ、本物の萩野もびっくりしてるにちがいないよな」
「僕はタイスケにすごく感謝してるけどね」
「みずくせー話は嫌いだって言ってんだろ。退院したら、ラーメン奢れよ」
「うん」
「そういやさ、颯太さんは大丈夫だったのか?磯に何かされてたんだろ」
「大丈夫だった。僕に電話しろって脅されてただけで、他には何もされてないみたいだよ」
「へえ。キセキみたいだな」
タイスケはケラケラと笑った。
「紅蓮のリーダー、いなくなっちまったな。あのルールが適用されるんなら、コースケ、お前が次のリーダーだぞ」
「はあ!?」
どうしてそうなるんだ。そもそも僕は紅蓮のメンバーじゃないぞ。などと言おうとしたが、言えなかった。僕はどこまでも口下手だ。
「そうだ、退院したら、遼一さんの墓参り、させてくれよ」
「うん、いいけどさ……」
「なんだよ」
「遼一や颯太には、さん付けするのに、どうして僕はコースケなの?」
「コースケは怒るとすげーこえーけど、普段はセンパイって感じがしないからさ」
「顔面に空き缶ぶつけてやろうか?」
「はー?コースケのくせに生意気だなー。オレの真似すんじゃねーよ」
笑い合う。やっぱり、平和な日常はいいなと思った。
面会時間が終わったら、紅蓮に挨拶をしに行こう。タイスケは元気ですと、伝えてあげよう。
磯兄弟がどんな裁きを受けるのかは、僕が決めることじゃない。大人達の決める事だ。
これは余談だけど、磯鷹之が「柏原」と名乗っていた理由や、磯泰輔が刑事の萩野さんに成りすましていた理由。僕の推測でしかないけれど、磯賢治と名前が同じ、宮沢賢治に関係した名前を、彼らは敢えて使っていたのかもしれない。なんだか気になって調べてみたら、宮沢賢治はかつて大阪の柏原というところに訪れたことがあるという逸話や、彼の遺した詩などを利用して日本語の読み書きを味わうというような本を出している著者が萩野という苗字の人だったりしたのだ。
その仮説が正しければ、磯兄弟は本当に賢治さんを想っていたのだろう。彼にちなんだ(というか、彼と同じ名前の有名人にちなんだ)偽名を名乗るなんて、彼らなりの愛を感じたりもする。ただのこじつけのような気もするけれど、僕はそう思いたい。
磯兄弟といえばもう一つ、あの日彼らが部屋に入ってくるのが何分か遅かったら、今頃僕やタイスケは生きていなかったかもしれない。僕があれ以上タイスケを痛めつけて動けなくしてしまって、その後に二人とも磯兄弟にやられてしまう。
そんな最悪の想像をして、僕は激しく身震いした。あの時偶然、タイスケが静かになって、磯泰輔が勘違いして行動を早まってくれて、本当に良かった。
そう、すべては、偶然だったのだ。遼一が磯賢治さんの殺害現場に出くわしたこと。それを(気付かずに)磯兄弟の前で懺悔したこと。遼一と磯泰輔が争っているときにトラックが通ったこと。いろんな導きをうけて真実にたどり着いたこと。
そして今、ここに僕がいること。タイスケが珍しく夕陽を眺めていること。窓ガラスに、変なシミがついていること。
いろんな偶然が重なって、この世界はあるんじゃないかと、その時僕は思ったりした。
僕と、その場に運悪く居合わせることになったレンジは、事情聴取を受けた後、パトカーでそれぞれの自宅まで送られた。
母さんの取り乱しようには焦ったけれど、叱られることはなかった。
タイスケの怪我は、見た目ほど酷くなく、打撲と切り傷、かすり傷はすぐに治ると得意げに言っていたが、左腕はやっぱり折れていたらしい。
病室でのタイスケは、三角巾で左腕を支えていた。
「体、なまるんだよなー。コースケ、オレの代わりに筋トレして、その筋肉オレにくれ」
無茶な事を言うタイスケと僕は、すっかり仲直りしていた。僕は学校帰りに毎日、タイスケの病室を訪れている。
これは余談だけど、母さんが買ってきて、「持って行きなさい」と押し付けてきたフルーツの盛り合わせは、タイスケが何と二時間ですべてをたいらげてしまった。
その次の日、フルーツを切っただけの僕の腕が筋肉痛になったのは、内緒だ。
「タイスケが退院したら、僕達感謝状をもらえるらしいよ」
僕は夕陽が差し込む病室で、ベッドについている「遠藤 大典」と書かれた名札を無意識に眺めながらそう言った。
「このオレがケーサツに感謝されるなんてさ、本物の萩野もびっくりしてるにちがいないよな」
「僕はタイスケにすごく感謝してるけどね」
「みずくせー話は嫌いだって言ってんだろ。退院したら、ラーメン奢れよ」
「うん」
「そういやさ、颯太さんは大丈夫だったのか?磯に何かされてたんだろ」
「大丈夫だった。僕に電話しろって脅されてただけで、他には何もされてないみたいだよ」
「へえ。キセキみたいだな」
タイスケはケラケラと笑った。
「紅蓮のリーダー、いなくなっちまったな。あのルールが適用されるんなら、コースケ、お前が次のリーダーだぞ」
「はあ!?」
どうしてそうなるんだ。そもそも僕は紅蓮のメンバーじゃないぞ。などと言おうとしたが、言えなかった。僕はどこまでも口下手だ。
「そうだ、退院したら、遼一さんの墓参り、させてくれよ」
「うん、いいけどさ……」
「なんだよ」
「遼一や颯太には、さん付けするのに、どうして僕はコースケなの?」
「コースケは怒るとすげーこえーけど、普段はセンパイって感じがしないからさ」
「顔面に空き缶ぶつけてやろうか?」
「はー?コースケのくせに生意気だなー。オレの真似すんじゃねーよ」
笑い合う。やっぱり、平和な日常はいいなと思った。
面会時間が終わったら、紅蓮に挨拶をしに行こう。タイスケは元気ですと、伝えてあげよう。
磯兄弟がどんな裁きを受けるのかは、僕が決めることじゃない。大人達の決める事だ。
これは余談だけど、磯鷹之が「柏原」と名乗っていた理由や、磯泰輔が刑事の萩野さんに成りすましていた理由。僕の推測でしかないけれど、磯賢治と名前が同じ、宮沢賢治に関係した名前を、彼らは敢えて使っていたのかもしれない。なんだか気になって調べてみたら、宮沢賢治はかつて大阪の柏原というところに訪れたことがあるという逸話や、彼の遺した詩などを利用して日本語の読み書きを味わうというような本を出している著者が萩野という苗字の人だったりしたのだ。
その仮説が正しければ、磯兄弟は本当に賢治さんを想っていたのだろう。彼にちなんだ(というか、彼と同じ名前の有名人にちなんだ)偽名を名乗るなんて、彼らなりの愛を感じたりもする。ただのこじつけのような気もするけれど、僕はそう思いたい。
磯兄弟といえばもう一つ、あの日彼らが部屋に入ってくるのが何分か遅かったら、今頃僕やタイスケは生きていなかったかもしれない。僕があれ以上タイスケを痛めつけて動けなくしてしまって、その後に二人とも磯兄弟にやられてしまう。
そんな最悪の想像をして、僕は激しく身震いした。あの時偶然、タイスケが静かになって、磯泰輔が勘違いして行動を早まってくれて、本当に良かった。
そう、すべては、偶然だったのだ。遼一が磯賢治さんの殺害現場に出くわしたこと。それを(気付かずに)磯兄弟の前で懺悔したこと。遼一と磯泰輔が争っているときにトラックが通ったこと。いろんな導きをうけて真実にたどり着いたこと。
そして今、ここに僕がいること。タイスケが珍しく夕陽を眺めていること。窓ガラスに、変なシミがついていること。
いろんな偶然が重なって、この世界はあるんじゃないかと、その時僕は思ったりした。
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