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序章 『内閣総理大臣 白銀総司』
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第四話
[民家の前にて]
サヨクはドアをノックする。
「ばあちゃーん! 私だよ! サヨクだよ! 入ってもいいでございますか?」
すると、中から
「どうぞ」
そして、総理とサヨクは民家に入った。そこには一人の老婆がいた。総理に対し、『どこにいるかわからない家族』を探してくれと言った老婆だ(第一話の最後に出てきた人です)。
総理は、老婆の元に近寄る。
「失礼ですが、右腕を見せてもらってもいいですか?」
老婆は右袖をまくる。そこには右腕がなかった。
総理は目に涙を浮かべながら、
「本当に……京香なのか?」
その時、総理の脳には、過去の会話がフラッシュバックした。
【総理? このババの最後の願いを叶えてくだされ。最後に家族に会わせてほしいのですじゃ。総理は、約束を守ってくださる。私はそう信じていますじゃ】
【ええ! この白銀総司、必ずや公約の実現をします! わしの言葉を……信じてください!】
それは支持率を手に入れるための嘘だった。そんな冷たい嘘は、温かい現実になった。
総理は老婆の左腕を握りしめて、
「私はここいる。わしがお前の父親だ……」
「お父さん?」
「ようやく会えたな。生きていたなんて……」
「きっとお父さんなら約束を守ってくれると信じていたじゃ。娘との約束も国民への公約も必ず守る……なぜならお父さんは……」
娘が言い切る前に総理は泣きながら――
「第122代総理大臣、白銀総司だからだ!」
総理の娘が死んだのはそれから三日後だった。彼女は、家族に看取られて死んだ。
『家族に看取られて死ねるような国』
これより幸せな国などない。
総理の打ち立てた目標は、80年越しに叶えられた。
娘はその間ずっと総理のことを信じて待っていた。
総理に求められる資質は何か?
リーダーシップ?
腕っぷし?
行政?
ストイックさ?
違う、最も大事な資質は、信じてもらうこと。
『あの人ならやってくれる!』『俺はあの人についていく!』『あの総理ならこの国を導いてくれるはずだ!』
総理も普通の人間なのに、国民からは想像を絶するプレッシャーを与えられる。
失敗すれば揚げ足をとられ、暴言を吐かれる。
一挙一動が見守られ、少しでも弱みを見せれば叩かれる。
どれだけ頑張っても、どれだけ苦しんでも、行政にゴールなどない。
永久に続く無間地獄。
総理を進んで勤めるメリットなどない。
それでも総理を続けられるのは――
総理は幼い日の娘との会話を思い出す。
【お父さんはなんで総理になったの?】
【このちっぽけな凡人を、天才だと信じて待っていてくれる人がいるからだ】
[数ヶ月後]
「内閣総辞職!?」
「ほ、本当に辞職されるのですか?」
「ああ! この国はもうすでに『家族に看取られて死ねるような国』となった」
総理は、持ち前のリーダーシップと腕力でアヴニールの政治基盤を確固たるものにした。
「ですが、またいつ戦争になるかわかりません! 我々には総理が必要です」
「いや、この国には、わしはもう必要ない。代わりにもっと別の世界で誰かがわしを必要としてくれるかもしれん。
わしの役目は、国民の先頭に立ち、糾弾を浴びながら、前に進むことだ。
平和な国の椅子に座ってふんぞりかえっていることではない。
わしは今度こそ本当に異世界転移しようと思う。まだ見ぬ国で行政をしたい!」
「唐突に何を言い出すのですかっ?」
「ナノマシンと科学技術のおかげで誰でも自在に異世界に行けるのだろう?」
「ですが、危険すぎます! ナノマシンではなく本物の魔法やモンスターがいるんですよ? 異世界に旅立って無事に帰って来た人などいません!」
「構わん。困難に立ち向かい、道を切り開くのが総理だ!」
「私もお供いたしますでございますよ! そーじそーり!」
と、サヨク。
「ですが、総理! こんな重大な決断、もう少し慎重になられた方が!」
「断る! わしの行政は……前陣速攻だけだ!」
[本物の異世界]
白い光に包まれ、次元を割いて、異世界にたどり着いた。中世の街並みはひどく荒れていた。あちこちに飢える人、ホームレス、社会的弱者がゴミのように打ち捨てられている。
そこに、右膝をカッコよく地面につけて総理は降り立った。
「誰か助けてくれーーーー!」
叫び声が響く。
「早速か」
そこには、五人の強面の暴漢に襲われている人がいる。周囲の人はみんな見て見ぬ振り。
「大人しく金を出せ!」
「これは息子の薬代なんだ!」
「うるせー! いいからさっさと金を出せ!」
暴漢は右腕で男性を殴ろうとする。
シュッ!
総理は閃光のように体を滑り込ませた。左腕でパンチを受け止める。
「な、なんだてめーは!」
「……肉体強化発動」
総理はボソリと呟く。瞬間、筋肉に仕込まれたナノマシンが筋繊維を刺激。筋肉は膨張し、膨れ上がる。
太陽を隠していた黒雲が左右に逃げていく。
まるで空が筋肉に怯えているようだ。
「だ、誰ですか、あなたは? 私を助けてくださるのですか?」
「下がっていなさい。こんな雑魚どもわし一人で十分だ」
「「「「「誰だてめー? ぶっ殺してやる!」」」」」
暴漢どもが襲いくる。
「……魔力覚醒発動」
総理はボソリと呟く。左手に仕込まれたナノマシンが紋章を描き、熱エネルギーを生み出す。
雲の切れ間から太陽が光で地上を濡らす。
まるで太陽が、光の涙を落としているみたいだ。
「一撃で楽にしてやるっ!」
そして、あっという間に総理は五人の雑魚をねじ伏せた。
雑魚どもは地べたを這いつくばり、顔を真っ青にさせている。
「誰だてめーはっ?」「なんで丸腰なのにこんなにつえーんだよ!」「こんなじじいに負けるなんて!」「こ、殺される!」「お前何もんだっっ!」
助けた男性は、
「助けていただきありがとうございます。ですが、あなたは一体誰なのですか?」
「肉体強化と魔力覚醒を使う前陣速攻型の内閣総理大臣、白銀総司だ!」
序章『内閣総理大臣 白銀総司』 完
第一章内閣総理大臣vs大統領(肉弾戦)へ続く。
[民家の前にて]
サヨクはドアをノックする。
「ばあちゃーん! 私だよ! サヨクだよ! 入ってもいいでございますか?」
すると、中から
「どうぞ」
そして、総理とサヨクは民家に入った。そこには一人の老婆がいた。総理に対し、『どこにいるかわからない家族』を探してくれと言った老婆だ(第一話の最後に出てきた人です)。
総理は、老婆の元に近寄る。
「失礼ですが、右腕を見せてもらってもいいですか?」
老婆は右袖をまくる。そこには右腕がなかった。
総理は目に涙を浮かべながら、
「本当に……京香なのか?」
その時、総理の脳には、過去の会話がフラッシュバックした。
【総理? このババの最後の願いを叶えてくだされ。最後に家族に会わせてほしいのですじゃ。総理は、約束を守ってくださる。私はそう信じていますじゃ】
【ええ! この白銀総司、必ずや公約の実現をします! わしの言葉を……信じてください!】
それは支持率を手に入れるための嘘だった。そんな冷たい嘘は、温かい現実になった。
総理は老婆の左腕を握りしめて、
「私はここいる。わしがお前の父親だ……」
「お父さん?」
「ようやく会えたな。生きていたなんて……」
「きっとお父さんなら約束を守ってくれると信じていたじゃ。娘との約束も国民への公約も必ず守る……なぜならお父さんは……」
娘が言い切る前に総理は泣きながら――
「第122代総理大臣、白銀総司だからだ!」
総理の娘が死んだのはそれから三日後だった。彼女は、家族に看取られて死んだ。
『家族に看取られて死ねるような国』
これより幸せな国などない。
総理の打ち立てた目標は、80年越しに叶えられた。
娘はその間ずっと総理のことを信じて待っていた。
総理に求められる資質は何か?
リーダーシップ?
腕っぷし?
行政?
ストイックさ?
違う、最も大事な資質は、信じてもらうこと。
『あの人ならやってくれる!』『俺はあの人についていく!』『あの総理ならこの国を導いてくれるはずだ!』
総理も普通の人間なのに、国民からは想像を絶するプレッシャーを与えられる。
失敗すれば揚げ足をとられ、暴言を吐かれる。
一挙一動が見守られ、少しでも弱みを見せれば叩かれる。
どれだけ頑張っても、どれだけ苦しんでも、行政にゴールなどない。
永久に続く無間地獄。
総理を進んで勤めるメリットなどない。
それでも総理を続けられるのは――
総理は幼い日の娘との会話を思い出す。
【お父さんはなんで総理になったの?】
【このちっぽけな凡人を、天才だと信じて待っていてくれる人がいるからだ】
[数ヶ月後]
「内閣総辞職!?」
「ほ、本当に辞職されるのですか?」
「ああ! この国はもうすでに『家族に看取られて死ねるような国』となった」
総理は、持ち前のリーダーシップと腕力でアヴニールの政治基盤を確固たるものにした。
「ですが、またいつ戦争になるかわかりません! 我々には総理が必要です」
「いや、この国には、わしはもう必要ない。代わりにもっと別の世界で誰かがわしを必要としてくれるかもしれん。
わしの役目は、国民の先頭に立ち、糾弾を浴びながら、前に進むことだ。
平和な国の椅子に座ってふんぞりかえっていることではない。
わしは今度こそ本当に異世界転移しようと思う。まだ見ぬ国で行政をしたい!」
「唐突に何を言い出すのですかっ?」
「ナノマシンと科学技術のおかげで誰でも自在に異世界に行けるのだろう?」
「ですが、危険すぎます! ナノマシンではなく本物の魔法やモンスターがいるんですよ? 異世界に旅立って無事に帰って来た人などいません!」
「構わん。困難に立ち向かい、道を切り開くのが総理だ!」
「私もお供いたしますでございますよ! そーじそーり!」
と、サヨク。
「ですが、総理! こんな重大な決断、もう少し慎重になられた方が!」
「断る! わしの行政は……前陣速攻だけだ!」
[本物の異世界]
白い光に包まれ、次元を割いて、異世界にたどり着いた。中世の街並みはひどく荒れていた。あちこちに飢える人、ホームレス、社会的弱者がゴミのように打ち捨てられている。
そこに、右膝をカッコよく地面につけて総理は降り立った。
「誰か助けてくれーーーー!」
叫び声が響く。
「早速か」
そこには、五人の強面の暴漢に襲われている人がいる。周囲の人はみんな見て見ぬ振り。
「大人しく金を出せ!」
「これは息子の薬代なんだ!」
「うるせー! いいからさっさと金を出せ!」
暴漢は右腕で男性を殴ろうとする。
シュッ!
総理は閃光のように体を滑り込ませた。左腕でパンチを受け止める。
「な、なんだてめーは!」
「……肉体強化発動」
総理はボソリと呟く。瞬間、筋肉に仕込まれたナノマシンが筋繊維を刺激。筋肉は膨張し、膨れ上がる。
太陽を隠していた黒雲が左右に逃げていく。
まるで空が筋肉に怯えているようだ。
「だ、誰ですか、あなたは? 私を助けてくださるのですか?」
「下がっていなさい。こんな雑魚どもわし一人で十分だ」
「「「「「誰だてめー? ぶっ殺してやる!」」」」」
暴漢どもが襲いくる。
「……魔力覚醒発動」
総理はボソリと呟く。左手に仕込まれたナノマシンが紋章を描き、熱エネルギーを生み出す。
雲の切れ間から太陽が光で地上を濡らす。
まるで太陽が、光の涙を落としているみたいだ。
「一撃で楽にしてやるっ!」
そして、あっという間に総理は五人の雑魚をねじ伏せた。
雑魚どもは地べたを這いつくばり、顔を真っ青にさせている。
「誰だてめーはっ?」「なんで丸腰なのにこんなにつえーんだよ!」「こんなじじいに負けるなんて!」「こ、殺される!」「お前何もんだっっ!」
助けた男性は、
「助けていただきありがとうございます。ですが、あなたは一体誰なのですか?」
「肉体強化と魔力覚醒を使う前陣速攻型の内閣総理大臣、白銀総司だ!」
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第一章内閣総理大臣vs大統領(肉弾戦)へ続く。
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