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第1話 婚約解消
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「ローズ、君と婚約を解消したい」
幼い頃よりの婚約者エドモンド・ザックランド公爵令息からそう言われて、ローズは一瞬返答が出来なかった。
エドモンド・ザックランド公爵令息とローズ・ファラント公爵令嬢は政略結婚という意味で婚約を交わしていた。
父同士、同じ派閥に属し、何の瑕疵もなく良好な関係を築いてきたと思われたのだが、今互いにもうすぐ成人の十七を迎えようと言う時になっての婚約解消とは。
ローズは銀の髪の下から青い瞳を瞬かせた。
「何の御冗談でしょう? エドモンド様」
実際両家の関係を考えても有り得ないことだった。
エドモンドはザックランド公爵家特有の濃い金髪を揺らせて答えた。
「運命の番が現れたんだ」
「……は?」
このマトアニア王国は獣人国であるシュガルト国と隣接しているため、獣人の姿も多く見受けられる。
そのため獣人と恋人となる者もいたが、貴族で獣人を伴侶とする者はまだ少なかった。
何故なら獣人には『運命の番』とされる相手が生まれながらに存在しており、この『運命の番』に出会うとその相手しか目に入らなくなり、仮に先に伴侶がいたとすればその伴侶は存在を忘れられてしまうくらい軽い存在とされてしまうのだ。
誰がそんな危険を冒してまで獣人を伴侶に、などと望むのか。
故にマトアニア王国で獣人を伴侶とする者は少なかった。
だが、エドモンドは獣人ではない。
「この間、狐の獣人に出会ってね。ピケラと言ってふさふさの耳のある可愛い娘でね」
エドモンドによるとそのピケラという娘に『貴方が運命の番です』と宣言されたのだという。
話を聞いてみるとピケラはずっと番となる相手を探していて、エドモンドを見た時『見付けた!!』と思ったのだという。
「君も知っているとおり、獣人の『運命の番』指定はこちらから断ることは困難だ。――分かるよね?」
厄介なことになった、とローズは思った。
獣人の『運命の番』に対する執着は凄まじく、もしうっかり邪魔をしようものならその場で八つ裂きにされる位の覚悟が必要だった。
「分かりました。それでは詳しいことはお父様の方からお話がある、ということでよろしいですわね」
心の内の蟠りはともかく淑女としての礼儀としてそう返したローズに、エドモンドはがっかりした、とでも言いたげに肩を竦めて見せた。
「ほらね。やっぱり君はそんな反応をすると思ったんだ」
「……どういうことでしょうか」
「君は昔からそうだ。感情が揺れるということがない。以前から思っていたことだけれど君は俺のことを何とも思ってなどいないんだろう」
そんなことはない。
確かにこの婚約は政略的な意味合いが大きかったが、淑女教育で感情を表に表すのはみっともないこと、と教えられてきたローズがエドモンドに対しそれらしい感情を見せることはほとんどなかった。
「エドモンド様――ザックランド公爵令息様にはそう見えたのかもしれませんね」
ローズは眉尻を下げたがそれすらも気取った仕草と見えたようだった。
「ほら。君のそういったところがダメなんだ」
いかにも、というふうにエドモンドが頷きダメ出しを始めた。
「その君の気取った仕草がどれ程周りの気に障るのか分かってるのか? 俺ならこんな鉄面皮な女性何てお断りだ」
公爵夫人となるのだから簡単に周囲に感情を気取られてはなりません、と教育されてきたローズに対しあまりな言い草だった。
ローズは上質な訪問着に添えた手に力を入れ、懸命に感情を抑えていた。
(何も知らないくせに。私がどれ程この癇癪を抑えるために苦労してきたか)
ローズは元々感情の起伏が激しい子供だった。
そのため、幼い頃からあれこれと家庭教師に注意を受け、その後は自分でも努力を重ね、その癇癪を抑えて来た経緯がある。
(それを私が感情の起伏がないから詰まらない、ですって? 人を馬鹿にするのも大概にして欲しいわ)
「それがザックランド公爵令息様のお考えなのですね。婚約解消の件に関してのお話は御伺いしましたので、これにて失礼致します」
「ああ、ちょっと待ってくれないか」
「はい?」
内容が婚約解消ならエドモンドの方がファラント公爵家に来るのが普通なのだが、やはり他に何か思惑があったらしい。
「わざわざ来てもらったんだ。ちょうどいい。――ピケラッ!!」
エドモンドが廊下側ではない方に設えられた扉へ向かって声を出すと『はい、エドモンド様!!』という可愛らしい声音の後すぐに扉が開いた。
「エドモンド様!! 遅いです!! ピケラ、もう少しで飛び出すところでした!!」
礼儀作法も何のその、と感情のままに話し出したのは年の頃は十四、五と思われる女性で金茶の髪にふさふさの獣耳があるどう見ても獣人と思われる相手だった。
幼い頃よりの婚約者エドモンド・ザックランド公爵令息からそう言われて、ローズは一瞬返答が出来なかった。
エドモンド・ザックランド公爵令息とローズ・ファラント公爵令嬢は政略結婚という意味で婚約を交わしていた。
父同士、同じ派閥に属し、何の瑕疵もなく良好な関係を築いてきたと思われたのだが、今互いにもうすぐ成人の十七を迎えようと言う時になっての婚約解消とは。
ローズは銀の髪の下から青い瞳を瞬かせた。
「何の御冗談でしょう? エドモンド様」
実際両家の関係を考えても有り得ないことだった。
エドモンドはザックランド公爵家特有の濃い金髪を揺らせて答えた。
「運命の番が現れたんだ」
「……は?」
このマトアニア王国は獣人国であるシュガルト国と隣接しているため、獣人の姿も多く見受けられる。
そのため獣人と恋人となる者もいたが、貴族で獣人を伴侶とする者はまだ少なかった。
何故なら獣人には『運命の番』とされる相手が生まれながらに存在しており、この『運命の番』に出会うとその相手しか目に入らなくなり、仮に先に伴侶がいたとすればその伴侶は存在を忘れられてしまうくらい軽い存在とされてしまうのだ。
誰がそんな危険を冒してまで獣人を伴侶に、などと望むのか。
故にマトアニア王国で獣人を伴侶とする者は少なかった。
だが、エドモンドは獣人ではない。
「この間、狐の獣人に出会ってね。ピケラと言ってふさふさの耳のある可愛い娘でね」
エドモンドによるとそのピケラという娘に『貴方が運命の番です』と宣言されたのだという。
話を聞いてみるとピケラはずっと番となる相手を探していて、エドモンドを見た時『見付けた!!』と思ったのだという。
「君も知っているとおり、獣人の『運命の番』指定はこちらから断ることは困難だ。――分かるよね?」
厄介なことになった、とローズは思った。
獣人の『運命の番』に対する執着は凄まじく、もしうっかり邪魔をしようものならその場で八つ裂きにされる位の覚悟が必要だった。
「分かりました。それでは詳しいことはお父様の方からお話がある、ということでよろしいですわね」
心の内の蟠りはともかく淑女としての礼儀としてそう返したローズに、エドモンドはがっかりした、とでも言いたげに肩を竦めて見せた。
「ほらね。やっぱり君はそんな反応をすると思ったんだ」
「……どういうことでしょうか」
「君は昔からそうだ。感情が揺れるということがない。以前から思っていたことだけれど君は俺のことを何とも思ってなどいないんだろう」
そんなことはない。
確かにこの婚約は政略的な意味合いが大きかったが、淑女教育で感情を表に表すのはみっともないこと、と教えられてきたローズがエドモンドに対しそれらしい感情を見せることはほとんどなかった。
「エドモンド様――ザックランド公爵令息様にはそう見えたのかもしれませんね」
ローズは眉尻を下げたがそれすらも気取った仕草と見えたようだった。
「ほら。君のそういったところがダメなんだ」
いかにも、というふうにエドモンドが頷きダメ出しを始めた。
「その君の気取った仕草がどれ程周りの気に障るのか分かってるのか? 俺ならこんな鉄面皮な女性何てお断りだ」
公爵夫人となるのだから簡単に周囲に感情を気取られてはなりません、と教育されてきたローズに対しあまりな言い草だった。
ローズは上質な訪問着に添えた手に力を入れ、懸命に感情を抑えていた。
(何も知らないくせに。私がどれ程この癇癪を抑えるために苦労してきたか)
ローズは元々感情の起伏が激しい子供だった。
そのため、幼い頃からあれこれと家庭教師に注意を受け、その後は自分でも努力を重ね、その癇癪を抑えて来た経緯がある。
(それを私が感情の起伏がないから詰まらない、ですって? 人を馬鹿にするのも大概にして欲しいわ)
「それがザックランド公爵令息様のお考えなのですね。婚約解消の件に関してのお話は御伺いしましたので、これにて失礼致します」
「ああ、ちょっと待ってくれないか」
「はい?」
内容が婚約解消ならエドモンドの方がファラント公爵家に来るのが普通なのだが、やはり他に何か思惑があったらしい。
「わざわざ来てもらったんだ。ちょうどいい。――ピケラッ!!」
エドモンドが廊下側ではない方に設えられた扉へ向かって声を出すと『はい、エドモンド様!!』という可愛らしい声音の後すぐに扉が開いた。
「エドモンド様!! 遅いです!! ピケラ、もう少しで飛び出すところでした!!」
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