かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

文字の大きさ
2 / 65

第2話 運命の番

しおりを挟む
 だがそれよりローズが驚いたのはそれに対するエドモンドの態度だった。

「ピケラは短気なんだな。まあ、それもいいんだけど今は我慢してくれよ」

 ざっくらばんに言うと慣れた仕草でピケラという少女の頭を撫でその肩に手を回したのだ。

「ローズ、この娘がピケラだ。ピケラ、彼女がローズだ」

「初めまして。ローズ・ファラントと申します」

「ピケラです。初めまして。ねえ、エドモンド」

 エドモンドの方をピケラが振り返る。

「もうあのこと言っちゃったんでしょ」

「ああ」

 敬語も何もない平民そのものの言葉遣いにローズが驚いている内に二人は話し出す。

「ならもういいんじゃない。あたしと早く結婚してよ」

「俺もそうしたいんだが、貴族にはいろいろ面倒くさいことが多くてね」

 やたらと甘い空気を醸し出す二人を前に、自分は一体何を見せられているのだろうとローズが思った時エドモンドがこちらを向いた。

「分かっただろう。俺はピケラと結婚する」

「分かりました。それでは私はこれにて失礼致します」

 どこまでも令嬢としての礼儀を失わないローズが退出する際にありえない会話が聞こえて来る。
「あれが貴族の令嬢っていうの? あたしには真似できないよ」

「ピケラはそのままでいいんだよ」

 それはこれまでのローズの努力を全て否定するものだった。




 邸に帰宅してローズは父であるファラント公爵の所在について聞くと、まだ王城にて執務中と聞かされたので自室へ向かうことにした。

「後はいいわ」
 
 訪問着から着替えるとローズは人払いをし、ファラント公爵が帰宅したらすぐに伝えるよう侍女に言いつけ、その扉が閉まってから息をついた。

(どうしてこんなことに)

 番関連の話は聞いたことがあるが、まさか自分の婚約者がその相手に選ばれるとは。

(やっぱり修道院かしら)

 渦巻く感情はあるが、今の状況を冷静に考えると他に選択肢はなかった。

 普通婚約が解消された令嬢に新しい縁談は難しいが、ローズの場合は多少勝手が違うためローズ自身に瑕疵はつかない。

 だが、問題はローズに見合う家柄と年齢の相手がいない、ということだった。

 目ぼしい相手は殆どが結婚しているか婚約者がいるかの二択であり、今更ローズが入る余地はない。

(せめてもう少し早く分かればよかったのに)

 ローズが胸の内のもやもやした感情を持て余している内に侍女が扉を叩き、ファラント公爵の帰宅が告げられた。

「分かったわ」

 帰宅したファラント公爵はローズの話を聞くと渋面になった。

「どうも最近向こうの態度がでかいと思っていればそういうことか」

「お父様?」

 ファラント公爵の話によるとザックランド公爵家の土地はここ数年不作が続き、このファラント公爵が援助してきたのだという。

「当然持ち直したらその負債は返して貰うのだが、それにしてはあ奴の態度がでかすぎてな」

 更に渋い顔になったファラント公爵が言うにはこの婚約解消における違約金等は何も派生しないという。

「それはどういうことでしょう?」

 どう考えても相手側に過失があるとしか思えない内容である。

「普通の婚約解消なら当然向こうに過失があるが、番が絡むと話は違ってくる」

 そこでファラント公爵が話した内容にローズは唖然としてしまった。
 
 通常であれば婚約解消にはした側の責任と違約金を支払う義務が生じるが、番が絡むとその一切が派生しない。

「誓約書にその点は明記してあるが、まさかウチがこの事例に当てはまるとは思わなかったな」

 現在ファラント公爵家には兄のダニエルが居るので跡継ぎの心配はなかった。

 ローズの婚約はザックランド公爵家との絆を深める役目を持っていたのだが、番関連では仕方がない。

 概ねの見解はローズと同じだった。

 そして――

「済まないがこれ以上の良縁は望めそうもない」

 その言葉でローズの修道院行きが決まった。



 二週間後、ローズを乗せた馬車は修道院へ向けて走っていた。

 修道院とは言っても貴族の子女向けのものでそれ程規律は厳しくないと聞かされていたので、ローズもそれ程心配はしていなかった。

(だけど本当にそうなるなんて)

 これまでの努力は一体何だったのだろうか。
 
 長年の婚約はローズの時間と気力を奪っていた。

 公爵家に生まれた者としての教育に加え、将来ザックランド公爵家に嫁いだ時のために、と礼儀作法から茶会や夜会での振る舞い等、少しも気を抜けないものが多かった。

(そう言えばあのピケラという方、夜会ではどうされるのかしら?)

 幾ら番でもこの国で生きていくのなら最低限の礼儀作法は必要である。

(それとも相手が獣人だから、と免除されるのかしら?)

 そんなことを考えていた時だった。

 馬車が急停止した。

「お嬢様!!」

 同乗させていた侍女のアンヌが咄嗟に庇ってくれなかったら怪我を負っていたかもしれない。

「どうしたのです?」

 修道院へ着くまではまだ公爵令嬢なので、ローズは令嬢らしく馬車窓から問いかけた。

「申し訳ありません。お嬢様。街道に人がいまして」

「――人?」

 これまでの閉塞感のある生活から逃れられたという解放感からなのか、ローズは思わず馬車の扉を開けるよう指示を出していた。

 アンヌは渋ったがもう一度命じると自分が先に降り、ざっと確認してからなら、と許可が出た。

「どうぞ。お嬢様」

 そうしてやっと馬車から出たローズが目にしたのは、一人のうずくまった老婆だった。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

処理中です...