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第2話 運命の番
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だがそれよりローズが驚いたのはそれに対するエドモンドの態度だった。
「ピケラは短気なんだな。まあ、それもいいんだけど今は我慢してくれよ」
ざっくらばんに言うと慣れた仕草でピケラという少女の頭を撫でその肩に手を回したのだ。
「ローズ、この娘がピケラだ。ピケラ、彼女がローズだ」
「初めまして。ローズ・ファラントと申します」
「ピケラです。初めまして。ねえ、エドモンド」
エドモンドの方をピケラが振り返る。
「もうあのこと言っちゃったんでしょ」
「ああ」
敬語も何もない平民そのものの言葉遣いにローズが驚いている内に二人は話し出す。
「ならもういいんじゃない。あたしと早く結婚してよ」
「俺もそうしたいんだが、貴族にはいろいろ面倒くさいことが多くてね」
やたらと甘い空気を醸し出す二人を前に、自分は一体何を見せられているのだろうとローズが思った時エドモンドがこちらを向いた。
「分かっただろう。俺はピケラと結婚する」
「分かりました。それでは私はこれにて失礼致します」
どこまでも令嬢としての礼儀を失わないローズが退出する際にありえない会話が聞こえて来る。
「あれが貴族の令嬢っていうの? あたしには真似できないよ」
「ピケラはそのままでいいんだよ」
それはこれまでのローズの努力を全て否定するものだった。
邸に帰宅してローズは父であるファラント公爵の所在について聞くと、まだ王城にて執務中と聞かされたので自室へ向かうことにした。
「後はいいわ」
訪問着から着替えるとローズは人払いをし、ファラント公爵が帰宅したらすぐに伝えるよう侍女に言いつけ、その扉が閉まってから息をついた。
(どうしてこんなことに)
番関連の話は聞いたことがあるが、まさか自分の婚約者がその相手に選ばれるとは。
(やっぱり修道院かしら)
渦巻く感情はあるが、今の状況を冷静に考えると他に選択肢はなかった。
普通婚約が解消された令嬢に新しい縁談は難しいが、ローズの場合は多少勝手が違うためローズ自身に瑕疵はつかない。
だが、問題はローズに見合う家柄と年齢の相手がいない、ということだった。
目ぼしい相手は殆どが結婚しているか婚約者がいるかの二択であり、今更ローズが入る余地はない。
(せめてもう少し早く分かればよかったのに)
ローズが胸の内のもやもやした感情を持て余している内に侍女が扉を叩き、ファラント公爵の帰宅が告げられた。
「分かったわ」
帰宅したファラント公爵はローズの話を聞くと渋面になった。
「どうも最近向こうの態度がでかいと思っていればそういうことか」
「お父様?」
ファラント公爵の話によるとザックランド公爵家の土地はここ数年不作が続き、このファラント公爵が援助してきたのだという。
「当然持ち直したらその負債は返して貰うのだが、それにしてはあ奴の態度がでかすぎてな」
更に渋い顔になったファラント公爵が言うにはこの婚約解消における違約金等は何も派生しないという。
「それはどういうことでしょう?」
どう考えても相手側に過失があるとしか思えない内容である。
「普通の婚約解消なら当然向こうに過失があるが、番が絡むと話は違ってくる」
そこでファラント公爵が話した内容にローズは唖然としてしまった。
通常であれば婚約解消にはした側の責任と違約金を支払う義務が生じるが、番が絡むとその一切が派生しない。
「誓約書にその点は明記してあるが、まさかウチがこの事例に当てはまるとは思わなかったな」
現在ファラント公爵家には兄のダニエルが居るので跡継ぎの心配はなかった。
ローズの婚約はザックランド公爵家との絆を深める役目を持っていたのだが、番関連では仕方がない。
概ねの見解はローズと同じだった。
そして――
「済まないがこれ以上の良縁は望めそうもない」
その言葉でローズの修道院行きが決まった。
二週間後、ローズを乗せた馬車は修道院へ向けて走っていた。
修道院とは言っても貴族の子女向けのものでそれ程規律は厳しくないと聞かされていたので、ローズもそれ程心配はしていなかった。
(だけど本当にそうなるなんて)
これまでの努力は一体何だったのだろうか。
長年の婚約はローズの時間と気力を奪っていた。
公爵家に生まれた者としての教育に加え、将来ザックランド公爵家に嫁いだ時のために、と礼儀作法から茶会や夜会での振る舞い等、少しも気を抜けないものが多かった。
(そう言えばあのピケラという方、夜会ではどうされるのかしら?)
幾ら番でもこの国で生きていくのなら最低限の礼儀作法は必要である。
(それとも相手が獣人だから、と免除されるのかしら?)
そんなことを考えていた時だった。
馬車が急停止した。
「お嬢様!!」
同乗させていた侍女のアンヌが咄嗟に庇ってくれなかったら怪我を負っていたかもしれない。
「どうしたのです?」
修道院へ着くまではまだ公爵令嬢なので、ローズは令嬢らしく馬車窓から問いかけた。
「申し訳ありません。お嬢様。街道に人がいまして」
「――人?」
これまでの閉塞感のある生活から逃れられたという解放感からなのか、ローズは思わず馬車の扉を開けるよう指示を出していた。
アンヌは渋ったがもう一度命じると自分が先に降り、ざっと確認してからなら、と許可が出た。
「どうぞ。お嬢様」
そうしてやっと馬車から出たローズが目にしたのは、一人の蹲った老婆だった。
「ピケラは短気なんだな。まあ、それもいいんだけど今は我慢してくれよ」
ざっくらばんに言うと慣れた仕草でピケラという少女の頭を撫でその肩に手を回したのだ。
「ローズ、この娘がピケラだ。ピケラ、彼女がローズだ」
「初めまして。ローズ・ファラントと申します」
「ピケラです。初めまして。ねえ、エドモンド」
エドモンドの方をピケラが振り返る。
「もうあのこと言っちゃったんでしょ」
「ああ」
敬語も何もない平民そのものの言葉遣いにローズが驚いている内に二人は話し出す。
「ならもういいんじゃない。あたしと早く結婚してよ」
「俺もそうしたいんだが、貴族にはいろいろ面倒くさいことが多くてね」
やたらと甘い空気を醸し出す二人を前に、自分は一体何を見せられているのだろうとローズが思った時エドモンドがこちらを向いた。
「分かっただろう。俺はピケラと結婚する」
「分かりました。それでは私はこれにて失礼致します」
どこまでも令嬢としての礼儀を失わないローズが退出する際にありえない会話が聞こえて来る。
「あれが貴族の令嬢っていうの? あたしには真似できないよ」
「ピケラはそのままでいいんだよ」
それはこれまでのローズの努力を全て否定するものだった。
邸に帰宅してローズは父であるファラント公爵の所在について聞くと、まだ王城にて執務中と聞かされたので自室へ向かうことにした。
「後はいいわ」
訪問着から着替えるとローズは人払いをし、ファラント公爵が帰宅したらすぐに伝えるよう侍女に言いつけ、その扉が閉まってから息をついた。
(どうしてこんなことに)
番関連の話は聞いたことがあるが、まさか自分の婚約者がその相手に選ばれるとは。
(やっぱり修道院かしら)
渦巻く感情はあるが、今の状況を冷静に考えると他に選択肢はなかった。
普通婚約が解消された令嬢に新しい縁談は難しいが、ローズの場合は多少勝手が違うためローズ自身に瑕疵はつかない。
だが、問題はローズに見合う家柄と年齢の相手がいない、ということだった。
目ぼしい相手は殆どが結婚しているか婚約者がいるかの二択であり、今更ローズが入る余地はない。
(せめてもう少し早く分かればよかったのに)
ローズが胸の内のもやもやした感情を持て余している内に侍女が扉を叩き、ファラント公爵の帰宅が告げられた。
「分かったわ」
帰宅したファラント公爵はローズの話を聞くと渋面になった。
「どうも最近向こうの態度がでかいと思っていればそういうことか」
「お父様?」
ファラント公爵の話によるとザックランド公爵家の土地はここ数年不作が続き、このファラント公爵が援助してきたのだという。
「当然持ち直したらその負債は返して貰うのだが、それにしてはあ奴の態度がでかすぎてな」
更に渋い顔になったファラント公爵が言うにはこの婚約解消における違約金等は何も派生しないという。
「それはどういうことでしょう?」
どう考えても相手側に過失があるとしか思えない内容である。
「普通の婚約解消なら当然向こうに過失があるが、番が絡むと話は違ってくる」
そこでファラント公爵が話した内容にローズは唖然としてしまった。
通常であれば婚約解消にはした側の責任と違約金を支払う義務が生じるが、番が絡むとその一切が派生しない。
「誓約書にその点は明記してあるが、まさかウチがこの事例に当てはまるとは思わなかったな」
現在ファラント公爵家には兄のダニエルが居るので跡継ぎの心配はなかった。
ローズの婚約はザックランド公爵家との絆を深める役目を持っていたのだが、番関連では仕方がない。
概ねの見解はローズと同じだった。
そして――
「済まないがこれ以上の良縁は望めそうもない」
その言葉でローズの修道院行きが決まった。
二週間後、ローズを乗せた馬車は修道院へ向けて走っていた。
修道院とは言っても貴族の子女向けのものでそれ程規律は厳しくないと聞かされていたので、ローズもそれ程心配はしていなかった。
(だけど本当にそうなるなんて)
これまでの努力は一体何だったのだろうか。
長年の婚約はローズの時間と気力を奪っていた。
公爵家に生まれた者としての教育に加え、将来ザックランド公爵家に嫁いだ時のために、と礼儀作法から茶会や夜会での振る舞い等、少しも気を抜けないものが多かった。
(そう言えばあのピケラという方、夜会ではどうされるのかしら?)
幾ら番でもこの国で生きていくのなら最低限の礼儀作法は必要である。
(それとも相手が獣人だから、と免除されるのかしら?)
そんなことを考えていた時だった。
馬車が急停止した。
「お嬢様!!」
同乗させていた侍女のアンヌが咄嗟に庇ってくれなかったら怪我を負っていたかもしれない。
「どうしたのです?」
修道院へ着くまではまだ公爵令嬢なので、ローズは令嬢らしく馬車窓から問いかけた。
「申し訳ありません。お嬢様。街道に人がいまして」
「――人?」
これまでの閉塞感のある生活から逃れられたという解放感からなのか、ローズは思わず馬車の扉を開けるよう指示を出していた。
アンヌは渋ったがもう一度命じると自分が先に降り、ざっと確認してからなら、と許可が出た。
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