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第5話 王の訪問
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今目の前の男性は何と言った?
有り得ない事態にローズが固まっていると、焦れたように男性――ベリルが繰り返した。
「お前を俺の運命の番として迎えに来た」
まるで従わないのがおかしいとでも言いたげな口調に漸くローズの中に反発心が沸き上がった。
「運命の番? 何の御冗談ですか?」
ローズの態度から拒絶の意思を感じ取ったのだろう。ベリルが頭に巻いていた布を取った。
そこから現れたのは長い黒髪と狼と思われる耳だった。
「俺は21になる。この年になるまで番が見付からないのは珍しくてな。何故かと思っていたが相手が人ならばなかなか見つかるハズもなかったな」
鋭さの中にどこか餓えたものを感じさせる眼光にローズは怯みかけたが、そこは公爵令嬢としての矜持が許さなかった。
そして『運命の番』というものに対する反発もある。
(どうして今になって)
かつての婚約者を『運命の番』に取られた記憶は未だにローズの眠りを妨げることがあった。
「何かの間違いではありませんか? 私にはそういった感覚は分かりませんので」
目の前にいる男性は顔立ちは整って見えたが、ローズに言わせればそれだけだ。
(もし、運命の番ならもっと何か感じてもいいのではないかしら?)
ローズの疑念が伝わったのだろう。
ベリルがもどかしいとでも言いたげな表情になった。
「やはり運命の番は獣人のみに発現するようだな。人の身には分かり辛いだろう。だが、俺としては諦めるつもりなどない。ローズ、今お前に伴侶などいないだろう」
現在ローズには婚約者さえいなかったが、確信を持ったその言い方にローズの眉が寄せられる。
確かにそうだが一体どうして分かったのか。
それを聞こうとするより先に壁際に控えていたアンヌが窘めるように口を挟んだ。
「お嬢様に対して何たる言い草。お嬢様、この者が本当にそのような身分なのかも怪しいですわ。ジャックを呼んで参ります」
ジャックはファラント公爵家から連れて来た護衛で熟練した腕を持ち、信頼も出来る者だったが、ローズはそれを止めた。
「よしなさい。事を荒立てるのはよくないわ。それにまだこの方の身元が分からないでしょう」
もし本当に国王だとしたら厄介なことになる。
「ですが――」
本当に王だとしたら従僕どころか護衛の一人もいないのはどうだろうか。
ローズがそう思った時、廊下の奥が騒がしくなった。
来客中だというのに扉を叩く音がした。
これは只事ではないと判断したローズがアンヌに命じて扉を開けさせると、狼狽した様子の侍女がいた。
「申し上げます。シュガルト国の使者だという方が至急、領主代行様にお会いしたいとのことです」
「順番が逆になったな」
思わぬ内容に腰を浮かせそうになったローズや驚愕の表情を貼り付けたアンヌとは対照的にどこか面白そうにベリルが口を開いた。
「だが、予想より早かったか」
そんなベリルの言葉に被せ気味に新しい来訪者が叫んだ。
「国王陛下!! 何故このようなところにいらっしゃるのですか!?」
ベリルの顔を視界に入れるなり、思わずといった感じで入室して来たのは、落ち着いた焦げ茶の髪と瞳を持ち、その頭に犬耳を持つ獣人だった。
身なりは上質なものだと一目で分かるものであり、正直こちらの方が王族だと言われても違和感はないと思われた。
「何故と言われてもだな。ここに番が居たからとしか言いようがないな」
ベリルの言葉を聞いて来訪者が額に手を当てた。
「……パニッシュが気の毒です」
「一応書置きは残して来たぞ」
「尚更大変なことになっている予感しかしませんが」
これらのやり取りからどうやらこのベリルという男性が本当に国王らしい、とローズ達は気が付いた。
「どうしましょう。ローズ様。私、先ほどとんでもないことを申し上げてしまいました」
「貴女が悪い訳じゃないと思うけれど」
小声で震えるアンヌにローズがそう返していると、ベリルがこちらを振り返る。
「ああ。先触れもなしに悪かったな。俺達獣人にとって番に関することは最重要事項になるからな」
それだけで一国の王が単独行動をしてもいいのだろうか。
その疑問に答えてくれたのは先ほどの犬耳の獣人だった。
「だからといって国王陛下自らが単独で国境を越えていい、などという法律はわが国にはございませんが」
「固いことを言うな。リヨン。番のためだ」
「ですから、そのために王自らが危険を冒していい、とは誰も言ってませんが!!」
痺れを切らしたのだろう、リヨンが言い募るがベリルは全く意に介していないようだった。
「ああ。紹介がまだだったな。ローズ、これがリヨンだ。一応俺の側近をして貰っている。リヨン、ローズだ。俺のものだから手を出すなよ」
とても大ざっぱな紹介であり、特に後半の台詞には物申したい気分で一杯のローズだったが、仮にも相手は一国の王である。
機嫌を損ねるとまずいというのは誰でも分かることだった。
何とか穏便にこの場を切り抜けられないかとローズが思案を巡らせているとリヨンが口を開いた。
「この度はわが国の国王が大変失礼致しました。私はリヨン・サンドリウムと申します。順番が前後致しておりますが今回私がこちらへ赴きましたのは、こちらの領地にいらっしゃるどなたかが国王の番だと判明致したからですが、相手がすぐに分かったのは僥倖にございます。つきましては国王との縁組を何卒前向きに判断して頂きたい所存にございます」
と書簡を渡された。
有り得ない事態にローズが固まっていると、焦れたように男性――ベリルが繰り返した。
「お前を俺の運命の番として迎えに来た」
まるで従わないのがおかしいとでも言いたげな口調に漸くローズの中に反発心が沸き上がった。
「運命の番? 何の御冗談ですか?」
ローズの態度から拒絶の意思を感じ取ったのだろう。ベリルが頭に巻いていた布を取った。
そこから現れたのは長い黒髪と狼と思われる耳だった。
「俺は21になる。この年になるまで番が見付からないのは珍しくてな。何故かと思っていたが相手が人ならばなかなか見つかるハズもなかったな」
鋭さの中にどこか餓えたものを感じさせる眼光にローズは怯みかけたが、そこは公爵令嬢としての矜持が許さなかった。
そして『運命の番』というものに対する反発もある。
(どうして今になって)
かつての婚約者を『運命の番』に取られた記憶は未だにローズの眠りを妨げることがあった。
「何かの間違いではありませんか? 私にはそういった感覚は分かりませんので」
目の前にいる男性は顔立ちは整って見えたが、ローズに言わせればそれだけだ。
(もし、運命の番ならもっと何か感じてもいいのではないかしら?)
ローズの疑念が伝わったのだろう。
ベリルがもどかしいとでも言いたげな表情になった。
「やはり運命の番は獣人のみに発現するようだな。人の身には分かり辛いだろう。だが、俺としては諦めるつもりなどない。ローズ、今お前に伴侶などいないだろう」
現在ローズには婚約者さえいなかったが、確信を持ったその言い方にローズの眉が寄せられる。
確かにそうだが一体どうして分かったのか。
それを聞こうとするより先に壁際に控えていたアンヌが窘めるように口を挟んだ。
「お嬢様に対して何たる言い草。お嬢様、この者が本当にそのような身分なのかも怪しいですわ。ジャックを呼んで参ります」
ジャックはファラント公爵家から連れて来た護衛で熟練した腕を持ち、信頼も出来る者だったが、ローズはそれを止めた。
「よしなさい。事を荒立てるのはよくないわ。それにまだこの方の身元が分からないでしょう」
もし本当に国王だとしたら厄介なことになる。
「ですが――」
本当に王だとしたら従僕どころか護衛の一人もいないのはどうだろうか。
ローズがそう思った時、廊下の奥が騒がしくなった。
来客中だというのに扉を叩く音がした。
これは只事ではないと判断したローズがアンヌに命じて扉を開けさせると、狼狽した様子の侍女がいた。
「申し上げます。シュガルト国の使者だという方が至急、領主代行様にお会いしたいとのことです」
「順番が逆になったな」
思わぬ内容に腰を浮かせそうになったローズや驚愕の表情を貼り付けたアンヌとは対照的にどこか面白そうにベリルが口を開いた。
「だが、予想より早かったか」
そんなベリルの言葉に被せ気味に新しい来訪者が叫んだ。
「国王陛下!! 何故このようなところにいらっしゃるのですか!?」
ベリルの顔を視界に入れるなり、思わずといった感じで入室して来たのは、落ち着いた焦げ茶の髪と瞳を持ち、その頭に犬耳を持つ獣人だった。
身なりは上質なものだと一目で分かるものであり、正直こちらの方が王族だと言われても違和感はないと思われた。
「何故と言われてもだな。ここに番が居たからとしか言いようがないな」
ベリルの言葉を聞いて来訪者が額に手を当てた。
「……パニッシュが気の毒です」
「一応書置きは残して来たぞ」
「尚更大変なことになっている予感しかしませんが」
これらのやり取りからどうやらこのベリルという男性が本当に国王らしい、とローズ達は気が付いた。
「どうしましょう。ローズ様。私、先ほどとんでもないことを申し上げてしまいました」
「貴女が悪い訳じゃないと思うけれど」
小声で震えるアンヌにローズがそう返していると、ベリルがこちらを振り返る。
「ああ。先触れもなしに悪かったな。俺達獣人にとって番に関することは最重要事項になるからな」
それだけで一国の王が単独行動をしてもいいのだろうか。
その疑問に答えてくれたのは先ほどの犬耳の獣人だった。
「だからといって国王陛下自らが単独で国境を越えていい、などという法律はわが国にはございませんが」
「固いことを言うな。リヨン。番のためだ」
「ですから、そのために王自らが危険を冒していい、とは誰も言ってませんが!!」
痺れを切らしたのだろう、リヨンが言い募るがベリルは全く意に介していないようだった。
「ああ。紹介がまだだったな。ローズ、これがリヨンだ。一応俺の側近をして貰っている。リヨン、ローズだ。俺のものだから手を出すなよ」
とても大ざっぱな紹介であり、特に後半の台詞には物申したい気分で一杯のローズだったが、仮にも相手は一国の王である。
機嫌を損ねるとまずいというのは誰でも分かることだった。
何とか穏便にこの場を切り抜けられないかとローズが思案を巡らせているとリヨンが口を開いた。
「この度はわが国の国王が大変失礼致しました。私はリヨン・サンドリウムと申します。順番が前後致しておりますが今回私がこちらへ赴きましたのは、こちらの領地にいらっしゃるどなたかが国王の番だと判明致したからですが、相手がすぐに分かったのは僥倖にございます。つきましては国王との縁組を何卒前向きに判断して頂きたい所存にございます」
と書簡を渡された。
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