かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

文字の大きさ
8 / 65

第8話 手紙

しおりを挟む
 やっと自室に落ち着いたローズは侍女を下がらせ、ほっと息をついた。

(疲れた)

 あの後も書類の山が待ってくれるはずもなく、慌ただしく手配を終えてからローズは残っていた領主代行としての仕事をこなした。

(折角ここまで来たのに)

 一人になるとこれまでのことが一気に蘇り、ローズは義憤に駆られた。

 長年の婚約者には婚約解消され、一念発起して父親を説得して漸く自分の居場所を見つけた、と思っていた矢先の出来事である。

(どうして、いつもいつも――)

 ローズの喉から嗚咽が漏れ出した。

「……うっ、……っ」

 廊下にも人が居るはずなので出来るだけ抑えたがそれは大分長く続いた。

(私、何か悪いことしましたか。神様)




 翌朝、ローズは何でもない風を装って食堂へ向かった。

 腫れた瞼には一人で氷魔法を使い、上手く処理したはずだった。

「おはようございます」

「ああ。おはよう」

「おはようございます。番様」

 既に食堂にはベリル達が居たがどこか疲れて見えた。

(どうしたのかしら?)

「お待たせしてしまったようで申し訳ありません」

 ローズが謝罪すると、リヨンが慌てた様に答えた。

「いえ、とんでもない!! こちらこそ早く来すぎてしまったようで」

(気を遣われている?)
 
 気になったが今はそれを気にしている場合ではない。

 ローズはできるだけ当たり障りのない話題を模索しながら会話を続け、何とか朝食を終えると二階の執務室へ向かった。

 本来なら別棟に執務室を置くべきなのだが、そこまでの余裕がなかったのだ。

(まずは――あら?)

 机に向かおうとしたところで部屋の隅に置かれた小さな転移陣に手紙が置かれていることに気付いた。

 これはローズの身を心配した公爵が設置したもので、緊急もしくは火急の用件の際にしか使用しないことになっていた。

(……もしかして)

 ローズは部屋に控えていた侍女に手紙を取らせ、その封を開けた。

 内容はやはりというか、シュガルト国の国王陛下がそちらへ番を探しに向かうから上手く対応するよう書かれていた。

 流石にローズがその番だったということまではまだ情報が届いていないらしい。

(もし、知ったらどうされるのかしら?)

 これまでローズは父親のファラント公爵には距離を置かれていると思っていたが、今回の件でそれは間違いであると分かったため、今度は逆に心配になってくる。

(冷静に判断して下さるといいのだけれど)

 ローズはひとまず父親宛にその番はどうやら自分であること、そのためここから離れなければならず、このままローズの施策を引き継いでくれる人材を派遣して貰えないだろうか、としたためることにした。

(いけない。落ち着かないと)

 書いているうちに感情が高ぶってきてしまい、文が乱れた。

 書き損じを脇へどかし、真新しい紙を出す。
 
 貴重な紙を、とため息が出そうになったが気持ちを切り替えてローズは再び手紙を認めた。

(こんなものかしら)

 何とか事務的なものができた、と息をつく。

 本意ではない内容を書くのは非常に疲れる作業である。

(そのことは考えないようにしなくては)

 もう一度見直してこれでよし、と封をして侍女に転移陣へ運ばせる。

 ローズも転移陣の前へ移動した。

 この転移陣はファラント公爵家の者しか使用できないようになっているため、ローズの立ち合いが必要だった。

「――ファラント公爵家へ」

 ローズの言葉が終わると同時に転移陣から手紙が消えた。

(さてと、続きをしないといけないわね)

 軽く頭を振って仕事に没頭し始めたローズは知らなかった。

 手紙を受け取り、その内容を知ったファラント公爵が憤り、こちらへ向かおうとして従僕長と言い争いになっていたことなど。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

処理中です...