9 / 65
第9話 ベリルside ①
しおりを挟む
その日俺はいつも通りお忍びで街を散策していた。
リヨンには一国の王が何をされてるんですかっ、と言われてしまうが、これ位の息抜きは大目に見て欲しい。
獣人の国では複雑な書類仕事など殆どないのではないか、と言われることもあるがこれがなかなか煩雑で、殆ど同じ内容のはずなのに何故か種族ごとに違う書類があり、いちいち目を通して最終的な判断を下さなくてはならない、なんてどんな苦行だ。
(王様なんだし、もう少し仕事を渡してもいいか)
あまりにも多い書類仕事に俺は時おり文官達に仕事を投げて(要所要所は抑えてあるぞ)、散策を楽しむことにしている。
(どうせ護衛が付いてることだしな)
王様がふらり、と城を抜け出すなんてことは本来なら許されるはずもなく、こっそり護衛が付いて来ているのも知っている。
(せめて番が居ればな)
番――一生の内に出会えれば奇跡のような己の半身。
その相手のためならば何でもできる、と思わせてくれ番のためならば、とその能力が著しく向上する者が多数。
そのため番を得ることを推奨している獣人族は多い。
だが、弊害もある。
その番しか見えなくなることが多く、番が発情期に入ると番のために巣ごもりに付き添い、蜜月状態になるため、番休暇が必要となる。
見方を変えれば番に拘束される時間が多くなるということでもあるが、番によって得られるものが多いため容認されているようだ。
だが王族ともなれば少し事情は変わってくる。
王族に世継ぎは必須。
なのに何十年まっても番が現れない、では国の危機である。
そのため、待つのは成人を過ぎて五年間まで、と決められていてそれを過ぎても番が現れなかった場合は決められた相手を娶ることになっていた。
獣人族の成人は、個人差はあるが俺の狼族の場合は十五だ。
俺は今年で21になる。
(ここまでか)
俺の両親は運命の番同士だ。
まさに奇跡を体現したような二人は仲睦まじく、俺もあんな風になりたい、と思っていたのだが。
(流石にもう無理か)
既に期限の二十歳を過ぎていたのだが、あと一年、と無理を言って延ばして貰ったのだ。
(国王の俺に番がいない、というのもな)
跡継ぎのことは俺としては心配していなかった。
弟達が居るし、いざとなればそこから次の王を出せばいいだけのことだ。
だが番は――
『番が居る利点ですか?』
この側近には既に番が居た。
それも『運命の番』だ。
運命の番は互いに強い愛情で結ばれ、生涯離れることはないという。
そうですねぇ、と気を持たせるような間を置いて側近が答える。
『確かに通説のように自分の能力が何倍にもなるような気がしますよ。ですが一番強いのは充足感ですね』
『充足感?』
曖昧な言葉に思わず鸚鵡返ししてしまう。
『ええ。番の側に居られる、というだけでとんでもなく満ち足りた気分になるんですよ。何と言ったらいいんでしょうかね。物凄く難しい仕事を終えた満足感、いやそれよりももっと穏やかな気持ちですね。漸く自分が安らげる場所を見つけた、と言いますか』
『ふむ。つまり墓場か』
その満ち足りた表情が何となく癪に障ったのでわざと混ぜっ返してみたのだが、面白いように食い付いて来た。
『何をどう解釈したらそうなるんですか!?』
『自分が安らげるところ、と言ったじゃないか。寿命でも近いのか』
『あーっ、もうああ言えばこう言う!! 屁理屈ばかりだと将来現れる番様に嫌われますよ!!』
『その心配はない。あらゆる種族の慣習、作法、それぞれの長の弱みは押さえてある』
『は? 何だか後半とんでもないこと聞こえた気がしますが気のせいですよね?』
『何だ? もうボケたのか? だからそれぞれの長の弱……『止めて下さい!!』』
側近と歓談(?)しながらもその時の俺はまだ楽観的に考えていた。
それが根底から覆されると分かるのはもう少し先のことだった。
リヨンには一国の王が何をされてるんですかっ、と言われてしまうが、これ位の息抜きは大目に見て欲しい。
獣人の国では複雑な書類仕事など殆どないのではないか、と言われることもあるがこれがなかなか煩雑で、殆ど同じ内容のはずなのに何故か種族ごとに違う書類があり、いちいち目を通して最終的な判断を下さなくてはならない、なんてどんな苦行だ。
(王様なんだし、もう少し仕事を渡してもいいか)
あまりにも多い書類仕事に俺は時おり文官達に仕事を投げて(要所要所は抑えてあるぞ)、散策を楽しむことにしている。
(どうせ護衛が付いてることだしな)
王様がふらり、と城を抜け出すなんてことは本来なら許されるはずもなく、こっそり護衛が付いて来ているのも知っている。
(せめて番が居ればな)
番――一生の内に出会えれば奇跡のような己の半身。
その相手のためならば何でもできる、と思わせてくれ番のためならば、とその能力が著しく向上する者が多数。
そのため番を得ることを推奨している獣人族は多い。
だが、弊害もある。
その番しか見えなくなることが多く、番が発情期に入ると番のために巣ごもりに付き添い、蜜月状態になるため、番休暇が必要となる。
見方を変えれば番に拘束される時間が多くなるということでもあるが、番によって得られるものが多いため容認されているようだ。
だが王族ともなれば少し事情は変わってくる。
王族に世継ぎは必須。
なのに何十年まっても番が現れない、では国の危機である。
そのため、待つのは成人を過ぎて五年間まで、と決められていてそれを過ぎても番が現れなかった場合は決められた相手を娶ることになっていた。
獣人族の成人は、個人差はあるが俺の狼族の場合は十五だ。
俺は今年で21になる。
(ここまでか)
俺の両親は運命の番同士だ。
まさに奇跡を体現したような二人は仲睦まじく、俺もあんな風になりたい、と思っていたのだが。
(流石にもう無理か)
既に期限の二十歳を過ぎていたのだが、あと一年、と無理を言って延ばして貰ったのだ。
(国王の俺に番がいない、というのもな)
跡継ぎのことは俺としては心配していなかった。
弟達が居るし、いざとなればそこから次の王を出せばいいだけのことだ。
だが番は――
『番が居る利点ですか?』
この側近には既に番が居た。
それも『運命の番』だ。
運命の番は互いに強い愛情で結ばれ、生涯離れることはないという。
そうですねぇ、と気を持たせるような間を置いて側近が答える。
『確かに通説のように自分の能力が何倍にもなるような気がしますよ。ですが一番強いのは充足感ですね』
『充足感?』
曖昧な言葉に思わず鸚鵡返ししてしまう。
『ええ。番の側に居られる、というだけでとんでもなく満ち足りた気分になるんですよ。何と言ったらいいんでしょうかね。物凄く難しい仕事を終えた満足感、いやそれよりももっと穏やかな気持ちですね。漸く自分が安らげる場所を見つけた、と言いますか』
『ふむ。つまり墓場か』
その満ち足りた表情が何となく癪に障ったのでわざと混ぜっ返してみたのだが、面白いように食い付いて来た。
『何をどう解釈したらそうなるんですか!?』
『自分が安らげるところ、と言ったじゃないか。寿命でも近いのか』
『あーっ、もうああ言えばこう言う!! 屁理屈ばかりだと将来現れる番様に嫌われますよ!!』
『その心配はない。あらゆる種族の慣習、作法、それぞれの長の弱みは押さえてある』
『は? 何だか後半とんでもないこと聞こえた気がしますが気のせいですよね?』
『何だ? もうボケたのか? だからそれぞれの長の弱……『止めて下さい!!』』
側近と歓談(?)しながらもその時の俺はまだ楽観的に考えていた。
それが根底から覆されると分かるのはもう少し先のことだった。
216
あなたにおすすめの小説
間違えられた番様は、消えました。
夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。
【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~
Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。
だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと──
公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、
幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。
二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。
しかし、リリーベル十歳の誕生日。
嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、
リリーベルを取り巻く環境は一変する。
リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。
そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。
唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。
そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう……
そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は───
※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』
こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。
めちゃくちゃチートを発揮しています……
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる