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第14話 ベリルside ⑥
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「ローズ・ファラントです。こちらの領主代行を務めております」
書簡に目を通したローズが不可解そうな表情をしたのを認めて俺は補足してやることにした。
「その書簡は情報が古いな。まあ俺の番がお前だとということが分かったのはつい先ほどだしな」
「はい?」
「それはよく番様におそ……突進されませんでしたね」
ほっとしたようにリヨンが言葉を紡ぐ。
(今襲う、と言い掛けなかったか)
「ここへ近付くにつれ、番の気配が濃厚になってきたからな。念の為ギルが作った鎮静剤を飲んで来た」
幾ら何でもそこまで獣ではない。
ローズに気付かれないようにギルを睨んでやったが、全く応えてないないようだった。
「それは重畳ですね。一応こちらの王城へも知らせを送ってありますが、番様を担ぎ上げて帰還、などというぶっそうなことにならなくて本当に良かったと思います」
「失礼だな。俺だってそれ位の分別はつく」
番が見付かって俺は有頂天になっていたらしい。
次に放たれたローズの言葉を一瞬、理解し損ねる位には。
「申し訳ありませんが私は貴方の番になるとは一言も申し上げておりません」
「えーと、どうなってるんですか? 番様は陛下の魅力に少しも気付いていらっしゃらないようですけど」
「それは俺にも分からんが、やはり番の感覚は獣人にしかないようでな」
人族との『運命の番』はあまり数がない上、ここ数年は報告が上がってないため、未知数なところがある。
(まさか、人族とは思わなかったな)
こちらの国の慣習等は基本的なことは学んでいたが、人族の女性の口説き方までは勉強不足だった。
そんなことを思いながら会話を交わしているとこの領主代行は彼女が自分で望んでしていることが分かり、俺は素直に感心した。
シュガルト国では仕事をするのに男性も女性もない。
これは先々代の王が定めて以来、守られていることだったが人族は違うらしい。
冒険者でさえ、男女の率は半々だ。
だが、人族は違うようで仕事の大半は男性がこなし、女性は家に入る、という考え方が主流らしい。
それでは万が一の際にはどうするのか。
俺から見ると心もとない社会構造だったが、それが人族の在り方だと言われると敢えて反論はしないでおく。
そんな中でローズはしっかりとした意思を持っているように見えた。
(自分から領主代行を望むとは。しかし――)
自分から希望した、という割には憂いを帯びた声だった。
(何か、事情があるのか)
番の憂いを払うのも伴侶としての義務。
何とかして聞き出したいところだが、まだそこまでの信頼は得ていないようだ。
それでも俺は問い掛けてみた。
「我が番は何か悩みがあるようだな。どれ、話なら聞くぞ」
何とか穏やかな口調を試みていると脇からリヨンが驚いたように告げた。
「まだ鎮静剤が効いているようですね。良かった」
「随分な言い草だな。それよりもその憂い顔は気になる。何が不味いんだ? 俺が獣人だからか? それとも他に想う相手は……居なさそうだが? 聞かせてくれないか?」
重ねて問うとローズは少し驚いたような表情をした後、口を開いた。
――まだ領主代行の仕事に着手したばかりであること。
――女性の仕事を増やしたいと思っていること。
――それらはまだ案にしかなっていないものもあり、今この時点でここを離れたくないこと。
言われてみれば最もなことだった。
何故ここで領主代行をすることになったのかその事情については話して貰えなかったが、これらのことを話しているローズはとても強い意思を持った目をしていて、俺は惹きつけられた。
(できれば俺のこともそんな目で見て欲しい)
内心を押し隠して俺は称賛の言葉を送った。
「それは素晴らしいな」
「――は?」
「我が番はそこまで民のことを考えているのか。これは我が国に来ても期待できそうだな」
番にそこまでの能力を求めていた訳ではなかったが、為政者の視点を持てる者が王族に入る利点は大きい。
出来れば城の奥に隠しておきたかったが、どうやらそれは無理そうだった。
「それではどう致しましょうか。出来れば番様にはすぐにでもわが国へおいでいただきたかったのですが、そのような事情がおありになるとは」
思案するように告げたリヨンだったが、その点の心配はいらない。
「何心配いらん。俺がここに残ればいいだけだ」
今の俺にとって番が大事だ。
国のことも気にはなるが、現在の国際情勢は緊迫したものではない。
(多少留守にしても何とかなるだろう)
実際こうして番を目の前にすると理性が飛びそうになるが、俺は懸命に堪えていた。
(怖がらせてはいけない)
今俺が味わっている感覚は彼女には分からないものだ。
であれば、もう少し共に過ごして信頼関係を築いて行くしかない。
俺がそんなことを考えているとリヨンが慌てた様に口を挟んだ。
「幾ら番様にご都合があるとはいえ、一国の王が国を長期間に渡って空けるだなんて何考えてるんですかっ!?」
(何って番のことだけに決まっているだろう)
即答したかったが火に油になりそうだったので、そこは口に出さないことにした。
そんなふうに言い合っているうちにローズが覚悟を決めていた。
俺としては願ったりなのだが、
「いいのか? 折角いろいろと改革を進めていたのだろう?」
「ええ。ですが私は国王陛下の番ですから、一緒に行かなくてはならないと思います。それもできるだけ早い方がいいのでしょうけれど」
言葉だけ聞くと非常に有難いがその悲愴感は隠せていないようだ。
(何だが苛めている気分になるな)
番を悲しませるために俺が居るんじゃないのだが。
書簡に目を通したローズが不可解そうな表情をしたのを認めて俺は補足してやることにした。
「その書簡は情報が古いな。まあ俺の番がお前だとということが分かったのはつい先ほどだしな」
「はい?」
「それはよく番様におそ……突進されませんでしたね」
ほっとしたようにリヨンが言葉を紡ぐ。
(今襲う、と言い掛けなかったか)
「ここへ近付くにつれ、番の気配が濃厚になってきたからな。念の為ギルが作った鎮静剤を飲んで来た」
幾ら何でもそこまで獣ではない。
ローズに気付かれないようにギルを睨んでやったが、全く応えてないないようだった。
「それは重畳ですね。一応こちらの王城へも知らせを送ってありますが、番様を担ぎ上げて帰還、などというぶっそうなことにならなくて本当に良かったと思います」
「失礼だな。俺だってそれ位の分別はつく」
番が見付かって俺は有頂天になっていたらしい。
次に放たれたローズの言葉を一瞬、理解し損ねる位には。
「申し訳ありませんが私は貴方の番になるとは一言も申し上げておりません」
「えーと、どうなってるんですか? 番様は陛下の魅力に少しも気付いていらっしゃらないようですけど」
「それは俺にも分からんが、やはり番の感覚は獣人にしかないようでな」
人族との『運命の番』はあまり数がない上、ここ数年は報告が上がってないため、未知数なところがある。
(まさか、人族とは思わなかったな)
こちらの国の慣習等は基本的なことは学んでいたが、人族の女性の口説き方までは勉強不足だった。
そんなことを思いながら会話を交わしているとこの領主代行は彼女が自分で望んでしていることが分かり、俺は素直に感心した。
シュガルト国では仕事をするのに男性も女性もない。
これは先々代の王が定めて以来、守られていることだったが人族は違うらしい。
冒険者でさえ、男女の率は半々だ。
だが、人族は違うようで仕事の大半は男性がこなし、女性は家に入る、という考え方が主流らしい。
それでは万が一の際にはどうするのか。
俺から見ると心もとない社会構造だったが、それが人族の在り方だと言われると敢えて反論はしないでおく。
そんな中でローズはしっかりとした意思を持っているように見えた。
(自分から領主代行を望むとは。しかし――)
自分から希望した、という割には憂いを帯びた声だった。
(何か、事情があるのか)
番の憂いを払うのも伴侶としての義務。
何とかして聞き出したいところだが、まだそこまでの信頼は得ていないようだ。
それでも俺は問い掛けてみた。
「我が番は何か悩みがあるようだな。どれ、話なら聞くぞ」
何とか穏やかな口調を試みていると脇からリヨンが驚いたように告げた。
「まだ鎮静剤が効いているようですね。良かった」
「随分な言い草だな。それよりもその憂い顔は気になる。何が不味いんだ? 俺が獣人だからか? それとも他に想う相手は……居なさそうだが? 聞かせてくれないか?」
重ねて問うとローズは少し驚いたような表情をした後、口を開いた。
――まだ領主代行の仕事に着手したばかりであること。
――女性の仕事を増やしたいと思っていること。
――それらはまだ案にしかなっていないものもあり、今この時点でここを離れたくないこと。
言われてみれば最もなことだった。
何故ここで領主代行をすることになったのかその事情については話して貰えなかったが、これらのことを話しているローズはとても強い意思を持った目をしていて、俺は惹きつけられた。
(できれば俺のこともそんな目で見て欲しい)
内心を押し隠して俺は称賛の言葉を送った。
「それは素晴らしいな」
「――は?」
「我が番はそこまで民のことを考えているのか。これは我が国に来ても期待できそうだな」
番にそこまでの能力を求めていた訳ではなかったが、為政者の視点を持てる者が王族に入る利点は大きい。
出来れば城の奥に隠しておきたかったが、どうやらそれは無理そうだった。
「それではどう致しましょうか。出来れば番様にはすぐにでもわが国へおいでいただきたかったのですが、そのような事情がおありになるとは」
思案するように告げたリヨンだったが、その点の心配はいらない。
「何心配いらん。俺がここに残ればいいだけだ」
今の俺にとって番が大事だ。
国のことも気にはなるが、現在の国際情勢は緊迫したものではない。
(多少留守にしても何とかなるだろう)
実際こうして番を目の前にすると理性が飛びそうになるが、俺は懸命に堪えていた。
(怖がらせてはいけない)
今俺が味わっている感覚は彼女には分からないものだ。
であれば、もう少し共に過ごして信頼関係を築いて行くしかない。
俺がそんなことを考えているとリヨンが慌てた様に口を挟んだ。
「幾ら番様にご都合があるとはいえ、一国の王が国を長期間に渡って空けるだなんて何考えてるんですかっ!?」
(何って番のことだけに決まっているだろう)
即答したかったが火に油になりそうだったので、そこは口に出さないことにした。
そんなふうに言い合っているうちにローズが覚悟を決めていた。
俺としては願ったりなのだが、
「いいのか? 折角いろいろと改革を進めていたのだろう?」
「ええ。ですが私は国王陛下の番ですから、一緒に行かなくてはならないと思います。それもできるだけ早い方がいいのでしょうけれど」
言葉だけ聞くと非常に有難いがその悲愴感は隠せていないようだ。
(何だが苛めている気分になるな)
番を悲しませるために俺が居るんじゃないのだが。
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