かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

文字の大きさ
24 / 65

第24話 シュガルト国王の番 ②

しおりを挟む
「国王陛下ばんざい!! 王妃様ばんざい!!」

 先触れでも出されていたのか街道は人で溢れていた。

(……王妃様、ってまだ正式に婚姻もしていないのに)

 ここはまだ国境に近い街である。

 これから王都であるクルゼンまでは馬車で二週間は掛かると聞いていたローズは王都までずっとこのまま行くのかと少々不安になった。

 それにローズには引っ掛かることがあった。

(この衣装、寸法の狂いが殆どなかったように見えたのだけど)

 確かに直しは入ったが、それでも実家での支度に比べると格段に少ない気がする。

(まさか)

 気のせいだと気を取り直したローズが視線を外へ向た時だ。

「……えっ」

「どうした?」

「お嬢様?」

 二人に問われたローズは首を振った。

「いいえ。少し知った人を見たと思ったけれど。きっと見間違いだと思うわ」

 

 国王と未来の王妃を乗せた馬車はゆっくりとだが確実に王都への道を進んでいた。

 祝福を送る群衆からかなり離れたところにその人物はいた。

 頭からすっぽりとフードを被っているため、その容貌は分からないがそこから零れた髪は白く、小柄な体躯と骨ばった中にも柔らかさを感じさせるところから老婆と推測された。

「このまま行くといいんだけどね」

 呟きは群衆の歓声にかき消された。



 ツヴァイトの街は王都クルゼンより南西に位置しており、王都に最も近い街でもある。

 警備の厳重な王都よりも比較的門戸が広く取られているツヴァイトへ雪崩れ込む旅人は多く、少し路地裏へ足を踏み込めばゴロツキらが跋扈している有様だった。

「まだ表には出られないそうにないな」

 群衆が詰めかけた宿の二階の窓からそっと外を除いたベリルが呟いた。

「当たり前じゃないですか。国中が待っていた陛下の番様ですよ。皆押しかけて来るに違いないじゃないですか。道中の警護がどれだけだったか見ていらっしゃればお分かりになるでしょう」

 確かに、とここまで来るまでの道中を思い返したローズは少々遠い目になった。

 要所要所の街々ではもうこれが本番の成婚行列ではないかと思われる位の盛り上がりを見せ、警護していた騎士団が四苦八苦しているのを思い返していると、

「そう言えばパニッシュの奴はどうしたんだ?」

「どうしたんだじゃありませんよ。陛下が脱走した責を取られて謹慎処分にされたんですよ」

 ――最も今回の件で特別に処分が解かれて王城の警備に邁進してますけどね。

「そうか。それは災難だったな」

「他人事のようにおっしゃらないで下さいっ!!」
 
 リヨンが怒鳴った時、扉が叩かれた。

「入れ」

「失礼致します。この街より王城までの警護を仕りました騎士団副団長のコメット・サンダースにございます」

 明るい毛並みのたれ耳を持つ彼女は犬の獣人のようだった。

(触ってみたい)

 当人からはきりっとした空気が流れているのだが、時折りぴくぴく動く垂れさがった長い耳を見ていると気になってしまう。

「触ってみたいか?」

 ふいにベリルに囁かれ、ローズは反射的に首を振った。

「サンダース。ローズにお前の耳を触らせてやってくれ」

「……陛下。お戯れが過ぎますよ。獣人の耳を触るのは家族でも滅多にないことですのに」

 ジト目になったコメットがそう答えるとベリルは降参とでもいうように両手を上げた。

「軽い冗談だ」

 その様子を見ていたリヨンが口を挟んだ。

「あー。それは多分獣人のことをよく知らない番様にあわよくば自分の耳を触らせる布石――って、本気の殺気は止めて下さい!! 毛並みがぼさぼさになったらどうしてくれるんですか!!」

「あいつはそんなことでお前に愛想抜かしたりしないだろう。多分」

「その多分は余計ですよ!!」

 聞いていてローズはおや、と思った。

「リヨンさんは番がいるんですか?」

 番が居るというのはどのような感じなのだろうか。
 
 少しでも参考にできることはないだろうか、と思って聞いたのだがそれにはベリルが答えた。

「ああ。こいつの番は犬の獣人だが、かなり気が強くてな。そろそろこいつを帰さないと俺が怒られそうだ」

「今のお言葉、そのままアレンに話しますか?」

「勘弁してくれ」

 会話を聞いていたローズはその内容に噴き出しそうになるのを堪えていたが、その中のとある単語に引っ掛かりを覚えた。

(アレン、って男性の名前みたいだけれど)

「リヨンの番は男性だからな」

「まあ、運命の番となると同性同士や他種族間でも有り得るんですよね」

 何だか聞いてはいけなかったような気がした。

「ごめんなさい」

「いえ。番様が気にされることではありませんよ」

 少しばかり微妙な雰囲気になってしまった、とローズが思った時、それまで控えていたアンヌが口を開いた。

「お嬢様。そろそろ夕食の時間にございます」

「ええ。有難う」

「もうそんな時間か。やはり今日もここでか」

「当たり前でしょう。ご自分の影響力をお考えになって下さい」

「それでは私はこれで」

 コメットがそう言って退出したが、その際ローズの方を一瞥して行った。

 それは何か物言いたげなところを感じた。


(何かしら) 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

処理中です...