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第24話 シュガルト国王の番 ②
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「国王陛下ばんざい!! 王妃様ばんざい!!」
先触れでも出されていたのか街道は人で溢れていた。
(……王妃様、ってまだ正式に婚姻もしていないのに)
ここはまだ国境に近い街である。
これから王都であるクルゼンまでは馬車で二週間は掛かると聞いていたローズは王都までずっとこのまま行くのかと少々不安になった。
それにローズには引っ掛かることがあった。
(この衣装、寸法の狂いが殆どなかったように見えたのだけど)
確かに直しは入ったが、それでも実家での支度に比べると格段に少ない気がする。
(まさか)
気のせいだと気を取り直したローズが視線を外へ向た時だ。
「……えっ」
「どうした?」
「お嬢様?」
二人に問われたローズは首を振った。
「いいえ。少し知った人を見たと思ったけれど。きっと見間違いだと思うわ」
国王と未来の王妃を乗せた馬車はゆっくりとだが確実に王都への道を進んでいた。
祝福を送る群衆からかなり離れたところにその人物はいた。
頭からすっぽりとフードを被っているため、その容貌は分からないがそこから零れた髪は白く、小柄な体躯と骨ばった中にも柔らかさを感じさせるところから老婆と推測された。
「このまま行くといいんだけどね」
呟きは群衆の歓声にかき消された。
ツヴァイトの街は王都クルゼンより南西に位置しており、王都に最も近い街でもある。
警備の厳重な王都よりも比較的門戸が広く取られているツヴァイトへ雪崩れ込む旅人は多く、少し路地裏へ足を踏み込めばゴロツキらが跋扈している有様だった。
「まだ表には出られないそうにないな」
群衆が詰めかけた宿の二階の窓からそっと外を除いたベリルが呟いた。
「当たり前じゃないですか。国中が待っていた陛下の番様ですよ。皆押しかけて来るに違いないじゃないですか。道中の警護がどれだけだったか見ていらっしゃればお分かりになるでしょう」
確かに、とここまで来るまでの道中を思い返したローズは少々遠い目になった。
要所要所の街々ではもうこれが本番の成婚行列ではないかと思われる位の盛り上がりを見せ、警護していた騎士団が四苦八苦しているのを思い返していると、
「そう言えばパニッシュの奴はどうしたんだ?」
「どうしたんだじゃありませんよ。陛下が脱走した責を取られて謹慎処分にされたんですよ」
――最も今回の件で特別に処分が解かれて王城の警備に邁進してますけどね。
「そうか。それは災難だったな」
「他人事のようにおっしゃらないで下さいっ!!」
リヨンが怒鳴った時、扉が叩かれた。
「入れ」
「失礼致します。この街より王城までの警護を仕りました騎士団副団長のコメット・サンダースにございます」
明るい毛並みのたれ耳を持つ彼女は犬の獣人のようだった。
(触ってみたい)
当人からはきりっとした空気が流れているのだが、時折りぴくぴく動く垂れさがった長い耳を見ていると気になってしまう。
「触ってみたいか?」
ふいにベリルに囁かれ、ローズは反射的に首を振った。
「サンダース。ローズにお前の耳を触らせてやってくれ」
「……陛下。お戯れが過ぎますよ。獣人の耳を触るのは家族でも滅多にないことですのに」
ジト目になったコメットがそう答えるとベリルは降参とでもいうように両手を上げた。
「軽い冗談だ」
その様子を見ていたリヨンが口を挟んだ。
「あー。それは多分獣人のことをよく知らない番様にあわよくば自分の耳を触らせる布石――って、本気の殺気は止めて下さい!! 毛並みがぼさぼさになったらどうしてくれるんですか!!」
「あいつはそんなことでお前に愛想抜かしたりしないだろう。多分」
「その多分は余計ですよ!!」
聞いていてローズはおや、と思った。
「リヨンさんは番がいるんですか?」
番が居るというのはどのような感じなのだろうか。
少しでも参考にできることはないだろうか、と思って聞いたのだがそれにはベリルが答えた。
「ああ。こいつの番は犬の獣人だが、かなり気が強くてな。そろそろこいつを帰さないと俺が怒られそうだ」
「今のお言葉、そのままアレンに話しますか?」
「勘弁してくれ」
会話を聞いていたローズはその内容に噴き出しそうになるのを堪えていたが、その中のとある単語に引っ掛かりを覚えた。
(アレン、って男性の名前みたいだけれど)
「リヨンの番は男性だからな」
「まあ、運命の番となると同性同士や他種族間でも有り得るんですよね」
何だか聞いてはいけなかったような気がした。
「ごめんなさい」
「いえ。番様が気にされることではありませんよ」
少しばかり微妙な雰囲気になってしまった、とローズが思った時、それまで控えていたアンヌが口を開いた。
「お嬢様。そろそろ夕食の時間にございます」
「ええ。有難う」
「もうそんな時間か。やはり今日もここでか」
「当たり前でしょう。ご自分の影響力をお考えになって下さい」
「それでは私はこれで」
コメットがそう言って退出したが、その際ローズの方を一瞥して行った。
それは何か物言いたげなところを感じた。
(何かしら)
先触れでも出されていたのか街道は人で溢れていた。
(……王妃様、ってまだ正式に婚姻もしていないのに)
ここはまだ国境に近い街である。
これから王都であるクルゼンまでは馬車で二週間は掛かると聞いていたローズは王都までずっとこのまま行くのかと少々不安になった。
それにローズには引っ掛かることがあった。
(この衣装、寸法の狂いが殆どなかったように見えたのだけど)
確かに直しは入ったが、それでも実家での支度に比べると格段に少ない気がする。
(まさか)
気のせいだと気を取り直したローズが視線を外へ向た時だ。
「……えっ」
「どうした?」
「お嬢様?」
二人に問われたローズは首を振った。
「いいえ。少し知った人を見たと思ったけれど。きっと見間違いだと思うわ」
国王と未来の王妃を乗せた馬車はゆっくりとだが確実に王都への道を進んでいた。
祝福を送る群衆からかなり離れたところにその人物はいた。
頭からすっぽりとフードを被っているため、その容貌は分からないがそこから零れた髪は白く、小柄な体躯と骨ばった中にも柔らかさを感じさせるところから老婆と推測された。
「このまま行くといいんだけどね」
呟きは群衆の歓声にかき消された。
ツヴァイトの街は王都クルゼンより南西に位置しており、王都に最も近い街でもある。
警備の厳重な王都よりも比較的門戸が広く取られているツヴァイトへ雪崩れ込む旅人は多く、少し路地裏へ足を踏み込めばゴロツキらが跋扈している有様だった。
「まだ表には出られないそうにないな」
群衆が詰めかけた宿の二階の窓からそっと外を除いたベリルが呟いた。
「当たり前じゃないですか。国中が待っていた陛下の番様ですよ。皆押しかけて来るに違いないじゃないですか。道中の警護がどれだけだったか見ていらっしゃればお分かりになるでしょう」
確かに、とここまで来るまでの道中を思い返したローズは少々遠い目になった。
要所要所の街々ではもうこれが本番の成婚行列ではないかと思われる位の盛り上がりを見せ、警護していた騎士団が四苦八苦しているのを思い返していると、
「そう言えばパニッシュの奴はどうしたんだ?」
「どうしたんだじゃありませんよ。陛下が脱走した責を取られて謹慎処分にされたんですよ」
――最も今回の件で特別に処分が解かれて王城の警備に邁進してますけどね。
「そうか。それは災難だったな」
「他人事のようにおっしゃらないで下さいっ!!」
リヨンが怒鳴った時、扉が叩かれた。
「入れ」
「失礼致します。この街より王城までの警護を仕りました騎士団副団長のコメット・サンダースにございます」
明るい毛並みのたれ耳を持つ彼女は犬の獣人のようだった。
(触ってみたい)
当人からはきりっとした空気が流れているのだが、時折りぴくぴく動く垂れさがった長い耳を見ていると気になってしまう。
「触ってみたいか?」
ふいにベリルに囁かれ、ローズは反射的に首を振った。
「サンダース。ローズにお前の耳を触らせてやってくれ」
「……陛下。お戯れが過ぎますよ。獣人の耳を触るのは家族でも滅多にないことですのに」
ジト目になったコメットがそう答えるとベリルは降参とでもいうように両手を上げた。
「軽い冗談だ」
その様子を見ていたリヨンが口を挟んだ。
「あー。それは多分獣人のことをよく知らない番様にあわよくば自分の耳を触らせる布石――って、本気の殺気は止めて下さい!! 毛並みがぼさぼさになったらどうしてくれるんですか!!」
「あいつはそんなことでお前に愛想抜かしたりしないだろう。多分」
「その多分は余計ですよ!!」
聞いていてローズはおや、と思った。
「リヨンさんは番がいるんですか?」
番が居るというのはどのような感じなのだろうか。
少しでも参考にできることはないだろうか、と思って聞いたのだがそれにはベリルが答えた。
「ああ。こいつの番は犬の獣人だが、かなり気が強くてな。そろそろこいつを帰さないと俺が怒られそうだ」
「今のお言葉、そのままアレンに話しますか?」
「勘弁してくれ」
会話を聞いていたローズはその内容に噴き出しそうになるのを堪えていたが、その中のとある単語に引っ掛かりを覚えた。
(アレン、って男性の名前みたいだけれど)
「リヨンの番は男性だからな」
「まあ、運命の番となると同性同士や他種族間でも有り得るんですよね」
何だか聞いてはいけなかったような気がした。
「ごめんなさい」
「いえ。番様が気にされることではありませんよ」
少しばかり微妙な雰囲気になってしまった、とローズが思った時、それまで控えていたアンヌが口を開いた。
「お嬢様。そろそろ夕食の時間にございます」
「ええ。有難う」
「もうそんな時間か。やはり今日もここでか」
「当たり前でしょう。ご自分の影響力をお考えになって下さい」
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(何かしら)
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