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第23話 シュガルト国王の番 ①
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ザックランド公爵家を出てからローズの口数は更に少なくなった。
あまりにも急な展開に頭が付いて行かないのが実情といったところだろうか。
(エドモンドに運命の番に出会ったから婚約解消、と言われたけれど、でもそれは女盗賊の嘘で。その後女盗賊に金庫から金目の物を取られて……)
そこでローズは疑問を感じた。
それならばどうしてこちらへまた婚約話を持ってこなかったのだろうか。
確かに一度解消した相手に再び申し込むのは非礼である。
だが、あの父子の様子だとそれ位してもおかしくはなかった。
「どうした?」
ベリルの問い掛けに知っているはずもないのだが、ローズはついこう漏らしていた。
「いえ。ザックランド公爵家では盗難に遭った後、どうしてまたこちらへ婚約話を持ち込まなかったのか、と」
馬車の中でベリルが眉を上げた。
「いや、持ち込んだらしいぞ。がっつりとな」
「は、え?」
思いも掛けない返答にローズの言葉が乱れた。
「失礼しました。そのような話は私は知りませんが」
「そうだろうな。ファラント公爵が即座に断ったらしいからな」
(お父様――)
ローズの沈黙を何と取ったのか、ベリルが柔らかな視線を向けた。
「少しは気が晴れたか」
その言い方だとまるでローズのために今回のザックランド公爵家訪問があったように聞こえる。
「そこで言っちゃうんですか? まあ番様は頭脳明晰な方ですからすぐに気付かれたと思いますけれど、もう少し言い方と言うものがですね」
同乗していたリヨンが言い募ると、ベリルがどこか面白くなさげに告げた。
「少し位いいだろう。こっちだって少しは頑張ったんだ」
その不貞腐れた様子が親に構って貰えなくて拗ねている子供を連想させ、ローズは思わず笑みを浮かべた。
「有難うございます」
瞬間、ベリルとの距離が一気になくなり、次にローズの体が横に引っ張られた。
「失礼します。お嬢様。羽虫が」
同乗していたアンヌの言葉に、ベリルが顔を顰めた。
「俺は害虫か」
するとその様子を見ていたリヨンが懐から小瓶を取り出した。
「まだ羽虫の方がいいかもしれませんね。どうぞ予備の鎮静剤です」
ベリルが小瓶を渋々受け取る。
「俺は番を愛でることも出来ないのか」
文句を言いながらも小瓶を空にした。
そんなこともあったが、道中は比較的穏やかに進んだ。
マトアニア王国の国境を越える際は国境を守る兵士達に祝福され、更に丁度国境の詰め所にいた親子連れにまでおめでとうと言われた。
自分の内との温度差にローズが戸惑いを隠せないでいると、ベリルが確信めいたように告げた。
「国内に入ったらこんなものでは済まないと思うぞ」
「何せ長い間番を探していた王がついに番を見付けたんだからな。一応知らせは出してあるが」
さて、どうなっているか。
その言葉の意味はシュガルト国側の詰め所に来た時に分かった。
「お待ちしておりました。国王陛下。番様」
ビシッ、と正装した一団がローズ達を出迎えてくれたのである。
「ご苦労。手はず通りだな」
「此の度は運命の番を見付けられたとのこと、誠におめでとうございます。こちらへどうぞ」
案内されたのは一軒の小ぶりな邸だった。
貴族の邸にしては手狭に見えたが内装はそれなりにきちんとしていた。
「ここは国境を越えた賓客を一時的にお迎えします館にございます。国王陛下、並びに番様はこちらにてお召替えのほどよろしくお願い致します」
あっという間にローズは一室へ押し込まれ、身支度が始められたのだがここで困惑することが起きた。
「申し訳ございません。番様に尻尾がないことを失念しておりました」
見せられた下着類には皆尻尾用の穴が開いていた。
獣人ならともかく、ローズが身に付ける訳にはいかない。
「すぐに整えます。少々お待ち下さい」
即座に裁縫箱が用意され、事なきを得たが彼女達の困惑した空気はローズにも伝わった。
手際がいいと思っていたがまあこういったこともあるだろう。
「誠に申し訳ございません」
「いいのよ」
その時ローズはそう思っただけだった。
「出来ました。いかがでしょう」
正装の意匠は国によって多少異なるがローズの目から見てもそれは王族――王妃がするに相応しい衣装だった。
光沢のある生地をふんだんに使い、ひだの根元や布地の切り替えのところに小さな宝石類が縫い留められているが、それは見る者が見れば分かる程度に抑えられており、上品な雰囲気を少しも損なっていなかった。
寸法が合わないところはすぐに直しが入ったがそれは本当に少なく、よくこれだけの短期間にこれほどの準備が出来たものだとローズは感心した。
「ええ。とても素敵よ」
水色のドレスはローズが一番好きなものであり、その色合いも好みのど真ん中だった。
(凄い偶然ね)
支度を終えたローズが続き部屋に移るとそこには既に支度を終えたベリルが待っていた。
「ほお。よく似合ってるな」
ベリルも正装していたが、その服装はローズには騎士団の正装を連想させた。
その装飾の数と胸元に付けられた勲章の数々がベリルが本来は実戦の中に生きる者であることを示唆しているようだった。
普通これだけ飾り付けられたなら身に纏っている当人へ視線など行きそうにないのだが、そこはしっかりした存在感を放っていた。
そしてベリルの姿を目にしたローズが瞬時に俯いてしまった理由が一つ。
ベリルの衣装の色合いはローズが今身に纏っているものと全く同じだったのだ。
「どうした? やはりこれは似合ってなかったか?」
ローズがぶんぶんと首を振っていると控えていたリヨンの呆れたような声がした。
「もしかしてわざとおっしゃってます? 折角正装された陛下に見とれてくれているのですから、もう少し言葉を選んで下さいよ」
「ほお」
ベリルとの距離が一気になくなった。
「お嬢様。埃が」
あと少しというところで手巾がひらりと振られた。
その一瞬でローズはベリルの手の届かないところまで後退るという奇跡の所業をやってのけた。
「……侍女殿は俺に何か含むところでもあるのか?」
「何のことでございましょう。私には婚姻の儀までお嬢様を清いままにしておくという義務がございますので」
――ちなみにこれは旦那様のご意向でもございます。
その攻防戦はアンヌの勝利に終わった。
あまりにも急な展開に頭が付いて行かないのが実情といったところだろうか。
(エドモンドに運命の番に出会ったから婚約解消、と言われたけれど、でもそれは女盗賊の嘘で。その後女盗賊に金庫から金目の物を取られて……)
そこでローズは疑問を感じた。
それならばどうしてこちらへまた婚約話を持ってこなかったのだろうか。
確かに一度解消した相手に再び申し込むのは非礼である。
だが、あの父子の様子だとそれ位してもおかしくはなかった。
「どうした?」
ベリルの問い掛けに知っているはずもないのだが、ローズはついこう漏らしていた。
「いえ。ザックランド公爵家では盗難に遭った後、どうしてまたこちらへ婚約話を持ち込まなかったのか、と」
馬車の中でベリルが眉を上げた。
「いや、持ち込んだらしいぞ。がっつりとな」
「は、え?」
思いも掛けない返答にローズの言葉が乱れた。
「失礼しました。そのような話は私は知りませんが」
「そうだろうな。ファラント公爵が即座に断ったらしいからな」
(お父様――)
ローズの沈黙を何と取ったのか、ベリルが柔らかな視線を向けた。
「少しは気が晴れたか」
その言い方だとまるでローズのために今回のザックランド公爵家訪問があったように聞こえる。
「そこで言っちゃうんですか? まあ番様は頭脳明晰な方ですからすぐに気付かれたと思いますけれど、もう少し言い方と言うものがですね」
同乗していたリヨンが言い募ると、ベリルがどこか面白くなさげに告げた。
「少し位いいだろう。こっちだって少しは頑張ったんだ」
その不貞腐れた様子が親に構って貰えなくて拗ねている子供を連想させ、ローズは思わず笑みを浮かべた。
「有難うございます」
瞬間、ベリルとの距離が一気になくなり、次にローズの体が横に引っ張られた。
「失礼します。お嬢様。羽虫が」
同乗していたアンヌの言葉に、ベリルが顔を顰めた。
「俺は害虫か」
するとその様子を見ていたリヨンが懐から小瓶を取り出した。
「まだ羽虫の方がいいかもしれませんね。どうぞ予備の鎮静剤です」
ベリルが小瓶を渋々受け取る。
「俺は番を愛でることも出来ないのか」
文句を言いながらも小瓶を空にした。
そんなこともあったが、道中は比較的穏やかに進んだ。
マトアニア王国の国境を越える際は国境を守る兵士達に祝福され、更に丁度国境の詰め所にいた親子連れにまでおめでとうと言われた。
自分の内との温度差にローズが戸惑いを隠せないでいると、ベリルが確信めいたように告げた。
「国内に入ったらこんなものでは済まないと思うぞ」
「何せ長い間番を探していた王がついに番を見付けたんだからな。一応知らせは出してあるが」
さて、どうなっているか。
その言葉の意味はシュガルト国側の詰め所に来た時に分かった。
「お待ちしておりました。国王陛下。番様」
ビシッ、と正装した一団がローズ達を出迎えてくれたのである。
「ご苦労。手はず通りだな」
「此の度は運命の番を見付けられたとのこと、誠におめでとうございます。こちらへどうぞ」
案内されたのは一軒の小ぶりな邸だった。
貴族の邸にしては手狭に見えたが内装はそれなりにきちんとしていた。
「ここは国境を越えた賓客を一時的にお迎えします館にございます。国王陛下、並びに番様はこちらにてお召替えのほどよろしくお願い致します」
あっという間にローズは一室へ押し込まれ、身支度が始められたのだがここで困惑することが起きた。
「申し訳ございません。番様に尻尾がないことを失念しておりました」
見せられた下着類には皆尻尾用の穴が開いていた。
獣人ならともかく、ローズが身に付ける訳にはいかない。
「すぐに整えます。少々お待ち下さい」
即座に裁縫箱が用意され、事なきを得たが彼女達の困惑した空気はローズにも伝わった。
手際がいいと思っていたがまあこういったこともあるだろう。
「誠に申し訳ございません」
「いいのよ」
その時ローズはそう思っただけだった。
「出来ました。いかがでしょう」
正装の意匠は国によって多少異なるがローズの目から見てもそれは王族――王妃がするに相応しい衣装だった。
光沢のある生地をふんだんに使い、ひだの根元や布地の切り替えのところに小さな宝石類が縫い留められているが、それは見る者が見れば分かる程度に抑えられており、上品な雰囲気を少しも損なっていなかった。
寸法が合わないところはすぐに直しが入ったがそれは本当に少なく、よくこれだけの短期間にこれほどの準備が出来たものだとローズは感心した。
「ええ。とても素敵よ」
水色のドレスはローズが一番好きなものであり、その色合いも好みのど真ん中だった。
(凄い偶然ね)
支度を終えたローズが続き部屋に移るとそこには既に支度を終えたベリルが待っていた。
「ほお。よく似合ってるな」
ベリルも正装していたが、その服装はローズには騎士団の正装を連想させた。
その装飾の数と胸元に付けられた勲章の数々がベリルが本来は実戦の中に生きる者であることを示唆しているようだった。
普通これだけ飾り付けられたなら身に纏っている当人へ視線など行きそうにないのだが、そこはしっかりした存在感を放っていた。
そしてベリルの姿を目にしたローズが瞬時に俯いてしまった理由が一つ。
ベリルの衣装の色合いはローズが今身に纏っているものと全く同じだったのだ。
「どうした? やはりこれは似合ってなかったか?」
ローズがぶんぶんと首を振っていると控えていたリヨンの呆れたような声がした。
「もしかしてわざとおっしゃってます? 折角正装された陛下に見とれてくれているのですから、もう少し言葉を選んで下さいよ」
「ほお」
ベリルとの距離が一気になくなった。
「お嬢様。埃が」
あと少しというところで手巾がひらりと振られた。
その一瞬でローズはベリルの手の届かないところまで後退るという奇跡の所業をやってのけた。
「……侍女殿は俺に何か含むところでもあるのか?」
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