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第29話 ???side ――世界から弾かれた者達の対話――
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シュガルト国の王が意識を無くしたその夜。
残務を片付けていたギルバートは見知った気配を感じて顔を上げた。
自分以外誰もいないはずの室内に忽然と現れた老婆に顔色一つ変えないギルバートに老婆が声を掛ける。
「……驚かないんだね?」
「何となくそんな気はしていましたから」
ギルバートはそう言うと部屋の隅に設えられた来客用の机と椅子の方へ顔を向けた。
「あちらへどうぞ」
老婆が椅子に腰を下ろすとギルバートもその対面の椅子に腰を掛けた。
同時に防音魔法が辺りに広がった。
術が掛かったのを確認してから、ギルバートは口を開いた。
「困ったことになりましたね」
「まあね。だけどあんなに強い薬だったかい?」
老婆の問い掛けにギルバートは首を振った。
「とんでもない。薬草が主ですよ。お相手が運命の番なんですからそんなに強く抑えるものを出す訳がない」
――それをあのバカが。
「いっそのこと既成事実でも作っちまえばいいのにね」
「おや。貴女がそれを言うんですか?」
どこか面白そうな表情になったギルバートに老婆が、
「引っ掻き回すんじゃないよ。それよりこのままでいいのかい?」
「よくない、と言いたいところですがね。重大事案が起きてないので出来ればあまり掻き回したくないんですが」
ギルバートの言を聞いた老婆がああ、と頷いた。
「以前はこの辺りでカントローサ国が出しゃばってきたんだったね」
「国境線を荒らされた、でしたっけ? あれはあそこの第3王子を世継ぎにしたがったグラン侯爵一派の仕業でしたね。……先に潰しておいたので今回は大丈夫かと」
「おやま」
感心したように老婆が呟くと、
「それだけですか? これでも結構頑張ったんですけど」
「ああ。頑張ったね。恐らくあんたの番のお嬢さんも無事なんだろ?」
「……俺に番は居ませんよ」
「そうだったかい? 偉くキリっとした騎士のお嬢さんだったと思ったけれど。気のせいかね」
「……」
ギルバートの睨むような視線を受けた老婆が軽く肩を竦めた。
「別に隠すようなものじゃないだろう。あのお嬢さん――まさか、まだ番ってないのかい? あんたの運命なんだろう?」
「俺に運命の番なんて居ません」
「頑固だね。まあ、以前の生ではあんたを庇って亡くなったんだっけ? 睨むのはお止め。こっちだって似たようなもんなんだから」
「そうでしたね。それでこれだけのことをしている貴女の方がどれだけなんですか、って感じですが」
揶揄するようなギルバートの口調に老婆が自分を卑下するように口を開いた。
「番を失ってもこれだけ生にしがみつく醜い姿に怖気を感じるかい?」
「いえ。俺には到底真似できません。禁術を駆使して番と一番幸福な時間を送れる世界を探す貴女の姿には感服しますよ」
それに、とギルバートが続けた。
「あの髪飾りですが。この時点で陛下に渡す意味があったんですか」
「ああ。前の時はあの人がくれたんだけどね。――それじゃあ意味がないからね」
どこか憧憬の篭った視線は遠くを見ているようだった。
「今回は上手く行くといいですね」
「全くだね。……そう言えば運命の番は向こうも探せるんだろ? 一体どうやって誤魔化したんだい?」
純粋な問い掛けに聞こえたのでギルバートは正直に答えてしまった。
「ああ。それはこのフードにフェロモンを乱す術が付与されてるんです」
これを被っている限り相手に悟られることはない。
「へえ。大したもんだね。でもそれじゃああんたの方は――」
言い掛けた老婆が何かを悟ったように沈黙した。
ギルバートは黙って懐から小瓶を出した。
「俺はちゃんと用量を守ってますから」
その声音には拒絶の意思と深い後悔が含まれているようだった。
「この後はあまり大きなことはなかったように思うんだけどね」
「ですが油断は禁物です。先代国王夫妻のことも――」
「そうだったね。あまり大きく事柄を変えるとどこに皺寄せがくるか分かったもんじゃない」
彼らの密談は暫く続いた。
その後、彼らの予想を覆すことが起きるとは人生経験豊富な彼らにも想定できないことだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※ 最近忘れやすいのでお目汚し失礼しますm(__)m
【作者メモ】
『――正直に答えてしまった』←伏線(後で絶っ対回収すること)
無事回収できましたらここは消しますので(;^ω^)
残務を片付けていたギルバートは見知った気配を感じて顔を上げた。
自分以外誰もいないはずの室内に忽然と現れた老婆に顔色一つ変えないギルバートに老婆が声を掛ける。
「……驚かないんだね?」
「何となくそんな気はしていましたから」
ギルバートはそう言うと部屋の隅に設えられた来客用の机と椅子の方へ顔を向けた。
「あちらへどうぞ」
老婆が椅子に腰を下ろすとギルバートもその対面の椅子に腰を掛けた。
同時に防音魔法が辺りに広がった。
術が掛かったのを確認してから、ギルバートは口を開いた。
「困ったことになりましたね」
「まあね。だけどあんなに強い薬だったかい?」
老婆の問い掛けにギルバートは首を振った。
「とんでもない。薬草が主ですよ。お相手が運命の番なんですからそんなに強く抑えるものを出す訳がない」
――それをあのバカが。
「いっそのこと既成事実でも作っちまえばいいのにね」
「おや。貴女がそれを言うんですか?」
どこか面白そうな表情になったギルバートに老婆が、
「引っ掻き回すんじゃないよ。それよりこのままでいいのかい?」
「よくない、と言いたいところですがね。重大事案が起きてないので出来ればあまり掻き回したくないんですが」
ギルバートの言を聞いた老婆がああ、と頷いた。
「以前はこの辺りでカントローサ国が出しゃばってきたんだったね」
「国境線を荒らされた、でしたっけ? あれはあそこの第3王子を世継ぎにしたがったグラン侯爵一派の仕業でしたね。……先に潰しておいたので今回は大丈夫かと」
「おやま」
感心したように老婆が呟くと、
「それだけですか? これでも結構頑張ったんですけど」
「ああ。頑張ったね。恐らくあんたの番のお嬢さんも無事なんだろ?」
「……俺に番は居ませんよ」
「そうだったかい? 偉くキリっとした騎士のお嬢さんだったと思ったけれど。気のせいかね」
「……」
ギルバートの睨むような視線を受けた老婆が軽く肩を竦めた。
「別に隠すようなものじゃないだろう。あのお嬢さん――まさか、まだ番ってないのかい? あんたの運命なんだろう?」
「俺に運命の番なんて居ません」
「頑固だね。まあ、以前の生ではあんたを庇って亡くなったんだっけ? 睨むのはお止め。こっちだって似たようなもんなんだから」
「そうでしたね。それでこれだけのことをしている貴女の方がどれだけなんですか、って感じですが」
揶揄するようなギルバートの口調に老婆が自分を卑下するように口を開いた。
「番を失ってもこれだけ生にしがみつく醜い姿に怖気を感じるかい?」
「いえ。俺には到底真似できません。禁術を駆使して番と一番幸福な時間を送れる世界を探す貴女の姿には感服しますよ」
それに、とギルバートが続けた。
「あの髪飾りですが。この時点で陛下に渡す意味があったんですか」
「ああ。前の時はあの人がくれたんだけどね。――それじゃあ意味がないからね」
どこか憧憬の篭った視線は遠くを見ているようだった。
「今回は上手く行くといいですね」
「全くだね。……そう言えば運命の番は向こうも探せるんだろ? 一体どうやって誤魔化したんだい?」
純粋な問い掛けに聞こえたのでギルバートは正直に答えてしまった。
「ああ。それはこのフードにフェロモンを乱す術が付与されてるんです」
これを被っている限り相手に悟られることはない。
「へえ。大したもんだね。でもそれじゃああんたの方は――」
言い掛けた老婆が何かを悟ったように沈黙した。
ギルバートは黙って懐から小瓶を出した。
「俺はちゃんと用量を守ってますから」
その声音には拒絶の意思と深い後悔が含まれているようだった。
「この後はあまり大きなことはなかったように思うんだけどね」
「ですが油断は禁物です。先代国王夫妻のことも――」
「そうだったね。あまり大きく事柄を変えるとどこに皺寄せがくるか分かったもんじゃない」
彼らの密談は暫く続いた。
その後、彼らの予想を覆すことが起きるとは人生経験豊富な彼らにも想定できないことだった。
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※ 最近忘れやすいのでお目汚し失礼しますm(__)m
【作者メモ】
『――正直に答えてしまった』←伏線(後で絶っ対回収すること)
無事回収できましたらここは消しますので(;^ω^)
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