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第32話 決闘 ③
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「――始め!!」
通常の決闘では互いに背中合わせになり、そこから決められた歩数歩いて振り向く、という流れだが、当事者達の服装を考慮に入れた結果、見届け役が合図をすることになった。
互いの得物はローズが片手剣、サファイア嬢が戦棍だった。
公爵令嬢が持つにしては戦棍は珍しい。
「行きますわよ!!」
得物からして接近戦が得意なのかという予想は当たり、物凄い勢いでサファイア嬢がローズ目掛けて突っ込んだ。
「――アイスウォール」
氷の壁がサファイア嬢の前に出現した。
「甘いですわ!!」
それなりの厚みがあった氷壁は振り上げられた戦棍の一撃で粉砕される。
「――アイスアロー」
粉砕された氷が瞬時に氷の矢となりサファイア嬢へ襲い掛かる。
「くっ、」
殆どは戦棍で防がれたが、何本かはサファイア嬢の体を掠めた。
ほんの少しサファイア嬢の体が揺れる。
そこへ今度はローズが片手剣を手に突っ込んだ。
「はぁっ!!」
片手剣の猛攻に戦棍で防ぐサファイア嬢。
その流れはローズが握っているように見られた。
互いに一歩も譲らぬ攻防を見ながらコメットは感嘆したように呟いた。
「凄いな。王妃様は一体どこであんな戦術を学んだのだ?」
魔術は詠唱中が一番隙が出来る。
そのため、後衛に居ても護衛は欠かせないのだが、今のローズの詠唱は早く的確であり、しかも魔術の発動とほぼ同時に次の動きをしていた。
獣人の間では女性でも戦闘能力を鍛えるのが普通であり、コメットのような女性の騎士もいるが、人族でこのような話はあまり聞いたことがなかった。
だからまさか答えが得られるとは思っていなかったのだが、その問いに答える者がいた。
「おじょ……王妃様は努力家にございますから」
王妃が自国から連れて来た侍女アンヌがそれに答えを返した。
「アンヌ、だったか。だが努力だけでここまで習得できるものなのか?」
「元々王妃様は魔力が高かったのです。そのお陰か基本の授業だけで充分な力をお付けになりました。その頃には他の授業もあったので専門的なことはしておりませんが、身を守るには充分だと思われます」
そんな二人の視界ではローズが至近距離で放ったアイスランスがサファイア嬢を襲っていた。
胴を狙ったそれはサファイア嬢がぎりぎり避けたが、その先には片手剣の切っ先が待っていた。
「――なん、」
慌てて戦棍で防ごうとするが、ローズの片手剣を握っていない方の拳がサファイア嬢の鳩尾に迫っていた。
「く、」
咄嗟に下がろうとするが、既に遅くそのまま拳がサファイア嬢の鳩尾へ吸い込まれる。
「……身体、強化」
自身の判断の甘さを悟ったかのような台詞を残してサファイア嬢が頽れた。
「――勝負あり!! 王妃様の勝ちです!!」
その声にどよめきが起こる。
それは勝負が呆気なく決まったこともあるが、獣人であるサファイア嬢が破れた原因がローズの拳だったということも一因であった。
「それでは問います。私が彼の番であることに意見がある者は居ますか?」
軽く身繕いしたローズが場内を見渡すが、発言する者はいない。
それはそうだろう。
あのような戦いを見せられて(しかもドレス姿でだ)異論のある者などいるはずがなかった。
(ベルガモット公爵家の行く末は決まったな)
コメットは場を治めるべく、ローズの前へ進み出た。
「王妃様。勿論異論などございません。陛下の『運命の番』は王妃様ただお一人にございます」
片膝を付いたコメットに場の皆も習い、忠誠を誓う。
「この剣と忠誠は陛下と王妃様のためにあります」
コメットの言を皆が復唱する。
場は完全にローズの主導だった。
そして担架に乗せられていくサファイア嬢を見送り、緩んでいたのかもしれない。
後の処理をコメットに指示して身を翻そうとしたローズに一人の令嬢が近付いた。
「王妃様。恐れながらお耳にお入れしたい事が――」
それはサファイア嬢の取り巻きの令嬢達の中でも一番大人しそうな令嬢だった。
だからか誰もが気を抜いていた。
振り返ったローズの身に銀色の刃が迫る。
「な、」
「誰がお前など!!」
豹変したとしか思えない程形相の変わった令嬢が小刀を振りかぶった。
「……危なかったな」
小刀を止めたのはコメットでも演練場内にいた騎士でもなかった。
ローズの体を抱きかかえるようにして庇ったがっしりとした体躯の持ち主は本来、ここに居るべき人物ではなくて。
初めて会った時と同じく強い意思を込めた青い瞳がローズを気遣うように見ていた。
「無事か?」
「……どうして」
あまりにも現実味がないように思え、ローズは真面に言葉を紡げなかった。
ローズの前で――彼女の番が微笑んだ。
「番のことは分かるからな」
その間にも件の令嬢が取り押さえられ、連行されて行くがローズにはそれどころではなかった。
そして他の皆もベリルの様子が気になっているようだが、番であるローズを慮ってか誰も近付いては来なかった。
じっと見つめるだけのローズにベリルの苦笑が漏れる。
「そんなに見られると穴が開きそうだな」
そう言われてローズははっとしたように身を離そうとした。
「すみません」
「いや、苛めるつもりはないんだが」
何を言えばいいのか、と惑うローズの視界に銀色のそれが入り込んだ。
ベリルの懐から覗く銀色のそれは見覚えがあった。
「それは――」
ローズが何をみているのか気付いたベリルが懐から銀色の髪飾りを取り出す。
「ああ。これはお前のだろう」
さらりと告げられ、そのままローズの髪に付けられた髪飾りにローズの手が触れた。
その瞬間――
『どうして私があんな獣人なんかと結婚しなくちゃいけないの!?』
通常の決闘では互いに背中合わせになり、そこから決められた歩数歩いて振り向く、という流れだが、当事者達の服装を考慮に入れた結果、見届け役が合図をすることになった。
互いの得物はローズが片手剣、サファイア嬢が戦棍だった。
公爵令嬢が持つにしては戦棍は珍しい。
「行きますわよ!!」
得物からして接近戦が得意なのかという予想は当たり、物凄い勢いでサファイア嬢がローズ目掛けて突っ込んだ。
「――アイスウォール」
氷の壁がサファイア嬢の前に出現した。
「甘いですわ!!」
それなりの厚みがあった氷壁は振り上げられた戦棍の一撃で粉砕される。
「――アイスアロー」
粉砕された氷が瞬時に氷の矢となりサファイア嬢へ襲い掛かる。
「くっ、」
殆どは戦棍で防がれたが、何本かはサファイア嬢の体を掠めた。
ほんの少しサファイア嬢の体が揺れる。
そこへ今度はローズが片手剣を手に突っ込んだ。
「はぁっ!!」
片手剣の猛攻に戦棍で防ぐサファイア嬢。
その流れはローズが握っているように見られた。
互いに一歩も譲らぬ攻防を見ながらコメットは感嘆したように呟いた。
「凄いな。王妃様は一体どこであんな戦術を学んだのだ?」
魔術は詠唱中が一番隙が出来る。
そのため、後衛に居ても護衛は欠かせないのだが、今のローズの詠唱は早く的確であり、しかも魔術の発動とほぼ同時に次の動きをしていた。
獣人の間では女性でも戦闘能力を鍛えるのが普通であり、コメットのような女性の騎士もいるが、人族でこのような話はあまり聞いたことがなかった。
だからまさか答えが得られるとは思っていなかったのだが、その問いに答える者がいた。
「おじょ……王妃様は努力家にございますから」
王妃が自国から連れて来た侍女アンヌがそれに答えを返した。
「アンヌ、だったか。だが努力だけでここまで習得できるものなのか?」
「元々王妃様は魔力が高かったのです。そのお陰か基本の授業だけで充分な力をお付けになりました。その頃には他の授業もあったので専門的なことはしておりませんが、身を守るには充分だと思われます」
そんな二人の視界ではローズが至近距離で放ったアイスランスがサファイア嬢を襲っていた。
胴を狙ったそれはサファイア嬢がぎりぎり避けたが、その先には片手剣の切っ先が待っていた。
「――なん、」
慌てて戦棍で防ごうとするが、ローズの片手剣を握っていない方の拳がサファイア嬢の鳩尾に迫っていた。
「く、」
咄嗟に下がろうとするが、既に遅くそのまま拳がサファイア嬢の鳩尾へ吸い込まれる。
「……身体、強化」
自身の判断の甘さを悟ったかのような台詞を残してサファイア嬢が頽れた。
「――勝負あり!! 王妃様の勝ちです!!」
その声にどよめきが起こる。
それは勝負が呆気なく決まったこともあるが、獣人であるサファイア嬢が破れた原因がローズの拳だったということも一因であった。
「それでは問います。私が彼の番であることに意見がある者は居ますか?」
軽く身繕いしたローズが場内を見渡すが、発言する者はいない。
それはそうだろう。
あのような戦いを見せられて(しかもドレス姿でだ)異論のある者などいるはずがなかった。
(ベルガモット公爵家の行く末は決まったな)
コメットは場を治めるべく、ローズの前へ進み出た。
「王妃様。勿論異論などございません。陛下の『運命の番』は王妃様ただお一人にございます」
片膝を付いたコメットに場の皆も習い、忠誠を誓う。
「この剣と忠誠は陛下と王妃様のためにあります」
コメットの言を皆が復唱する。
場は完全にローズの主導だった。
そして担架に乗せられていくサファイア嬢を見送り、緩んでいたのかもしれない。
後の処理をコメットに指示して身を翻そうとしたローズに一人の令嬢が近付いた。
「王妃様。恐れながらお耳にお入れしたい事が――」
それはサファイア嬢の取り巻きの令嬢達の中でも一番大人しそうな令嬢だった。
だからか誰もが気を抜いていた。
振り返ったローズの身に銀色の刃が迫る。
「な、」
「誰がお前など!!」
豹変したとしか思えない程形相の変わった令嬢が小刀を振りかぶった。
「……危なかったな」
小刀を止めたのはコメットでも演練場内にいた騎士でもなかった。
ローズの体を抱きかかえるようにして庇ったがっしりとした体躯の持ち主は本来、ここに居るべき人物ではなくて。
初めて会った時と同じく強い意思を込めた青い瞳がローズを気遣うように見ていた。
「無事か?」
「……どうして」
あまりにも現実味がないように思え、ローズは真面に言葉を紡げなかった。
ローズの前で――彼女の番が微笑んだ。
「番のことは分かるからな」
その間にも件の令嬢が取り押さえられ、連行されて行くがローズにはそれどころではなかった。
そして他の皆もベリルの様子が気になっているようだが、番であるローズを慮ってか誰も近付いては来なかった。
じっと見つめるだけのローズにベリルの苦笑が漏れる。
「そんなに見られると穴が開きそうだな」
そう言われてローズははっとしたように身を離そうとした。
「すみません」
「いや、苛めるつもりはないんだが」
何を言えばいいのか、と惑うローズの視界に銀色のそれが入り込んだ。
ベリルの懐から覗く銀色のそれは見覚えがあった。
「それは――」
ローズが何をみているのか気付いたベリルが懐から銀色の髪飾りを取り出す。
「ああ。これはお前のだろう」
さらりと告げられ、そのままローズの髪に付けられた髪飾りにローズの手が触れた。
その瞬間――
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