かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

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第31話 決闘 ②

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 その日の演練場は第一騎士団が使用していた。

 団長のパニッシュ・クラインは打ち合わせで不在のため、副団長であるコメット・サンダースが応じることになったのだが。

「一部を空けろ? 何故だ?」

 普通はそうだろう。

 演練場は事前に許可を得て使用しているのだ。

 それを突然来た侍女に空けろと言われても意味が分からなかった。

「これから王妃様がいらっしゃいますので」

「王妃様がご見学に?」

 今の状況でそれは考えられなかったが、もしそれで塞いだ気分も楽になるのなら、と思っていると全く違う言葉が返ってきた。

「いえ。王妃様がお使いになられますので」

「……は?」

 それはどういうことだ、と聞こうとした時ローズが姿を現した。

 演練場にいた皆がローズの姿を認めて片膝を付いた。

「これは王妃様にはご機嫌麗しく」

 コメットが代表して挨拶するとローズが鷹揚に頷く。

 それを見たコメットはおや、と思った。

 この方はこんな方だったろうか。

 まだ顔を会わせて日は浅いがもう少し気安い方だった気がしたが。

「本日ここへ来たのは、こちらのベルガモット公爵令嬢と決闘するためです」

 さらりと告げたられた言葉に演練場内に騒めきが広がった。

(何を言ってるんだこの方は!?)

 そんなことを許容できるはずもないので止めようと口を開きかけた時、ローズが先制するように口を開いた。

「今回ベルガモット公爵令嬢は私が看過できない発言をしました。それに対し私は手袋を投げました。ここまでで何か聞きたいことはありますか?」

 ベルガモット公爵令嬢は元々陛下が『運命の番』を見付けられなかった場合の番候補だった。

 恐らく王妃様に対し、酷く侮辱する発言でもしたのだろう。

「発言よろしいでしょうか?」

 騎士になって三年目のベリンダが手を挙げた。

「許可します」

「決闘というお話でしたが、お二方共その恰好でされるのでしょうか?」

 その言葉に改めて王妃様とベルガモット公爵令嬢を見ると、お二方共室内着とはいえ、ドレス姿だった。
 
 これは流石に着替えるだろうと思ったその思考は裏切られることになる。

「ええ。このまま行います」
 
 戸惑うような騒めぎが広がる中、ローズが口を開いた。

「暗殺者は動き辛いから気安い服に着替えるまで待って、と言って待ってくれますか? それと同じことです。私はこのままでいいですが。ベルガモット公爵令嬢は違いますか?」

 着替えるなら待つ、と言われてはいそうですか、と答える相手がいるだろうか。

「勿論私もこのままで結構ですわ」

 ベルガモット公爵令嬢の答えを聞いて演練場の一角が急遽会場となった。

「どちらかが負けを認めるか、意識を失ったら決着、ということでよろしいですね?」

 ローズの言にコメットが口を挟んだ。

「王妃様。ちなみにこの決闘は一体何を賭けているのでしょうか?」

 決闘とは互いの名誉を掛けたものだ。

 負ければ当事者の命は勿論、下手をすれば一族郎党まで道連れとなる。

 まさかベルガモット公爵家がお家断絶とはいかないだろうが、と危惧しての発言だった。

「私は陛下の番には相応しくないそうよ。ですので、私が勝てばその発言は取り消して貰って、後は――そうね。ベルガモット公爵家にはそれなりの償いをしてもらいましょうか」

 取り敢えず今の当主には身を引いて貰いましょう。

 あっさりとなされた発言に演練場が騒めく。

 今年で御年六十一に成るネイサン・ベルガモット公爵は国内で勢力を二分する派閥の長であり、その発言力も強く、あれほど陛下が王妃様のことを主張したにも関わらず、運命の番に関して公に認める発言はされていない。

 表面上は当たり障りのない発言をしているようだが、相変わらず自分の娘を陛下の番候補として見ているらしい。

(この方は)

 それらの背景を御存じでの発言なのか。

「それから、もし私が負けた場合は――」

 ローズが話を続けた。

「運命の番は生涯離れられないとのことだけれど、王妃としての責務は別よね。もし私が負けた時は王妃の地位から身を引いてもいいわ」

(……は?)

「これでいいかしら?」

(王妃としての責務は別? この方は王妃を降りて側妃になるおつもりか!?)
 
 そんな事例は聞いたこともなかった。

 その発言は撤回して貰わなければ、と高速で策を巡らせていると、それは良いことを聞いたとばかりににっこりとベルガモット公爵令嬢が微笑んだ。

「畏まりまして。皆様、今の王妃様の決意、お聞きしましたわね?」

 先ほどまでの不愛想な顔はどこに行ったとでもいうほど上機嫌なのが見て取れた。



 最早この時点でどちらを応援するかなど、火を見るより明らかだった。



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