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第36話 過剰共鳴 (前)
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「これは、また」
サントワール医師の困惑したような声が室内に流れた。
基本的に、というのもおかしな表現だが――『運命の番』となれば互いの体調不良などは察することが可能で、先のリヨンの例のように番の方が先に不調を察知して休ませる、ということはよくあることらしい。
だが、ここまでの例は珍しい。
(――嘘でしょう)
「ローズ。信じられないのは分かるが、俺もここまで番としての力が強いとは思わなかった」
今、ローズの思考はベリルに全て伝わっているらしい。
そしてベリルの思考も――
――番が可愛すぎて死ねる。
――誰の目にも止まらぬよう閉じ込めておきたい。
――どうやら相思相愛のようだからこのまま実行しても……。
――しかしその世界の俺は一体何をしていたんだ。簡単に凶刃に倒れるとは。油断しすぎだろう。
――番と結ばれない世界が多いとは本当に情けないな。
――カントローサ国には何かとちょっかいを掛けられていたが、こんな横やりがあったとは。
最後の方は殺気が漏れかけていたが、サントワール医師らの嘆願で抑えられたようだった。
「ですがまさかそのような事情があったとは」
必然的に全ての『事情』を知るはめになったサントワール医師がそう言うと、今度はアンヌが悔し気に告げる。
「お嬢……王妃様、そのような事情がおありになったなんて。できれば私もお供いたしとうございました」
その言葉を聞いたベリルが少々不満そうに突っ込んだ。
「最近思うのだが、このところ毎回のように『お嬢様』と言いかけて直すのは何かこちらに含むところでもあるのか?」
まさか、とアンヌが唇の端を上げた。
「私は一介の侍女にございます。この国の国王陛下に向けてそのような不遜なことなどするはずもございません」
ですが、と思い出したかのように続けた。
「毎回のように、ではございませんわ。『毎回』でございます」
「やはり含むものがあるじゃないか!!」
「そのようなつもりはございませんが、何故か口がこのように動いてしまうのでございます」
――お嬢様とは長年の付き合いにございますからね。
誠に申し訳ございません、と謝罪の言葉が入ったがとてもそうとは思えなかった。
(ええと、アンヌもしかして性格変わった?)
以前の生では番を除いてここまで誰かに執着されることはなかったように思うが。
何とはなしに遠い目になっているとベリルに見付かったようだった。
「ローズも呆れているようだが」
「「え?」」
思わずアンヌと二人、ベリルの方を見てしまった。
「私は別に」
「申し訳ありません!! お、――王妃様!!」
その様子を見てベリルが軽く肩を竦めた。
「まあ、いい。それよりも――」
とそこで思い直したようにローズを見る。
「腹が減っただろう。今持ってこさせる」
その言葉にアンヌが侍女に指示を出した。
「え、別に――」
お腹に優しいものを、とのアンヌの言葉が聞こえ、断ろうとしたローズのお腹が小さく鳴った。
「……」
「いや恥じることはないだろう。というか上掛けを被らないでくれ!! 恥じらっているのも可愛いがやはり顔を見たい!!」
(無理無理無理!!)
という思考も読まれているとは分かっていたがあまりの恥ずかしさに顔を会わせたくなかった。
(ううっ、自分が情けない)
「情けなくはないぞ。それは自然の摂理であって――」
(あああっ、読まれてるんだったー!!)
今度こそ恥ずか死ぬと思っているとアンヌの声がした。
「陛下はあちらへどうぞ」
「何故だ。折角想いが通じ合ったというのに」
「はい。通じ合いましたね。ほぼ無理矢理ですが」
「語弊がある言い方は止めろ!!」
「とにかく王妃様が落ち着くまであちらへどうぞ。ですよね? サントワール医師?」
「そうですな」
「サントワール医師!? その長い物には巻かれろ的な生き方はどうかと思うんですが!?」
「私ほど生きているとある程度の処世術は身に付きますからの」
「ちょっ、」
再び番が続きの間へ追いやられるとその間を待っていたかのように食事が運ばれてきた。
「さあ、王妃様お食事にしましょう」
運ばれてきたパン粥を前にローズはほっと息をついた。
恐らく現在も読まれているのだろうが、少しだけ距離感があると安心できた。
(それでもまだ少し落ち着かないわね)
心が読まれているということは、普段は絶対に口にしない奥底の不安や自分としては邪な想いまで通じている、ということで。
「――王妃様?」
「何でもないわ。いただくわ」
とろとろに煮込まれたパン粥にはローズの好みの分量の蜂蜜が加えられていてほどよい甘味があった。
その優しい味に癒されながら一皿分を完食する。
「お代わりはどうされますか?」
「止めておくわ」
もう少し位なら入りそうだが、丸二日も食べていないのならいきなり詰め込まない方がいいだろう。
「薬草茶にございます」
すっきりした風味のお茶のカップを傾けながらローズは今の状況を整理した。
サファイア嬢との決闘からとんでもない展開が待っていたが、平行世界の自分はここまで予測していたのだろうか。
それに、と思い当たる。
番が命を落とすのは舞踏会の最中だった気がする。
正式に夫婦となった後のお披露目の意味も込めた舞踏会。
(色んな可能性を探っていたようだけれど、なかなか彼の運命は変えられなくて――)
今度こそ、と思いかけてローズは無理矢理思考を閉じた。
(これ以上考えてはダメ)
今のローズの感情としてはどんな手段を講じてでも番を救いたいと思ってしまうが、今その考えは当の本人に筒抜けの状態なのだ。
(これって何とかならないのかしら)
ため息が漏れそうになった時扉が叩かれた。
「誰です?」
アンヌの誰何に答えたのは、平行世界の相棒だった。
「ギルバート・ブラウンです。国王陛下のお召により罷り越しました」
サントワール医師の困惑したような声が室内に流れた。
基本的に、というのもおかしな表現だが――『運命の番』となれば互いの体調不良などは察することが可能で、先のリヨンの例のように番の方が先に不調を察知して休ませる、ということはよくあることらしい。
だが、ここまでの例は珍しい。
(――嘘でしょう)
「ローズ。信じられないのは分かるが、俺もここまで番としての力が強いとは思わなかった」
今、ローズの思考はベリルに全て伝わっているらしい。
そしてベリルの思考も――
――番が可愛すぎて死ねる。
――誰の目にも止まらぬよう閉じ込めておきたい。
――どうやら相思相愛のようだからこのまま実行しても……。
――しかしその世界の俺は一体何をしていたんだ。簡単に凶刃に倒れるとは。油断しすぎだろう。
――番と結ばれない世界が多いとは本当に情けないな。
――カントローサ国には何かとちょっかいを掛けられていたが、こんな横やりがあったとは。
最後の方は殺気が漏れかけていたが、サントワール医師らの嘆願で抑えられたようだった。
「ですがまさかそのような事情があったとは」
必然的に全ての『事情』を知るはめになったサントワール医師がそう言うと、今度はアンヌが悔し気に告げる。
「お嬢……王妃様、そのような事情がおありになったなんて。できれば私もお供いたしとうございました」
その言葉を聞いたベリルが少々不満そうに突っ込んだ。
「最近思うのだが、このところ毎回のように『お嬢様』と言いかけて直すのは何かこちらに含むところでもあるのか?」
まさか、とアンヌが唇の端を上げた。
「私は一介の侍女にございます。この国の国王陛下に向けてそのような不遜なことなどするはずもございません」
ですが、と思い出したかのように続けた。
「毎回のように、ではございませんわ。『毎回』でございます」
「やはり含むものがあるじゃないか!!」
「そのようなつもりはございませんが、何故か口がこのように動いてしまうのでございます」
――お嬢様とは長年の付き合いにございますからね。
誠に申し訳ございません、と謝罪の言葉が入ったがとてもそうとは思えなかった。
(ええと、アンヌもしかして性格変わった?)
以前の生では番を除いてここまで誰かに執着されることはなかったように思うが。
何とはなしに遠い目になっているとベリルに見付かったようだった。
「ローズも呆れているようだが」
「「え?」」
思わずアンヌと二人、ベリルの方を見てしまった。
「私は別に」
「申し訳ありません!! お、――王妃様!!」
その様子を見てベリルが軽く肩を竦めた。
「まあ、いい。それよりも――」
とそこで思い直したようにローズを見る。
「腹が減っただろう。今持ってこさせる」
その言葉にアンヌが侍女に指示を出した。
「え、別に――」
お腹に優しいものを、とのアンヌの言葉が聞こえ、断ろうとしたローズのお腹が小さく鳴った。
「……」
「いや恥じることはないだろう。というか上掛けを被らないでくれ!! 恥じらっているのも可愛いがやはり顔を見たい!!」
(無理無理無理!!)
という思考も読まれているとは分かっていたがあまりの恥ずかしさに顔を会わせたくなかった。
(ううっ、自分が情けない)
「情けなくはないぞ。それは自然の摂理であって――」
(あああっ、読まれてるんだったー!!)
今度こそ恥ずか死ぬと思っているとアンヌの声がした。
「陛下はあちらへどうぞ」
「何故だ。折角想いが通じ合ったというのに」
「はい。通じ合いましたね。ほぼ無理矢理ですが」
「語弊がある言い方は止めろ!!」
「とにかく王妃様が落ち着くまであちらへどうぞ。ですよね? サントワール医師?」
「そうですな」
「サントワール医師!? その長い物には巻かれろ的な生き方はどうかと思うんですが!?」
「私ほど生きているとある程度の処世術は身に付きますからの」
「ちょっ、」
再び番が続きの間へ追いやられるとその間を待っていたかのように食事が運ばれてきた。
「さあ、王妃様お食事にしましょう」
運ばれてきたパン粥を前にローズはほっと息をついた。
恐らく現在も読まれているのだろうが、少しだけ距離感があると安心できた。
(それでもまだ少し落ち着かないわね)
心が読まれているということは、普段は絶対に口にしない奥底の不安や自分としては邪な想いまで通じている、ということで。
「――王妃様?」
「何でもないわ。いただくわ」
とろとろに煮込まれたパン粥にはローズの好みの分量の蜂蜜が加えられていてほどよい甘味があった。
その優しい味に癒されながら一皿分を完食する。
「お代わりはどうされますか?」
「止めておくわ」
もう少し位なら入りそうだが、丸二日も食べていないのならいきなり詰め込まない方がいいだろう。
「薬草茶にございます」
すっきりした風味のお茶のカップを傾けながらローズは今の状況を整理した。
サファイア嬢との決闘からとんでもない展開が待っていたが、平行世界の自分はここまで予測していたのだろうか。
それに、と思い当たる。
番が命を落とすのは舞踏会の最中だった気がする。
正式に夫婦となった後のお披露目の意味も込めた舞踏会。
(色んな可能性を探っていたようだけれど、なかなか彼の運命は変えられなくて――)
今度こそ、と思いかけてローズは無理矢理思考を閉じた。
(これ以上考えてはダメ)
今のローズの感情としてはどんな手段を講じてでも番を救いたいと思ってしまうが、今その考えは当の本人に筒抜けの状態なのだ。
(これって何とかならないのかしら)
ため息が漏れそうになった時扉が叩かれた。
「誰です?」
アンヌの誰何に答えたのは、平行世界の相棒だった。
「ギルバート・ブラウンです。国王陛下のお召により罷り越しました」
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