かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

文字の大きさ
37 / 65

第37話 過剰共鳴 (後)

しおりを挟む
「過剰共鳴ですね」

 事情を説明すると筆頭魔術師は淡々と告げた。

「滅多に起きることではないんですけれど。運命の番の中でも相性が良すぎると起きる現象で、相手が思っていることが全て伝わるという、お互い想い合っていても人によっては受け入れがたい現象でもありますね」

「初っ端から失礼な言い草だな。俺はそんなことはないぞ」

「陛下がそうでもお相手は違うかもしれないでしょうが」

 注目を浴びたローズは隠しても仕方がないと頷いた。

 やはり思いが全て伝わってしまうのはキツかった。

 いい感情だけならまだ良いが、自分の内に留めておきたい邪な想いまで伝わるのは勘弁して欲しい。

(一番大切な人にそんな醜いところなんて見せたくないのに)
 
 すると何故かベリルが蹲った。

「……ローズが可愛すぎる」

 一番大切な人だと、というベリルの呟きを聞いたローズの頬が真っ赤になった。

(ああっ、聞こえてるんだったーっ!!)

 再び上掛けを被ろうとしたローズの腕ががし、と掴まれた。

「もっと顔が見たい」

「無理ですっ!!」

「こら、顔を背けるな」

 ぺし、という音がした。

「お戯れはいい加減にして下さいませんか」
 
 口の端だけ吊り上げた笑みを浮かべた筆頭魔術師が紙の筒を持ってそこにいた。

「「……はい」」

「お分かりになれば宜しいんです。ああ、王妃様はお気になさらず。暴走してるこの唐変木のことはこちらにお任せ下さい」

「おい。言い方が酷くないか」

「何がでしょう? 文字通り公務を放り出して行ったと思ったらいきなり成婚行列などされて。あの準備や手回しにどれほど苦労させられたと思ってるんですかっ!?」

 その時点でどう見てもかなり憤慨しているようだったが、更に火に油を注ぐような発言をする勇者がいた。

「その辺りはリヨンの采配じゃなかったのか?」

「側近殿が貴方の側から離れられなかったから、こっちにもお鉢が回って来たんですよっ!!」

 少しはこちらのことも考えて下さいよ、と言われてベリルは済まなかった、と言ったが即座に心が籠ってないという反論にあった。

「おい。こちらは誠心誠意謝っているというのにその態度は何だ?」

「そう言ってまた似たようなことをされるのが目に見えてますからね」

 そこから更に何か言い掛けた筆頭魔術師の言葉はベリルの台詞に遮られた。

「あまり可愛げのないことばかり言っているとお前の運命の番に嫌われないか?」

 ほんの少しの間を置いて、筆頭魔術師が固い声で答える。

「俺に番は居ませんが」

 ただその言葉を聞いただけなら、番などいないのに揶揄われて怒りを堪えているようにも見えただろう。

 だが、筆頭魔術師に取って誤算だったのは、既にここに居る者皆がローズの銀の髪飾りから得た記憶の殆どを共有していることだった。
 
「ああ。こちらの世界とやらではそうだったか。ローズは向こうの世界での『俺』の死をきっかけに時間遡行を覚えたらしいが、お前はどうなんだ?」

「――なっ!!」

 そんなことを言われるとは全く予測していなかったのだろう。

「何をおっしゃっているのかよく分かりませんが。時間遡行? そんなとんでもない技術があるのでしたらぜび見てみたいものですね」

 どうやら『過剰共鳴』の影響でベリルのみ記憶を見たらしい、と思い当たった筆頭魔術師が言葉を紡ぐがその努力は無駄に終わった。

「お隠しになる必要はございませんよ。ブラウン殿」

 サントワール医師が言えばアンヌも、

「心中お察し致します」

 と続け、どこか生温い空気に漸く筆頭魔術師も何かがおかしい、と気付いたようだった。

「まさか――」

 視線を受けたローズは済まなそうに小さく頷きを返した。

「え、まさか本当に? ……嘘でしょう」

 室内に居た皆が頷くと、今度は筆頭魔術師が床に頽れた。



「あー。まあ何というか。……ご苦労だったな」

 ベリルが彼にしては珍しく気まずげに筆頭魔術師に声を掛けた。

「……誠意が籠ってないですよ」

「まあ、その気概があれば大丈夫そうだな。で、これから先のことなんだが」

 そのベリルの言葉に筆頭魔術師が顔を引き締めた。

「ええ。まだ終わっていませんでしたね。陛下の御身が危険にさらされるのはもう少し先のことです」

 それは例の『記憶』から分かっていた。

 王妃のお披露目となる舞踏会に潜んでいた刺客にベリルが倒れるのだ。

(だけど――)

 ベリルは獣人である。
 
 カントローサ国は人族が主だった。

 純粋に身体能力を比べれば獣人であるベリルの方が上のはず。

 それでどうして後れを取ったのか。

(どういうことかしら?)

 ローズが疑念を抱いていると、

「確かにそれはそうだな」

 即座に合の手が入り、また思考を読まれたと悟ったローズの手が上掛けに伸びる。

「こら、隠れるなと言っているだろう」

(いーやーっ!!)

「じゃれ合うのは後にして下さい」

「「……すみません」」

「王妃様はいいですよ。で、何がそうなんですか?」

 ベリルがローズの疑念を話すと筆頭魔術師は少しだけ考える素振りを見せた後、

「そこは俺も気になってしました。こんなことは言いたくないんですが、世界の強制力とでもいうものが働いている可能性がありますね」

「強制力?」

「ええ。一度作られた流れは滅多に変えられない、という。まだ仮説ですが。言にこれだけ試行しているのに陛下の運命はなかなか書き換えられないでいます」

 筆頭魔術師の話によると、何度流れを変えても結果は同じところに行きついてしまうのだという。

 覚えていた刺客は除外したはずなの違う刺客に潜入されていたり。
 
 カントローサ国との国境線の守りを固めるよう助言し、異変があった際はいち早く知らせが来るよう手配したりしても、何故かそれは上手く機能せずに前と同じような損害を出してしまう。

 損害、のくだりで僅かに苦し気な顔になったのは恐らく『彼女』を思い出しているのだろう。

「それでも何とか障害を取り除いた、と思っても――何故でしょうね。なかなか上手く行かなくて」

 その言葉にローズは想い出す。

 戦場で亡くなった『彼女』。

 舞踏会で番を庇って亡くなった『彼女』。

 あれらは違う世界での出来事だったのだ。
 

(そうだとしたなら、どうすればいいの?)


 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

処理中です...