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第43話 仮面舞踏会 ⑤
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――時は少し遡る。
仮面舞踏会は新しいシュガルト国王妃のお披露目の意味で開かれていたが、ただ仮面舞踏会そのものを楽しむ者がいた。
「この焼菓子美味しい!!」
仮面舞踏会の隅に置かれた軽食の卓を次から次へと回っているのは水色のドレスを身に纏った兎の獣人――ジャクリーヌだった。
ジャクリーヌは平民なので第三の間までなら問題はない。
だが、ここは第二の間。
最低でも男爵位の爵位がないとは入れないのだが、皆仮面を被っていることと酒精が入り、緩やかな空気になってきのを見計らっての行動だった。
「全く。向こうだと食事がなくなるの早いのよね」
平民が主な第三の間ではどちらかというと食事目当ての者が多いようだった。
王城の方でもそれを承知しているようで用意された卓は第一、第二の間に比べると多かったがそれでも不足しがちだった。
それを見越して貴族令嬢のようなドレスを借りたジャクリーヌだった。
仮面舞踏会なのだが、中には何を勘違いしたのか仮装紛いの恰好をして来る者もいた。
足を丸出しにした妖精紛いの恰好や絵本に出て来る怪物の真似をした者もいて、それはそれで場を盛り上げるのに一役買っていたが。
そんな中、黒いローブを頭から被った魔女が目に止まった。
(あんな恰好で何が楽しいのかな? もっと着飾ろうとか思わないのかしら?)
――ま、好みは人それぞれだしね。
気持ちを切り替えたジャクリーヌは皆がほろ酔い加減になったところでそっと第二の間へ侵入し、平民からしたら豪華な、貴族からすれば少しだけ背伸びした料理を堪能していた。
しかしここは貴族が主の第二の間。
ずっと食卓に張り付いている女性はジャクリーヌ位であり、かなり目立っていた。
ジャクリーヌは貴族の礼儀など殆ど知らない。
なのである程度御馳走を堪能したらすぐに退散する心づもりだった。
だが、ジャクリーヌは自分がどれ程注目を集めているのか全く分かっていなかった。
「踊っていただけませんか?」
ライオンの獣人と思われる男性がジャクリーヌに声を掛けて来た。
勿論ジャクリーヌに舞踊の心得などあるはずがない。
「まあ、光栄ですわ。でもごめんなさい。連れ以外に踊らないよう厳命されてますの」
こう言えば引き下がるだろうと思っての発言だったが相手は納得してないようだった。
「それはどなたでしょうか? このバイロン伯爵の私が申し込んでいるのですが」
仮面があっても獣人であれば殆ど身元が割れてしまう。
どうやら揶揄われているようだった。
「まあ、それはとても光栄ですわね。でもここは仮面舞踏会ではありませんこと? 王妃様のため以外は特にご自分から身分を明かされなくてもよろしいのでは?」
酒臭い息から判断するに相手はどうやらかなり出来上がっているらしい。
ジャクリーヌは返事を待たずに皿を戻し、さっさとそこを離れた。
「――ッ!!」
後ろの方から何か言っている声がしたがそこは何も聞こえなかったフリをした。
(あんなのに構ってられないわ)
しかし今ので耳目を集めてしまい、ジャクリーヌは第三の間へ戻り辛くなってしまった。
(仕方ないな)
取り敢えず庭を散策する体でそこを抜け出す。
その判断は間違いだったと気付くのは少し後のこと。
(うえ、どうしよう)
灯りも疎らな庭園の奥だった。
散策できるように小路が迷路のように設えられたその一角で、囁くような声で言い争っていると分かる会話が漏れ聞こえて来たのだ。
「止めて下さい。ここでこんなことをしたと知れたら俺クビになってしまいます」
「この私がいいと言っているのよ。後のことはお父様が何とかして下さるわ」
どう考えても謀の会話である。
声の主はまだ大分先だったが油断は出来ない。
しかもこの感じからすると一人はその口調から貴族令嬢と思われた。
ゆっくりと下がろうとした時更なる会話が聞こえてくる。
「それ、お嬢様が言ってるだけでしょう? 俺、せっかく得た上級魔術師の地位、失いたくないんですけど」
「いいから!! それ位の実力あるならこの結界石砕くのなんて簡単でしょう?」
(何それ!?)
不穏な単語にジャクリーヌの動きが止まる。
「この結界張るのにどれだけ苦労したと思ってるんですか。このために俺の上司なんて三徹したんですよ」
「そんなことどうだっていいのよ。貴方、ベルガモット公家に逆らうというの?」
「それは――」
「あの女、人族のクセにこの私を殴るなんて。絶対に許さないわ」
(何かとんでもないこと聞いちゃったー!!)
こういう時こそ脱兎のごとく逃げ出したいのだが、足が少しも動こうとしなかった。
(ちょっと動いてよ、あたしの足!! 早くここから逃げ出さないと!!)
ジャクリーヌが少しも動こうとしない頑固な両足と戦っていると、何か軽い音が響き、すぐ後に公爵令嬢の声がする。
「やれば出来るじゃないの」
「とっととここから逃げますよ!! こんなことが上司に知れたら物理的に首が飛びます!!」
いかにも慌てた声がして足音が――こっちへ向かって来る!!
(だから動けってば!! あたしの足!!)
仮面舞踏会は新しいシュガルト国王妃のお披露目の意味で開かれていたが、ただ仮面舞踏会そのものを楽しむ者がいた。
「この焼菓子美味しい!!」
仮面舞踏会の隅に置かれた軽食の卓を次から次へと回っているのは水色のドレスを身に纏った兎の獣人――ジャクリーヌだった。
ジャクリーヌは平民なので第三の間までなら問題はない。
だが、ここは第二の間。
最低でも男爵位の爵位がないとは入れないのだが、皆仮面を被っていることと酒精が入り、緩やかな空気になってきのを見計らっての行動だった。
「全く。向こうだと食事がなくなるの早いのよね」
平民が主な第三の間ではどちらかというと食事目当ての者が多いようだった。
王城の方でもそれを承知しているようで用意された卓は第一、第二の間に比べると多かったがそれでも不足しがちだった。
それを見越して貴族令嬢のようなドレスを借りたジャクリーヌだった。
仮面舞踏会なのだが、中には何を勘違いしたのか仮装紛いの恰好をして来る者もいた。
足を丸出しにした妖精紛いの恰好や絵本に出て来る怪物の真似をした者もいて、それはそれで場を盛り上げるのに一役買っていたが。
そんな中、黒いローブを頭から被った魔女が目に止まった。
(あんな恰好で何が楽しいのかな? もっと着飾ろうとか思わないのかしら?)
――ま、好みは人それぞれだしね。
気持ちを切り替えたジャクリーヌは皆がほろ酔い加減になったところでそっと第二の間へ侵入し、平民からしたら豪華な、貴族からすれば少しだけ背伸びした料理を堪能していた。
しかしここは貴族が主の第二の間。
ずっと食卓に張り付いている女性はジャクリーヌ位であり、かなり目立っていた。
ジャクリーヌは貴族の礼儀など殆ど知らない。
なのである程度御馳走を堪能したらすぐに退散する心づもりだった。
だが、ジャクリーヌは自分がどれ程注目を集めているのか全く分かっていなかった。
「踊っていただけませんか?」
ライオンの獣人と思われる男性がジャクリーヌに声を掛けて来た。
勿論ジャクリーヌに舞踊の心得などあるはずがない。
「まあ、光栄ですわ。でもごめんなさい。連れ以外に踊らないよう厳命されてますの」
こう言えば引き下がるだろうと思っての発言だったが相手は納得してないようだった。
「それはどなたでしょうか? このバイロン伯爵の私が申し込んでいるのですが」
仮面があっても獣人であれば殆ど身元が割れてしまう。
どうやら揶揄われているようだった。
「まあ、それはとても光栄ですわね。でもここは仮面舞踏会ではありませんこと? 王妃様のため以外は特にご自分から身分を明かされなくてもよろしいのでは?」
酒臭い息から判断するに相手はどうやらかなり出来上がっているらしい。
ジャクリーヌは返事を待たずに皿を戻し、さっさとそこを離れた。
「――ッ!!」
後ろの方から何か言っている声がしたがそこは何も聞こえなかったフリをした。
(あんなのに構ってられないわ)
しかし今ので耳目を集めてしまい、ジャクリーヌは第三の間へ戻り辛くなってしまった。
(仕方ないな)
取り敢えず庭を散策する体でそこを抜け出す。
その判断は間違いだったと気付くのは少し後のこと。
(うえ、どうしよう)
灯りも疎らな庭園の奥だった。
散策できるように小路が迷路のように設えられたその一角で、囁くような声で言い争っていると分かる会話が漏れ聞こえて来たのだ。
「止めて下さい。ここでこんなことをしたと知れたら俺クビになってしまいます」
「この私がいいと言っているのよ。後のことはお父様が何とかして下さるわ」
どう考えても謀の会話である。
声の主はまだ大分先だったが油断は出来ない。
しかもこの感じからすると一人はその口調から貴族令嬢と思われた。
ゆっくりと下がろうとした時更なる会話が聞こえてくる。
「それ、お嬢様が言ってるだけでしょう? 俺、せっかく得た上級魔術師の地位、失いたくないんですけど」
「いいから!! それ位の実力あるならこの結界石砕くのなんて簡単でしょう?」
(何それ!?)
不穏な単語にジャクリーヌの動きが止まる。
「この結界張るのにどれだけ苦労したと思ってるんですか。このために俺の上司なんて三徹したんですよ」
「そんなことどうだっていいのよ。貴方、ベルガモット公家に逆らうというの?」
「それは――」
「あの女、人族のクセにこの私を殴るなんて。絶対に許さないわ」
(何かとんでもないこと聞いちゃったー!!)
こういう時こそ脱兎のごとく逃げ出したいのだが、足が少しも動こうとしなかった。
(ちょっと動いてよ、あたしの足!! 早くここから逃げ出さないと!!)
ジャクリーヌが少しも動こうとしない頑固な両足と戦っていると、何か軽い音が響き、すぐ後に公爵令嬢の声がする。
「やれば出来るじゃないの」
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