かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

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第44話 仮面舞踏会 ⑥ ( ??? side )

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 銀の髪飾りに仕込んだ記憶は無事にこの世界の自分に届いたようだが、余計なことまでしてくれたようだ。

「それでどうするつもりだったんだ?」

 長い間焦がれていた青の瞳がすぐそこにあるがそれは自分のものではない。

(因果なものだね)

 ずっと欲していたものなのにもう決して届くことはない。

(これほど近くにあるのに)

 内なる欲望を押し隠し、椅子の背もたれに寄りかかった。

 どうして銀の髪飾りに入れた記憶が彼にまで伝わったのかは聞かされたが、ため息しか漏れない。

(過剰共鳴? そんなものがあったのかい?)

 もしあの後彼が生きていたなら自分達もそんなことになったのだろうか、などと考えかけて振り払う。

(もう終わったこと)

「どうとは? ほとんどの流れはあの髪飾りに入れておきましたが」

 できるだけ不敬にならないように答えるが、ずっと裏から作業をしていたため、言葉の選択が難しい。

「ああ。そうだな。舞踏会でカントローサの刺客に襲われる、そこで命を拾ってもその後に戦争になり戦場の混乱に乗じて刺客を放たれ戦死。そこを逃れても毒殺、だったか。枚挙にいとまがないな」

 ――そうなのだ。

 お前のベリルはそういう運命なのだとでもいうかのように次から次へと危機が訪れる。

(関われば関わるほど、死への道筋が現れるってのは一体どういうことなのか)

 だが、今回は前とは違う。

 カントローサの懸案事項は思い出せる限り筆頭魔術師殿が潰している。

 そして自分も出来る限りの手は打ってきた。

(それに――)

 今回で最後にする。

 そのための『奥の手』なのだからこの先は慎重に進めなければならない。

「確かに。運命を変えるというのがこれほど難しいとは思いませんでした」

 そこまで言って少し周りを見る。

「申し訳ありませんがお人払いを」

「なっ、」

「分かった。お前ら少し向こうへ出ていろ」

「ですが!!」

 気色ばむ側近と護衛達だったが、王の言葉は絶対。

 不承不承ながら扉の向こうで待機してくれることになった。

(助かった。流石に見られたくはないからね)

「人払いをしたが、何をしたいんだ?」

 ここから先は『奥の手』を使うために必要なこと。

 少しだけ間を置いてかつてのベリルと同じ顔を見る。

「番を亡くしてから長の月日が経ちました。……どうか番を亡くした私を哀れとお思いならどうか少しだけの情けを」

 そっと近づくと青の瞳が見開かれた。

(まあ、こんなお婆ちゃんに迫られるとは思ってなかったんだろうね)

 罵倒される前に済ませて貰おう、と思っていると手首を掴まれた。

「……どういうつもりだ?」

 おや、と思った。

 怒鳴るでもなくこれはどちらかというと困惑しているように聞こえた。

「言葉通りの意味です。少しだけ目を閉じていていだけませんか?」

 これが失敗したら後がない。

 内心の焦りを隠して懇願するように告げると、肩の力が抜けたように見えた。

「分かった」

 承諾が来て逆に焦りそうになったが、考えている時間はない。

 半ばヤケで首の後ろに捕まれていない方の手を回し、抱き寄せるようにしながら風魔法で――

(やった!!)

「……何をしている?」

 極小の風魔法で切り取った数本の髪を手にしている手首を取られてしまった。

「何の真似だ?」

 答える訳にはいかない。

「それは――守り袋に入れたかったのです」

「守り袋?」

「はい。こちらでの決着が付いたら元の世界へ戻るつもりですので」

 本当はそんなことはない。

 この世界でのことを見届けたらこの人生に終止符を打つつもりだ。

 咄嗟に守り袋と答えたのはいい答えだったかもしれない、と心の隅でほっとしていると、

「だったら何故最初にそう告げなかった? 初めからそう言えば俺も素直に渡すと思わなかったか?」
 
 疚しいことをしている自覚はあるのでその考えは頭に浮かばなかった。

「……」

「だんまりか。そういったことならこちらにも考えがある」

 ぐい、と引き寄せられ青の瞳がすぐ目の前――

「ぎゃあああああ!!」

「――どうしたんですか!!」

 あまりの声量に驚いた側近と護衛が中へ雪崩れ込んで来た。
 
 自分でもとんでもない声を出した自覚はある。

「……これは、」

 丁度よく駆け込んでくれた側近達は目の前の光景を呆然として眺めているようだった。

 この構図は老婆がこの国の国王陛下を誑かしている図に見えるかもしれない。

 流石に気まずい、と思っていると側近がふるふると震えだした。

「何されてるんですか!! 幾ら同じ番様でもこちらの方に手を出しちゃダメでしょう!!」

(……はい?)

「当たり前だろう。俺の番はローズだけだ」

「だったらその体勢は何なんですか!?」

「偶然だ」

「とても都合のいい偶然ですね!!」

「おい、そこで小刀投げるなっ、彼女に当たったらどうするんだ!?」

「的には正確に当てるのでご安心を」

「全然安心できないんだが」

 ある意味息のあった主従の会話に口を挟めないでいると、こちらを向かれた。

「さて、そろそろ話すつもりになったか?」

 逃がしてくれるつもりはなさそうだが、こればかりは言えない、と逡巡していると扉が激しく叩かれた。

「どうした?」

「火急の用件です。お目通りの許可を!!」

 その声に皆の纏っていた空気が緊迫したものに変わったようだった。

「入れ。カラカム」

(カラカム? そう言えばまだこちらでは顔を見ていなかったような。ああ。その陛下と全く同じ衣装、ということは先ほどの影武者は彼だったのかい)

 納得している間にもカラカムは慌ただしい様子で入室し、頭を下げた。

「申し訳ありません!! 王妃様が行方知れずになりました!!」


 



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