かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

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第45話 仮面舞踏会 ⑦ ( ギルバートside )

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 転移した先には壊された結界石があったが一目見て違和感が沸く。

 妙に綺麗に壊されていたのだ。

 まるでどこをどうやれば壊れるのか予め分かっていたかのように。

 まさか身内に裏切り者が居たのか。
 
 結界石を直すにも素材が足りなかった。

(く、ここに来て)

 空間収納に入れておいたはずなのだが、確かめてみると少しだけ不足していた。

 取り敢えず緊急連絡用の鳩を飛ばし、こんな時のために城に詰めている留守居役の部下に素材を頼む。

(……流石に近くにはいないか)

 自分以外無人の気配を確かめ、索敵魔法を展開すると離れたところに三つ反応があった。

 警備は基本二人一組で行うことになっている。

(怪しすぎだろう)

 本来なら周辺を警邏している騎士に報告すべきなのだろうが、今の俺にそんな余裕はなかった。

(……追って来ている気がする)

 断って別れたはずなのだが、やはり結界に反応があったというのは見過ごせないのだろう。

 それに向こうは副団長だ。

 うっかり騎士に接触すると彼女と鉢合わせする危険性があった。

(折角ここまで上手く事を運んで来たのに)

 あの『奥の手』を使うためには相手の身体の一部(髪の毛でもよい)が必要になるが、それは事前に手段を講じて入手済みだった。

 後は気付かれないように近くに待機していれば――

(それがなかなか難しいんだよな)

 遠隔操作が出来れば良かったんだが、状況の見極めという点もあるのでこれ以上は改良しない方がいいかと結論付けたのだが。

(考えても仕方ないな)

 思考を切り替えて俺は反応のあった箇所へ向かった。


 

 迷路のような庭園の隅に置かれた物置小屋は普段は無人のはずだが、今は灯りが灯っていた。

 できる限り気配を消してそこへ近付くと声が漏れ聞こえてくる。

「誰にも言いません!! 見逃して下さい!!」

「そんなこと一体誰が信じるのよ。オーウェスやっちゃって」

「困りますよ。俺、クビになりたくないんで勘弁して下さい」

 その会話にどこから突っ込んでいいのか分からなくなった。

 内容から察するに結界石を壊したのは彼らで間違いないだろう。

(その実行犯が俺の部下、って――)

 教育間違えたのか、とも思ったがどうやら相手は公爵令嬢のようだ。

 番の運命を変える要素の高い上位貴族は網羅してあるので間違いない。

(ここでベルガモット公爵令嬢か。あと一人は――)

「だから誰にも言いませんって!!」

 上位貴族に対してこの物言いはまさかの平民なのか。

「平民のクセに生意気ね。さっさと始末して」

「でも――」

「いいから!!」

 魔法を練る気配がした。

(仕方ないな)

 俺は中へ足を踏み入れた。

 相手が二人なら大丈夫だと判断してのことだった。

 それにどうやら他に用心するような相手はいないようだった。

 ここを片付けたら彼女に気付かれないように近くで待機していなければ、と焦っていたのもある。
 
 扉が軋むような音を立てたので中に居た三人がこちらを向いた。

「持ち場を離れるような部下に育てた覚えはないんだけど」

「げっ、申し訳ありません!! すぐに戻りますぅ!!」

 半ば泣き声になっている部下に対し、冷たい声を出してやった。

(まさかバレてないとでも思っているのか)

「他に言うことがあるだろう?」

「何のことでしょうか?」

「声が裏返っているが」

(不毛な争いだな。さっさと捕縛するか)

 そう思って軽くひと睨みしてやる。

「申し訳ありません!! 結界石を壊しましたぁ!!」

「ちょっと!! 何言ってるのよ!!」

(やっぱりそうか)

 結界石に残っていた魔力から大よそ見当はついていたが。

(こいつは魔力封じをして牢屋行きか。後は)

「それはお前自身の意思か? それとも――」

「そうよ!!」

「この方の指示です!!」

「何言ってるのよ!! 私はそんなこと知りません!!」

「今更トカゲのしっぽ切りですか!? ここにいる時点でもうダメでしょう!!」

 かなり醜い争いに思わず気を抜きかけてしまった。

 そのため、動きに気付くのが僅かに遅れた。

「――ッ!! 離してよ!!」

「そう言われて離すバカはいないですがね」

 振り返った時には、この隙にと逃げ出そうしていたのだろう水色のドレスを着た兎の獣人ががっしりした体躯の男に捕らえられていた。

「遅いわよ。お父様に言いつけられてもいいの?」

「申し訳ありません。ですが一応間に合いましたのでご勘弁下さい」

 男達は三人いた。

(――マズいな)

 形勢の有利を悟ったらしく公爵令嬢がわざとらしい高笑いをした。

「さあ、とっととやっておしまい!!」

 どう見ても悪役の台詞にしか聞こえないのだが、その指示で男達が間合いを詰めた。

「仕事なんでね。では行きますよ」

「――アイスニードル」

「痛って!!」

「何だこりゃ!!」

 その隙に一度外へ出ようとした俺に声が掛けられた。

「この娘がどうなってもいいの?」
 
 兎の獣人の首元には小刀が突きつけられている。

「少しでも逆らえば――どうなるか分かっているわね?」
 
 仕方なく手を下ろした俺は拘束されてしまった。

 別にこれ位で魔法を使えない訳ではないが、あの小刀の位置が悪かった。

「手間を掛けさせてくれるわね。――ちょっと何してるの?」

 訝しげな声が掛けられたのは男達の手が俺のローブの下を弄り始めたからだ。

「何をっ、」

「兎の獣人なら男でも出来る、って聞いたことあってな」

「ほんとか」

 兎の獣人は男女を問わず小柄であり、運命の番には同性同士の番も居ることからそんな話になったんだろう。

(冗談じゃない!!)
 
「おっと、ちょっとでも抵抗したらあの娘がどうなるか分かってんだろうな?」
 
 反射的に魔法を練ろうとしたがそれは止めるしかなかった。

 その間にも男達の手は無遠慮に俺の体を弄って行く。

(……気持ち悪っ、)

 呆れたような公爵令嬢の声がする。

「勝手にしなさい。私は行くわ」

 霞んだ目で見るがやはりまだあの獣人は解放されていない。

 ローブが乱暴に脱がされ、既に生地が裂けかかっている上着に手が掛けられた。

「じゃあ、こっちはこっちで勝手にしてますから」

 吐き気と眩暈で気が遠くなりかけた時、扉の方で轟音が響いた。

「きゃああっ!!」

「何!?」

「へ? 扉が吹っ飛んだ?」

 扉の形に開いた空間に仁王立ちになっているその姿を視界に入れた俺は違う意味で気が遠くなりそうになった。

「……私のさいあいに何をしている?」



 その後は彼女の独壇場だった。

 とんでもない殺気をぶつけられ、抵抗する意思もなくなっている男達は既に彼女の敵ではなかった。

「ひぃぃっ!!!」

「助けてくれ!!」

「すいませんでしたぁ!!」
 
 捕縛された男達は彼女の部下が連れて行き、公爵令嬢と捕まっていた兎の獣人もそれに倣うと物置小屋には俺と彼女だけになった。

 だが俺はそれどころではなかった。

(気持ち悪っ、)

 まだ先ほどのイヤな感触が抜けず、俯くと手の縄が解かれた感覚がした。

「大丈夫か?」

(どうして君がそんな弱弱しい声を出すんだ)

「遅くなって済まなかった。私のさいあい

 その言葉に俺は認識阻害のローブが脱がされたことを思い出し、殆ど同時に吐き気が来た。

「――ッ!」

 反射的に下がって何とか口に手を当てて堪える。

(ここではダメだ!! ……?)
 
 俺の背に何かが触れた。

 背をゆっくり上下するそれはとても暖かかった。

「本当に済まない。せめて場所を移動したいのだが、動かしても大丈夫か?」

 少しずつ息が出来るようになり、俺が小さく頷くと俺の体がそっと持ち上げられ、俺は彼女に横抱きにされていた!!

「ちょっ、待って!!」

「どうした? まだ具合がよくないのか?」

 心底心配そうに言われ、俺は視線を逸らして必死に説明した。

「自分で歩くから降ろしてくれないか? 流石にこれは――頼む」

 最後の方は声も小さくなっていたが言いたいことは伝わったはずだ。

 なのに彼女はくっ、と背を伸ばすとそのまま歩き出した!!

「何でっ、降ろし――」

「私はね。今とても怒っているんだ」

「はい?」

「どうしてこんなに愛しい存在に気付けなかったのか、と。そして――ギル、と呼んでもいいかな? ギルの無防備さにもね」

「え?」

 目が合った彼女の顔には深い愛情と強い独占欲ととんでもない執着心が見え隠れしているように思えた。

(あ、これ逃げないといや逃げたらもっとヤバいやつなんじゃ――)

 危機を感じていると、その顔がゆっくりと近付いてきた。

「さっきあんなことがあったのに申し訳ないのだが、嫌だったら言ってくれ」

 少しずつ彼女の顔が近付き、後少しというところで解れた結界を抜けて何がか通り過ぎたのを感じた。

「「――ッ!!」」

 それは彼女も感じたようで本当に後少し、というところで彼女の動きが止まる。

「今のは――」

「恐らく呪術。陛下を狙ってる」

 身じろぎしかけた俺を抱えたまま、彼女が歩き出した。

「え、」

「陛下の元へ向かうのだろう。行こう」

「降ろし……」

 ――冗談じゃない!! これではいい晒し者だ!!

 そう思って抵抗しようとした時、彼女が真顔で呟いた。

さいあいとの睦合いを邪魔してくれた借りは大きいからな」

(ひぃっ、)

 俺は無駄な抵抗は止めることにした。





 
 
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