かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

文字の大きさ
50 / 65

第50話 呪術の代償

しおりを挟む
 あの国は昔から気に入らなかった。



 ――獣のクセに対等な貿易を、だと?

 ――ふざけるな、たかが獣の分際で!!

 ――あの国さえなければ肥沃な穀倉地帯はわが国のものになったものを!!

 侍従が扉を開けるのに軽く頷き、室内へ足を踏み入れると室内に居た者達が一斉に頭を下げた。

「進捗はどうだ?」

 即座に魔術師長が報告を始めた。

「国王陛下。このようなところにお越しいただき誠に恐悦至極にございます。先ほど発動させた呪術は無事に目標に辿りついたようです」

「大儀であった」

 これで彼の国は破滅への一歩を歩んだだろう。

 一国が滅ぶにはなかなか時間がかかるものだが、あそこは王の求心力で持っているようなところがある。

(先代国王は上手く行った。こうして立て続けに王が亡くなれば流石にあの国も持たないだろう)

 呪術には対価が必要。

 本来ならば相手に一番憎悪を抱く者の魂が必要なのだが、たかが獣相手にそこまでする必要はない。

 それに儂が居なくなればこの国はどうなる?

 呪術を使えば向こうも気付くだろう。

 前回と同じく全く因果のない奴隷をかき集めて行ったのだが、二番煎じは通じるか。

 前の時は上手く行ったが、流石に国王相手は荷が重かったのか、その当時の魔術師長と実行した魔術師の大半は殉死していた。

 それでも露呈しなかったのは本当に運が良かった。

 あの時は天災も起きたからそれに上手く紛れたのだろう。

 日照りと干ばつ。その後の豪雨による洪水。

 どちらの国でも起きた災害は互いの国に大きな損害を齎した。

 生き残った魔術師達は呪術の反動とか何とか訳の分からないことを言っていたが。

 反駁する臣下など要らぬ。

 魔術師達の総入れ替えに大分時間を食ってしまったが、此度の魔術師は優秀なようだ。
 
 対価が要るため奴隷を使うのは前回と同じだが、以前はこの時点で大半の魔術師達は床に倒れていた。

 あの時は災害が起きてしまったが、今回はそれも起こさぬように調整しろ、と厳命してある。
 
 宣戦布告の使者第二王子は上手くやっているだろうか。

 あいつには王の死を見届けたらすぐに書簡を渡し、転移の魔法石で帰還するよう言い含めてあるが、別に向こうで討たれても構わぬ。

 代わりは居るし、王の居ない国など政略するに容易い。

 そう思っていたのだ。

  

「これは――」

 身体が急に重くなり、膝を付く。

(何が起きた?)

 その時小さな笑い声が聞こえた。

「ようやく、ですか」

「なん、だ」

 声が上手く出せない。

 何とか視線を上げると魔術師長が満足げな顔をしていた。

「この呪術は貴方の魂を糧にしました。さあ、存分に対価を払って下さい」

(なん、だと?)

「前回貴方が行った呪術は沢山の同胞を亡くしました。そして私の兄も――」

 霞む目で見えた室内にいる者どもからは何故か蔑んでいるような目を向けられた。

「ふざけ、るな。儂は王、」

「ええ。その愚王のお陰で私は兄を失い、こちらの者は父を失い、そちらの――」

 後は聞こえなかった。

(儂は王だ、……誰ぞ、)




 倒れた『王』と呼ばれた者にその場にいる者は誰も反応しなかった。

「長かったですね」

 先ほど扉を開けた従僕が呟く。

「ええ。これ位では私達が受けた代わりには露ほどもなりませんが。ないよりはマシです」

 やっと仇が討てたが、これで良かったのかとも思う。

 この復讐は全く関係のない方の命まで奪ってしまった。

(かの国の王には申し訳ないことをしてしまった)

 事のあらましを書いた書簡は友人に託して保管してもらっている。

 そして自分が死んだらすぐに広まるように手配を頼んである。

 どちらにせよ王を弑したのだ。

 死罪は確定だが、その前に皆を逃がさねば。

「皆、中央に集まれ。転移陣を展開する」

 この魔力量なら何とか皆を王都の外れまで位なら送れるだろう。
 
 呪術の反動は私一人が受ければいい。

(私一人で収められるといいのだが)

 その前に反逆罪として処刑されるのが先か。

 そんなことを考えて声を掛けたが誰ひとり動く者はいなかった。

「どうした? 早くしないと」

「貴方はどうされるのですか?」

 思わぬ問い掛けに言葉に詰まる。

 床に紋様を描きかけている転移陣は発動者をこの場に残す仕組みだった。

「……私のことはいいから行きなさい」

 上手い言葉が思い付かず突き放すような言い方になってしまった。

「出来ません」

 静かな意思を込めた目が私を見ていた。

「ここまで辿り着くために長い時を掛けました。私達は同胞です。ここで逃げようとする者はいませんよ」

 そのことを示すかのように誰も身じろぎすらしなかった。

「しかし」

 ここに留まって居れば呪術の反動が来るだろう。

 前よりは大分抑えることができたものの、本来呪術とは発動者の命も捧げるものだ。

 前回は何の柵もない奴隷を使ってしまったこともあり、天災を呼んでしまったが今回は違う。

 憎悪の源である対象者(もはや王とは呼びたくない)の魂を捧げたため、そこまでの天災は起こらないはずだ。

 そして呪術を発動した者として責任を取るのは私だけでいい。

 何とか彼らを説得しようとした時だった。

 大きなとてもつもなく強い力がこちらへ向かってくるのを感じた。

(まさか)

 とっさに転移陣を完成させ、問答無用で皆を転移させる。

「「「「「「――ッ!!」」」」」」

 多少無理をしたため、転移場所がずれるかもしれないがそれでもここよりはまだマシだろう。

(呪術を跳ね返すとは)

 少しは相殺しないとこの王都に影響が出てしまう。
 
 防御の結界を張りかけたその時、自分達が送った呪術の倍以上の威力でソレが返ってきた。

(これは――)

 昔、兄が言っていた。

 人を呪ってはいけない、と。

 それは必ず自分の身に返ってくるのだから、と。


(それでも――)



 




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

処理中です...