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第51話 『運命』を変えるには ①
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ローズは重い瞼を上げたが、それだけのことに途轍もない労力を要した。
ぼんやりとした頭の中に先ほどまでの出来事が蘇る。
(私、ベリルへ掛けられた呪いを跳ね返そうとして――)
魔術は上手く行ったように思えたが、彼はどうなったのだろう。
身を起こそうとすると、アンヌの気遣うような声がした。
「ローズ様、急に起き上がってはいけません」
「アンヌ、彼は……」
そこまで言って咳き込んだローズに水の入った杯が渡される。
「いきなり声を上げてはいけません。五日も倒れていらしたんですよ」
(五日……それでは仮面舞踏会は)
ゆっくりと水を口に含むローズを安心させるようにアンヌが告げた。
「あの王様のことでしたら心配要りませんよ。呪いは解けたようでとてもお元気です」
(良かった)
体中から力が抜けたようになるローズに、アンヌが薬湯を差し出す。
「あんな上級魔術を使ったのですから回復には時間が掛かるそうですよ。ゆっくりお休み下さい。今サントワール医師を呼んで参ります」
そう言って出て行こうとしたアンヌの態度にローズは違和感を覚えた。
(何かしら?)
少し考えてその理由に思い至った。
運命の番は常に互いにその存在を確認しなければらない程、互いを必要とし、依存しあっているともいえる関係である。
ここでアンヌが不承不承でも何でもベリルを呼びに行けば気付かなかったかもしれない。
「アンヌ。ベリル様は今どこにいらっしゃるの?」
そう聞いた途端、アンヌの侍女としての表情が崩れたようだった。
同時にローズはもう一人の『私』のことも思い出した。
(そうよ。もう一人の私は?)
アンヌは小さくため息を付いてからローズの休む寝台へ戻って来た。
「あの魔術は素晴らしいですね。お嬢様にこれほど負担が掛からなければもっと良かったのですけど。呪いを全て跳ね返し、術者の元へ返してしまうなんて。お陰でカントローサ国が黒幕だということがはっきりしましたし。そうそう魔術と言えば筆頭魔術師のギル様が番を見付けられたとかで婚約を結ばれたそうですよ。大変めでたい「アンヌ」」
矢継ぎ早に話すアンヌの話を途中で遮るとアンヌは困ったような表情を見せた。
「「……」」
互いに見つめ合っていたのはどの位か。
「申し訳ございません」
アンヌが頭を下げるがローズは容赦なく問いただした。
「それで、ベリル様はどうされたの?」
アンヌの話によると最初ベリルはローズが倒れた後、側を離れようとしなかったが、カラカムが無理やり引っ張って行ったという。
今回の件の黒幕がカントローサ国だと分かると即座にカントローサ国の第二王子を捕縛し、尋問したという。
勿論、第二王子は否定したが、客室を捜索するとシュガルト国への宣戦布告と取れる書簡が見付かり、これが決定打となった。
(なんというか、詰めが甘いわね……)
それほどの重要書類なら、せめて肌身離さず身に付けておくか、間者等に預けておくなどの措置があったはずでは。
ローズがそんなことを考えていると、アンヌが話を続けた。
「それで急遽、貴族議会が開かれたのですが、あっという間にカントローサ国へ攻め入ることが可決されてしまいまして」
「……は?」
そんなに簡単に開戦が決まるというのもおかしい。
勅命であっても一国に攻め入るなどということはできないはずである。
「ええ。通常ではそんなことは不可能です。ですが、ある事実がつまびらかになってしまって、全員の意思が一致してしまったんです」
「ある事実?」
ローズの問い掛けにアンヌは逡巡しているように見えたが、隠しても仕方がないと思ったのかゆっくりと口を開いた。
「先代の国王夫妻のことです」
アンヌの話によると先代の国王夫妻も、カントローサ国の呪術で命を落としていたことがわかったという。
(なんてことを)
「ですから今回に関しましてはまさに電光石火のような速さで可決されたとのことです」
(カントローサ国はそんなにこの国が気に入らないのかしら)
今のローズに獣人に対する忌避感はない。
最初の婚約者の件を考えると辛かったが、こうして獣人達と接して見るとそこまでするようなものではないのではないだろうか、と思うようになってきた。
(ベリルの影響も大きいわね)
初めて会ったときはなんて傲慢な獣人だろうと思ったものだったが、今は……。
そこまで考えたところで、はた、と首もとへ手を当てたローズの指先に首飾りの感触は――あった。
(よかった)
ほっとしているローズの様子を見てアンヌが頷く。
「勿論それを外すなんてしません。……あの男にこれ以上ローズ様の内情を知られるなんてとんでもないですわ」
後半の台詞はあまりよく聞こえなかったので、聞き返そうとしたがその問い掛けはアンヌのにこやかな笑みに遮られてしまった。
「さあ、ローズ様。薬湯はこの位にして。今サントワール医師を呼んで参ります」
そう告げてアンヌが廊下へ出て行ったが、言われて素直に休める気分ではなかった。
(……カントローサ国と戦争になってしまうのかしら?)
他の平行世界の自分のことはわからないが、ローズはこれまで戦争というものを身近に感じたことはなかった。
アンヌの様子だとベリルはすでに出立しているようだ。
首飾りをしていてもわかる。
ベリルの気配が城内にないことが。
(私が行っても足手まといかもしれない。でも)
そう言えばもうひとりの自分はどうしたのだろうか。
疑問がいくつも脳裏に浮かび、耐え切れそうにないと思ったとき、部屋の扉を叩く音がした。
「ちょっといいですか?」
そっと入室してきたのはギルだった。
「ええ。どうぞ」
アンヌはいないが、却ってその方が情報を得られるかもしれない。
ローズの思惑はある意味達成された。
初めのうちギルは当たり障りのない話をしていたが、やがてため息をつくとローズの顔を改めて見てくる。
「確認させていただきたいのですが、王妃様はどこまでお話を窺っていられるでしょうか?」
その問い掛けにローズは、現在カントローサ国と戦争になりそうなことをアンヌから聞いた、と告げるとギルは微妙な表情になった。
「そうですか。それではこのことはまだご存知ではありませんか? ――もうひとりの王妃様はお亡くなりになられました」
(なん、)
沈痛な面持ちで話すギルが、ぎゅっ、と眉を寄せる。
「力が及ばず申し訳ありません。ですがその時少々不可解な出来事が起きたのです」
「どういうことです?」
ローズの問い掛けにギルは言葉を探しているようだったが、やがて押し出すように話し出した。
医務室に運ばれたもうひとりの『私』は既に死を待つのみの状態だったという。
その場にいた誰もが固唾を飲んで見守っているなか、ぴくり、と『私』の瞼が開き、室内を見渡していた視線がある一点を見たとき、『私』の口が動いた。
『……ベリル』
そこには半ば透明な姿になったベリルがおり、『私』に向けて手を差し伸べていたという。
後から確認したが、このベリルは別の世界の彼だったようだ。
そのベリルを見た『私』は嬉し気だったという。
そして『私』もそのベリルへ手を伸ばし、互いの手が触れあった瞬間彼らの姿が消えてしまった。
「なんとも不可思議な出来事でしたよ。魔力の消失の仕方から、お亡くなりになったとしか判断できないのが残念です」
(志半ばで消えてしまうなんて……)
聞いた限りだと別の平行世界(恐らく『私』と同じ世界)のベリルが迎えに来たらしいが、それでよかったのだろうか。
少しもやもやした気分を味わっていると、ギルが意を決したように話し出した。
「王妃様。自分の伴侶の運命を変える方法が見つかりました」
ぼんやりとした頭の中に先ほどまでの出来事が蘇る。
(私、ベリルへ掛けられた呪いを跳ね返そうとして――)
魔術は上手く行ったように思えたが、彼はどうなったのだろう。
身を起こそうとすると、アンヌの気遣うような声がした。
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「アンヌ、彼は……」
そこまで言って咳き込んだローズに水の入った杯が渡される。
「いきなり声を上げてはいけません。五日も倒れていらしたんですよ」
(五日……それでは仮面舞踏会は)
ゆっくりと水を口に含むローズを安心させるようにアンヌが告げた。
「あの王様のことでしたら心配要りませんよ。呪いは解けたようでとてもお元気です」
(良かった)
体中から力が抜けたようになるローズに、アンヌが薬湯を差し出す。
「あんな上級魔術を使ったのですから回復には時間が掛かるそうですよ。ゆっくりお休み下さい。今サントワール医師を呼んで参ります」
そう言って出て行こうとしたアンヌの態度にローズは違和感を覚えた。
(何かしら?)
少し考えてその理由に思い至った。
運命の番は常に互いにその存在を確認しなければらない程、互いを必要とし、依存しあっているともいえる関係である。
ここでアンヌが不承不承でも何でもベリルを呼びに行けば気付かなかったかもしれない。
「アンヌ。ベリル様は今どこにいらっしゃるの?」
そう聞いた途端、アンヌの侍女としての表情が崩れたようだった。
同時にローズはもう一人の『私』のことも思い出した。
(そうよ。もう一人の私は?)
アンヌは小さくため息を付いてからローズの休む寝台へ戻って来た。
「あの魔術は素晴らしいですね。お嬢様にこれほど負担が掛からなければもっと良かったのですけど。呪いを全て跳ね返し、術者の元へ返してしまうなんて。お陰でカントローサ国が黒幕だということがはっきりしましたし。そうそう魔術と言えば筆頭魔術師のギル様が番を見付けられたとかで婚約を結ばれたそうですよ。大変めでたい「アンヌ」」
矢継ぎ早に話すアンヌの話を途中で遮るとアンヌは困ったような表情を見せた。
「「……」」
互いに見つめ合っていたのはどの位か。
「申し訳ございません」
アンヌが頭を下げるがローズは容赦なく問いただした。
「それで、ベリル様はどうされたの?」
アンヌの話によると最初ベリルはローズが倒れた後、側を離れようとしなかったが、カラカムが無理やり引っ張って行ったという。
今回の件の黒幕がカントローサ国だと分かると即座にカントローサ国の第二王子を捕縛し、尋問したという。
勿論、第二王子は否定したが、客室を捜索するとシュガルト国への宣戦布告と取れる書簡が見付かり、これが決定打となった。
(なんというか、詰めが甘いわね……)
それほどの重要書類なら、せめて肌身離さず身に付けておくか、間者等に預けておくなどの措置があったはずでは。
ローズがそんなことを考えていると、アンヌが話を続けた。
「それで急遽、貴族議会が開かれたのですが、あっという間にカントローサ国へ攻め入ることが可決されてしまいまして」
「……は?」
そんなに簡単に開戦が決まるというのもおかしい。
勅命であっても一国に攻め入るなどということはできないはずである。
「ええ。通常ではそんなことは不可能です。ですが、ある事実がつまびらかになってしまって、全員の意思が一致してしまったんです」
「ある事実?」
ローズの問い掛けにアンヌは逡巡しているように見えたが、隠しても仕方がないと思ったのかゆっくりと口を開いた。
「先代の国王夫妻のことです」
アンヌの話によると先代の国王夫妻も、カントローサ国の呪術で命を落としていたことがわかったという。
(なんてことを)
「ですから今回に関しましてはまさに電光石火のような速さで可決されたとのことです」
(カントローサ国はそんなにこの国が気に入らないのかしら)
今のローズに獣人に対する忌避感はない。
最初の婚約者の件を考えると辛かったが、こうして獣人達と接して見るとそこまでするようなものではないのではないだろうか、と思うようになってきた。
(ベリルの影響も大きいわね)
初めて会ったときはなんて傲慢な獣人だろうと思ったものだったが、今は……。
そこまで考えたところで、はた、と首もとへ手を当てたローズの指先に首飾りの感触は――あった。
(よかった)
ほっとしているローズの様子を見てアンヌが頷く。
「勿論それを外すなんてしません。……あの男にこれ以上ローズ様の内情を知られるなんてとんでもないですわ」
後半の台詞はあまりよく聞こえなかったので、聞き返そうとしたがその問い掛けはアンヌのにこやかな笑みに遮られてしまった。
「さあ、ローズ様。薬湯はこの位にして。今サントワール医師を呼んで参ります」
そう告げてアンヌが廊下へ出て行ったが、言われて素直に休める気分ではなかった。
(……カントローサ国と戦争になってしまうのかしら?)
他の平行世界の自分のことはわからないが、ローズはこれまで戦争というものを身近に感じたことはなかった。
アンヌの様子だとベリルはすでに出立しているようだ。
首飾りをしていてもわかる。
ベリルの気配が城内にないことが。
(私が行っても足手まといかもしれない。でも)
そう言えばもうひとりの自分はどうしたのだろうか。
疑問がいくつも脳裏に浮かび、耐え切れそうにないと思ったとき、部屋の扉を叩く音がした。
「ちょっといいですか?」
そっと入室してきたのはギルだった。
「ええ。どうぞ」
アンヌはいないが、却ってその方が情報を得られるかもしれない。
ローズの思惑はある意味達成された。
初めのうちギルは当たり障りのない話をしていたが、やがてため息をつくとローズの顔を改めて見てくる。
「確認させていただきたいのですが、王妃様はどこまでお話を窺っていられるでしょうか?」
その問い掛けにローズは、現在カントローサ国と戦争になりそうなことをアンヌから聞いた、と告げるとギルは微妙な表情になった。
「そうですか。それではこのことはまだご存知ではありませんか? ――もうひとりの王妃様はお亡くなりになられました」
(なん、)
沈痛な面持ちで話すギルが、ぎゅっ、と眉を寄せる。
「力が及ばず申し訳ありません。ですがその時少々不可解な出来事が起きたのです」
「どういうことです?」
ローズの問い掛けにギルは言葉を探しているようだったが、やがて押し出すように話し出した。
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そして『私』もそのベリルへ手を伸ばし、互いの手が触れあった瞬間彼らの姿が消えてしまった。
「なんとも不可思議な出来事でしたよ。魔力の消失の仕方から、お亡くなりになったとしか判断できないのが残念です」
(志半ばで消えてしまうなんて……)
聞いた限りだと別の平行世界(恐らく『私』と同じ世界)のベリルが迎えに来たらしいが、それでよかったのだろうか。
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