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第62話 互いの想い
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先に覚醒したのはベリルだった。
「壮大な物語だったな」
どこかちゃかすような口調にも聞こえたが、聞く者が聞けばそれほど深刻に捉えなくても大丈夫だ、と言外に告げているのが分かる言葉だった。
そうした様子を見たところではベリルに変わったものは見られない。
だが、運命の番であるローズには分かった。
「やはり、私のような者ではふさわしくないのですね」
どんよりと淀んだ口調で告げるローズを見たベリルが慌てたように否定する。
「いや、違う。そうではなくてだな、お前の物語はなかなか興味深かった。むしろ愛が増した方だが。なんというかそれに比べて俺のほうは、ちょっと、な」
最後のほうは言葉に力がなく、本当にそう思っているのが窺われた。
どうやら今度はベリルが自分の記憶に自信がないようである。
ローズは深く息を吸うと思い切ったように叫んだ。
「たとえ肥溜めに落ちたとしてもあなたへの想いは変わりませんから!!」
そのローズの言葉に聞いていた者達の動きが止まった。
「懸垂ができなくても、徒競走でうっかりゴール地点を間違えたとしてもあなたはあなたです!! 私はそんなことで評価を変えたりはしません!!」
ローズ言った内容をきいたアンヌがそっとギルに聞く。
「王妃様はどうされてしまったのか分かります?」
「恐らく術の反動かと。それと最愛の番の子供の頃からの記憶を見たのです。多少の興奮状態になってもおかしくありません」
そのギルの言葉で先ほどのギル達のやり取りを思い出したのだろう。
「なるほど」
「その思い切り納得したような目は止めて頂けませんか。なんでこっちまで被弾するんですか!?」
そんなやり取りの中ふいに噴き出すような笑い声が響いた。
「……いや、申し訳ない」
取り繕うように口元を押さえたルイス・サーペントがいた。
どうやらベリル達が意識を失った時間は、カントローサの客人を案内する時間もないほど短かったらしい。
「……客人を案内して差し上げろ」
ベリルがどこか迫力のある口調で告げるが、カントローサの客人には通用しなかったようだった。
「いやお構いなく。お二人の話し合いが済んでからでも大丈夫ですから」
なにやら上機嫌なサーペントは笑みを含んだ口調で続ける。
「いや、まさかシュガルト国王がこんな親しみやすい方とは思いませんでした。これで心置きなく先へ進めます」
――後のことはお願いします。
続けられた言葉を聞いたベリルが舌打ちした。
「長たちは皆、開戦を待ち望んでいる。俺が出て行けば収まるのだが、それでも行くのか?」
今の言葉はどういう意味なのか。
それではまるでサーペントひとりが長たちを説得しに行くように聞こえる。
ローズは式で長たちと挨拶を交わしたことはあったが、その人となりを知るまでは交流がなかった。
「もちろん。そのために来たのですから」
目の前で力強くうなずくサーペントの様子にはどこか気品さえ感じられた。
(この方は……)
「わかった。長たちはまだ城内にいる。リヨンが理屈をつけて留めたからな。だが、早馬を飛ばすのまでは止められなかった。案内をさせよう」
ベリルが合図を送ると従者のひとりが前へ出た。
「カントローサの客人だ。長たちのいる緋色の間へ案内を頼む」
「かしこまりまして」
そうしてカントローサから来たふたりが退出すると、室内になんとも言えない沈黙が流れたが、それを最初に破ったのはベリルだった。
「聞くが、結局これは効いているのだろうな?」
ギルがしっかりとうなずいた。
「それは保証します。一応後で確認を取りますが、おふたりのようすでしたら大丈夫でしょう」
だがベリルはどこか不満そうに告げる。
「替わりにローズの寿命が損なわれるのはかなり不本意だが、それでローズの心の安寧が得られるならしかたないな」
そこへローズがおずおずと話し掛ける。
「あの、離縁のお話は……」
「ないな」
にべもない返答にローズが叫ぶがそれは途中で消えてしまった。
「だめです!! それじゃあ――」
話の途中でベリルがローズの方を掴んで引き寄せたのだ。
「俺はローズ、お前を愛している」
お前はどうなんだ、と目で訴えられたローズがその瞬間、真っ赤になった。
「……私も、愛しています」
「ならこれ以上の議論は不要だな」
「――待っ」
慌てるローズを横抱きにしてベリルは宣言した。
「せっかく気持ちを確認できたのだから、もう少し確かめ合ってくる。後は任せた」
もしここに側近のリヨンがいたならば『後を任せるじゃありません!! まだやるべきことがあるでしょう!!』と怒鳴っていだろうが、彼は現在カントローサ国でベリルが丸投げした案件を必死に片付けている最中である。
物言いたげなアンヌを素通りし、非常時以外は呼ぶな、と言ってベリルは最愛の番と共に自室へ姿を消した。
「壮大な物語だったな」
どこかちゃかすような口調にも聞こえたが、聞く者が聞けばそれほど深刻に捉えなくても大丈夫だ、と言外に告げているのが分かる言葉だった。
そうした様子を見たところではベリルに変わったものは見られない。
だが、運命の番であるローズには分かった。
「やはり、私のような者ではふさわしくないのですね」
どんよりと淀んだ口調で告げるローズを見たベリルが慌てたように否定する。
「いや、違う。そうではなくてだな、お前の物語はなかなか興味深かった。むしろ愛が増した方だが。なんというかそれに比べて俺のほうは、ちょっと、な」
最後のほうは言葉に力がなく、本当にそう思っているのが窺われた。
どうやら今度はベリルが自分の記憶に自信がないようである。
ローズは深く息を吸うと思い切ったように叫んだ。
「たとえ肥溜めに落ちたとしてもあなたへの想いは変わりませんから!!」
そのローズの言葉に聞いていた者達の動きが止まった。
「懸垂ができなくても、徒競走でうっかりゴール地点を間違えたとしてもあなたはあなたです!! 私はそんなことで評価を変えたりはしません!!」
ローズ言った内容をきいたアンヌがそっとギルに聞く。
「王妃様はどうされてしまったのか分かります?」
「恐らく術の反動かと。それと最愛の番の子供の頃からの記憶を見たのです。多少の興奮状態になってもおかしくありません」
そのギルの言葉で先ほどのギル達のやり取りを思い出したのだろう。
「なるほど」
「その思い切り納得したような目は止めて頂けませんか。なんでこっちまで被弾するんですか!?」
そんなやり取りの中ふいに噴き出すような笑い声が響いた。
「……いや、申し訳ない」
取り繕うように口元を押さえたルイス・サーペントがいた。
どうやらベリル達が意識を失った時間は、カントローサの客人を案内する時間もないほど短かったらしい。
「……客人を案内して差し上げろ」
ベリルがどこか迫力のある口調で告げるが、カントローサの客人には通用しなかったようだった。
「いやお構いなく。お二人の話し合いが済んでからでも大丈夫ですから」
なにやら上機嫌なサーペントは笑みを含んだ口調で続ける。
「いや、まさかシュガルト国王がこんな親しみやすい方とは思いませんでした。これで心置きなく先へ進めます」
――後のことはお願いします。
続けられた言葉を聞いたベリルが舌打ちした。
「長たちは皆、開戦を待ち望んでいる。俺が出て行けば収まるのだが、それでも行くのか?」
今の言葉はどういう意味なのか。
それではまるでサーペントひとりが長たちを説得しに行くように聞こえる。
ローズは式で長たちと挨拶を交わしたことはあったが、その人となりを知るまでは交流がなかった。
「もちろん。そのために来たのですから」
目の前で力強くうなずくサーペントの様子にはどこか気品さえ感じられた。
(この方は……)
「わかった。長たちはまだ城内にいる。リヨンが理屈をつけて留めたからな。だが、早馬を飛ばすのまでは止められなかった。案内をさせよう」
ベリルが合図を送ると従者のひとりが前へ出た。
「カントローサの客人だ。長たちのいる緋色の間へ案内を頼む」
「かしこまりまして」
そうしてカントローサから来たふたりが退出すると、室内になんとも言えない沈黙が流れたが、それを最初に破ったのはベリルだった。
「聞くが、結局これは効いているのだろうな?」
ギルがしっかりとうなずいた。
「それは保証します。一応後で確認を取りますが、おふたりのようすでしたら大丈夫でしょう」
だがベリルはどこか不満そうに告げる。
「替わりにローズの寿命が損なわれるのはかなり不本意だが、それでローズの心の安寧が得られるならしかたないな」
そこへローズがおずおずと話し掛ける。
「あの、離縁のお話は……」
「ないな」
にべもない返答にローズが叫ぶがそれは途中で消えてしまった。
「だめです!! それじゃあ――」
話の途中でベリルがローズの方を掴んで引き寄せたのだ。
「俺はローズ、お前を愛している」
お前はどうなんだ、と目で訴えられたローズがその瞬間、真っ赤になった。
「……私も、愛しています」
「ならこれ以上の議論は不要だな」
「――待っ」
慌てるローズを横抱きにしてベリルは宣言した。
「せっかく気持ちを確認できたのだから、もう少し確かめ合ってくる。後は任せた」
もしここに側近のリヨンがいたならば『後を任せるじゃありません!! まだやるべきことがあるでしょう!!』と怒鳴っていだろうが、彼は現在カントローサ国でベリルが丸投げした案件を必死に片付けている最中である。
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