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第1話
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「お義姉様ばかりずるい」
これが半年前に父が再婚した継母の連れ子であるローズの口癖だった。
元々が子爵夫人と子爵令嬢なのだからある程度は仕方がないと思っていたのだけれど、
「フラン、譲ってあげなさい」
何故かお父様までローズの肩を持つ。
ローズは金髪碧眼でとても可愛らしい容姿をしていて、焦げ茶の髪と瞳をした自分とは大違いだった。
「ありがとうお父様。やっぱりお父様は優しいのね」
「それに比べてフランは侯爵令嬢だからってお高くとまりすぎね」
「いいのよ、お母様。欲しい物は手に入ったから」
全てがこんな調子だった。
最初の頃はまだ仕度が調っていないのかと思って大目に見ていたけれど、だんだんと度が過ぎるようになってきた。
勝手に部屋へ入ってくるのは当たり前。
私のお気に入りだけを狙ったように強請ってくることも増えた。
「これ、お義姉様よりあたしの方が似合うわ、下さる?」
「それは叔母様から誕生日に頂いたものだから――」
「だから何ですの? もちろん下さるんでしょう? 優しいお義姉様?」
もし断ると――。
「フラン、どうしてローズを苛めるんだ?」
「そんなことはしていません」
「言い訳は言い。さっさとローズに渡しなさい」
「……はい」
「ありがとうっ!!」
(どうして私だけ)
その内にフランによくしてくれていた使用人は次々と辞めさせられ、継母のフリーネと義妹ローズの独断と偏見で選ばれた使用人が雇われて行った。
彼らはフランに対しては特に手を抜いても文句を言われないのをいいことに、フランに対する態度が違っていた。
フランの部屋が汚れていても、
「あら、そうでしたか。失礼しました」
そして家族が集まる際の知らせはフランが後回しなのもいつものことだった。
「お嬢様。夕食のお時間です」
言われて食堂へ入ると既に皆、席についているのだ。
いつの間にか家族の中でのフランの位置は最下位になっていた。
だが、フランはまだ悲観はしていなかった。
(もうすぐ家を出るのだから、それまでの辛抱だわ)
フランには5歳の頃から決められた婚約者がいた。
第3王子のアール王子は、フランと同じ年で来年には挙式を控えていた。
王族の例に漏れず金髪に青い瞳を受け継いでおり、その活発な性格から令嬢達にも人気だった。
フランとも仲睦まじく交際をしていたが、最近になってそこにローズが絡むことが多くなった。
「あたしも付いて行っていいですか?」
「……ローズ」
流石に、とフランが言い聞かせようとするが、
「ああ、構わないよ」
「……アール様」
「別に構わないだろう。そのうち家族になるのだから」
「分かりました」
「ありがとうございますっ!! アール様って優しいんですねっ!!」
それも、少しの辛抱だと思っていた。
なのに――。
「……婚約破棄、ですか?」
目の前にはアール王子にべったりとくっついている義妹ローズがいた。
「ええ、お義姉様」
「俺達は愛し合っているんだ」
これまで見たことのないような甘い眼差しをローズに向けたアール王子が言い放った。
もともとこの婚約は王家からの打診されたもので、サンシェルジュ侯爵側には断れないものだった。
「このことは陛下もご存じなのでしょうか?」
「もちろんだ。父上の許可も貰ってある」
(……そんな)
「困ったものだな。フランにも」
「ええ」
フランを除いた家族が居間に集まっていた。
血の繋がった娘よりも継子を優先していることにサンシェルジュ侯爵は少しの違和感も感じていないようだった。
「ねえ、お義父様」
「何だね、ローズ」
「お義姉様ばかりずるいと思うの。あたし、広くて素敵なお義姉様の部屋が欲しいわ」
「まあ、ローズ」
「ふむ」
考え込むように顎に手を当てるサンシェルジュ侯爵。
その腕をローズが甘えるように引いた。
「ねえ、いいでしょう? お義父様。あんなに広いお部屋、お義姉様は持て余しているんじゃないの? あたしならもっと上手に使えるわ」
ローズの視線がぴたり、とサンシェルジュ侯爵のそれと重なる。
「分かった。そうしよう。あの部屋はお前のものだ」
「やったぁっ!! ありがとうお義父様っ!!」
そしてフランは部屋を追い出され、屋根裏部屋へ移ることになった。
(どうして……)
これが半年前に父が再婚した継母の連れ子であるローズの口癖だった。
元々が子爵夫人と子爵令嬢なのだからある程度は仕方がないと思っていたのだけれど、
「フラン、譲ってあげなさい」
何故かお父様までローズの肩を持つ。
ローズは金髪碧眼でとても可愛らしい容姿をしていて、焦げ茶の髪と瞳をした自分とは大違いだった。
「ありがとうお父様。やっぱりお父様は優しいのね」
「それに比べてフランは侯爵令嬢だからってお高くとまりすぎね」
「いいのよ、お母様。欲しい物は手に入ったから」
全てがこんな調子だった。
最初の頃はまだ仕度が調っていないのかと思って大目に見ていたけれど、だんだんと度が過ぎるようになってきた。
勝手に部屋へ入ってくるのは当たり前。
私のお気に入りだけを狙ったように強請ってくることも増えた。
「これ、お義姉様よりあたしの方が似合うわ、下さる?」
「それは叔母様から誕生日に頂いたものだから――」
「だから何ですの? もちろん下さるんでしょう? 優しいお義姉様?」
もし断ると――。
「フラン、どうしてローズを苛めるんだ?」
「そんなことはしていません」
「言い訳は言い。さっさとローズに渡しなさい」
「……はい」
「ありがとうっ!!」
(どうして私だけ)
その内にフランによくしてくれていた使用人は次々と辞めさせられ、継母のフリーネと義妹ローズの独断と偏見で選ばれた使用人が雇われて行った。
彼らはフランに対しては特に手を抜いても文句を言われないのをいいことに、フランに対する態度が違っていた。
フランの部屋が汚れていても、
「あら、そうでしたか。失礼しました」
そして家族が集まる際の知らせはフランが後回しなのもいつものことだった。
「お嬢様。夕食のお時間です」
言われて食堂へ入ると既に皆、席についているのだ。
いつの間にか家族の中でのフランの位置は最下位になっていた。
だが、フランはまだ悲観はしていなかった。
(もうすぐ家を出るのだから、それまでの辛抱だわ)
フランには5歳の頃から決められた婚約者がいた。
第3王子のアール王子は、フランと同じ年で来年には挙式を控えていた。
王族の例に漏れず金髪に青い瞳を受け継いでおり、その活発な性格から令嬢達にも人気だった。
フランとも仲睦まじく交際をしていたが、最近になってそこにローズが絡むことが多くなった。
「あたしも付いて行っていいですか?」
「……ローズ」
流石に、とフランが言い聞かせようとするが、
「ああ、構わないよ」
「……アール様」
「別に構わないだろう。そのうち家族になるのだから」
「分かりました」
「ありがとうございますっ!! アール様って優しいんですねっ!!」
それも、少しの辛抱だと思っていた。
なのに――。
「……婚約破棄、ですか?」
目の前にはアール王子にべったりとくっついている義妹ローズがいた。
「ええ、お義姉様」
「俺達は愛し合っているんだ」
これまで見たことのないような甘い眼差しをローズに向けたアール王子が言い放った。
もともとこの婚約は王家からの打診されたもので、サンシェルジュ侯爵側には断れないものだった。
「このことは陛下もご存じなのでしょうか?」
「もちろんだ。父上の許可も貰ってある」
(……そんな)
「困ったものだな。フランにも」
「ええ」
フランを除いた家族が居間に集まっていた。
血の繋がった娘よりも継子を優先していることにサンシェルジュ侯爵は少しの違和感も感じていないようだった。
「ねえ、お義父様」
「何だね、ローズ」
「お義姉様ばかりずるいと思うの。あたし、広くて素敵なお義姉様の部屋が欲しいわ」
「まあ、ローズ」
「ふむ」
考え込むように顎に手を当てるサンシェルジュ侯爵。
その腕をローズが甘えるように引いた。
「ねえ、いいでしょう? お義父様。あんなに広いお部屋、お義姉様は持て余しているんじゃないの? あたしならもっと上手に使えるわ」
ローズの視線がぴたり、とサンシェルジュ侯爵のそれと重なる。
「分かった。そうしよう。あの部屋はお前のものだ」
「やったぁっ!! ありがとうお義父様っ!!」
そしてフランは部屋を追い出され、屋根裏部屋へ移ることになった。
(どうして……)
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