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第11話
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「あー。その辺の話は場所を変えない?」
イーサンとじゃれ合っていたサンドラが口を挟む。
「そうだな。移動するか」
ネイビルが転移陣を出す。
え、とフランの瞳が見開かれた。
転移陣は高等魔法の一つで、また国の機関の了承なしに開くことは禁じられている。
「ああ。俺は資格持ちなので大丈夫ですよ。それよりも」
転移陣酔いの方は大丈夫か、と聞かれフランは頷いた。
「それじゃあ、ややこしいのが来る前に退散といきますか」
その言葉にフランが通りの方を見ると騎士団と思われる集団がこちらへ急ぎ足で来るところだった。
「あ、ちょっと待って」
サンドラが布袋からフードを取り出してフランに被せた。
頭からきちんと被せたところで、
「これでよし、と。いいわよ」
皆が転移陣に入ったところでネイビルが転移陣を発動させた。
少しの浮遊感の後、目を開けたフランは目を見開いた。
広く、天井の高いどこかの室内にいたのだ。
石造りのそれは神殿を想像させたがそれよりもずっと壁の面が多く、どこかの城内だと思われた。
(一体どこの……)
国だろうか、とフランが思った時、聞いたことのない声がした。
「ようこそサドウルク国へ。歓迎いたします」
歓迎の意を表したのは、フードを被った人物だった。
「私はこのサドウルク国の筆頭魔導師ドリーと申します」
その後ろにも何人かいたが、ほとんどは護衛と思われた。
「ご丁寧に痛み入ります。ネイビルと申します。こちらはイーサン。サンドラ。フランです」
床に転がっている相変わらず蔦まみれのローズはきれいに存在を忘れられたかのようだった。
フランの侯爵令嬢というには憚られる服装を気遣ったのか、ごく簡素な紹介だった。
「それではご案内させていただきます。こちらへ」
案内されたのは城の中でも賓客を持て成すのではないかと思しき応接間だった。
ちなみにローズは既に地下牢へ連行されている。
(どうしてサドウルク国へ)
もしやここでもローズが何かしでかしたのか、とフランが思っていると、
「急に連れて来てしまい、申し訳ありません」
ネイビルが済まなそうな表情で謝ってきた。
「そうよ。女性にはあれこれ支度がいる、っていうのにいきなりこんなのってないわよねぇ」
サンドラが同意するようにフランへ話しかける。
もしや先ほどフランにローブを被せてくれたのはこの気遣いか、と思ったフランが、軽く否定すると、
「気を遣わなくてもいいのよ」
あっさりと一蹴されてしまった。
「俺達が受けたのはゲルシュ国、ムルト王国、カッシバナ国との合同の依頼なんだけど、それとは別件で貴女の件を頼まれていてね」
フランが恐縮しているとネイビルが説明してくれた。
どうもローズはあちらこちらの国でやらかしていたらしい。
「国も小国も合わせれば両手の指では数えられない位なんだけど、各国の協議の結果、この三国が代表で秘密裏に依頼を出す、と決まったらしい」
元々イーサン達は皆がSランクの冒険者で、賞金稼ぎのようなこともしていたため、依頼が来たらしい。
だが、イーサンの場合は少々事情が違った。
「俺の両親はあの魔女に殺されたんだ」
暗い目をしたイーサンがぽつり、と呟いた。
その顔には不満げなものが含まれていたが、すかさすサンドラが、
「あんたね。幾らご両親の仇でも、勝手に突っ走って行かないでよ」
追いかけるこっちの身にもなってよ。
「すまん」
イーサンが謝罪の言葉を口にしたが、サンドラにとっては意外だったらしく、
「え、ええー、どうしたのよ? 急にしおらしくなっちゃってっ!? 何か悪いものでも食べたのっ!?」
「やかましい」
「ちょっと失礼ねっ!! 人が心配してあげてるのにっ!!」
「誰もそんなことは頼んでない」
(仲、いいんだ)
思わず見守っているとネイビルが話題を変えた。
「と、いうような訳で俺達があそこにいたのは納得してくれるかな?」
「はい。分かりました」
あのローズが不老の魔女だったとは驚きだった。
(とてもじゃないけれど、お婆さんには見えなかったわ)
そこまで思い返したところでフランはもう一人の存在に思い当たった。
「あの、それでフリーネは……?」
最後まで疑問を口に出せなかったのはネイビルがこちらを慮るような表情をしたためだった。
「フリーネか。彼女は……死にました」
イーサンとじゃれ合っていたサンドラが口を挟む。
「そうだな。移動するか」
ネイビルが転移陣を出す。
え、とフランの瞳が見開かれた。
転移陣は高等魔法の一つで、また国の機関の了承なしに開くことは禁じられている。
「ああ。俺は資格持ちなので大丈夫ですよ。それよりも」
転移陣酔いの方は大丈夫か、と聞かれフランは頷いた。
「それじゃあ、ややこしいのが来る前に退散といきますか」
その言葉にフランが通りの方を見ると騎士団と思われる集団がこちらへ急ぎ足で来るところだった。
「あ、ちょっと待って」
サンドラが布袋からフードを取り出してフランに被せた。
頭からきちんと被せたところで、
「これでよし、と。いいわよ」
皆が転移陣に入ったところでネイビルが転移陣を発動させた。
少しの浮遊感の後、目を開けたフランは目を見開いた。
広く、天井の高いどこかの室内にいたのだ。
石造りのそれは神殿を想像させたがそれよりもずっと壁の面が多く、どこかの城内だと思われた。
(一体どこの……)
国だろうか、とフランが思った時、聞いたことのない声がした。
「ようこそサドウルク国へ。歓迎いたします」
歓迎の意を表したのは、フードを被った人物だった。
「私はこのサドウルク国の筆頭魔導師ドリーと申します」
その後ろにも何人かいたが、ほとんどは護衛と思われた。
「ご丁寧に痛み入ります。ネイビルと申します。こちらはイーサン。サンドラ。フランです」
床に転がっている相変わらず蔦まみれのローズはきれいに存在を忘れられたかのようだった。
フランの侯爵令嬢というには憚られる服装を気遣ったのか、ごく簡素な紹介だった。
「それではご案内させていただきます。こちらへ」
案内されたのは城の中でも賓客を持て成すのではないかと思しき応接間だった。
ちなみにローズは既に地下牢へ連行されている。
(どうしてサドウルク国へ)
もしやここでもローズが何かしでかしたのか、とフランが思っていると、
「急に連れて来てしまい、申し訳ありません」
ネイビルが済まなそうな表情で謝ってきた。
「そうよ。女性にはあれこれ支度がいる、っていうのにいきなりこんなのってないわよねぇ」
サンドラが同意するようにフランへ話しかける。
もしや先ほどフランにローブを被せてくれたのはこの気遣いか、と思ったフランが、軽く否定すると、
「気を遣わなくてもいいのよ」
あっさりと一蹴されてしまった。
「俺達が受けたのはゲルシュ国、ムルト王国、カッシバナ国との合同の依頼なんだけど、それとは別件で貴女の件を頼まれていてね」
フランが恐縮しているとネイビルが説明してくれた。
どうもローズはあちらこちらの国でやらかしていたらしい。
「国も小国も合わせれば両手の指では数えられない位なんだけど、各国の協議の結果、この三国が代表で秘密裏に依頼を出す、と決まったらしい」
元々イーサン達は皆がSランクの冒険者で、賞金稼ぎのようなこともしていたため、依頼が来たらしい。
だが、イーサンの場合は少々事情が違った。
「俺の両親はあの魔女に殺されたんだ」
暗い目をしたイーサンがぽつり、と呟いた。
その顔には不満げなものが含まれていたが、すかさすサンドラが、
「あんたね。幾らご両親の仇でも、勝手に突っ走って行かないでよ」
追いかけるこっちの身にもなってよ。
「すまん」
イーサンが謝罪の言葉を口にしたが、サンドラにとっては意外だったらしく、
「え、ええー、どうしたのよ? 急にしおらしくなっちゃってっ!? 何か悪いものでも食べたのっ!?」
「やかましい」
「ちょっと失礼ねっ!! 人が心配してあげてるのにっ!!」
「誰もそんなことは頼んでない」
(仲、いいんだ)
思わず見守っているとネイビルが話題を変えた。
「と、いうような訳で俺達があそこにいたのは納得してくれるかな?」
「はい。分かりました」
あのローズが不老の魔女だったとは驚きだった。
(とてもじゃないけれど、お婆さんには見えなかったわ)
そこまで思い返したところでフランはもう一人の存在に思い当たった。
「あの、それでフリーネは……?」
最後まで疑問を口に出せなかったのはネイビルがこちらを慮るような表情をしたためだった。
「フリーネか。彼女は……死にました」
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