12 / 15
第12話
しおりを挟む
(え……)
思いもよらない言葉にフランの思考が停止する。
「フリーネはよほどあの魔女に心酔していたようですね。イーサンから聞いたのですが、彼女はイーサンの攻撃から身を挺して魔女を守ったらしいんですよ」
(そんなことが――)
母娘にしか見えなかったのだが、どうやらそれだけではなかったらしい。
複雑な心境になっていると、ネイビルが、
「それでここからが肝心な話なんですが。貴女の保護を依頼された方はここサドウルク国の方なのですが、お心当たりはありませんか?」
そう言われてもフランの頭に浮かぶのはこちらで親しくしてくれたマーサくらいだった。
フランがそう答えると微妙な間が流れた。
「「「……」」」
(どうしたのかしら?)
「はははっ、こりゃいいやっ!!」
「ちょっ、笑い事じゃないだろうっ!!」
「そう言うサンドラだって笑ってるじゃないですか」
彼らの反応に相変わらず疑問符しか脳裏に浮かんでこないフランが困惑していると、扉が軽く叩かれた。
「どうぞ」
ネイビルが答えるとお仕着せを着た侍従がいた。
「お召替えをどうぞ」
(え、)
そんなことをされるとはもしかして位の高い貴族と面会でもあるのだろうか。
ではやはりフランのことを依頼した人物というのはかなりの地位にあるに違いない。
そんなフランの胸中をよそに、
「ああ。良かった。このまま会ってくれ、なんて言われたらあたしの中の紳士録、あの方のところ、評価だだ下がりになるところだった」
「それは怖いな」
茶化すようにサンドラが言うとネイビルがそう返した。
「安心して。ネイビルは評価高い方よ」
「はは、ありがとう」
「俺は?」
「え、聞きたいの?」
その言葉からして大体の予想はつく。
ガクン、と肩を落とすイーサン。
「まあまあ。それじゃあ行こうか」
ネイサンが取りなして待ちぼうけを食わせていた侍従に向き直る。
「こちらにございます」
案内された部屋は、男女別になっており、軽く身ぎれいにされた後、男女別に分かれて着替える。
フランに用意されたのは、水色のタフタで作られた衣装で、腰や肩、腕の線の辺りに繊細なひだが作られていた。
「失礼します」
少しでも身頃が余るとすぐに針子が整えてくれ、まるで受注生産品の扱いである。
(こんなにして貰っていいのかしら)
一度しか使わないのに、と申し訳なさが勝っているフランの隣ではサンドラが、
「わあ、綺麗ねぇ」
姿見に見入っていた。
ちなみにサンドラの衣装は緑色で、意匠はフランのものとは違い、身体の線を強調するような大きなひだが取られていた。
「ふふっ、まるで夜会にでも出る位の衣装だけど、随分気合入ってるわね」
含んだような言い方にフランが疑問を口にしようとした時、針子に『完成しました』と声を掛けられ、話の接ぎ穂をなくしてしまった。
(まあ、後で聞けばいいわね)
先ほどの部屋へ戻ると正装に身を包んだイーサンとネイビルがいた。
「やあ、見違えたね」
「ふふ、綺麗でしょう」
「ああ、衣装がな、イテッ!!」
お決まりのような流れにフランは苦笑を堪えた。
「それではご案内致します」
侍従に案内された部屋に居たのは――。
「やあ、よく来たね」
銀髪に紫の瞳のとても美しい男性だった。
身に付けているものから彼が上流貴族か王族と察せられる。
(……どなたかしら?)
フランには身に覚えがなかった。
「これは、エドワール第3王子様にはご機嫌麗しく。ご依頼のとおり、サンシェルジュ侯爵令嬢をお連れいたしました」
(……え?)
それではこの方が依頼人か、とようやく分かったフランだったが、少しも接点が思い出せない。
フランが戸惑っていたのが分かったのだろう。
エドワール王子が少しだけ眉を上げた。
「そんな気はしていたけどね。俺は君と顔を合わせたことはあるよ」
(え、)
フランにはそんな記憶はないが、隣国とはいえ王族の顔を覚えてないなど大失態である。
「申し訳ござませんっ!!」
慌てて謝意を示したフランだったが、エドワール王子は、
「いいよ。実際に話したことはないんだから」
まるで言葉遊びのようなことを言い始めた。
(話したことはない、って……)
困惑するフランを見かねたのか、ネイビルが口を開きかけたがそれより早くエドワール王子の側に控えていた側近らしき青年が機先を制した。
「最初からお話しされた方がよろしいんじゃないですか、王子。ああ、俺はリーガル・クインです。エドワール王子の側近をしております」
茶色の髪に青い瞳のリーガルは快活な印象を与える青年だった。
「フラン・サンシェルジュにございます」
今更だがカーテシーを返しておく。
「そうだな。まず最初に……」
エドワールが懐古するように話し出した。
思いもよらない言葉にフランの思考が停止する。
「フリーネはよほどあの魔女に心酔していたようですね。イーサンから聞いたのですが、彼女はイーサンの攻撃から身を挺して魔女を守ったらしいんですよ」
(そんなことが――)
母娘にしか見えなかったのだが、どうやらそれだけではなかったらしい。
複雑な心境になっていると、ネイビルが、
「それでここからが肝心な話なんですが。貴女の保護を依頼された方はここサドウルク国の方なのですが、お心当たりはありませんか?」
そう言われてもフランの頭に浮かぶのはこちらで親しくしてくれたマーサくらいだった。
フランがそう答えると微妙な間が流れた。
「「「……」」」
(どうしたのかしら?)
「はははっ、こりゃいいやっ!!」
「ちょっ、笑い事じゃないだろうっ!!」
「そう言うサンドラだって笑ってるじゃないですか」
彼らの反応に相変わらず疑問符しか脳裏に浮かんでこないフランが困惑していると、扉が軽く叩かれた。
「どうぞ」
ネイビルが答えるとお仕着せを着た侍従がいた。
「お召替えをどうぞ」
(え、)
そんなことをされるとはもしかして位の高い貴族と面会でもあるのだろうか。
ではやはりフランのことを依頼した人物というのはかなりの地位にあるに違いない。
そんなフランの胸中をよそに、
「ああ。良かった。このまま会ってくれ、なんて言われたらあたしの中の紳士録、あの方のところ、評価だだ下がりになるところだった」
「それは怖いな」
茶化すようにサンドラが言うとネイビルがそう返した。
「安心して。ネイビルは評価高い方よ」
「はは、ありがとう」
「俺は?」
「え、聞きたいの?」
その言葉からして大体の予想はつく。
ガクン、と肩を落とすイーサン。
「まあまあ。それじゃあ行こうか」
ネイサンが取りなして待ちぼうけを食わせていた侍従に向き直る。
「こちらにございます」
案内された部屋は、男女別になっており、軽く身ぎれいにされた後、男女別に分かれて着替える。
フランに用意されたのは、水色のタフタで作られた衣装で、腰や肩、腕の線の辺りに繊細なひだが作られていた。
「失礼します」
少しでも身頃が余るとすぐに針子が整えてくれ、まるで受注生産品の扱いである。
(こんなにして貰っていいのかしら)
一度しか使わないのに、と申し訳なさが勝っているフランの隣ではサンドラが、
「わあ、綺麗ねぇ」
姿見に見入っていた。
ちなみにサンドラの衣装は緑色で、意匠はフランのものとは違い、身体の線を強調するような大きなひだが取られていた。
「ふふっ、まるで夜会にでも出る位の衣装だけど、随分気合入ってるわね」
含んだような言い方にフランが疑問を口にしようとした時、針子に『完成しました』と声を掛けられ、話の接ぎ穂をなくしてしまった。
(まあ、後で聞けばいいわね)
先ほどの部屋へ戻ると正装に身を包んだイーサンとネイビルがいた。
「やあ、見違えたね」
「ふふ、綺麗でしょう」
「ああ、衣装がな、イテッ!!」
お決まりのような流れにフランは苦笑を堪えた。
「それではご案内致します」
侍従に案内された部屋に居たのは――。
「やあ、よく来たね」
銀髪に紫の瞳のとても美しい男性だった。
身に付けているものから彼が上流貴族か王族と察せられる。
(……どなたかしら?)
フランには身に覚えがなかった。
「これは、エドワール第3王子様にはご機嫌麗しく。ご依頼のとおり、サンシェルジュ侯爵令嬢をお連れいたしました」
(……え?)
それではこの方が依頼人か、とようやく分かったフランだったが、少しも接点が思い出せない。
フランが戸惑っていたのが分かったのだろう。
エドワール王子が少しだけ眉を上げた。
「そんな気はしていたけどね。俺は君と顔を合わせたことはあるよ」
(え、)
フランにはそんな記憶はないが、隣国とはいえ王族の顔を覚えてないなど大失態である。
「申し訳ござませんっ!!」
慌てて謝意を示したフランだったが、エドワール王子は、
「いいよ。実際に話したことはないんだから」
まるで言葉遊びのようなことを言い始めた。
(話したことはない、って……)
困惑するフランを見かねたのか、ネイビルが口を開きかけたがそれより早くエドワール王子の側に控えていた側近らしき青年が機先を制した。
「最初からお話しされた方がよろしいんじゃないですか、王子。ああ、俺はリーガル・クインです。エドワール王子の側近をしております」
茶色の髪に青い瞳のリーガルは快活な印象を与える青年だった。
「フラン・サンシェルジュにございます」
今更だがカーテシーを返しておく。
「そうだな。まず最初に……」
エドワールが懐古するように話し出した。
160
あなたにおすすめの小説
【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります
禅
恋愛
妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。
せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。
普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……
唯一の味方は学友のシーナのみ。
アリーシャは幸せをつかめるのか。
※小説家になろうにも投稿中
これまでは悉く妹に幸せを邪魔されていました。今後は違いますよ?
satomi
恋愛
ディラーノ侯爵家の義姉妹の姉・サマンサとユアノ。二人は同じ侯爵家のアーロン=ジェンキンスとの縁談に臨む。もともとはサマンサに来た縁談話だったのだが、姉のモノを悉く奪う義妹ユアノがお父様に「見合いの席に同席したい」と懇願し、何故かディラーノ家からは二人の娘が見合いの席に。
結果、ユアノがアーロンと婚約することになるのだが…
【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……
しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」
そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。
魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。
「アリス様、冗談は止してください」
震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。
「冗談ではありません、エリック様ぁ」
甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。
彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。
「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」
この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。
聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。
魔法を使えないレナンとは大違いだ。
それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが……
「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」
そう言うレナンの顔色はかなり悪い。
この状況をまともに受け止めたくないようだ。
そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。
彼女の気持ちまでも守るかのように。
ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。
同名キャラで様々な話を書いています。
話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。
お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。
中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^)
カクヨムさんでも掲載中。
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
婚約破棄でかまいません!だから私に自由を下さい!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
第一皇太子のセヴラン殿下の誕生パーティーの真っ最中に、突然ノエリア令嬢に対する嫌がらせの濡れ衣を着せられたシリル。
シリルの話をろくに聞かないまま、婚約者だった第二皇太子ガイラスは婚約破棄を言い渡す。
その横にはたったいまシリルを陥れようとしているノエリア令嬢が並んでいた。
そんな2人の姿が思わず溢れた涙でどんどんぼやけていく……。
ざまぁ展開のハピエンです。
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる