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第12話

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(え……)

 思いもよらない言葉にフランの思考が停止する。

「フリーネはよほどあの魔女に心酔していたようですね。イーサンから聞いたのですが、彼女はイーサンの攻撃から身を挺して魔女を守ったらしいんですよ」

(そんなことが――)

 母娘にしか見えなかったのだが、どうやらそれだけではなかったらしい。

 複雑な心境になっていると、ネイビルが、

「それでここからが肝心な話なんですが。貴女の保護を依頼された方はここサドウルク国の方なのですが、お心当たりはありませんか?」

 そう言われてもフランの頭に浮かぶのはこちらで親しくしてくれたマーサくらいだった。

 フランがそう答えると微妙な間が流れた。

「「「……」」」

(どうしたのかしら?)

「はははっ、こりゃいいやっ!!」

「ちょっ、笑い事じゃないだろうっ!!」

「そう言うサンドラだって笑ってるじゃないですか」

 彼らの反応に相変わらず疑問符しか脳裏に浮かんでこないフランが困惑していると、扉が軽く叩かれた。

「どうぞ」

 ネイビルが答えるとお仕着せを着た侍従がいた。

「お召替えをどうぞ」

(え、)

 そんなことをされるとはもしかして位の高い貴族と面会でもあるのだろうか。

 ではやはりフランのことを依頼した人物というのはかなりの地位にあるに違いない。

 そんなフランの胸中をよそに、

「ああ。良かった。このまま会ってくれ、なんて言われたらあたしの中の紳士録、あの方のところ、評価だだ下がりになるところだった」

「それは怖いな」

 茶化すようにサンドラが言うとネイビルがそう返した。

「安心して。ネイビルは評価高い方よ」

「はは、ありがとう」

「俺は?」

「え、聞きたいの?」

 その言葉からして大体の予想はつく。

 ガクン、と肩を落とすイーサン。

「まあまあ。それじゃあ行こうか」

 ネイサンが取りなして待ちぼうけを食わせていた侍従に向き直る。

「こちらにございます」

 案内された部屋は、男女別になっており、軽く身ぎれいにされた後、男女別に分かれて着替える。

 フランに用意されたのは、水色のタフタで作られた衣装で、腰や肩、腕の線の辺りに繊細なひだが作られていた。

「失礼します」

 少しでも身頃が余るとすぐに針子が整えてくれ、まるで受注生産品の扱いである。

(こんなにして貰っていいのかしら)

 一度しか使わないのに、と申し訳なさが勝っているフランの隣ではサンドラが、

「わあ、綺麗ねぇ」

 姿見に見入っていた。

 ちなみにサンドラの衣装は緑色で、意匠はフランのものとは違い、身体の線を強調するような大きなひだが取られていた。

「ふふっ、まるで夜会にでも出る位の衣装だけど、随分気合入ってるわね」

 含んだような言い方にフランが疑問を口にしようとした時、針子に『完成しました』と声を掛けられ、話の接ぎ穂をなくしてしまった。

(まあ、後で聞けばいいわね)


 
 先ほどの部屋へ戻ると正装に身を包んだイーサンとネイビルがいた。

「やあ、見違えたね」

「ふふ、綺麗でしょう」

「ああ、衣装がな、イテッ!!」

 お決まりのような流れにフランは苦笑を堪えた。

「それではご案内致します」

 侍従に案内された部屋に居たのは――。

「やあ、よく来たね」

 銀髪に紫の瞳のとても美しい男性だった。

 身に付けているものから彼が上流貴族か王族と察せられる。

(……どなたかしら?)

 フランには身に覚えがなかった。

「これは、エドワール第3王子様にはご機嫌麗しく。ご依頼のとおり、サンシェルジュ侯爵令嬢をお連れいたしました」

(……え?)
 
 それではこの方が依頼人か、とようやく分かったフランだったが、少しも接点が思い出せない。

 フランが戸惑っていたのが分かったのだろう。

 エドワール王子が少しだけ眉を上げた。

「そんな気はしていたけどね。俺は君と顔を合わせたことはあるよ」

(え、)

 フランにはそんな記憶はないが、隣国とはいえ王族の顔を覚えてないなど大失態である。

「申し訳ござませんっ!!」

 慌てて謝意を示したフランだったが、エドワール王子は、

「いいよ。実際に話したことはないんだから」

 まるで言葉遊びのようなことを言い始めた。

(話したことはない、って……)

 困惑するフランを見かねたのか、ネイビルが口を開きかけたがそれより早くエドワール王子の側に控えていた側近らしき青年が機先を制した。

「最初からお話しされた方がよろしいんじゃないですか、王子。ああ、俺はリーガル・クインです。エドワール王子の側近をしております」

 茶色の髪に青い瞳のリーガルは快活な印象を与える青年だった。

「フラン・サンシェルジュにございます」

 今更だがカーテシーを返しておく。

「そうだな。まず最初に……」

 エドワールが懐古するように話し出した。





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