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第15話
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「ようこそおいで下さいました」
一国の王子がいるせいか、ミリオナ国では丁重に持て成された。
ミリオナ国王との謁見では、フランが魔女の被害に遭っていたことが早々に暴露されるのと同時に以前の婚約破棄の件は無効とされる流れになりかけたが。
「恐れながら。こちらのフラン・サンシェルジュ侯爵令嬢と婚約の儀を行いたいと思っております。どうか良しなに」
すかさずエドワール王子が入り込み、フランとの婚約をミリオナ国王へ打診した。
「突然のことで驚かれたとは思いますが、サンシェルジュ侯爵にもそのように取り計らいのこと、よろしくお願い致します」
その場にいたサンシェルジュ侯爵に話を持っていくことも忘れない。
サンシェルジュ侯爵は憔悴した様子が見られたものの、会話はきちんとできるようでエドワール王子の言葉に『かしこまりまして』と答えていた。
(お父様……)
事情を知った今ではあの態度もある程度納得はできたが、まだフランの中には蟠りが残っていた。
「お前にも済まなかったな」
「いいえ」
父であるサンシェルジュ侯爵に謝罪され、フランが返事をした時だった。
「お待ちくださいっ!!」
謁見の間にアール王子が乱入して来た。
「そこのフランは俺の婚約者です!! あの魔女のせいで正確な判断が出来なくなっていただけで、俺はフランを愛してますっ!!」
(……は?)
思いもよらない告白にフランが呆気に取られていると、衛兵が駆けつけるより早くアール王子がフランの手を取った。
「これまで本当に済まなかった。俺は君だけを愛してるんだ」
愛しているのはフランの仕事の手腕ではないのか。
手のひらを返したようなアール王子の態度に、フランは、
(気持ち悪い)
としか思えなかった。
そのアール王子の手が即座に払われる。
「何を勘違いしているのか知らないけど、君とフランのことは既に終わったことなんだよ。今は俺がフランの婚約者だ」
きっぱりと告げるエドワール王子にアール王子が殺気とも言える視線を向けた。
「はあ? フランの婚約者は俺だろうっ!!」
喚くアール王子が漸く衛兵に拘束された。
「おいっ、何をするっ!? 俺は王族だぞっ!!」
「見苦しいぞ。アール。報告は聞いておる。貴様は王族の役割を何だと思っているのだ。婚約者は仕事を肩代わりさせる存在ではない。お前の王位継承権を剥奪し、王族からも除籍する。以後は北の塔にて謹慎せよ」
「なっ、俺は――」
「連れて行け」
「はっ!!」
ミリオナ国王が厳しい口調で命じ、アール王子はそのまま連行されて行った。
「さて、サンシェルジュ侯爵令嬢には本当に済まないことをしてしまったな。詫びに他の良い縁談をと思っておったが、既に新しい婚約者がおるようだし」
婚約祝いは何がよいかの。
穏やかに続けられてフランは、
「勿体ないお言葉にございます」
暗に祝いは要らない、と告げようとしたのだが、エドワール王子が、
「それでは、この婚姻に関しての正当な扱いを望みます」
「ほお? 正当な扱いとな?」
「はい。元々あったこちらの元王子との婚約は王子側に瑕疵があり、そのために婚約破棄となり、こちらのフラン・サンシェルジュ侯爵令嬢には何の瑕疵もばい、ということを周知して欲しいのです」
確かに内容的にはその通りなのだが、ミリオナ国側としては自国の元とはいえ、王族の不祥事である。
そこはあまり公にしたくはないのでは、とフランは思ったが。
「ふむ。致し方あるまい。そこはそちらの要求を呑もう」
(え?)
以外にもあっさりと了承が得られ、フランは目を見開いた。
その後、話はとんとん拍子に進み、フランは支度ができ次第、隣国へ赴くことになった。
その陰には実家であるサンシェルジュ侯爵家がとても住める環境にない、と言うことも一因していた。
ただ住むだけなら仮の住居があるが、フランは第3王子に嫁ぐのだ。
王子妃教育なり、何なり支度が要る。
そこでサドウルク国で様々な事柄を学びながら、婚約者として日々を送ればいいのではないか、という結論に至った。
フランとしてはもちろん何の異論もない。
ないのだが。
(サンドラが聞いたら眦を吊り上げて怒りそうね)
貴女騙されてるわよっ、と怒鳴るサンドラの顔が浮かびそうになってフランは唇の端が上がりそうになるのを堪えた。
「……フラン?」
「いえ、何でもありません。エドワール様」
「できれば様付けはしないで欲しいんだけど。漸く君の婚約者に成れたのに」
諸々のことはあったが、フランとエドワールは明日の朝にはサドウルク国へ向け、出発することが決まっていた。
王城での部屋割りはもちろん別だったが、こうして何かと用を見付けてはエドワール王子が訪ねて来ていたのだ。
だが、それもこの時までだった。
夜も遅い時間なので、部屋の隅に控えていた侍女がこほん、と小さく咳ばらいをした。
「じゃあ、俺はもう行くよ、また明日ね。フラン」
「はい。エドワール王……エドワール」
「おしい。出来ればエドと呼んで欲しかったのに」
「それは無理です」
軽く言い合いながらエドワールを廊下へ見送ったフランは小さく息をついた。
(何だか信じられないわ)
明日には自分は隣国の王子の婚約者としてサドウルク国へ向かう。
(ついこの間まで明日をどうやって乗り切ろうかと思っていたのに……マーサさん、会いたいな)
余裕ができたフランの脳裏に気さくなマーサの顔が浮かんだ。
(同じ国だもの。機会があったら――)
難しいかもしれない。
マーサが何度も言っていたように彼女は平民だし、今の自分は侯爵令嬢。
(お礼くらい言いたかったな)
最後に会ったのが、あんな心配させる場面だったなんて。
などと思っていたフランは知る由もなかった。
フランの動向を気に掛けていたエドワールがマーサの存在を知らぬはずがなく、サドウルク国での挙式の際にマーサと顔を会わせる機会が巡って来るなど、知る由もなかった。
そして――。
「ああもうっ!! やっぱりこうなるんじゃないかと思ってたけど、王族の婚姻でわずか半年、ってどんだけなのよっ!!」
と、挙式に呼ばれていたサンドラの指に結婚指輪を見付けてしまったフランがうっかり指摘してしまい、照れ隠しvs自信過剰の夫婦喧嘩が勃発することも。
今のフランには知る由もないことだった。
( 完 )
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お読みいただき有難うございました(人''▽`)♪
いずれ番外を書くかもしれませんが、これにて完結とさせていただきます(*- -)(*_ _)
一国の王子がいるせいか、ミリオナ国では丁重に持て成された。
ミリオナ国王との謁見では、フランが魔女の被害に遭っていたことが早々に暴露されるのと同時に以前の婚約破棄の件は無効とされる流れになりかけたが。
「恐れながら。こちらのフラン・サンシェルジュ侯爵令嬢と婚約の儀を行いたいと思っております。どうか良しなに」
すかさずエドワール王子が入り込み、フランとの婚約をミリオナ国王へ打診した。
「突然のことで驚かれたとは思いますが、サンシェルジュ侯爵にもそのように取り計らいのこと、よろしくお願い致します」
その場にいたサンシェルジュ侯爵に話を持っていくことも忘れない。
サンシェルジュ侯爵は憔悴した様子が見られたものの、会話はきちんとできるようでエドワール王子の言葉に『かしこまりまして』と答えていた。
(お父様……)
事情を知った今ではあの態度もある程度納得はできたが、まだフランの中には蟠りが残っていた。
「お前にも済まなかったな」
「いいえ」
父であるサンシェルジュ侯爵に謝罪され、フランが返事をした時だった。
「お待ちくださいっ!!」
謁見の間にアール王子が乱入して来た。
「そこのフランは俺の婚約者です!! あの魔女のせいで正確な判断が出来なくなっていただけで、俺はフランを愛してますっ!!」
(……は?)
思いもよらない告白にフランが呆気に取られていると、衛兵が駆けつけるより早くアール王子がフランの手を取った。
「これまで本当に済まなかった。俺は君だけを愛してるんだ」
愛しているのはフランの仕事の手腕ではないのか。
手のひらを返したようなアール王子の態度に、フランは、
(気持ち悪い)
としか思えなかった。
そのアール王子の手が即座に払われる。
「何を勘違いしているのか知らないけど、君とフランのことは既に終わったことなんだよ。今は俺がフランの婚約者だ」
きっぱりと告げるエドワール王子にアール王子が殺気とも言える視線を向けた。
「はあ? フランの婚約者は俺だろうっ!!」
喚くアール王子が漸く衛兵に拘束された。
「おいっ、何をするっ!? 俺は王族だぞっ!!」
「見苦しいぞ。アール。報告は聞いておる。貴様は王族の役割を何だと思っているのだ。婚約者は仕事を肩代わりさせる存在ではない。お前の王位継承権を剥奪し、王族からも除籍する。以後は北の塔にて謹慎せよ」
「なっ、俺は――」
「連れて行け」
「はっ!!」
ミリオナ国王が厳しい口調で命じ、アール王子はそのまま連行されて行った。
「さて、サンシェルジュ侯爵令嬢には本当に済まないことをしてしまったな。詫びに他の良い縁談をと思っておったが、既に新しい婚約者がおるようだし」
婚約祝いは何がよいかの。
穏やかに続けられてフランは、
「勿体ないお言葉にございます」
暗に祝いは要らない、と告げようとしたのだが、エドワール王子が、
「それでは、この婚姻に関しての正当な扱いを望みます」
「ほお? 正当な扱いとな?」
「はい。元々あったこちらの元王子との婚約は王子側に瑕疵があり、そのために婚約破棄となり、こちらのフラン・サンシェルジュ侯爵令嬢には何の瑕疵もばい、ということを周知して欲しいのです」
確かに内容的にはその通りなのだが、ミリオナ国側としては自国の元とはいえ、王族の不祥事である。
そこはあまり公にしたくはないのでは、とフランは思ったが。
「ふむ。致し方あるまい。そこはそちらの要求を呑もう」
(え?)
以外にもあっさりと了承が得られ、フランは目を見開いた。
その後、話はとんとん拍子に進み、フランは支度ができ次第、隣国へ赴くことになった。
その陰には実家であるサンシェルジュ侯爵家がとても住める環境にない、と言うことも一因していた。
ただ住むだけなら仮の住居があるが、フランは第3王子に嫁ぐのだ。
王子妃教育なり、何なり支度が要る。
そこでサドウルク国で様々な事柄を学びながら、婚約者として日々を送ればいいのではないか、という結論に至った。
フランとしてはもちろん何の異論もない。
ないのだが。
(サンドラが聞いたら眦を吊り上げて怒りそうね)
貴女騙されてるわよっ、と怒鳴るサンドラの顔が浮かびそうになってフランは唇の端が上がりそうになるのを堪えた。
「……フラン?」
「いえ、何でもありません。エドワール様」
「できれば様付けはしないで欲しいんだけど。漸く君の婚約者に成れたのに」
諸々のことはあったが、フランとエドワールは明日の朝にはサドウルク国へ向け、出発することが決まっていた。
王城での部屋割りはもちろん別だったが、こうして何かと用を見付けてはエドワール王子が訪ねて来ていたのだ。
だが、それもこの時までだった。
夜も遅い時間なので、部屋の隅に控えていた侍女がこほん、と小さく咳ばらいをした。
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「はい。エドワール王……エドワール」
「おしい。出来ればエドと呼んで欲しかったのに」
「それは無理です」
軽く言い合いながらエドワールを廊下へ見送ったフランは小さく息をついた。
(何だか信じられないわ)
明日には自分は隣国の王子の婚約者としてサドウルク国へ向かう。
(ついこの間まで明日をどうやって乗り切ろうかと思っていたのに……マーサさん、会いたいな)
余裕ができたフランの脳裏に気さくなマーサの顔が浮かんだ。
(同じ国だもの。機会があったら――)
難しいかもしれない。
マーサが何度も言っていたように彼女は平民だし、今の自分は侯爵令嬢。
(お礼くらい言いたかったな)
最後に会ったのが、あんな心配させる場面だったなんて。
などと思っていたフランは知る由もなかった。
フランの動向を気に掛けていたエドワールがマーサの存在を知らぬはずがなく、サドウルク国での挙式の際にマーサと顔を会わせる機会が巡って来るなど、知る由もなかった。
そして――。
「ああもうっ!! やっぱりこうなるんじゃないかと思ってたけど、王族の婚姻でわずか半年、ってどんだけなのよっ!!」
と、挙式に呼ばれていたサンドラの指に結婚指輪を見付けてしまったフランがうっかり指摘してしまい、照れ隠しvs自信過剰の夫婦喧嘩が勃発することも。
今のフランには知る由もないことだった。
( 完 )
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