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第14話
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「その前にちょーっと確認いいですかぁ?」
サンドラが据わった目でエドワール王子を見た。
「何かな?」
「あたし達は両想いのお二方の支援をする、ってことで依頼を受けたんだと思ったんですけどね」
下から睨めつけるようにサンドラが言い放つ。
確かにこれは『両想い』とはかけ離れた状況である。
下手な答えは許さない、というサンドラの問い掛けに、
「誤差の範囲だな」
「全っ然違うでしょーがっ!!」
しれっと答えたエドワール王子の言を聞いたサンドラの叫びが響き渡った。
「元々、あの魔女の件であたし達は動いてたんですけど、そこにサンシェルジュ侯爵令嬢が巻き込まれてる、と聞いた途端、彼女を救え、の一点張りだったくせに、本人にエドワール王子のこと伝えていいですか、って聞いたら即座に断られたから、なーんかやな予感はしてたんですけどねっ」
これはないでしょう、と続けたサンドラに、
「誤差の範囲だな」
今度はイーサンが答えた。
「ちっがーうっ!! ってか何であんたが答えるのよっ!!」
「これから先は当人同士で話し合えばいいんじゃないのか?」
すかさず食ってかかろうとしたサンドラに、意外なところから声が掛かった。
「まあ、それも一理あるかな」
「ちょっ、ネイビルまでっ!!」
「いやまあ、俺達平民には王族だの貴族様だのの物の道理は分からないしね。あんな魔女の魅了にあっさりかかるほどのおバ……王子に比べたらこちらの方がまだマシなんじゃないかな」
ネイビルによると、ローズの『魅了』はここ最近、かなり質が落ちてきているのだそうだ。
「あれはそうそう連発する魔法でもないしね。あの水準にかかるなんて余程のうっかりさんか、体力が落ちている人しか有り得ないよ」
ネイビルの言葉にサンドラが、
「ああもうっ、それじゃあ貴女自身はどうなの?」
(え、)
問われてフランがエドワール王子の方を見る。
確かに悪い人ではなさそうだけど、今フランが言えるのはそれだけだ。
ただ――。
今でも何だか慈しむような視線を感じて何だか面はゆい気分にはなる。
なので、
「あまりお話もしたことがないので何とも言えないのですが、悪い方ではないと思います」
今のフランに答えられるのはこれで精一杯だ。
「それで充分だよ。それじゃあ会いに行こうか」
戸惑いを隠せないフランの手をエドワール王子が取った。
「会いに行く、というのは……」
「もちろん、父上さ。事前に約束は取り付けてある」
「だからぁ、そこは手順踏んで上げなさいってばっ!! どこぞの王子みたいに逃げられたいのっ!?」
もはや敬語ですらなくなったサンドラが止めた。
するとイーサンが考え込むように、
「いや、この場合手早く婚約した方がいいんじゃないか」
「はあ?」
すっかりフランの保護者と化したサンドラが睨め付けるが、
「あいつの件は恐らく秘密裏に処分されるだろうが、ローズという養女やフリーネという継母の存在は残る。ご令嬢が傷つかないよう、養女としたローズに瑕疵があったとか何とかして離縁した、ということにでも収まれば、ご令嬢と婚約したいという貴族は幾らでも現れるだろうな」
「ちょっ、何であんたがそんなこと――ああ、あんたのご両親って」
「以前は侯爵だったからな。……あの魔女にやられる前は」
湿っぽい雰囲気になりかけたが、
「じゃあそういうことで」
エドワール王子が再びフランの手を取った。
「だから待ちなさいってっ!!」
結局、サドウルク国王との謁見は行われたが、フランとの正式な婚約発表はサンシェルジュ侯爵の了承を得てから、となった。
サドウルク国王がフランの方を感慨深げに見る。
「そなたがフランか。エドワールから話は聞いておったぞ」
苦笑を含んだ笑みに、フランは一体どんな話かと気になったが、
「恐悦至極にございます」
無難な挨拶をしておいた。
(一体何を話されたのかしら)
その後、イーサン達とは別れ、フランはミリオナ国へ帰国することになった。
「いい? 何かされたらすぐにあたしに連絡するのよ」
サンドラが強く念を押すように言ってきた。
「ありがとうございます。でも、流石にもうそんなことはないと思うのでサンドラさんも道中お気を付けて」
「ううっ、こんないい娘が何であんな腹ぐ……、こほん。じゃあ、本当に気を付けてね」
「まあ、世の中には知らなくていいことがありますからね」
「そうだな。例えば誰かさんの貧相な――」
イーサンの台詞はサンドラの鉄拳により遮られた。
「……貧相な、何ですって?」
「誰もおまえとは言ってないだろう。というか反応する辺り心当たりが――」
その後の会話は激しい闘いの擬音めいたものとなったので、当事者達以外には判別がつかなくなった。
「おーい。転移陣の準備ができたんだが」
頃合いを見計らったネイビルが声を掛け、ようやく擬音が止んだ。
報告があるため、イーサン達が先に転移陣を使うことになった。
「じゃあ、元気でね」
「はい、サンドラさんも」
「お気を付けて」
「ありがとうございます。ネイビルさん」
「達者でな」
「はい。イーサンさんも」
ちなみにローズは蔦まみれではないが、魔力封じの拘束具でしっかりと捕縛され、床に転がされている。
詠唱できないよう、猿ぐつわもしっかりされているが、まだこちらを恨めし気に見ている様子から反省のかけらもないと分かった。
転移陣が発動する。
一瞬で消えた彼らがいた空間をぼんやり眺めているフランに、
「名残り惜しかったかな?」
エドワール王子に聞かれ、フランは首を振った。
「いいえ。私達も行きましょう」
転移陣の先はミリオナ国の王城へ繋がっている。
(まさか、ここに来て帰るなんて思わなかった)
「ああ」
エドワール王子が言ってフランの肩を抱こうとした。
(えっと……)
反射的にびく、としたのが分かったのか、寸前で手は離れてくれた。
フランはひとりで帰国するつもりだったのだが、エドワール王子がどうしてもサンシェルジュ侯爵に挨拶がしたい、と言ってこうなったのだ。
(いいのかしら)
流されているような気もしないでもないが、これから行く先に彼がいると思うとやはり、ひとりではないというのは心強かった。
そんなフランの思いも乗せ、転移陣が発動した。
サンドラが据わった目でエドワール王子を見た。
「何かな?」
「あたし達は両想いのお二方の支援をする、ってことで依頼を受けたんだと思ったんですけどね」
下から睨めつけるようにサンドラが言い放つ。
確かにこれは『両想い』とはかけ離れた状況である。
下手な答えは許さない、というサンドラの問い掛けに、
「誤差の範囲だな」
「全っ然違うでしょーがっ!!」
しれっと答えたエドワール王子の言を聞いたサンドラの叫びが響き渡った。
「元々、あの魔女の件であたし達は動いてたんですけど、そこにサンシェルジュ侯爵令嬢が巻き込まれてる、と聞いた途端、彼女を救え、の一点張りだったくせに、本人にエドワール王子のこと伝えていいですか、って聞いたら即座に断られたから、なーんかやな予感はしてたんですけどねっ」
これはないでしょう、と続けたサンドラに、
「誤差の範囲だな」
今度はイーサンが答えた。
「ちっがーうっ!! ってか何であんたが答えるのよっ!!」
「これから先は当人同士で話し合えばいいんじゃないのか?」
すかさず食ってかかろうとしたサンドラに、意外なところから声が掛かった。
「まあ、それも一理あるかな」
「ちょっ、ネイビルまでっ!!」
「いやまあ、俺達平民には王族だの貴族様だのの物の道理は分からないしね。あんな魔女の魅了にあっさりかかるほどのおバ……王子に比べたらこちらの方がまだマシなんじゃないかな」
ネイビルによると、ローズの『魅了』はここ最近、かなり質が落ちてきているのだそうだ。
「あれはそうそう連発する魔法でもないしね。あの水準にかかるなんて余程のうっかりさんか、体力が落ちている人しか有り得ないよ」
ネイビルの言葉にサンドラが、
「ああもうっ、それじゃあ貴女自身はどうなの?」
(え、)
問われてフランがエドワール王子の方を見る。
確かに悪い人ではなさそうだけど、今フランが言えるのはそれだけだ。
ただ――。
今でも何だか慈しむような視線を感じて何だか面はゆい気分にはなる。
なので、
「あまりお話もしたことがないので何とも言えないのですが、悪い方ではないと思います」
今のフランに答えられるのはこれで精一杯だ。
「それで充分だよ。それじゃあ会いに行こうか」
戸惑いを隠せないフランの手をエドワール王子が取った。
「会いに行く、というのは……」
「もちろん、父上さ。事前に約束は取り付けてある」
「だからぁ、そこは手順踏んで上げなさいってばっ!! どこぞの王子みたいに逃げられたいのっ!?」
もはや敬語ですらなくなったサンドラが止めた。
するとイーサンが考え込むように、
「いや、この場合手早く婚約した方がいいんじゃないか」
「はあ?」
すっかりフランの保護者と化したサンドラが睨め付けるが、
「あいつの件は恐らく秘密裏に処分されるだろうが、ローズという養女やフリーネという継母の存在は残る。ご令嬢が傷つかないよう、養女としたローズに瑕疵があったとか何とかして離縁した、ということにでも収まれば、ご令嬢と婚約したいという貴族は幾らでも現れるだろうな」
「ちょっ、何であんたがそんなこと――ああ、あんたのご両親って」
「以前は侯爵だったからな。……あの魔女にやられる前は」
湿っぽい雰囲気になりかけたが、
「じゃあそういうことで」
エドワール王子が再びフランの手を取った。
「だから待ちなさいってっ!!」
結局、サドウルク国王との謁見は行われたが、フランとの正式な婚約発表はサンシェルジュ侯爵の了承を得てから、となった。
サドウルク国王がフランの方を感慨深げに見る。
「そなたがフランか。エドワールから話は聞いておったぞ」
苦笑を含んだ笑みに、フランは一体どんな話かと気になったが、
「恐悦至極にございます」
無難な挨拶をしておいた。
(一体何を話されたのかしら)
その後、イーサン達とは別れ、フランはミリオナ国へ帰国することになった。
「いい? 何かされたらすぐにあたしに連絡するのよ」
サンドラが強く念を押すように言ってきた。
「ありがとうございます。でも、流石にもうそんなことはないと思うのでサンドラさんも道中お気を付けて」
「ううっ、こんないい娘が何であんな腹ぐ……、こほん。じゃあ、本当に気を付けてね」
「まあ、世の中には知らなくていいことがありますからね」
「そうだな。例えば誰かさんの貧相な――」
イーサンの台詞はサンドラの鉄拳により遮られた。
「……貧相な、何ですって?」
「誰もおまえとは言ってないだろう。というか反応する辺り心当たりが――」
その後の会話は激しい闘いの擬音めいたものとなったので、当事者達以外には判別がつかなくなった。
「おーい。転移陣の準備ができたんだが」
頃合いを見計らったネイビルが声を掛け、ようやく擬音が止んだ。
報告があるため、イーサン達が先に転移陣を使うことになった。
「じゃあ、元気でね」
「はい、サンドラさんも」
「お気を付けて」
「ありがとうございます。ネイビルさん」
「達者でな」
「はい。イーサンさんも」
ちなみにローズは蔦まみれではないが、魔力封じの拘束具でしっかりと捕縛され、床に転がされている。
詠唱できないよう、猿ぐつわもしっかりされているが、まだこちらを恨めし気に見ている様子から反省のかけらもないと分かった。
転移陣が発動する。
一瞬で消えた彼らがいた空間をぼんやり眺めているフランに、
「名残り惜しかったかな?」
エドワール王子に聞かれ、フランは首を振った。
「いいえ。私達も行きましょう」
転移陣の先はミリオナ国の王城へ繋がっている。
(まさか、ここに来て帰るなんて思わなかった)
「ああ」
エドワール王子が言ってフランの肩を抱こうとした。
(えっと……)
反射的にびく、としたのが分かったのか、寸前で手は離れてくれた。
フランはひとりで帰国するつもりだったのだが、エドワール王子がどうしてもサンシェルジュ侯爵に挨拶がしたい、と言ってこうなったのだ。
(いいのかしら)
流されているような気もしないでもないが、これから行く先に彼がいると思うとやはり、ひとりではないというのは心強かった。
そんなフランの思いも乗せ、転移陣が発動した。
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