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第5話
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街の門が開くのは早くでも朝である。
この王都ケネルでもそれは変わらないのであたしは他の店が開くかどうかチェックもしつつ、門が開くのを待っていた。
(もし店が早く開くなら服とか欲しい)
できるだけ地味な服を選んできたつもりだけど、何せ基準が公爵家。
(絶対貴族、ってバレるよね)
もし早く開くお店があるならフードだけでも購入してこの目立つ容姿も隠しておきたかった。
本当ならもっと様子を見た方がよかったかもしれない。
だけど、早く行動した方がいい、と心のどこかで本能が訴えかけてくるのだ。
こういった第6感を無視していい目にあったことなどなかったので、この予感を信じることにした。
(ええと、ここから南西に行くと次の街フレンがあるのよね)
王都には負けるが冒険者ギルドも商業者ギルドもある。
あたしはフレンの冒険者ギルドで冒険者登録をするつもりだった。
(徒歩でも行ける、っていうのがいいよね)
半日くらいで着けるみたいだけど、イザベラは貴族令嬢だし。
(身体強化はどこまでできるんだろう)
何となくだけど、身体の内に感じる魔力が増えてきているような気がする。
(もしかしてこれが転生特典?)
いやだったらせめて乙女ゲームは勘弁してほしかったな、とか諸々考えているうちに夜が明けた。
辺りに目を向けるもやはりなかなか開いている店は――、あったっ!!
あたしはすぐにそこへ駆け込み、地味な色合いのシャツとパンツ(こちらでは女性は必ず足首までの丈のスカートなので変な目で見られたけど、作業着だといってごまかした)、そして念願のフードを購入することにした。
(これで顔を隠せるっ!!)
早速持参していた古着を数枚売って路銀の足しにした。
(100ユールでパン一個、だから1ユールは向こうでの1円くらいなのかな)
手元に残ったのは5650ユール。
次の街ですぐに冒険者登録したほうがいいかも。
店の奥を借りて着替えるとちょっと小柄な男性といっても何とか通るくらいには見えた。
(これでフードを被れば完璧ね)
流石に最初に街を出て門番達の記憶に残るつもりはなかったので、何人か見送ってから門に近付いた。
ほどよく街を出る人が固まっていたのでそこに潜り込む。
街を出る際には料金は取られないので助かった。
それでもフードを被り、俯きがちになるのは避けられなかった。
(ごめんなさい。お父様)
フォーンドット公爵邸ではまだあたしがいなくなったことは分からないだろう。
書置きは残してきたが、やはり無責任だったかも、と思う。
(だけどどうしても自分の力を試してみたかったから)
前世であたしは自分の意見が言えなかった。
小心者だということもあったけれど、人と対立するのが苦手で周りに合わせているうちに自分の意思がないように思えてきた。
(今度はそんなことになりたくない)
隣国の第2王子に嫁ぐのがこの場合の最適解だというのは分かっている。
(だけど――)
また向こうの気が変わったら?
やっぱり違う相手がいい、と言われたら?
野に放り出されるのはあたしだ。
一応公爵家なのだからひどいことにはならないかもしれないけれど、あたしの意思が少しも入っていない選択肢は嫌だった。
(貴族なら当たり前なんだろうな)
自分で食い扶持くらい稼いでおきたかった。
それがどんなに難しいことでも。
幸いなことにフレンまでの道は高低差が少なく、歩きやすかった。
何とかフレンに入り、門番に入場料の50ユールを払う。
(うーん、地味に痛いかも)
冒険者登録をしていると無料になるはずなので、急いでギルドを探すと、それっぽい建物が見えた。
(あそこかな)
剣と西洋の竜が交差している看板がかかっている。
(よし)
早速、と思ったときあたしのお腹がぐう、と鳴った。
そう言えば朝から何も口にしていない。
時刻はそろそろお昼時で、あちらこちらから煮炊きするいい匂いがしていた。
王都ほどではないけれど、それなりに賑わっているようで出店も出ていた。
中でも焼いた肉を串に刺したものが前世の焼き鳥っぽいので早速一本購入。
道の端に寄って早速ぱくり。
(やっぱり味付けは違うか。何だろ塩の効いた……鶏肉よりは歯ごたえのある肉って)
それと塩パンみたいなものを購入してそれで何とかお腹は膨れたけれど。
(前世の味覚が蘇るとちょっときついかも)
余計な(個人的には切実な)ことを考えながら改めてギルドの扉を開ける。
奥にカウンターがあり、手前にはテーブルと椅子のセットが4つほど並べられたそこは今はほとんど人がいなかった。
(お昼だからかな)
テンプレのイベントがないようなのでほっとしながら受付と見られるカウンターへ向かう。
受付にはお姉さんがいた。
「当ギルドへようこそ。ご用件をどうぞ」
赤毛の髪を根元で括っていて薄化粧をしている。
(うん。お仕事はきちんとする人みたい)
「冒険者登録をお願いしたいのですが」
「少々お待ちください」
何やらごそごそとしているなと思っていたら、水晶玉が出て来た。
(ああ、これに手を当てて適性とか見るのね)
あたしがそう思っているとお姉さんが同じことを告げた。
「こちらに手を当てて下さい」
「はい」
言われたとおりにする。
(あ、ここで公爵令嬢とかバレたらどうしようっ!!)
今更なことに内心焦っていると、
「もう結構ですよ」
言われて手を離す。
「成人されているようですし、犯罪歴もないようですね。ではこの書類に署名をどうぞ」
促されて書類に目を通す。
後で知ったのだけど、ギルドの水晶ってあまり詳しいことは見ないとのこと。
何でも以前、ステータスがあまりにも高い冒険者がいて水晶が割れたことがあり、それ以降特に怪しいと思われる人物以外には簡易版の水晶を使うようになったらしい。
(水晶割った人、ナイスッ!!)
書類には冒険者としての基本的な心構え等が書かれているようなのでじっくり読んでから署名した。
「できました」
書類を渡すとタグを渡された。
「こちらは身分証になります」
ランク別に素材が異なるようで、SSランクになると希少素材のオリハルコンになるそうだけど、やっぱりそんな人は国に一人いるかいないかで、Sランクで金、Aランクで銀と続き、Fランクは木製になるそうだ。
当然あたしはFランクからなので木製のタグである。
名を聞かれてあたしは『ステラ』と答えた。
前世のラテン語で『星』という意味だと思ったけれど、響きが好きだったから。
「紛失されると再発行に日数と手数料がかかりますのでご注意下さい」
「分かりました」
では早速、と依頼が貼られているいる掲示板を覗きに行くと、殆どなかった。
聞くと大体朝早くから皆来て、割のいいものは早い者勝ちみたいなところがあるという。
(だから、人いなかったんだ)
Fランクでもできるとなると、薬草摘み位しか思いつかないので探してみるがやっぱりな――あった!!
掲示板の隅っこにだけど、一枚だけ残っていたそれを見るとやっぱり薬草の依頼で、資格のところに『Fランク~』とあった。
(よかった)
依頼を受ける旨を受付のお姉さんに伝えてギルドを後にする。
(さて、と)
街を出る際には料金は発生しないのでさっさと門を抜けて草原へと来たのだけど。
(……ないなあ)
街が見える範囲には薬草らしきものは見当たらなかった。
依頼された薬草はギルドでどんなものか確認したので見過ごすはずはない。
受付のお姉さんがそれほど難しいものではない、と言っていたところからっ考えると恐らく取り尽くされたのだろう。
(もう少し奥へ行ってみる?)
近くに森が見えるが、魔物のことを考えるとあまり足を踏み入れたくはなかった。
(でも確かイザベラもあったよね、攻撃魔法)
イザベラ・フォーンドットが得意とするのは水魔法で、確か氷魔法のアイスアローやアイスランスも使えたはず。
(でも威力がなあ)
実習もあったみたいだけど、実戦とは違うせいかそれほど威力のあるものではなかったような。
あたしは辺りをぐるりと見渡して誰もないことを確認してから詠唱してみた。
「アイスアロー」
本当は長い言葉があったけど割愛。
何故か知らないけどこれでも大丈夫な気がしたから。
身体の内から熱いものが流れ、形になるのが分かる。
それらは何十本もの矢となって草原に突き刺さった。
(うわあ)
イザベラの記憶よりめっちゃ多いんですが。
(チートか)
取り敢えずこの位できればこの辺りにいる魔物位ならなんとかなるはず。
自信を付けたあたしは森へと足を踏み入れた。
街から続いていた小道は森の中へも続いていた。
(これを辿れば帰りも大丈夫よね)
少し余裕が出て来たので辺りを探すが薬草は見当たらない。
(やっぱりもっと奥行かないとだめなのかな)
本当はあまり行きたくない。
だけど依頼を果たさないと報酬が貰えない。
ジレンマである。
(……)
ふう、と息をついてあたしは更に森の奥へと足を向けた。
小道がだんだんと心もとないものになってきた頃、ようやく依頼書にあった薬草を見付けた。
スズランに似ているけど花の色は黄色で、その根が欲しいらしい。
(ってことはここは当然根元から、っと)
何とか依頼された数を採取し終えた時だった。
(ん? 何か陽が陰ってきた?)
反射的に顔を上げるとでかいトカゲみたいな魔物がいた。
上腕は翼になっているそれはおそらく小ぶりなワイバーン。
(ぎゃあっ、近いっ!!)
「アイスアローッ!!」
先手必勝とばかりに詠唱したあたしのアイスアローがワイバーン目掛けて飛んで行く。
(よし、行けっ!!)
だが渾身のアイスアローは致命傷とはならなかったらしく、ワイバーンがその勢いのまま突進してくる。
(ちっ、やっぱり威力が分散されたみたいね。となると――)
必死に戦略を練り、あたしは次の攻撃魔法を頭の中でシュミレーションした。
(あいつが至近距離に来た時にアイスランスを食らわせる)
シンプルだけどこの方がいいかもしれない。
冷静に詠唱時間と距離を測る。
(――今だっ!!)
「アイスランスッ!!」「フローズンカッターッ!!」
あたしがアイスランスを出すのとほとんど同時に氷の刃がワイバーンの頭と胴を切り離した。
「……」
重い音を立てて倒れたワイバーンを前に動けないでいると、とても聞き覚えのあるバリトンが聞こえた。
「無事か?」
前夜の卒業パーティーとは全然違う質素な身なりで髪型も違うけれど、見間違えるはずがない。
何故か隣国の第2王子のケイン王子がいるんですけど。
この王都ケネルでもそれは変わらないのであたしは他の店が開くかどうかチェックもしつつ、門が開くのを待っていた。
(もし店が早く開くなら服とか欲しい)
できるだけ地味な服を選んできたつもりだけど、何せ基準が公爵家。
(絶対貴族、ってバレるよね)
もし早く開くお店があるならフードだけでも購入してこの目立つ容姿も隠しておきたかった。
本当ならもっと様子を見た方がよかったかもしれない。
だけど、早く行動した方がいい、と心のどこかで本能が訴えかけてくるのだ。
こういった第6感を無視していい目にあったことなどなかったので、この予感を信じることにした。
(ええと、ここから南西に行くと次の街フレンがあるのよね)
王都には負けるが冒険者ギルドも商業者ギルドもある。
あたしはフレンの冒険者ギルドで冒険者登録をするつもりだった。
(徒歩でも行ける、っていうのがいいよね)
半日くらいで着けるみたいだけど、イザベラは貴族令嬢だし。
(身体強化はどこまでできるんだろう)
何となくだけど、身体の内に感じる魔力が増えてきているような気がする。
(もしかしてこれが転生特典?)
いやだったらせめて乙女ゲームは勘弁してほしかったな、とか諸々考えているうちに夜が明けた。
辺りに目を向けるもやはりなかなか開いている店は――、あったっ!!
あたしはすぐにそこへ駆け込み、地味な色合いのシャツとパンツ(こちらでは女性は必ず足首までの丈のスカートなので変な目で見られたけど、作業着だといってごまかした)、そして念願のフードを購入することにした。
(これで顔を隠せるっ!!)
早速持参していた古着を数枚売って路銀の足しにした。
(100ユールでパン一個、だから1ユールは向こうでの1円くらいなのかな)
手元に残ったのは5650ユール。
次の街ですぐに冒険者登録したほうがいいかも。
店の奥を借りて着替えるとちょっと小柄な男性といっても何とか通るくらいには見えた。
(これでフードを被れば完璧ね)
流石に最初に街を出て門番達の記憶に残るつもりはなかったので、何人か見送ってから門に近付いた。
ほどよく街を出る人が固まっていたのでそこに潜り込む。
街を出る際には料金は取られないので助かった。
それでもフードを被り、俯きがちになるのは避けられなかった。
(ごめんなさい。お父様)
フォーンドット公爵邸ではまだあたしがいなくなったことは分からないだろう。
書置きは残してきたが、やはり無責任だったかも、と思う。
(だけどどうしても自分の力を試してみたかったから)
前世であたしは自分の意見が言えなかった。
小心者だということもあったけれど、人と対立するのが苦手で周りに合わせているうちに自分の意思がないように思えてきた。
(今度はそんなことになりたくない)
隣国の第2王子に嫁ぐのがこの場合の最適解だというのは分かっている。
(だけど――)
また向こうの気が変わったら?
やっぱり違う相手がいい、と言われたら?
野に放り出されるのはあたしだ。
一応公爵家なのだからひどいことにはならないかもしれないけれど、あたしの意思が少しも入っていない選択肢は嫌だった。
(貴族なら当たり前なんだろうな)
自分で食い扶持くらい稼いでおきたかった。
それがどんなに難しいことでも。
幸いなことにフレンまでの道は高低差が少なく、歩きやすかった。
何とかフレンに入り、門番に入場料の50ユールを払う。
(うーん、地味に痛いかも)
冒険者登録をしていると無料になるはずなので、急いでギルドを探すと、それっぽい建物が見えた。
(あそこかな)
剣と西洋の竜が交差している看板がかかっている。
(よし)
早速、と思ったときあたしのお腹がぐう、と鳴った。
そう言えば朝から何も口にしていない。
時刻はそろそろお昼時で、あちらこちらから煮炊きするいい匂いがしていた。
王都ほどではないけれど、それなりに賑わっているようで出店も出ていた。
中でも焼いた肉を串に刺したものが前世の焼き鳥っぽいので早速一本購入。
道の端に寄って早速ぱくり。
(やっぱり味付けは違うか。何だろ塩の効いた……鶏肉よりは歯ごたえのある肉って)
それと塩パンみたいなものを購入してそれで何とかお腹は膨れたけれど。
(前世の味覚が蘇るとちょっときついかも)
余計な(個人的には切実な)ことを考えながら改めてギルドの扉を開ける。
奥にカウンターがあり、手前にはテーブルと椅子のセットが4つほど並べられたそこは今はほとんど人がいなかった。
(お昼だからかな)
テンプレのイベントがないようなのでほっとしながら受付と見られるカウンターへ向かう。
受付にはお姉さんがいた。
「当ギルドへようこそ。ご用件をどうぞ」
赤毛の髪を根元で括っていて薄化粧をしている。
(うん。お仕事はきちんとする人みたい)
「冒険者登録をお願いしたいのですが」
「少々お待ちください」
何やらごそごそとしているなと思っていたら、水晶玉が出て来た。
(ああ、これに手を当てて適性とか見るのね)
あたしがそう思っているとお姉さんが同じことを告げた。
「こちらに手を当てて下さい」
「はい」
言われたとおりにする。
(あ、ここで公爵令嬢とかバレたらどうしようっ!!)
今更なことに内心焦っていると、
「もう結構ですよ」
言われて手を離す。
「成人されているようですし、犯罪歴もないようですね。ではこの書類に署名をどうぞ」
促されて書類に目を通す。
後で知ったのだけど、ギルドの水晶ってあまり詳しいことは見ないとのこと。
何でも以前、ステータスがあまりにも高い冒険者がいて水晶が割れたことがあり、それ以降特に怪しいと思われる人物以外には簡易版の水晶を使うようになったらしい。
(水晶割った人、ナイスッ!!)
書類には冒険者としての基本的な心構え等が書かれているようなのでじっくり読んでから署名した。
「できました」
書類を渡すとタグを渡された。
「こちらは身分証になります」
ランク別に素材が異なるようで、SSランクになると希少素材のオリハルコンになるそうだけど、やっぱりそんな人は国に一人いるかいないかで、Sランクで金、Aランクで銀と続き、Fランクは木製になるそうだ。
当然あたしはFランクからなので木製のタグである。
名を聞かれてあたしは『ステラ』と答えた。
前世のラテン語で『星』という意味だと思ったけれど、響きが好きだったから。
「紛失されると再発行に日数と手数料がかかりますのでご注意下さい」
「分かりました」
では早速、と依頼が貼られているいる掲示板を覗きに行くと、殆どなかった。
聞くと大体朝早くから皆来て、割のいいものは早い者勝ちみたいなところがあるという。
(だから、人いなかったんだ)
Fランクでもできるとなると、薬草摘み位しか思いつかないので探してみるがやっぱりな――あった!!
掲示板の隅っこにだけど、一枚だけ残っていたそれを見るとやっぱり薬草の依頼で、資格のところに『Fランク~』とあった。
(よかった)
依頼を受ける旨を受付のお姉さんに伝えてギルドを後にする。
(さて、と)
街を出る際には料金は発生しないのでさっさと門を抜けて草原へと来たのだけど。
(……ないなあ)
街が見える範囲には薬草らしきものは見当たらなかった。
依頼された薬草はギルドでどんなものか確認したので見過ごすはずはない。
受付のお姉さんがそれほど難しいものではない、と言っていたところからっ考えると恐らく取り尽くされたのだろう。
(もう少し奥へ行ってみる?)
近くに森が見えるが、魔物のことを考えるとあまり足を踏み入れたくはなかった。
(でも確かイザベラもあったよね、攻撃魔法)
イザベラ・フォーンドットが得意とするのは水魔法で、確か氷魔法のアイスアローやアイスランスも使えたはず。
(でも威力がなあ)
実習もあったみたいだけど、実戦とは違うせいかそれほど威力のあるものではなかったような。
あたしは辺りをぐるりと見渡して誰もないことを確認してから詠唱してみた。
「アイスアロー」
本当は長い言葉があったけど割愛。
何故か知らないけどこれでも大丈夫な気がしたから。
身体の内から熱いものが流れ、形になるのが分かる。
それらは何十本もの矢となって草原に突き刺さった。
(うわあ)
イザベラの記憶よりめっちゃ多いんですが。
(チートか)
取り敢えずこの位できればこの辺りにいる魔物位ならなんとかなるはず。
自信を付けたあたしは森へと足を踏み入れた。
街から続いていた小道は森の中へも続いていた。
(これを辿れば帰りも大丈夫よね)
少し余裕が出て来たので辺りを探すが薬草は見当たらない。
(やっぱりもっと奥行かないとだめなのかな)
本当はあまり行きたくない。
だけど依頼を果たさないと報酬が貰えない。
ジレンマである。
(……)
ふう、と息をついてあたしは更に森の奥へと足を向けた。
小道がだんだんと心もとないものになってきた頃、ようやく依頼書にあった薬草を見付けた。
スズランに似ているけど花の色は黄色で、その根が欲しいらしい。
(ってことはここは当然根元から、っと)
何とか依頼された数を採取し終えた時だった。
(ん? 何か陽が陰ってきた?)
反射的に顔を上げるとでかいトカゲみたいな魔物がいた。
上腕は翼になっているそれはおそらく小ぶりなワイバーン。
(ぎゃあっ、近いっ!!)
「アイスアローッ!!」
先手必勝とばかりに詠唱したあたしのアイスアローがワイバーン目掛けて飛んで行く。
(よし、行けっ!!)
だが渾身のアイスアローは致命傷とはならなかったらしく、ワイバーンがその勢いのまま突進してくる。
(ちっ、やっぱり威力が分散されたみたいね。となると――)
必死に戦略を練り、あたしは次の攻撃魔法を頭の中でシュミレーションした。
(あいつが至近距離に来た時にアイスランスを食らわせる)
シンプルだけどこの方がいいかもしれない。
冷静に詠唱時間と距離を測る。
(――今だっ!!)
「アイスランスッ!!」「フローズンカッターッ!!」
あたしがアイスランスを出すのとほとんど同時に氷の刃がワイバーンの頭と胴を切り離した。
「……」
重い音を立てて倒れたワイバーンを前に動けないでいると、とても聞き覚えのあるバリトンが聞こえた。
「無事か?」
前夜の卒業パーティーとは全然違う質素な身なりで髪型も違うけれど、見間違えるはずがない。
何故か隣国の第2王子のケイン王子がいるんですけど。
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