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第十一話 王城にて
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その後は王城からの迎えの馬車と警護の騎士団が着いたため、何事もなく王都へ着くことができた。
王都までの二週間ほどの旅程の間、付き添いという名目だったがカーラは丁重に扱われた。
ジェイドたちとは騎士団と合流した際に別れていた。
影なのだから仕方がないのだけれど。
そのことを何となく寂しいと思いながらもカーラは旅程をこなした。
付き添いのはずなのだが、カーラには侍女が付けられた。
「リズと申します」
そう告げたのはカーラより二つ三つ年上と思われる、焦げ茶色の髪と淡い水色の瞳をした女性だった。
「エリス・マルボーロ男爵令嬢です。よろしくお願いします」
後からエリスが『カーラ・マルボーロ男爵令嬢』として来るのだから、ここは譲れない。
そう思ってエリスの名を名乗ったが、リズの所作はどう見ても貴族令嬢のそれで、こちらが気おされてボロが出そうなくらいだった。
地味な装いをしているがよく見ると顔立ちも整っている。
もしかして本当はずっと上の家格なのかしら?
そう思ったが聞くのもかえって失礼になるのではないかと思い、そこは深く考えないようにした。
エイサルの街から先は宿に泊まるにしても野営にしてもカーラは貴人のような扱いを受けた。
そして極力カーラの姿を周囲に見せないようにしているのも気に掛かったが、それはカーラに取っても有り難かった。
もし『神託の花嫁』ではない、と言われた時に職を探したとしてもおかしな目で見られずにすむわね。
旅程は無事に進み、王城へ着いたカーラは困惑していた。
「こちらになります」
案内された部屋がとても豪華だったからである。
部屋は寝室も含めて三つあり、そのどれもに手をふれることすら躊躇われるほどの装飾がほどこされた家具や小物が配置されていた。
付き添いなのよね、私?
加えて『神託の花嫁』が着くまで、という名目でカーラに施された授業には淑女としての礼儀作法が含まれており、これは付き添いに必要なのだろうか、と思ったが今更言葉には出せなかった。
肝心の王太子殿下とは日程の調整がつかないとかで、まだ会えていない。
もともと病弱だと言われていた王太子殿下だが、ここ最近は公務も滞りがちらしく、限られた者しか顔をみていないようだった。
そんなに体調が優れなくて大丈夫なのかしら。
カーラの危惧をよそに日々はすぎ、明日には『神託の花嫁』を自称する妹エリスが来る日となった。
「そう言えば明日にはあの方がいらっしゃるのですね」
カーラの身支度を整えながらリズが告げた。
何故かカーラの身の回りの人たちは皆エリスのことをあまり名前呼びや妹呼びをしたがらなかった。
どうしてかしら?
もしかしたらジェイクから事情を聞いた人たちの反応を見て、うっすらと察しているのかもしれない。
だがきっとここにいる皆もエリスに会えばその態度を変えるだろう。
神託の花嫁にふさわしいのはエリスしかいない、と。
リズの先導で授業を受ける部屋に入り、教師から講義を受けるが明日には自分はお払い箱とされるのだと思うとどうしても身が入らない。
内容を書き写してはいるが反射的にしているようなものだった。
「それでは今日の王室規範に関する授業はここまでとします」
教師の声で我に返ったカーラは慌てて礼を告げ、教師の退出を待って廊下へ出た。
王城には幾つかの棟があり、それらは屋根付きの通路で繋がっているが、慣れないと迷子になりそうだった。
整然と配置された庭木は侵入者を警戒しているのか、適度に間隔が置かれていて、樹木の隙間からかなり遠くまで見通すことができた。
でも見通しがいいということは逃走経路には使い辛いわね。
やはり明日エリスが王太子殿下に選ばれてから堂々と城門から出て行くのが一番だろう。
そんなことを考えて角を曲がった時だった。
――あれは。
木々の向こうに見知った顔を見付けてカーラは少し歩調が遅れた。
「どうかなさいましたか?」
リズに見咎められて思わず否定する。
「いえ、何でもありません」
まさかこんな人目のつくところにいるはずがないわ。
それに何だか髪色が違っていたような。
少し気を抜いていたのが分かったのだろう。
リズが固い声音で具現を呈して来た。
「エリス様。私に敬語は必要ないと申し上げたはずですが」
何故かエリスの名のところだけ非常に不愉快そうに言っているように聞こえたのは気のせいだろうか。
「すみませ、……あ」
「元の御身分のことを考えると慣れないのは分かりますがそろそろお考えになられてはいかがでしょうか」
その言い方だとまるでカーラがとても高い身分になるかのようだ。
どういうことだろう?
確かにカーラは『神託の花嫁』として名を挙げられたたが、それもエリスが来るまでだろう。
まあ、でも仕方ないわね。まだエリスに会っていないのだもの。
「気を付けるわ」
何とか答えを返してリズの先導に従う。
気のせいよね。王家の影であるジェイドがこんな目立つところにいるはずないわ。
王都までの二週間ほどの旅程の間、付き添いという名目だったがカーラは丁重に扱われた。
ジェイドたちとは騎士団と合流した際に別れていた。
影なのだから仕方がないのだけれど。
そのことを何となく寂しいと思いながらもカーラは旅程をこなした。
付き添いのはずなのだが、カーラには侍女が付けられた。
「リズと申します」
そう告げたのはカーラより二つ三つ年上と思われる、焦げ茶色の髪と淡い水色の瞳をした女性だった。
「エリス・マルボーロ男爵令嬢です。よろしくお願いします」
後からエリスが『カーラ・マルボーロ男爵令嬢』として来るのだから、ここは譲れない。
そう思ってエリスの名を名乗ったが、リズの所作はどう見ても貴族令嬢のそれで、こちらが気おされてボロが出そうなくらいだった。
地味な装いをしているがよく見ると顔立ちも整っている。
もしかして本当はずっと上の家格なのかしら?
そう思ったが聞くのもかえって失礼になるのではないかと思い、そこは深く考えないようにした。
エイサルの街から先は宿に泊まるにしても野営にしてもカーラは貴人のような扱いを受けた。
そして極力カーラの姿を周囲に見せないようにしているのも気に掛かったが、それはカーラに取っても有り難かった。
もし『神託の花嫁』ではない、と言われた時に職を探したとしてもおかしな目で見られずにすむわね。
旅程は無事に進み、王城へ着いたカーラは困惑していた。
「こちらになります」
案内された部屋がとても豪華だったからである。
部屋は寝室も含めて三つあり、そのどれもに手をふれることすら躊躇われるほどの装飾がほどこされた家具や小物が配置されていた。
付き添いなのよね、私?
加えて『神託の花嫁』が着くまで、という名目でカーラに施された授業には淑女としての礼儀作法が含まれており、これは付き添いに必要なのだろうか、と思ったが今更言葉には出せなかった。
肝心の王太子殿下とは日程の調整がつかないとかで、まだ会えていない。
もともと病弱だと言われていた王太子殿下だが、ここ最近は公務も滞りがちらしく、限られた者しか顔をみていないようだった。
そんなに体調が優れなくて大丈夫なのかしら。
カーラの危惧をよそに日々はすぎ、明日には『神託の花嫁』を自称する妹エリスが来る日となった。
「そう言えば明日にはあの方がいらっしゃるのですね」
カーラの身支度を整えながらリズが告げた。
何故かカーラの身の回りの人たちは皆エリスのことをあまり名前呼びや妹呼びをしたがらなかった。
どうしてかしら?
もしかしたらジェイクから事情を聞いた人たちの反応を見て、うっすらと察しているのかもしれない。
だがきっとここにいる皆もエリスに会えばその態度を変えるだろう。
神託の花嫁にふさわしいのはエリスしかいない、と。
リズの先導で授業を受ける部屋に入り、教師から講義を受けるが明日には自分はお払い箱とされるのだと思うとどうしても身が入らない。
内容を書き写してはいるが反射的にしているようなものだった。
「それでは今日の王室規範に関する授業はここまでとします」
教師の声で我に返ったカーラは慌てて礼を告げ、教師の退出を待って廊下へ出た。
王城には幾つかの棟があり、それらは屋根付きの通路で繋がっているが、慣れないと迷子になりそうだった。
整然と配置された庭木は侵入者を警戒しているのか、適度に間隔が置かれていて、樹木の隙間からかなり遠くまで見通すことができた。
でも見通しがいいということは逃走経路には使い辛いわね。
やはり明日エリスが王太子殿下に選ばれてから堂々と城門から出て行くのが一番だろう。
そんなことを考えて角を曲がった時だった。
――あれは。
木々の向こうに見知った顔を見付けてカーラは少し歩調が遅れた。
「どうかなさいましたか?」
リズに見咎められて思わず否定する。
「いえ、何でもありません」
まさかこんな人目のつくところにいるはずがないわ。
それに何だか髪色が違っていたような。
少し気を抜いていたのが分かったのだろう。
リズが固い声音で具現を呈して来た。
「エリス様。私に敬語は必要ないと申し上げたはずですが」
何故かエリスの名のところだけ非常に不愉快そうに言っているように聞こえたのは気のせいだろうか。
「すみませ、……あ」
「元の御身分のことを考えると慣れないのは分かりますがそろそろお考えになられてはいかがでしょうか」
その言い方だとまるでカーラがとても高い身分になるかのようだ。
どういうことだろう?
確かにカーラは『神託の花嫁』として名を挙げられたたが、それもエリスが来るまでだろう。
まあ、でも仕方ないわね。まだエリスに会っていないのだもの。
「気を付けるわ」
何とか答えを返してリズの先導に従う。
気のせいよね。王家の影であるジェイドがこんな目立つところにいるはずないわ。
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