本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ

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第二十六話 王太子殿下

 その翌々日、カーラは庭園のガゼボにいた。

 王太子の体調とカーラの日程を調節したためである。

 そう言えば王太子殿下はお体が弱いということだけれど、今日は大丈夫なのかしら。

「待たせてすまないね」

 カーラが来てしばらくして現れた王太子はそう言って席についたが、以前より顔色が悪く見えた。

「いえ、そんなことはありません。本日はお招きいただきありがとうございます」

 カーラがそう述べると王太子は軽く首を振った。

「神託の花嫁であるあなたは王族と同等の存在。敬語はいらないよ」

 そう言われてもやはり相手が王太子となると身構えてしまう。

「善処します」

 カーラがそう答えると王太子は苦笑した。

「まあ、すぐには無理か。できればアルと呼んでくれると嬉しいな」

「……アル様」

「うん。それで君を呼び出した理由なんだけれど」

 王太子――アルは目配せして控えていた従僕を話が聞こえない範囲まで下がらせた。

「ジェラルドが君を『神託の花嫁』としてここへ呼んだことは知っている。その上で聞くのだけれど」

 ――ここから逃げたいと思うかい?

 思わぬ言葉にカーラは目を見開いた。

「君がそうしたいと言うならここから出る算段をつけてあげることも可能だけど」

 ――どうする?

 ジェラルドとよく似た青い瞳がカーラを見透かすように見つめていた。

 私は――

 家族に蔑ろにされてきた。

 妹は我儘のし放題。母は何があっても妹の味方。事なかれ主義の父。

 だから自分に『神託の花嫁』としての価値がある、必要とされていると分かって嬉しかったのに。

 自分の問題は自分で解決したかった。

 それが無理でも意見を聞いて欲しかった。

 私はジェラルドの伴侶なのだから。

 だがこのまま怒りに任せてここを去る、というのは少し違うような気がする。

 王太子の申し出は非常に嬉しかったが、先日のジェラルドの態度を見ると反省しているようだった。

 それに対し、自分は何か言っただろうか。

 出て行くにしてももう一度話し合った方がいいのかもしれない。

 カーラは王太子と視線を合わせた。

「今は止めておきます」

 アベルの青い瞳から緊張が、ふっと消えた。

「ありがとう。そう言ってくれて。ジェラルドは君に一目惚れだったみたいだから助かるよ」

 ……は?

 少し遠くを見るようにしてアベルが口を開いた。

「あの頃は私が一番体調を崩していたときでね。ジェラルドはまだ幼いというのにその寂しさも小さな肩にかかる重責もすべて一人で背負うとしていた。王族としての自覚を持つのは悪いことではないが」

 そこで言葉を切り、カーラの方を見た。

「どんな完璧な者でも失敗しない、というのは有り得ない。そのために側近や伴侶がいる。ジェラルドに側近は付いているが、心を預けるとなるとやはり伴侶の方がふさわしい。できればこのまま君がここにいてくれるといいのだけど。……無理にとは言わないよ」

 ――もし、気が変わったらいつでも言ってくれて構わない。

 そう言った後、従僕たちに合図を出すと彼らは何冊かの本と書類を持って来た。

「これは先の『神託の花嫁』たちがこの国に対してしてくれた功績が掛かれている。まだ心の準備もできていないと思うが、こういったものは早く渡しておいた方がいいと思ってね」

 一瞬断りの言葉が出かかったが王太子にあまりにも生気がないような気がしてカーラは押しとどまった。

「お気遣いありがとうございます」

 本当はジェラルドを王太子にするために毒杯を賜らなければならないというのに何故そこまで落ち着いているのか聞いてみたい気もしたが、初対面でそれを聞くのは憚られた。


 
 部屋に戻り一人にさせて欲しい、と頼むとリズは微妙な表情をしたが、少しなら、と許してくれた。

 この後は授業もないので、夕食まではまだ時間があるというのも幸いした。

 一人になるとカーラは、ため息を付いた。

 私は何がしたいのだろう。

 このままここにいて本当にいいのだろうか。

 カーラは王城の作りを思い返した。

 どこにでも衛兵がいて逃げ出せそうにはないけれど、先ほどの王太子の言葉に嘘はないようだった。

 王太子殿下はジェラルドが『一目惚れ』したと言っていたけれど、本当なのだろうか。

 何となく好感は持たれているような気はしていたが、一目惚れとは聞いてなかった。

 ……告白、されてないわよね?

 王族には義務が付き纏う。

 もしその延長線上で、義務で『一目惚れした』と兄である王太子殿下に話していたとしたら。

 分からないわ。

 いっそのこと逃げてしまおうか。

 反射的に視線を上げたカーラの視界に『神託の花嫁』に関する本と書類が入る。

 彼女たちは神託の花嫁として多大な功績を残して来た。

 ここで私が逃げ出したら――

 カーラは呼び鈴を鳴らしてリズを呼んだ。

「お呼びでしょうか」

「ジェラルド様は今どこに?」

 最後にもう一度だけ話をしてみよう。




 

 

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