嘘やん……

神崎 ルナ

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4.

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(……)


驚きすぎて固まっているあたしの前まで来ると、


「遅くなってすみません。ちょっと片付けないといけないことがあって」


爽やかに告げる様子にはあの夜のことなど微塵も感じさせない。


(嘘……)


もう二度と会うはずのない相手との遭遇に頭が働かない。


「まだ信用されてないみたいだな。悪いけど一緒に来て」

その笑みはどこか面白がっているようだった。


(どういうこと?)



連れて来られたのはどこかのマンション。


広々としたリビングに通されて動けずにいると、


「ちょっと待ってて。好きにしてていいよ」


(いやあの、そんなこと言われても無理だからっ!!)


濃い色のソファーに恐る恐る腰を下ろし、辺りを見渡し、品のいい調度品に多少びくびくしていると、


「はい、どうぞ」

渡されたカップにはミルクを落としたコーヒーが入っていた。


(あれ)


「違った?」


「……合ってるけど」


あたし、こんなことまで話した?


「本当に覚えてないんだ。向こうがブラックしか飲まないから遠慮してミルク向こうの家に置けなかったとか」


「ふぇっ、」


(あ、変な声出た)


何しろ始めてのお付き合い。


傍から見れば滑稽だったくらい、気を回していた。


(逆にうっとおしくなったのかな)

いや、だからって妻子持ちだったのを黙っていたのは許せないけど。


頭の中でいろんな感情がせめぎ合い、返事ができないでいると、




「かわいいな」


(は、今何て言ったこの人?)


もともと地元ではとっつきにくいとか、言われててそんなこと言われた記憶がない。


居たたまれなくなってカップに口を付けていると、


「本当に言われなれてないんだな」


反射的に顔を上げてしまい、口角を上げたその顔をしっかり見たあたしは体の奥が熱を持つのを感じた。


(落ち着け自分っ、まだ何かされるって決まった訳じゃないんだからっ!!)


「そんな顔されると期待するけど」


(いやいやいやいやっ!!)


あたしは首をぶんぶん振ることで答え、話題を変えた。


「それでどうしてここへ?」


彼は……名前……伊能、雪広さんがソファーの背もたれに軽く体を預けた。


「そうそう、これ」


目の前のテーブルに取り出された用紙を目にし、あたしは固まった。


(ちょっ、これ)


案外薄い紙の半分が埋まったそれの一番上には『婚姻届』とあった。


(ひぇ、ん? 雪広……)


何か忘れている。


「……」


「やっぱり覚えてないんだな」


あたしの沈黙を何と取ったのか、伊能さんがスマートフォンを取り出した。


『俺と結婚してくれる?』


『……は、い』




「……え」


それは紛れもなくあたしの声だった。


(ってか、それって……)




あの感覚に体が捕らわれているときに言われたら何でも頷くじゃないのっ!!



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