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第五十二話 婚約は白紙ですか?
「「……」」
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはレンブラント公爵だった。
「まずは突然の来訪、済まなかった。私はシリウス・レンブラントという。君は?」
それ、自己紹介としては合ってるけど、最後の三文字めっちゃ余計なやつ!!
案の定、まなじりを釣り上げたカルベラがきっとレンブラント公爵を睨んだ。
「こちらはクリムト辺境伯邸になります。レンブラント公爵さまにはご機嫌麗しく。ご用件でございましたら向こうに行けば執事が取り計らってくれますでしょう」
――どうぞよしなに。
言葉こそ丁寧だが表情が思い切り裏切ってるんですけど!!
ひええ、とつい傍観しているとレンブラント公爵が眉を寄せた。
「クリムト辺境伯邸? ここが?」
ん? ここがクリムト辺境伯邸で何かおかしなことでもあるのかな?
それよりカルベラの不遜な態度についてはどうやら見なかったことにしてくれるらしい。
「確かクリムト辺境伯には御子が四人いるが、女性は二人。そのうち上の御子は嫁しているはずだから、君がフレイア嬢でいいのかな?」
話には聞いていたんだけど、どうやらレンブラント公爵とフレイアってあんまり会ってなかったようなのよね。
それにしてもこれは失礼じゃない?
取り敢えず立ち上がりカーテシーを決めた。
「レンブラント公爵には久方ぶりになります。クリムト辺境伯が次女フレイアにございます」
久方ぶり、ってちょっと嫌味に聞こえたかな。
そう思っているとレンブラント公爵が、ああ、と声を上げた。
「これは失礼。どうやら知らせよりも早くこちらへ着いてしまったようだ」
あ、そっちは大丈夫なので答えておこう。
「ご配慮痛み入りますが例の件に関してでしたらすでに受け取っております。後のことは父に確認をお願い致します」
もうね。会う前は思ってたよ。
婚約者のこと、少しは考えてるのかな、って。
だけどこうやって顔を合わせてみると分かる。
あ、もうだめですね。この方、こっちに関心ゼロだわ。
こういうのって案外すぐ分かるんだよね。特にこちらが冷めてると余計に。
「何か気に障ったのなら謝るが」
「いえ。お気遣いなく」
そこでカルベラにレンブラント公爵を邸へ案内するように指示すると渋面が返って来た。
「フレイア様をおひとりにすることなどできません」
そう言われてもなあ。今の体調ではあんまり歩けないし。
「それではあなたも一緒に戻ればいいのでは?」
レンブラント公爵の気遣いのある言葉は有り難いんだけど、ちょっとこっちの体調も考えて。
逡巡しているうちにちょうどよく先ほどの音を聞きつけた騎士たちが来てくれた。
「今の音は何事ですか!? 何奴!!」
レンブラント公爵を見るなり殺気立つ騎士たちに声を掛けておく。
「この方は敵ではありません。ちょうど良かったわ。レンブラント公爵をお父様のところへ案内してあげてくれる?」
あれれ、レンブラント公爵って聞いた途端、更に殺気立ってきちゃった。
そう言えば婚約白紙の件、いつの間にか知れ渡ってたんだよね。
「イルド、カイン。思うところがあるのは分かりますが、今はレンブラント公爵をお父様のところへ案内してくれるかしら」
「「はっ」」
何とか彼らを宥めてレンブラント公爵の案内を頼む。
「それでは頼みましたよ」
「かしこまりました」
彼らに先導されてレンブラント公爵の姿が木立ちの影に消えるとほっと息をつく。
危なかった。気付かれてないよね。私があの廃墟で出会った江藤久遠だってこと。
まあ大丈夫かな。こんなこと普通に考えたら有り得ないし、きっと思い付く人もいないだろうし。
「フレイア様。アレが邸内に入ってから戻りましょう」
カルベラがどこか怒ったように話し掛けて来たけど、別にそこまで気にしてないんだけどな。
ああ、今ため息なんてついちゃったからか。
「そうね」
無難な言葉を選んで少し待ってから邸へと向かうことにした。
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはレンブラント公爵だった。
「まずは突然の来訪、済まなかった。私はシリウス・レンブラントという。君は?」
それ、自己紹介としては合ってるけど、最後の三文字めっちゃ余計なやつ!!
案の定、まなじりを釣り上げたカルベラがきっとレンブラント公爵を睨んだ。
「こちらはクリムト辺境伯邸になります。レンブラント公爵さまにはご機嫌麗しく。ご用件でございましたら向こうに行けば執事が取り計らってくれますでしょう」
――どうぞよしなに。
言葉こそ丁寧だが表情が思い切り裏切ってるんですけど!!
ひええ、とつい傍観しているとレンブラント公爵が眉を寄せた。
「クリムト辺境伯邸? ここが?」
ん? ここがクリムト辺境伯邸で何かおかしなことでもあるのかな?
それよりカルベラの不遜な態度についてはどうやら見なかったことにしてくれるらしい。
「確かクリムト辺境伯には御子が四人いるが、女性は二人。そのうち上の御子は嫁しているはずだから、君がフレイア嬢でいいのかな?」
話には聞いていたんだけど、どうやらレンブラント公爵とフレイアってあんまり会ってなかったようなのよね。
それにしてもこれは失礼じゃない?
取り敢えず立ち上がりカーテシーを決めた。
「レンブラント公爵には久方ぶりになります。クリムト辺境伯が次女フレイアにございます」
久方ぶり、ってちょっと嫌味に聞こえたかな。
そう思っているとレンブラント公爵が、ああ、と声を上げた。
「これは失礼。どうやら知らせよりも早くこちらへ着いてしまったようだ」
あ、そっちは大丈夫なので答えておこう。
「ご配慮痛み入りますが例の件に関してでしたらすでに受け取っております。後のことは父に確認をお願い致します」
もうね。会う前は思ってたよ。
婚約者のこと、少しは考えてるのかな、って。
だけどこうやって顔を合わせてみると分かる。
あ、もうだめですね。この方、こっちに関心ゼロだわ。
こういうのって案外すぐ分かるんだよね。特にこちらが冷めてると余計に。
「何か気に障ったのなら謝るが」
「いえ。お気遣いなく」
そこでカルベラにレンブラント公爵を邸へ案内するように指示すると渋面が返って来た。
「フレイア様をおひとりにすることなどできません」
そう言われてもなあ。今の体調ではあんまり歩けないし。
「それではあなたも一緒に戻ればいいのでは?」
レンブラント公爵の気遣いのある言葉は有り難いんだけど、ちょっとこっちの体調も考えて。
逡巡しているうちにちょうどよく先ほどの音を聞きつけた騎士たちが来てくれた。
「今の音は何事ですか!? 何奴!!」
レンブラント公爵を見るなり殺気立つ騎士たちに声を掛けておく。
「この方は敵ではありません。ちょうど良かったわ。レンブラント公爵をお父様のところへ案内してあげてくれる?」
あれれ、レンブラント公爵って聞いた途端、更に殺気立ってきちゃった。
そう言えば婚約白紙の件、いつの間にか知れ渡ってたんだよね。
「イルド、カイン。思うところがあるのは分かりますが、今はレンブラント公爵をお父様のところへ案内してくれるかしら」
「「はっ」」
何とか彼らを宥めてレンブラント公爵の案内を頼む。
「それでは頼みましたよ」
「かしこまりました」
彼らに先導されてレンブラント公爵の姿が木立ちの影に消えるとほっと息をつく。
危なかった。気付かれてないよね。私があの廃墟で出会った江藤久遠だってこと。
まあ大丈夫かな。こんなこと普通に考えたら有り得ないし、きっと思い付く人もいないだろうし。
「フレイア様。アレが邸内に入ってから戻りましょう」
カルベラがどこか怒ったように話し掛けて来たけど、別にそこまで気にしてないんだけどな。
ああ、今ため息なんてついちゃったからか。
「そうね」
無難な言葉を選んで少し待ってから邸へと向かうことにした。
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