ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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 互いに何かと忙しい夏休みを過ごし、結局8月の終わり頃にもう一度だけ颯太に会いに行くことができた。昼過ぎに会って夕方までファーストフード店で長々喋っていたが、その時の颯太も普段通りの様子で、俺はひそかにホッとした。

 2学期が始まってビクビクしながら学校に行くと、蘭は夏休み中にすでに新しい彼氏ができたらしく、俺の方には見向きもせずに女友達とキャイキャイはしゃいでいた。これまたひそかにホッと息をついた。

 モテモテすぎる俺は2学期の間何人にも告られた。後半、同級生、先輩…。でももう恐ろしくて誰にも手を出す気にはなれなかった。蘭を深く傷付け泣かせたことは、俺の中にも深い後悔となって残っていた。真剣に想ってくれてる相手は絶対にダメだ。もう一生手は出さない。だって俺には颯太がいるから。ガキの頃から一途に大好きな颯太への想いが揺らぐことはこの先もないし、もう誰も無駄に傷付けたくない。
 だけど。
 困ったことに俺は中2で、この思春期真っ只中の体からは性欲が消えてなくなることはない。可愛い女子を振るたびに、一抹のもったいなさというか、ちょびっとだけ、本当にほんのちょこっとだけだけど、惜しいことしたなぁ、みたいな…、そんな思いも頭を掠めた。や、ほんとにちょこっとだけだけどね。
 そんなある日、わりと遊んでそうに見える垢抜けた綺麗な3年生から告られた。

「立本くん、彼女と別れたんでしょ」
「あ…、はぁ」
「そっかぁ。…ね、私と付き合ってみない?」

 来た。やっぱり。あぁ、すみません、もったいないけど…。後々のことを考えると…。
 …いや、ちょっと待て。
 …この先輩、絶対に俺のこと本気で好きじゃねーよな。だって喋ったこともないし。接点ないし。おそらくただイケメンの彼氏が欲しいだけだろ。…ワンチャン交渉してみる余地はあるんじゃねぇか?
 わずか数秒の間にこんなことが頭をよぎってしまったどスケベの俺は、イチかバチか言ってみた。

「……あ、あの、」
「ん?」

 自信満々な表情で返事を待っている先輩に、おそるおそる続ける。

「…体だけの割り切った関係じゃダメすかね?」
「…………。」

 頬をグーで殴られた。言わなきゃよかった。


 もう何も考えずにサッカーだけに集中しよう。そう心に決めた俺は、全てを投げ打ってサッカーばかりやっていた。女にもいかず、勉強もほとんどやらず。夢中になれることといったらこれしかなかった。
 時々颯太に会いに行くことだけが、唯一の癒やしの時間だった。会えば会うたび想いは募り、苦しくてたまらない日もあったけど…。毎晩のように自分を慰めながら、その苦しさをごまかしていた。俺たちは途切れることなく数週間に一度は会い、楽しい時間を過ごしていた。

 2年生の終わり頃に、進路調査があった。
 突然こんな紙渡されてもなー。何書けばいいんだよ。教室の前に立った担任はクラスの全員に向かって、自分が希望する進学先の名前を書いて、明日提出するように言った。
 ふーん。おっけー。颯太にラインして聞いてみるか。
 帰宅後、俺は颯太にラインを送った。

『進路調査の紙書かねーとなんだけど、高校どこ行く?』

 しばらく経ってから、返信が来る。

『A高校を第一希望にするつもりだよ』

 ふん。A高校ね。
 了解、とだけ送り、俺は調査用紙にちゃちゃっと記入した。



『了解』

「………………。」

 突然樹から、高校どこ行く?とラインが届き、俺は希望校を教えた。するとたった一言だけ、返信が来て、俺は不安になってスマホの画面をじっと見つめた。
 …分かってるのかな、樹。…大丈夫だよ…、ね?
 
 塾に通い出してから何度か模試を受け、両親と話し合った結果、俺はA高校を受験することにほぼ決めていた。コツコツ頑張ってきているから、このままいけばきっと大丈夫なはずだ。気を抜かず、残り1年間最後まで勉強を続ければ、きっと。

 ただ……。

 そうと決めた時、頭をよぎったのは樹のことだった。子どもの頃、俺が引っ越すことになって離れ離れになって以来、約束していた。高校は同じ所に行こう、と。それまでは寂しいけど別々の小学校、中学校で頑張ろうと。

「…………。」

 樹がサッカーに打ち込んでいることは分かってる。すごく頑張っていて、試合でも良い成績を残しているみたいだ。楽しんでいる樹の話を聞くのは大好きで、水を差すようなことは言いたくなくて…。喉元まで出かかった言葉を何度か飲み込んだことがある。
 …ちゃんと勉強もしてる?高校受験って、難しいんだよ、と。
 まだ今でも俺と同じ高校を目指す気でいてくれてるなら、サッカーだけやっていたんじゃとてもじゃないけど絶対に合格はしない。最悪、俺が樹に合わせて進学先のランクを落とすか…、なんて、何度も頭をよぎったけれど、そんなことうちの両親が納得してくれるはずがない。
 高校どこ行く?なんて、まるで週末どこ遊びに行く?みたいな気軽さで聞いてこられてますます不安が募る。行きたいと言えば誰でも行けるってわけではないと、ちゃんと分かっているんだろうか。

 ………………不安だ……。





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