29 / 63
29.
しおりを挟む
互いに何かと忙しい夏休みを過ごし、結局8月の終わり頃にもう一度だけ颯太に会いに行くことができた。昼過ぎに会って夕方までファーストフード店で長々喋っていたが、その時の颯太も普段通りの様子で、俺はひそかにホッとした。
2学期が始まってビクビクしながら学校に行くと、蘭は夏休み中にすでに新しい彼氏ができたらしく、俺の方には見向きもせずに女友達とキャイキャイはしゃいでいた。これまたひそかにホッと息をついた。
モテモテすぎる俺は2学期の間何人にも告られた。後半、同級生、先輩…。でももう恐ろしくて誰にも手を出す気にはなれなかった。蘭を深く傷付け泣かせたことは、俺の中にも深い後悔となって残っていた。真剣に想ってくれてる相手は絶対にダメだ。もう一生手は出さない。だって俺には颯太がいるから。ガキの頃から一途に大好きな颯太への想いが揺らぐことはこの先もないし、もう誰も無駄に傷付けたくない。
だけど。
困ったことに俺は中2で、この思春期真っ只中の体からは性欲が消えてなくなることはない。可愛い女子を振るたびに、一抹のもったいなさというか、ちょびっとだけ、本当にほんのちょこっとだけだけど、惜しいことしたなぁ、みたいな…、そんな思いも頭を掠めた。や、ほんとにちょこっとだけだけどね。
そんなある日、わりと遊んでそうに見える垢抜けた綺麗な3年生から告られた。
「立本くん、彼女と別れたんでしょ」
「あ…、はぁ」
「そっかぁ。…ね、私と付き合ってみない?」
来た。やっぱり。あぁ、すみません、もったいないけど…。後々のことを考えると…。
…いや、ちょっと待て。
…この先輩、絶対に俺のこと本気で好きじゃねーよな。だって喋ったこともないし。接点ないし。おそらくただイケメンの彼氏が欲しいだけだろ。…ワンチャン交渉してみる余地はあるんじゃねぇか?
わずか数秒の間にこんなことが頭をよぎってしまったどスケベの俺は、イチかバチか言ってみた。
「……あ、あの、」
「ん?」
自信満々な表情で返事を待っている先輩に、おそるおそる続ける。
「…体だけの割り切った関係じゃダメすかね?」
「…………。」
頬をグーで殴られた。言わなきゃよかった。
もう何も考えずにサッカーだけに集中しよう。そう心に決めた俺は、全てを投げ打ってサッカーばかりやっていた。女にもいかず、勉強もほとんどやらず。夢中になれることといったらこれしかなかった。
時々颯太に会いに行くことだけが、唯一の癒やしの時間だった。会えば会うたび想いは募り、苦しくてたまらない日もあったけど…。毎晩のように自分を慰めながら、その苦しさをごまかしていた。俺たちは途切れることなく数週間に一度は会い、楽しい時間を過ごしていた。
2年生の終わり頃に、進路調査があった。
突然こんな紙渡されてもなー。何書けばいいんだよ。教室の前に立った担任はクラスの全員に向かって、自分が希望する進学先の名前を書いて、明日提出するように言った。
ふーん。おっけー。颯太にラインして聞いてみるか。
帰宅後、俺は颯太にラインを送った。
『進路調査の紙書かねーとなんだけど、高校どこ行く?』
しばらく経ってから、返信が来る。
『A高校を第一希望にするつもりだよ』
ふん。A高校ね。
了解、とだけ送り、俺は調査用紙にちゃちゃっと記入した。
『了解』
「………………。」
突然樹から、高校どこ行く?とラインが届き、俺は希望校を教えた。するとたった一言だけ、返信が来て、俺は不安になってスマホの画面をじっと見つめた。
…分かってるのかな、樹。…大丈夫だよ…、ね?
塾に通い出してから何度か模試を受け、両親と話し合った結果、俺はA高校を受験することにほぼ決めていた。コツコツ頑張ってきているから、このままいけばきっと大丈夫なはずだ。気を抜かず、残り1年間最後まで勉強を続ければ、きっと。
ただ……。
そうと決めた時、頭をよぎったのは樹のことだった。子どもの頃、俺が引っ越すことになって離れ離れになって以来、約束していた。高校は同じ所に行こう、と。それまでは寂しいけど別々の小学校、中学校で頑張ろうと。
「…………。」
樹がサッカーに打ち込んでいることは分かってる。すごく頑張っていて、試合でも良い成績を残しているみたいだ。楽しんでいる樹の話を聞くのは大好きで、水を差すようなことは言いたくなくて…。喉元まで出かかった言葉を何度か飲み込んだことがある。
…ちゃんと勉強もしてる?高校受験って、難しいんだよ、と。
まだ今でも俺と同じ高校を目指す気でいてくれてるなら、サッカーだけやっていたんじゃとてもじゃないけど絶対に合格はしない。最悪、俺が樹に合わせて進学先のランクを落とすか…、なんて、何度も頭をよぎったけれど、そんなことうちの両親が納得してくれるはずがない。
高校どこ行く?なんて、まるで週末どこ遊びに行く?みたいな気軽さで聞いてこられてますます不安が募る。行きたいと言えば誰でも行けるってわけではないと、ちゃんと分かっているんだろうか。
………………不安だ……。
2学期が始まってビクビクしながら学校に行くと、蘭は夏休み中にすでに新しい彼氏ができたらしく、俺の方には見向きもせずに女友達とキャイキャイはしゃいでいた。これまたひそかにホッと息をついた。
モテモテすぎる俺は2学期の間何人にも告られた。後半、同級生、先輩…。でももう恐ろしくて誰にも手を出す気にはなれなかった。蘭を深く傷付け泣かせたことは、俺の中にも深い後悔となって残っていた。真剣に想ってくれてる相手は絶対にダメだ。もう一生手は出さない。だって俺には颯太がいるから。ガキの頃から一途に大好きな颯太への想いが揺らぐことはこの先もないし、もう誰も無駄に傷付けたくない。
だけど。
困ったことに俺は中2で、この思春期真っ只中の体からは性欲が消えてなくなることはない。可愛い女子を振るたびに、一抹のもったいなさというか、ちょびっとだけ、本当にほんのちょこっとだけだけど、惜しいことしたなぁ、みたいな…、そんな思いも頭を掠めた。や、ほんとにちょこっとだけだけどね。
そんなある日、わりと遊んでそうに見える垢抜けた綺麗な3年生から告られた。
「立本くん、彼女と別れたんでしょ」
「あ…、はぁ」
「そっかぁ。…ね、私と付き合ってみない?」
来た。やっぱり。あぁ、すみません、もったいないけど…。後々のことを考えると…。
…いや、ちょっと待て。
…この先輩、絶対に俺のこと本気で好きじゃねーよな。だって喋ったこともないし。接点ないし。おそらくただイケメンの彼氏が欲しいだけだろ。…ワンチャン交渉してみる余地はあるんじゃねぇか?
わずか数秒の間にこんなことが頭をよぎってしまったどスケベの俺は、イチかバチか言ってみた。
「……あ、あの、」
「ん?」
自信満々な表情で返事を待っている先輩に、おそるおそる続ける。
「…体だけの割り切った関係じゃダメすかね?」
「…………。」
頬をグーで殴られた。言わなきゃよかった。
もう何も考えずにサッカーだけに集中しよう。そう心に決めた俺は、全てを投げ打ってサッカーばかりやっていた。女にもいかず、勉強もほとんどやらず。夢中になれることといったらこれしかなかった。
時々颯太に会いに行くことだけが、唯一の癒やしの時間だった。会えば会うたび想いは募り、苦しくてたまらない日もあったけど…。毎晩のように自分を慰めながら、その苦しさをごまかしていた。俺たちは途切れることなく数週間に一度は会い、楽しい時間を過ごしていた。
2年生の終わり頃に、進路調査があった。
突然こんな紙渡されてもなー。何書けばいいんだよ。教室の前に立った担任はクラスの全員に向かって、自分が希望する進学先の名前を書いて、明日提出するように言った。
ふーん。おっけー。颯太にラインして聞いてみるか。
帰宅後、俺は颯太にラインを送った。
『進路調査の紙書かねーとなんだけど、高校どこ行く?』
しばらく経ってから、返信が来る。
『A高校を第一希望にするつもりだよ』
ふん。A高校ね。
了解、とだけ送り、俺は調査用紙にちゃちゃっと記入した。
『了解』
「………………。」
突然樹から、高校どこ行く?とラインが届き、俺は希望校を教えた。するとたった一言だけ、返信が来て、俺は不安になってスマホの画面をじっと見つめた。
…分かってるのかな、樹。…大丈夫だよ…、ね?
塾に通い出してから何度か模試を受け、両親と話し合った結果、俺はA高校を受験することにほぼ決めていた。コツコツ頑張ってきているから、このままいけばきっと大丈夫なはずだ。気を抜かず、残り1年間最後まで勉強を続ければ、きっと。
ただ……。
そうと決めた時、頭をよぎったのは樹のことだった。子どもの頃、俺が引っ越すことになって離れ離れになって以来、約束していた。高校は同じ所に行こう、と。それまでは寂しいけど別々の小学校、中学校で頑張ろうと。
「…………。」
樹がサッカーに打ち込んでいることは分かってる。すごく頑張っていて、試合でも良い成績を残しているみたいだ。楽しんでいる樹の話を聞くのは大好きで、水を差すようなことは言いたくなくて…。喉元まで出かかった言葉を何度か飲み込んだことがある。
…ちゃんと勉強もしてる?高校受験って、難しいんだよ、と。
まだ今でも俺と同じ高校を目指す気でいてくれてるなら、サッカーだけやっていたんじゃとてもじゃないけど絶対に合格はしない。最悪、俺が樹に合わせて進学先のランクを落とすか…、なんて、何度も頭をよぎったけれど、そんなことうちの両親が納得してくれるはずがない。
高校どこ行く?なんて、まるで週末どこ遊びに行く?みたいな気軽さで聞いてこられてますます不安が募る。行きたいと言えば誰でも行けるってわけではないと、ちゃんと分かっているんだろうか。
………………不安だ……。
10
あなたにおすすめの小説
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
染まらない花
煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。
その中で、四歳年上のあなたに恋をした。
戸籍上では兄だったとしても、
俺の中では赤の他人で、
好きになった人。
かわいくて、綺麗で、優しくて、
その辺にいる女より魅力的に映る。
どんなにライバルがいても、
あなたが他の色に染まることはない。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる