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「行けるわけねーだろーがてめぇはアホか」
「……はい?」
中3になってすぐ、教室で行われた個人面談でやたらと口の悪い新担任の男が俺にサクッとそう言った。
「…な、何がすか?」
「何がすかじゃねぇよ。てめぇの進路調査表の話だタコ。去年提出しただろうが。ありえねぇ進路が書いてあるんだよこれに」
「や、書いてません、ありえねぇ進路とか。俺は普通に、……何て書いたっけ」
「A高校」
「あ、そうですそこです。そこに行きます」
「そこに行きますじゃねぇ!!それがありえねぇっつってんだよタコ!!」
「へ?」
俺がキョトンとすると、口の悪い担任はガックリと肩を落として深い溜息をついた。
「くそ。とんでもねぇアホ受け持っちまった…」
「先生、聞こえてます」
「……あのなぁ立本、……偏差値って、知ってるか?」
「……えっ…とぉ……、…なんか、はい」
「なんかってなんだよ」
「分かります、はい」
「自分の偏差値、分かるか?」
「…………えぇぇ……と」
「A高校の偏差値、知ってるか?」
「……。あ、もしかして、偏差値が足りてないんすか?」
「ものすごくな」
「げ。頑張りまーす」
「頑張りまーす、じゃねぇよ!!」
担任はそう叫び、頭をガシガシ掻き毟ると再び大きく息を吐く。
「……分かった。アホなお前にも理解できるように説明してやるからよく聞け。俺だってな、仮にも教師なんだ。少々難しい程度だったら、そりゃ発破もかけるよ。まだ時間はあるぞ、と。もっとしっかり頑張れ、って。な?」
「はぁ」
「だけどな立本。A高校ってのはな、うちのクラスで一番、あるいは二番、三番目くらいに賢いお友達が目指す高校なんだ」
「……。」
「お前は、クラスで一番、あるいは二番、よくて三番目くらいにおバカちゃんだろ?」
「……。」
「…勉強好きか?お前」
「嫌いです」
「志望校変えろ。あと10ヶ月そこらで偏差値40上げるのは不可能だ」
「……………………。」
……え、……えぇぇぇ……?
そ、颯太のやつ…、そんなに賢い高校受けようとしてるのか……?!すげぇ。
いや、ちょっと待って……。い、一度…、一度颯太と話そう……。
呆然と帰路につき、夜、俺は颯太と電話で話した。
『……やっぱり、受験のこと、まだ考えてなかったんだね……』
颯太の沈んだ声で、俺がその高校を目指すことが本当に無理難題であることがひしひしと伝わってきた。や、担任のかみ砕いた説明でもうよく分かってはいたんだけどさ。一縷の望みっていうか…。もしかしたら颯太なら、「んー、たしかにちょっと難しいけどまぁ樹なら今から頑張れば大丈夫だよーうふふ」とか言ってくれるんじゃないかと…。
でもそんなレベルの話ではなさそうだ。
『…ごめんね。俺がもっと早くにちゃんとその辺確認しておくべきだったよ…。でもサッカーに打ち込んでいる樹の邪魔をしたくなくて…』
「や、いやいやいやなんでお前が謝るんだよ。そんなこと気にすんなよ」
『…俺も考えたことはあるんだ。二人が目指せるような高校に志望校を変えるべきかなって。…でもやっぱり、…両親も俺がA高受けることすごい期待してて…』
「そ、そりゃそうだろうよ。そんなすげぇ学校を自分の息子が目指せるレベルだって分かったらめちゃくちゃ期待するわ。うちの親なら泣くぞ多分。…そ、そんな変なこと考えんなよ…」
颯太の声がどんどん小さくか細くなっていく。…俺がバカすぎて、颯太を落ち込ませてしまった…。どうするべきか。しばしの沈黙の間に頭を巡らせていると、颯太が震える声で言った。
『…………樹と、同じ高校に行きたい…………。ずっと、……ずっとそれだけを心の支えにして、……頑張ってきたんだ……。……寂しくても、…離れていても、……また、……同じ学校に、通える日が、……必ず来るんだって……』
「……っ、…そ、……そう、た…」
……颯太が、……泣いてる。
『……本当に、どうしても……、……ダメ、なのかな……。俺…、俺やっぱり親に言って、……少し学校のランク下げたい…。そうすれば、樹も頑張ってくれるなら、きっとまた……、同じ学校に……』
「………………。」
颯太の震える声を聞きながら、俺は思い出していた。あの日、颯太が引っ越していく前に、昼休みの小学校の教室で二人きりで話したことを。小さなこの胸に決意したことを。必ず同じ高校に行こうと。
『だから、それまでの辛抱なんだ。しばらくは離れることになるけど、また絶対に会えるんだ。今より大きくなったら、また同じ学校に通えるんだよ』
『……うん』
俺は、颯太にそう言ったんだ。
あの日教室の中で、誓ったんだ。
中1の時に、颯太の部屋に泊まった時にもそう言った。
『…樹と一緒に修学旅行、行きたかったな…』
『まぁ中学まではしかたないよな。高校になったら一緒に行けるだろ。楽しみにしてよーぜ』
『…うん。そうだね』
俺の言葉を信じた颯太は、可愛い顔で笑っていた。
……俺はバカだ。俺が颯太を泣かせてどーすんだ。
俺は改めて決意した。
「……颯太、大丈夫だ、安心しろ」
『……え?』
「俺は絶対にA高校に行くから。お前と同じ高校に、絶対に受かってみせるから」
「……はい?」
中3になってすぐ、教室で行われた個人面談でやたらと口の悪い新担任の男が俺にサクッとそう言った。
「…な、何がすか?」
「何がすかじゃねぇよ。てめぇの進路調査表の話だタコ。去年提出しただろうが。ありえねぇ進路が書いてあるんだよこれに」
「や、書いてません、ありえねぇ進路とか。俺は普通に、……何て書いたっけ」
「A高校」
「あ、そうですそこです。そこに行きます」
「そこに行きますじゃねぇ!!それがありえねぇっつってんだよタコ!!」
「へ?」
俺がキョトンとすると、口の悪い担任はガックリと肩を落として深い溜息をついた。
「くそ。とんでもねぇアホ受け持っちまった…」
「先生、聞こえてます」
「……あのなぁ立本、……偏差値って、知ってるか?」
「……えっ…とぉ……、…なんか、はい」
「なんかってなんだよ」
「分かります、はい」
「自分の偏差値、分かるか?」
「…………えぇぇ……と」
「A高校の偏差値、知ってるか?」
「……。あ、もしかして、偏差値が足りてないんすか?」
「ものすごくな」
「げ。頑張りまーす」
「頑張りまーす、じゃねぇよ!!」
担任はそう叫び、頭をガシガシ掻き毟ると再び大きく息を吐く。
「……分かった。アホなお前にも理解できるように説明してやるからよく聞け。俺だってな、仮にも教師なんだ。少々難しい程度だったら、そりゃ発破もかけるよ。まだ時間はあるぞ、と。もっとしっかり頑張れ、って。な?」
「はぁ」
「だけどな立本。A高校ってのはな、うちのクラスで一番、あるいは二番、三番目くらいに賢いお友達が目指す高校なんだ」
「……。」
「お前は、クラスで一番、あるいは二番、よくて三番目くらいにおバカちゃんだろ?」
「……。」
「…勉強好きか?お前」
「嫌いです」
「志望校変えろ。あと10ヶ月そこらで偏差値40上げるのは不可能だ」
「……………………。」
……え、……えぇぇぇ……?
そ、颯太のやつ…、そんなに賢い高校受けようとしてるのか……?!すげぇ。
いや、ちょっと待って……。い、一度…、一度颯太と話そう……。
呆然と帰路につき、夜、俺は颯太と電話で話した。
『……やっぱり、受験のこと、まだ考えてなかったんだね……』
颯太の沈んだ声で、俺がその高校を目指すことが本当に無理難題であることがひしひしと伝わってきた。や、担任のかみ砕いた説明でもうよく分かってはいたんだけどさ。一縷の望みっていうか…。もしかしたら颯太なら、「んー、たしかにちょっと難しいけどまぁ樹なら今から頑張れば大丈夫だよーうふふ」とか言ってくれるんじゃないかと…。
でもそんなレベルの話ではなさそうだ。
『…ごめんね。俺がもっと早くにちゃんとその辺確認しておくべきだったよ…。でもサッカーに打ち込んでいる樹の邪魔をしたくなくて…』
「や、いやいやいやなんでお前が謝るんだよ。そんなこと気にすんなよ」
『…俺も考えたことはあるんだ。二人が目指せるような高校に志望校を変えるべきかなって。…でもやっぱり、…両親も俺がA高受けることすごい期待してて…』
「そ、そりゃそうだろうよ。そんなすげぇ学校を自分の息子が目指せるレベルだって分かったらめちゃくちゃ期待するわ。うちの親なら泣くぞ多分。…そ、そんな変なこと考えんなよ…」
颯太の声がどんどん小さくか細くなっていく。…俺がバカすぎて、颯太を落ち込ませてしまった…。どうするべきか。しばしの沈黙の間に頭を巡らせていると、颯太が震える声で言った。
『…………樹と、同じ高校に行きたい…………。ずっと、……ずっとそれだけを心の支えにして、……頑張ってきたんだ……。……寂しくても、…離れていても、……また、……同じ学校に、通える日が、……必ず来るんだって……』
「……っ、…そ、……そう、た…」
……颯太が、……泣いてる。
『……本当に、どうしても……、……ダメ、なのかな……。俺…、俺やっぱり親に言って、……少し学校のランク下げたい…。そうすれば、樹も頑張ってくれるなら、きっとまた……、同じ学校に……』
「………………。」
颯太の震える声を聞きながら、俺は思い出していた。あの日、颯太が引っ越していく前に、昼休みの小学校の教室で二人きりで話したことを。小さなこの胸に決意したことを。必ず同じ高校に行こうと。
『だから、それまでの辛抱なんだ。しばらくは離れることになるけど、また絶対に会えるんだ。今より大きくなったら、また同じ学校に通えるんだよ』
『……うん』
俺は、颯太にそう言ったんだ。
あの日教室の中で、誓ったんだ。
中1の時に、颯太の部屋に泊まった時にもそう言った。
『…樹と一緒に修学旅行、行きたかったな…』
『まぁ中学まではしかたないよな。高校になったら一緒に行けるだろ。楽しみにしてよーぜ』
『…うん。そうだね』
俺の言葉を信じた颯太は、可愛い顔で笑っていた。
……俺はバカだ。俺が颯太を泣かせてどーすんだ。
俺は改めて決意した。
「……颯太、大丈夫だ、安心しろ」
『……え?』
「俺は絶対にA高校に行くから。お前と同じ高校に、絶対に受かってみせるから」
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