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泣きながら抱き合い、互いの想いを信じ、ヨーロッパへ旅立ってから1年─────
懐かしさのあまりドキドキが収まらない。すごい。日本だ。帰ってきたんだ。
飛行機から降り、空港の中を歩く。ふと前を見ると、大きな柱にドーンと樹の顔があって心臓がひっくり返りそうになった。
(び、…びっくりしたぁ……。……高級ブランドの新作の香水か。……ふふ。相変わらず大活躍だな、樹ってば)
愛しい人の素敵な笑顔が特大サイズで目の前にあって思わず息が止まったが、気を取り直して大荷物を抱えたままスタスタと外に向かって歩く。
「……うわぁ……!」
懐かしい景色に胸が高鳴る。留学して以来一度も帰ってきていないから、本当に嬉しくて嬉しくて。はぁ…、ついに戻ってきたんだ。家族や愛する人がいるこの国に。この1年間、高校受験の時の樹並みに死に物狂いで頑張ってきたから、正々堂々と戻れるぞ。あとはしっかり働いて、留学費用を立て替えてくれた親に返していかなくちゃ…。
それにしても、荷物が重い。先にある程度送ってはいたんだけど、もっといっぱい送っておくんだった。このくらいは持てるだろうと思ってたのが間違いだった。あと、お土産も買いすぎた。
どうしよう。タクシー乗っちゃおうかなぁ…。……いやでもやっぱりもったいないか。バス停に着いてから家まで歩くのが辛い気がするけど……、まぁ、頑張ろう。
近くのバス停まで歩こうとした時、空港の壁にまた大好きな人の顔があった。
(…こっちは新商品のチョコレートのポスターかぁ。…すごいなぁ。はぁ…、カッコいい……)
俺は昔から樹の顔が大好きだったんだ。俺だけじゃなくて国民みんなが好きらしいことがどんどん証明され始めたな、なんてぼんやり考えながら思わず吸い寄せられるように数歩近づいて、ジッと見つめる。……はぁ。……部屋に飾りたいよこれ。早く会いたい、樹。
「カッコいいよねーこの人。好きなの?もしかして」
「……っ!!」
突然後ろから話しかけられてビクッと肩が上がる。……この声……!!
弾かれたように振り向くと、そこにはキャップとマスクに伊達めがねをかけた樹の姿があった。
「い………………っ!!」
「よぉ。おかえり、颯太。愛しい恋人が迎えに来たぞ」
「……っ!!」
途端に心臓が痛いほどドクンドクンと鳴り響き、頬に熱がブワァッと集まる。い、樹だ……!信じられない。樹が、いる。目の前に。む、迎えに来てくれたの……?
「どっ!どっ!……どうして、いい、いるの?」
「あ?お前が今日着くって連絡くれてただろ?」
「だっ!だけどっ!……だ、大丈夫なの?し、仕事…」
「今日は丸一日空けてある。…この日のためにこの1年間一切休みを要求しなかったからな、俺。お前の帰国日が分かってからずっと事務所に言ってたから。この日だけは絶対にひとつも仕事しねーって」
「…そ、…そうなの…?」
「……うん」
「……。…あ、ありがと……」
「…………うん」
お互い何故だか耳まで真っ赤だ。ひ、久しぶりすぎて……。ドキドキが止まらないんだけど……。
樹の手が俺の頬に触れて、ピクンと体が動く。
「……やっと触れた。……行こう」
樹が掠れた声で言った。俺はコクコクと頷いて、二人でその場を離れる。樹は当然のように俺の荷物を全部持った。
「あ、じ、自分で持つ…」
「嫌だ。俺が持つ」
樹はきっぱりそう言うとタクシー乗り場にスタスタと歩いて行く。置いて行かれないように慌てて後を追いかけながら、その後ろ姿を見つめてジーンとした。会いたかったよ、樹…。
タクシーに乗り込むと、樹は俺たちに馴染みのない地名を運転手さんに告げる。俺の実家でも樹の独り暮らしのアパートでもない。
「……?」
「すぐ着くからな。そんなに遠くねぇよ」
「あ、うん。それは分かる。けど…、どこに向かってるの?」
「内緒」
内緒なんだ…。俺のこの大荷物抱えて一体今から何しに行くんだろう。一旦家に置きに行ったりしなくていいのかな…。
目的地が近くなってきたのか、樹が運転手さんに細かく指示を出す。そっちの道に入って真っ直ぐ……、奥の信号のいっこ手前で曲がって……、と何度か指示を繰り返すと、すごく高級そうなマンションの手前でタクシーを停めた。た、高い……!何、このマンション。すっごく高い。見上げたら後ろにひっくり返りそうだ。
「ほら、行くぞ颯太。降りろ」
「あ、ごめ…、お金…」
「いいからさっさと出ろ、ほれ」
樹に急かされて慌ててタクシーを降りる。こ、こんなところに何の用事が…?まさか中に入るわけじゃないよね…?帰国早々、芸能人仲間に紹介されたりしないよね…?
「行くぞ」
身構える俺を促し、樹はやっぱりスタスタと目の前の高級マンションに入っていった。
「ち、……ちょっと、ねぇ…待って」
ここ、誰の家?俺みたいな一般人が入っても大丈夫なの…?
不安になりながら樹にピッタリくっついて中に入ると、豪奢なロビーには受付のようなところがあり、中に立っていたスーツ姿の男性が、
「お帰りなさいませ」
と美しい姿勢で樹に頭を下げた。ま、まさか……!これは、コンシェルジュって方では……?!すごい。高級マンションには本当にいるんだ。俺は驚きながら樹に続いてその前を通り過ぎた。
…………ん?え、ちょっと待って。
……“お帰りなさいませ”??
「……ねぇ、……樹」
「んー?」
エレベーターホールの前で立ち止まった樹が振り返る。
「…………お帰りなさいませ、って……?」
「コンシェルジュってやつだよ」
「や、そうじゃなくて……」
エレベーターが開くやいなやスッと乗り込む樹。俺はもはや呆然としながら機械的に樹についていく。……ねぇ、まさか、……樹……。
25階のボタンを押して腕組みして立ってる樹を口を開けたまま見つめた。
懐かしさのあまりドキドキが収まらない。すごい。日本だ。帰ってきたんだ。
飛行機から降り、空港の中を歩く。ふと前を見ると、大きな柱にドーンと樹の顔があって心臓がひっくり返りそうになった。
(び、…びっくりしたぁ……。……高級ブランドの新作の香水か。……ふふ。相変わらず大活躍だな、樹ってば)
愛しい人の素敵な笑顔が特大サイズで目の前にあって思わず息が止まったが、気を取り直して大荷物を抱えたままスタスタと外に向かって歩く。
「……うわぁ……!」
懐かしい景色に胸が高鳴る。留学して以来一度も帰ってきていないから、本当に嬉しくて嬉しくて。はぁ…、ついに戻ってきたんだ。家族や愛する人がいるこの国に。この1年間、高校受験の時の樹並みに死に物狂いで頑張ってきたから、正々堂々と戻れるぞ。あとはしっかり働いて、留学費用を立て替えてくれた親に返していかなくちゃ…。
それにしても、荷物が重い。先にある程度送ってはいたんだけど、もっといっぱい送っておくんだった。このくらいは持てるだろうと思ってたのが間違いだった。あと、お土産も買いすぎた。
どうしよう。タクシー乗っちゃおうかなぁ…。……いやでもやっぱりもったいないか。バス停に着いてから家まで歩くのが辛い気がするけど……、まぁ、頑張ろう。
近くのバス停まで歩こうとした時、空港の壁にまた大好きな人の顔があった。
(…こっちは新商品のチョコレートのポスターかぁ。…すごいなぁ。はぁ…、カッコいい……)
俺は昔から樹の顔が大好きだったんだ。俺だけじゃなくて国民みんなが好きらしいことがどんどん証明され始めたな、なんてぼんやり考えながら思わず吸い寄せられるように数歩近づいて、ジッと見つめる。……はぁ。……部屋に飾りたいよこれ。早く会いたい、樹。
「カッコいいよねーこの人。好きなの?もしかして」
「……っ!!」
突然後ろから話しかけられてビクッと肩が上がる。……この声……!!
弾かれたように振り向くと、そこにはキャップとマスクに伊達めがねをかけた樹の姿があった。
「い………………っ!!」
「よぉ。おかえり、颯太。愛しい恋人が迎えに来たぞ」
「……っ!!」
途端に心臓が痛いほどドクンドクンと鳴り響き、頬に熱がブワァッと集まる。い、樹だ……!信じられない。樹が、いる。目の前に。む、迎えに来てくれたの……?
「どっ!どっ!……どうして、いい、いるの?」
「あ?お前が今日着くって連絡くれてただろ?」
「だっ!だけどっ!……だ、大丈夫なの?し、仕事…」
「今日は丸一日空けてある。…この日のためにこの1年間一切休みを要求しなかったからな、俺。お前の帰国日が分かってからずっと事務所に言ってたから。この日だけは絶対にひとつも仕事しねーって」
「…そ、…そうなの…?」
「……うん」
「……。…あ、ありがと……」
「…………うん」
お互い何故だか耳まで真っ赤だ。ひ、久しぶりすぎて……。ドキドキが止まらないんだけど……。
樹の手が俺の頬に触れて、ピクンと体が動く。
「……やっと触れた。……行こう」
樹が掠れた声で言った。俺はコクコクと頷いて、二人でその場を離れる。樹は当然のように俺の荷物を全部持った。
「あ、じ、自分で持つ…」
「嫌だ。俺が持つ」
樹はきっぱりそう言うとタクシー乗り場にスタスタと歩いて行く。置いて行かれないように慌てて後を追いかけながら、その後ろ姿を見つめてジーンとした。会いたかったよ、樹…。
タクシーに乗り込むと、樹は俺たちに馴染みのない地名を運転手さんに告げる。俺の実家でも樹の独り暮らしのアパートでもない。
「……?」
「すぐ着くからな。そんなに遠くねぇよ」
「あ、うん。それは分かる。けど…、どこに向かってるの?」
「内緒」
内緒なんだ…。俺のこの大荷物抱えて一体今から何しに行くんだろう。一旦家に置きに行ったりしなくていいのかな…。
目的地が近くなってきたのか、樹が運転手さんに細かく指示を出す。そっちの道に入って真っ直ぐ……、奥の信号のいっこ手前で曲がって……、と何度か指示を繰り返すと、すごく高級そうなマンションの手前でタクシーを停めた。た、高い……!何、このマンション。すっごく高い。見上げたら後ろにひっくり返りそうだ。
「ほら、行くぞ颯太。降りろ」
「あ、ごめ…、お金…」
「いいからさっさと出ろ、ほれ」
樹に急かされて慌ててタクシーを降りる。こ、こんなところに何の用事が…?まさか中に入るわけじゃないよね…?帰国早々、芸能人仲間に紹介されたりしないよね…?
「行くぞ」
身構える俺を促し、樹はやっぱりスタスタと目の前の高級マンションに入っていった。
「ち、……ちょっと、ねぇ…待って」
ここ、誰の家?俺みたいな一般人が入っても大丈夫なの…?
不安になりながら樹にピッタリくっついて中に入ると、豪奢なロビーには受付のようなところがあり、中に立っていたスーツ姿の男性が、
「お帰りなさいませ」
と美しい姿勢で樹に頭を下げた。ま、まさか……!これは、コンシェルジュって方では……?!すごい。高級マンションには本当にいるんだ。俺は驚きながら樹に続いてその前を通り過ぎた。
…………ん?え、ちょっと待って。
……“お帰りなさいませ”??
「……ねぇ、……樹」
「んー?」
エレベーターホールの前で立ち止まった樹が振り返る。
「…………お帰りなさいませ、って……?」
「コンシェルジュってやつだよ」
「や、そうじゃなくて……」
エレベーターが開くやいなやスッと乗り込む樹。俺はもはや呆然としながら機械的に樹についていく。……ねぇ、まさか、……樹……。
25階のボタンを押して腕組みして立ってる樹を口を開けたまま見つめた。
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