ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

文字の大きさ
59 / 63

59.

しおりを挟む
 泣きながら抱き合い、互いの想いを信じ、ヨーロッパへ旅立ってから1年─────



 懐かしさのあまりドキドキが収まらない。すごい。日本だ。帰ってきたんだ。
 飛行機から降り、空港の中を歩く。ふと前を見ると、大きな柱にドーンと樹の顔があって心臓がひっくり返りそうになった。

(び、…びっくりしたぁ……。……高級ブランドの新作の香水か。……ふふ。相変わらず大活躍だな、樹ってば)

 愛しい人の素敵な笑顔が特大サイズで目の前にあって思わず息が止まったが、気を取り直して大荷物を抱えたままスタスタと外に向かって歩く。

「……うわぁ……!」
  
 懐かしい景色に胸が高鳴る。留学して以来一度も帰ってきていないから、本当に嬉しくて嬉しくて。はぁ…、ついに戻ってきたんだ。家族や愛する人がいるこの国に。この1年間、高校受験の時の樹並みに死に物狂いで頑張ってきたから、正々堂々と戻れるぞ。あとはしっかり働いて、留学費用を立て替えてくれた親に返していかなくちゃ…。

 それにしても、荷物が重い。先にある程度送ってはいたんだけど、もっといっぱい送っておくんだった。このくらいは持てるだろうと思ってたのが間違いだった。あと、お土産も買いすぎた。
 どうしよう。タクシー乗っちゃおうかなぁ…。……いやでもやっぱりもったいないか。バス停に着いてから家まで歩くのが辛い気がするけど……、まぁ、頑張ろう。
 近くのバス停まで歩こうとした時、空港の壁にまた大好きな人の顔があった。

(…こっちは新商品のチョコレートのポスターかぁ。…すごいなぁ。はぁ…、カッコいい……)

 俺は昔から樹の顔が大好きだったんだ。俺だけじゃなくて国民みんなが好きらしいことがどんどん証明され始めたな、なんてぼんやり考えながら思わず吸い寄せられるように数歩近づいて、ジッと見つめる。……はぁ。……部屋に飾りたいよこれ。早く会いたい、樹。

「カッコいいよねーこの人。好きなの?もしかして」
「……っ!!」

 突然後ろから話しかけられてビクッと肩が上がる。……この声……!!
 弾かれたように振り向くと、そこにはキャップとマスクに伊達めがねをかけた樹の姿があった。

「い………………っ!!」
「よぉ。おかえり、颯太。愛しい恋人が迎えに来たぞ」
「……っ!!」

 途端に心臓が痛いほどドクンドクンと鳴り響き、頬に熱がブワァッと集まる。い、樹だ……!信じられない。樹が、いる。目の前に。む、迎えに来てくれたの……?

「どっ!どっ!……どうして、いい、いるの?」
「あ?お前が今日着くって連絡くれてただろ?」
「だっ!だけどっ!……だ、大丈夫なの?し、仕事…」
「今日は丸一日空けてある。…この日のためにこの1年間一切休みを要求しなかったからな、俺。お前の帰国日が分かってからずっと事務所に言ってたから。この日だけは絶対にひとつも仕事しねーって」
「…そ、…そうなの…?」
「……うん」
「……。…あ、ありがと……」
「…………うん」

 お互い何故だか耳まで真っ赤だ。ひ、久しぶりすぎて……。ドキドキが止まらないんだけど……。
 樹の手が俺の頬に触れて、ピクンと体が動く。

「……やっと触れた。……行こう」

 樹が掠れた声で言った。俺はコクコクと頷いて、二人でその場を離れる。樹は当然のように俺の荷物を全部持った。

「あ、じ、自分で持つ…」
「嫌だ。俺が持つ」

 樹はきっぱりそう言うとタクシー乗り場にスタスタと歩いて行く。置いて行かれないように慌てて後を追いかけながら、その後ろ姿を見つめてジーンとした。会いたかったよ、樹…。

 タクシーに乗り込むと、樹は俺たちに馴染みのない地名を運転手さんに告げる。俺の実家でも樹の独り暮らしのアパートでもない。

「……?」
「すぐ着くからな。そんなに遠くねぇよ」
「あ、うん。それは分かる。けど…、どこに向かってるの?」
「内緒」

 内緒なんだ…。俺のこの大荷物抱えて一体今から何しに行くんだろう。一旦家に置きに行ったりしなくていいのかな…。

 目的地が近くなってきたのか、樹が運転手さんに細かく指示を出す。そっちの道に入って真っ直ぐ……、奥の信号のいっこ手前で曲がって……、と何度か指示を繰り返すと、すごく高級そうなマンションの手前でタクシーを停めた。た、高い……!何、このマンション。すっごく高い。見上げたら後ろにひっくり返りそうだ。

「ほら、行くぞ颯太。降りろ」
「あ、ごめ…、お金…」
「いいからさっさと出ろ、ほれ」

 樹に急かされて慌ててタクシーを降りる。こ、こんなところに何の用事が…?まさか中に入るわけじゃないよね…?帰国早々、芸能人仲間に紹介されたりしないよね…?

「行くぞ」

 身構える俺を促し、樹はやっぱりスタスタと目の前の高級マンションに入っていった。

「ち、……ちょっと、ねぇ…待って」

 ここ、誰の家?俺みたいな一般人が入っても大丈夫なの…?
 不安になりながら樹にピッタリくっついて中に入ると、豪奢なロビーには受付のようなところがあり、中に立っていたスーツ姿の男性が、

「お帰りなさいませ」

と美しい姿勢で樹に頭を下げた。ま、まさか……!これは、コンシェルジュって方では……?!すごい。高級マンションには本当にいるんだ。俺は驚きながら樹に続いてその前を通り過ぎた。

 …………ん?え、ちょっと待って。
 ……“お帰りなさいませ”??

「……ねぇ、……樹」
「んー?」

 エレベーターホールの前で立ち止まった樹が振り返る。

「…………お帰りなさいませ、って……?」
「コンシェルジュってやつだよ」
「や、そうじゃなくて……」

 エレベーターが開くやいなやスッと乗り込む樹。俺はもはや呆然としながら機械的に樹についていく。……ねぇ、まさか、……樹……。

 25階のボタンを押して腕組みして立ってる樹を口を開けたまま見つめた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...