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鳥籠編【塩期間編】(読まなくても問題ありません)
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敵意を隠す必要もない。そして、俺も向けられて当然だと思っている。
アーデルハイトの傍にいたという三人は俺の前にそろっている。
何も話してやらず、何かされても面倒事になるだけだ。実際、追ってこられたのだから。
ここまで来られるとは思っていなかったのだが、そこそこに使える者達なのだろう。
それが、どんな感情で動いているかは知らないのだが。しかし、大体の事はもうすでに察してはいるのだろう。
まず名を問い、名乗らせる。俺についてはもう聞いているのだろう、セルデスディアの王太子だと言っても別段、驚きはなかった。
「言いたいことを聞こうか」
「自分たちは、アーデルハイト嬢と一緒にいられるのでしょうか」
どう処されるのではなく、それか。面白い、と俺は笑ってやる。
「一緒にいさせてやろう。しばらくは。私はあれを、妃にしたい」
そう言えば、ああやはりというような顔をする。
しかしそれに対して、異を唱えるような、つっかかってくるような愚かさは持ってはいなかった。
表立っては、というところかもしれんが。
「では我らは彼女についてそちらの国に行くまでです。彼女が、それを良しとするのならば」
「――と、言いたいのですが」
「こちらとしてはあなたが彼女に足るのかを知りたい」
「お前たちが、私を計るのか」
問えばそうだと、遠慮なく頷いた。
国で正面から、俺にそのようなことを言う者はいなかったので新鮮でもある。
「他の方達も我らという壁はありましたので。そこを、大国の王太子だからといって、特例とするわけには参りません」
「は……よほど腕に自信があるんだな」
良いだろう、と俺は言う。良いだろう、お前たちに付き合ってやろう、と。
納得さえすれば、こいつらは何も言わないだろう。
お前たちに会わせてやると言えば、剣となった。俺としては弓でも、何でも良いと思っている。
武芸に対しても誰にも引けを取らぬよう身に着けていたからだ。
剣技は貴族の男にとって嗜みのようなものだ。ある程度、恥じぬ程度に仕込まれる。
どれほどのものか対してみなければわからないが、負けはないだろう。
相手もそこそこ使えるとは思うが、自分が負けるとは思えなかった。
一対三は不利だと、誰か二人に勝てば良いと言うことになるが誰にも負けてやるつもりはない。
誰が最初に行くかと順番を決めて、最初に向かいあったのは物静かそうな男だ。
開始の合図は無く、呼吸で図る。
先に踏み込んできた、その切っ先を弾いてやると驚いたような顔をしている。
このまま、喉元を押さえてもいいがもう少し遊んでやるかと数度剣を合わせてやる。
弱くはない。どちらかと言えば上手くやる方だ。が、俺の方が読みが深く上手い。
剣を絡めて地に落とす。膠着した状態でどうすると問えば、参りましたと素直に吐いた。
「しかし、一番、上手くやれないのが私ですので」
「そうか。それは楽しみだな」
「次は、私と」
次に、おそらくリーダー格なのだろう。先程、俺と話を進めていた黒髪の男。
視線に悪意も、敵意もないのが不気味でもある。本当に、俺を値踏みしているのだ。
アーデルハイトにふさわしいかどうかを。
こいつらにとって、アーデルハイトはそれだけの価値がある、離れがたい相手ということなのだろう。
面白い。誰かにそう思わせるほどのものが、あるのだという事が面白い。
先程の相手とは変わって力強く、直線的な攻撃。けれどその隙は、わざと作っているような。
一歩の踏み込みが大きい、緩急がある。けれどそれくらいは、俺でもやる。
だから慌てる事などなにもなく、ただ処するだけなのだ。
線は良いが練度はこちらの方が上。しばらくやりあえば癖も見えてくる。
それを、そう見せているのなら俺より上手なのだろうが、そうではないと思う。
剣先に一瞬のぶれ。それはどう処するか迷った印だ。そこを見逃さず上方へと弾いて、そのまま眉間の先に剣先突きつけてやった。
「これで納得するか? このまま負けっぱなしが嫌ならお前も相手をしてやるが」
勝負はすでに決している。残る一人に視線を向ければ、不敵に笑って見せる。
「そうですね。一人だけ手合わせ無しで仲間外れは寂しい」
一番厄介なのはこれだなと思う。
向かい合って、視線あった瞬間に踏み込んでくる。遠慮のない突きにひやりとしたものが走った。
気を抜けばやられると、その時思ったのだ。身のこなしが早い、鋭い。
けれど、軽い。その分の手数なのだろう。
それに明確な敵意がない分、迷う所もある。読み辛いということだ。
打ち合った数は10を超えた。距離をとったかと思えば一気に詰めてくる。
厄介なと思うが楽しくなってきた頃――相手が身を引いて剣を降ろす。
「一晩打ち合っても終わらないと思うのですが」
「そうだな」
「……ま、アーデを守れる程度の腕はあるかな。俺はいいよ、この人で」
量られているのはわかっていた。
しかし目の前でそうとわかる言葉を落とされたら――少し、愉快になってくる。
俺を、他国の貴族の子息が。
あの女に釣り合うかを、量っていた。
「これで納得したならいいだろう。お前達もこちらに従ってもらう。しばらくはこの館で好きにしていて良い」
アーデルハイトの傍にいさせてやると言えば、それなら良いと頷いた。
こいつらの行動の軸はアーデルハイトなのだろう。それを俺が抑えているのだから、最終的には従いはするのだろう。
好きにここで過ごせと言って、屋敷を後にする。
根回しがいくつか必要だ。国内への対応と、それからアーデルハイトの父、公爵。
まだ傍らに置くには足りぬところもある。それを補わなければならない。
やることがたくさんあるなと、笑い零れた。
アーデルハイトの傍にいたという三人は俺の前にそろっている。
何も話してやらず、何かされても面倒事になるだけだ。実際、追ってこられたのだから。
ここまで来られるとは思っていなかったのだが、そこそこに使える者達なのだろう。
それが、どんな感情で動いているかは知らないのだが。しかし、大体の事はもうすでに察してはいるのだろう。
まず名を問い、名乗らせる。俺についてはもう聞いているのだろう、セルデスディアの王太子だと言っても別段、驚きはなかった。
「言いたいことを聞こうか」
「自分たちは、アーデルハイト嬢と一緒にいられるのでしょうか」
どう処されるのではなく、それか。面白い、と俺は笑ってやる。
「一緒にいさせてやろう。しばらくは。私はあれを、妃にしたい」
そう言えば、ああやはりというような顔をする。
しかしそれに対して、異を唱えるような、つっかかってくるような愚かさは持ってはいなかった。
表立っては、というところかもしれんが。
「では我らは彼女についてそちらの国に行くまでです。彼女が、それを良しとするのならば」
「――と、言いたいのですが」
「こちらとしてはあなたが彼女に足るのかを知りたい」
「お前たちが、私を計るのか」
問えばそうだと、遠慮なく頷いた。
国で正面から、俺にそのようなことを言う者はいなかったので新鮮でもある。
「他の方達も我らという壁はありましたので。そこを、大国の王太子だからといって、特例とするわけには参りません」
「は……よほど腕に自信があるんだな」
良いだろう、と俺は言う。良いだろう、お前たちに付き合ってやろう、と。
納得さえすれば、こいつらは何も言わないだろう。
お前たちに会わせてやると言えば、剣となった。俺としては弓でも、何でも良いと思っている。
武芸に対しても誰にも引けを取らぬよう身に着けていたからだ。
剣技は貴族の男にとって嗜みのようなものだ。ある程度、恥じぬ程度に仕込まれる。
どれほどのものか対してみなければわからないが、負けはないだろう。
相手もそこそこ使えるとは思うが、自分が負けるとは思えなかった。
一対三は不利だと、誰か二人に勝てば良いと言うことになるが誰にも負けてやるつもりはない。
誰が最初に行くかと順番を決めて、最初に向かいあったのは物静かそうな男だ。
開始の合図は無く、呼吸で図る。
先に踏み込んできた、その切っ先を弾いてやると驚いたような顔をしている。
このまま、喉元を押さえてもいいがもう少し遊んでやるかと数度剣を合わせてやる。
弱くはない。どちらかと言えば上手くやる方だ。が、俺の方が読みが深く上手い。
剣を絡めて地に落とす。膠着した状態でどうすると問えば、参りましたと素直に吐いた。
「しかし、一番、上手くやれないのが私ですので」
「そうか。それは楽しみだな」
「次は、私と」
次に、おそらくリーダー格なのだろう。先程、俺と話を進めていた黒髪の男。
視線に悪意も、敵意もないのが不気味でもある。本当に、俺を値踏みしているのだ。
アーデルハイトにふさわしいかどうかを。
こいつらにとって、アーデルハイトはそれだけの価値がある、離れがたい相手ということなのだろう。
面白い。誰かにそう思わせるほどのものが、あるのだという事が面白い。
先程の相手とは変わって力強く、直線的な攻撃。けれどその隙は、わざと作っているような。
一歩の踏み込みが大きい、緩急がある。けれどそれくらいは、俺でもやる。
だから慌てる事などなにもなく、ただ処するだけなのだ。
線は良いが練度はこちらの方が上。しばらくやりあえば癖も見えてくる。
それを、そう見せているのなら俺より上手なのだろうが、そうではないと思う。
剣先に一瞬のぶれ。それはどう処するか迷った印だ。そこを見逃さず上方へと弾いて、そのまま眉間の先に剣先突きつけてやった。
「これで納得するか? このまま負けっぱなしが嫌ならお前も相手をしてやるが」
勝負はすでに決している。残る一人に視線を向ければ、不敵に笑って見せる。
「そうですね。一人だけ手合わせ無しで仲間外れは寂しい」
一番厄介なのはこれだなと思う。
向かい合って、視線あった瞬間に踏み込んでくる。遠慮のない突きにひやりとしたものが走った。
気を抜けばやられると、その時思ったのだ。身のこなしが早い、鋭い。
けれど、軽い。その分の手数なのだろう。
それに明確な敵意がない分、迷う所もある。読み辛いということだ。
打ち合った数は10を超えた。距離をとったかと思えば一気に詰めてくる。
厄介なと思うが楽しくなってきた頃――相手が身を引いて剣を降ろす。
「一晩打ち合っても終わらないと思うのですが」
「そうだな」
「……ま、アーデを守れる程度の腕はあるかな。俺はいいよ、この人で」
量られているのはわかっていた。
しかし目の前でそうとわかる言葉を落とされたら――少し、愉快になってくる。
俺を、他国の貴族の子息が。
あの女に釣り合うかを、量っていた。
「これで納得したならいいだろう。お前達もこちらに従ってもらう。しばらくはこの館で好きにしていて良い」
アーデルハイトの傍にいさせてやると言えば、それなら良いと頷いた。
こいつらの行動の軸はアーデルハイトなのだろう。それを俺が抑えているのだから、最終的には従いはするのだろう。
好きにここで過ごせと言って、屋敷を後にする。
根回しがいくつか必要だ。国内への対応と、それからアーデルハイトの父、公爵。
まだ傍らに置くには足りぬところもある。それを補わなければならない。
やることがたくさんあるなと、笑い零れた。
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