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1章 幼少期編

目覚めたら……ここは何処ですか?

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「でゅふふ。今日もべスポジ確保できましたわ」

 騎士団の訓練所がよく見える少し離れた場所の大きな木の上。
 家の力をフルに使って開発を急がせたこの世界には存在しない防振望遠鏡を胸もとにぶら下げると騎士団の訓練が始まるのを今か今かと待ち構える。

 そんな今日も今日とて私はと言うと、私の人生を掛けてまで愛し抜いた最推しのフリードリヒ様の日常をコッソリ覗いては萌え散らかしている毎日。

 一応これでも貴族令嬢として育っているから、この自由を手に入れる為にやる事はやっているのだ。
 
 愛しのフリードリヒ様の本日の予定は午前は騎士団での訓練、午後は主でありご友人である王太子殿下の執務の助手にと大忙し。さすが、私の推し優秀すぎる。

 王太子殿下と居る所を覗き見する事はさすがの私でも後がめんどくさいので騎士団の練習の時はもう存分に堪能させていただいております。ウマウマ。

 この場所は訓練所とは少し距離があるので防振望遠鏡越しで見る推しの麗しさに我を忘れて。

「はぁぁぁ今日もフリードリヒしゃまイケメェェェェン」


 そう、夢中になりすぎた私は私の天敵が近づいていた事に気が付かなかったのだ。

「おい、そこの変態、おいお前だ!影に隠れてコソコソ覗きばかりでキメェんだよ。というか危ないから降りてこい!聞こえてんのか!」

 と、いつもの丁寧でお優しい口調がどこへ行った?とツッコミを入れたくなるような口の悪さを発揮し、暴言を吐きながら私が登っていた木の根本を蹴った。

 咄嗟の事に驚いた私は足を滑らせると、皆さんの予想通りそのまま木から落下した。

 身の安全より防振望遠鏡が無事かを心配するくらい私はフリードリヒ様の追っかけ悪質ストーカーだった。

  









 ふわふわと心地良い揺れと、私の身体を包みふかふかでなんだか暖かくて安心する。
 それと同時に、優しい何かに頭を撫でられる感触がする。

「ふふ。気持ちがいい。もっと」

 優しい何かに私は思わず縋りつく。

 クスクスと小さくだけど誰かが笑う声が聞こえる。


 久しぶりにゆっくりと眠れている。
 特に際立って特徴もなく、美人でもなくどこにでもいるようなモブな私だけど、ずっと勉強だけは出来たから高校大学で資格を取りまくっていた。
 そのお陰で難しいんじゃないかと言われていた就職難の時代に就職活動もうまくいき何故か大企業の総合職での採用が決まり。
 就職後もあれよあれよと運だけで来てしまった私は、若干30にして来月から営業課の新規事業のチーフを任される事になってしまった。
 そのお陰でこの所多忙が続き残業の日々に睡眠もほとんどとれていない状態だった。

 身体を酷使すれば自ずと眠れると思っていたのだけど、仕事のプレッシャーと上司と部下に挟まれる中間管理職となった事でここしばらく不眠症を患っていた。
 
 人間眠れないのがこんなに苦痛だとは思わなかった。

 だから今、意識は別として身体が眠れている事に私は幸せを感じている。





 ん?あれ?




 私、いつ眠ったっけ?


 

 あれ?



「おーい。おーい」


 ん?なに?うるさいなあ。


「そろそろ起きてくださーい」


 ううんどうなってるの?


茅ヶ崎緋彩ちがさきひいろさまー起きてください」


 え?


「茅ヶ崎様、茅ヶ崎緋彩様ですよね?そろそろ起きてください!」

 
 バチっと瞳を開いた私の目に映ったのは。



 真っ白な天井と真っ白な空間



 そして



 私の隣に寝転がっていた





 銀髪で金色の瞳を持つイケメン。





 何コレ?どういう状況?

 

 
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