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3~4
しおりを挟む3.
目覚ましの音で花蓮は目を覚ました。
6時30分
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
私何か夢見てたな…
中島君が出てきた気がする。
どんな夢だったっけ…
コペンハーゲン…
…それしか思い出せない…
「花蓮、帰りにお茶して行かない?」
終業のチャイムが鳴ると同時に葵は花蓮を誘った。
「中島君とはどうなってるの?」
カフェの席に着くなり葵は花蓮に聞いてきた。
「どうって、何もないよ。話したことも無いのに。」
「向こうから何も言ってこないの? いつも見つめあってるのに!」
「見つめあってるって…、ただよく目が合うだけだよ。」
「いいや、あれはどう考えても気があるね! あ! 噂をすれば!」
入口のドアが開いて、中島弘人と友達が中に入ってきた。
中島弘人はすぐに花蓮がいるのに気付いた。
また目があった。
弘人はすぐに目をそらし、友達と席に着いた。
「俺何にしようかな~。弘人何にする?」
「…俺は…」
アイス抹茶ラテ!
花蓮は直観でそう思った。
「俺、アイス抹茶ラテ。」
弘人は店員にそう注文した。
当たった!
花蓮は自分の直観に驚いた。
「おまえ相変わらず甘党だなぁ~!」
「おまえだってベリーソースたっぷりなパンケーキ頼んでんじゃん!」
「花蓮、もう決めた?」
「あ、うん。」
「すみませーん!」
葵が店員を呼んだ。
「ストロベリーパフェお願いします。…花蓮は?」
「私は… ヘーゼルナッツカフェ。」
4.
上京して大学に入って、新しい友達もできて、新しい生活は、花蓮にとって充実した毎日だった。
ただ一つ、時々花蓮の胸を刺すのは、地元の親友、葵の事だった。
卒業後の前日、突然葵から言われた。
「私、ちょっと無理なんだ。花蓮と今迄みたいに付き合うの。」
「え?」
花蓮は最初、葵が何を言っているのかわからなかった。
「私ともう会わないってこと?」
葵は花蓮から顔を背けて何も言わなかった。
「私、何か気に障ることした? 何かあるんだったら言って! お願い!」
「何もない…。」
「だったらどうして?」
葵は長い沈黙のあと、ゆっくり花蓮の方に目を向けた。
「花蓮は…、何も悪くないよ。自分でも悪くないってわかってるんでしょ? だから、自分の存在が誰かの事を傷つけてるって、思うはずもない。そうやって、いつも優しくて、確実に前に向かってて、全てに恵まれてる。恵まれすぎてるから弱音を吐かない。てか、吐く弱音なんて無いんだよね。私、そういうの、正直無理なんだ。」
「…。」
「だから…、もう私の前に現れないでくれる?」
葵が花蓮から背を向けて去っていく姿が今でも目に焼き付いて離れない。
あれ以来、花蓮は表面的な付き合いしか出来なくなった。
完全に心を開くのが怖くなってしまった。
自分の事を恵まれすぎてるなんて思ったことは無かった。
確かに苦労と呼べるようなことは無かったが、両親はいわゆる仮面夫婦で、外では理想的な家族を演じていたが、家の中では口をきくことすらほとんど無かった。
何か話すとすれば、父親が一方的に母親を罵倒するだけだった。
そんな父親を、花蓮は心底憎んでいた。
そしてそこまで罵倒されながらも何も言い返さない母親に、実は嫌悪感を抱いていた。
花蓮が高校に入学してしばらく経ったある日、父親は家に帰らなくなった。
花蓮は東京の大学を受けようと決めた。
一日も早く、この家から、この地元から出たいと思っていた。
葵には、東京の大学を受けることだけ話していた。
「いいなあ、私も都会で女子大生したいな~。でもうちは無理だ。行かせてもらえてもせいぜい地元の大学か専門学校だな。花蓮がうらやましい!」
花蓮は、両親の不仲を葵に言ったほうが良かったのかと思った。
言ったところで、楽しい話題であるわけではないし、両親が仲良くなるわけでもない。
小学校高学年の時、花蓮はその時一番仲が良かった友達に、両親の不仲を相談したことがあった。
すると、しばらくしてから同級生の親たちにやたらと声をかけられ心配されるようになった。
「おまえは一体どういう教育をしてるんだ!」
父親が母親を罵倒した。
花蓮が話した内容を友達が漏らしたのをきっかけに、あっという間に親たちの耳に入ったのだった。
「俺がどれだけ恥をかいているのかわかってるのか!」
花蓮が話した内容は、いつの間にか尾ひれがついて内容が大きく変わっていたのだった。
それ以来、花蓮の両親の仲は、修復不能なまでに関係が悪化した。
花蓮は人に悩みを打ち明けることをやめた。
打ち明けたところで、悪くなることはあっても良くなることなど無いと悟ったのだった。
他の人たちは、どうやって深く人と関わっていくんだろう?
悩みを打ち明けないと、仲良くなるってことはできないのかな?
自分の悩みを言うことで傷つく人がいても、それでもやっぱり言うべきなんだろうか?
「私はガンガン言っちゃうね。ていうか、むしろもっと聞いて! もっと自分の事話させて~って思ってるタイプ。」
美容師のアミさんが鏡越しに花蓮を見て言った。
「それで話して、その話が独り歩きしたり、変な噂になったりとかで、トラブルとかなったりしませんか?」
「まあ、なったところで私に実害なかったら関係ないし、あったとしたら文句言いに行く!」
「そうなんですね。」
「女ってさ、悩みごとを話すだけでスッキリするとこあるじゃない? 別に解決策をそこに求めてはなくない? 今、それこそ花蓮ちゃんだって、私に悩みごと打ち明けてるじゃない。」
「アミさんは私の知り合いとは会ったこと無いし…。アミさんを疑ってるわけじゃないですけど、もしアミさんが私の言ったこと知り合いに話したところで誰にも迷惑かけるわけじゃないから…。」
「それでいいんじゃな~い。私だって誰からかまわずぶちまけてるわけじゃないし。用途によって分けてるよ~! こういう関係はこの人、この件はあの人、って。」
「でもそれって、打ち明けた人同士が話して、あ、それ私聞いてない~!ってなったら、また面倒な事になりません?」
「…う~ん…。」
アミさんは、しばし手を止めて考え込んだ。
「ようするに花蓮ちゃんは真面目すぎるんだろうね。私はそこまで考えたことないな~。」
「真面目すぎますか…私…。」
美容院を出た。
ついこの間まで新緑だった木々が色濃く変わっていた。
季節は春から夏に移りかけていた。
花蓮はサークルの集まりに行くため、駅に向かった。
信号が変わるのを待っているとき、通りの向こうに弘人を見つけた。
弘人の横には同世代らしい女の子がいた。
女の子はすごく嬉しそうに弘人に話しかけていた。
あまり感情を表に出すタイプではないような弘人だが、ごく自然にその子と話しているということは、けっこう親しい間柄なのかな、と花蓮は思った。
痛い。
その女の子は、弘人の腕にしがみつた。弘人はそれを離そうとしていたが、その子は笑いながら離れようとせず、結局そのまま歩いて行った。
あれ?
なんだろ?
痛いんだけど…。
花蓮は自分の心を直視して気が付いた。
私は、かなり傲慢な女だ。
勘違いも甚だしい。
根拠も無しに、私と中島君はいつか未来に付き合うのだと思っていた。
彼は、私に属している人間なんだって、理由もなく決めつけていた。
そして私は人の気持ちもわからない。
距離感もわからない。
あれだけ親友だと思っていた葵が
自分の事を嫌いだってこと
わからないでいた。
完全な
勘違い
不完全
返品したくなるような
欠陥品
花蓮はそれからいくつかの出会いがあって、何人かの人と付き合った。
恋人ができたのは、それなりに嬉しく楽しいことではあったが、どこか深くまで相手に入り込めないでいた。
「花蓮は、俺じゃなくてもいいんだろ?」
「どうしてそういうこと言うの?」
「もう終わりにしよう。」
たいていそういう風に終わる。
彼らは何でそういうことを言うんだろう。
私は彼の事が好きだから付き合っていたのに。
どうして「俺じゃなくても」なんて…
…確かに…
…あなたじゃなくても良かったのかも
…でも…あなたも私じゃなくても良かったよね…?
性格がそこそこ良ければ、誰でも変わらない
変わるとすれば…
…きっと…
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