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第3章 3年時 ーアレックス編ー

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『愛するアレックス

ビクトリア嬢と同じクラブの活動を楽しんでいるようで、良かったです。せっかくならネイトも誘ってあげたらどうかしら。』

母さん、もう僕に兄さんのことを任せないで…。


今日は冒険クラブに参加して初めての野外キャンプ訓練だ。これまでの活動で、一年生部員のアレックスとアリソンは簡単な属性魔法を練習したり、運動して体力をつけたりして今日に備えてきた。

属性魔法とは、魔法族が個々にもつ、いわゆる得意な魔法だ。メジャーな火・水・土・風とレアな闇・光の6属性だ。属性検査は二年生の時だが、だいたい遺伝なので、みんなが恐らくこれだろうという属性を知っていたし、中には入学前にちょっとした属性魔法が使える学生も多い。
ちなみにドーリン家は代々火属性でアレックスもそうだ。指の先から小さな火が出せるだけだけど。


朝に学園を出て、魔法学園の敷地外にある薬草の群生地に向かいそこで薬草を取ってくるというのが今回のミッションだ。その帰りに魔法ボート部の活動場所でもあるタル湖のほとりでキャンプをして一泊することになっている。
道中は野生動物や弱い魔物も出たが、主にノエル、ハロルド、ショーンが倒したり、追い払ったりしてくれて、5年生であるシャーリー・サフィラも顧問であるユージーン先生も特に出番がなかった。

「アレックスは魔力をあげるためのやってる?」

「うん。毎日やってる。」

アレ、とは秋にハロルドが教えてくれた方法である。それは、枯渇するまで魔力を使うという、簡単なように見えて大変なものだった。
魔法族は魔力が枯渇すると気絶する。そして、魔力が回復するまで目覚めない。その枯渇と回復の間で、魔力を作れるキャパシティーが少しばかり増大するのだ。
建国の時代には魔力を増やすために当たり前に行われていた手法らしいのだが、戦闘の少ない平和な時代がやってきてからは無理やりに魔力量を増やす必要がなくなり、忘れられていったようだ。

「最初は目力回復に3時間もかからなかったんですけど、最近は4時間ぐらいかかるんです。魔力量、増えてるみたいです。」

そう、この方法の難点は、魔力回復まで意識を失うことで、魔力量が多い人ほど回復に時間がかかる。最初はアレックスもビビって休日に試してみたのだが、悲しいことに、3時間で目覚めた。
ハロルドがやった時は丸一日目覚めなくて、親に心配されたそうだ。

「魔法使っている間にも魔力が伸びるっていうし、三年間毎日続けられたら、上級魔法科も夢じゃないかもよ。」

アレックスは期待に満ちた表情で大きく頷いた。



ーーーー




目的の薬草の採取を終えて、一行は湖の畔に到着した。まだまだ体力のないアレックスとアリソン、それにリアは疲れ切っていたが他のメンバーは元気だった。

「それじゃあ、私とシャーリーで結界とテントの準備をするから、みんなには食事の準備を頼もうか。」

3年生部員たちはアレックスとアリソンに火起こしや料理についてテキパキと教えてくれる。
土魔法を使えるショーンとハロルドが簡易キッチンみたいなものを作ってくれたり、水魔法を使えるノエルとリアが料理用の水をだしたり、ハロルドは火魔法も使えるらしく火をつけてくた。
しかし、これらの魔法が使えなくても別の魔法や便利グッズで代用できるらしい。また今度教えてくれるそうだ。

道中で捕まえた魔物を捌く時は、ちょっと気持ち悪くなった。アリソンとリアは露骨に目を逸らしていた。ちなみに嬉々として魔物を捌いたのはノエルとハロルドである。


そして夕飯タイムとなった。

「ああ、よかった。味付けは全部ノエルがやってくれたんだね。前回リアとショーンはひどいものを錬成したからね。」

「しょうがないわ、それまで料理なんてしたことなかったんだもの!今日はノエルが触らせてくれなかったの。」

「リアにもできないことがあったんだね。びっくりしたよ。」

アレックスはナイフで持ち込んだ芋の皮を剥こうとして危うく自分の手を切りかけたリアを思い出して遠い目をした。慌ててノエルが食材と刃物を奪い、リアは仕事をなくした。

「アリソンも料理が上手だったよね。お家でお料理してるの?お父さんがジャーナリストなんだっけ?」

「そう。ヒューゲン出身でルクレツェンの政治情勢を取材しているときに魔法族の母さんと恋をして、今は二人でヒューゲンで暮らしているの。」

「じゃあ、アリソンはルクレツェン在住じゃなかったんだ。よく魔法学園に入学できたね。」

「私の生まれはヒューゲンだけど、ルクレツェンにも7年ぐらい住んでて、その時魔力の有無をルクレツェンで登録したから、入学資格を満たしたみたい。」

「私のお父さんも昔は新聞記者をしてたの。オールディの支社で働いているときにお母さんと出会って、実は私も出身はオールディなの。」

「え、そうなの、ノエル?」

「うん。6歳の時にお父さんは新聞記者をやめてルクレツェンに戻ってきたの。今は小説家。」

その後、実はユージーン先生とアリソンがノエルの父親の小説の大ファンだったことが判明して大いに盛り上がる。ノエルもここぞとばかりに父親の小説を宣伝していた。

「じゃあ、ノエルも将来的には物書きを目指すのかい?」

「うーん。成績次第だけど、私は冒険者になりたいかなー。ユージーン先生にいろいろ教えてもらってるの。アレックスも冒険者、興味あるんだよね?」

「うん。魔力量が伸びたら上級魔法科に進学したいな…。」

「7大貴族の本家だと政治家になる人が多いけど、政治家は考えないの?」

「僕、正直、貴族至上主義には懐疑的で…。」

まあ、冒険クラブに参加してこのメンバーと楽しくしている時点でそうだよね、と思われてはいるだろう。

「でも、母上はゴリゴリの貴族至上主義者だし、父上もそれに反対しないしで実家だとそんなこと言えない雰囲気なんだよね。あの家で政治家になったら、保守派に所属するしかないけど、僕はそんなのは嫌なんだ…。
でも政治家にならないとなると母上は魔法職じゃないと許してくれないだろうし、そうなると魔力が足りないしで八方ふさがりだったんだ…。」

「お母さんの意見に逆らうことは考えなかったの?」

「僕、母上のこと、好きなんだ。できればがっかりさせたくない。」

そこでハロルドも顎にてをやり考えるように質問してくる。

「思ったんだけど、ドーリン家ってネイトも貴族至上主義じゃなさそうだし、ゴリゴリの貴族主義の母親に育てられたにしては、染まってないよね?育児は乳母がやってたの?」

「今のドーリン家にそこまでのお金はないから、母上が育ててくれたよ。そういえば、母上は昔はそんな貴族主義じゃなかった気がする。むしろおばあ様がひどくて。おばあ様が亡くなったあとぐらいからかな…ひどい貴族主義になったのは。」

「確かにそうね…。私が9歳の頃だったかしら。お葬式の時にいきなり貴族主義理論を語りだして驚いたのを覚えているわ。」


ノエルが興味深げに話を聞き、ちらりとシャーリーとアイコンタクトをとったのを目の端にとらえた。それが何を意味するのかを知ったのは一か月後のことである。




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