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第3章 3年時 ーアレックス編ー
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三年生たちが進学先を占う春の試験を終えた後のこと、アレックスはノエルに呼ばれてとある空き教室に来ていた。
「アレックス、いらっしゃい。はい。こっちに入って。」
空き教室の壁にあったのは人気の魔道具”どこでも部屋”だ。そこを抜けると、魔法学園では珍しいカントリー調の部屋が現れ、中にはハロルドとショーンの他に銀髪のイケメンがいた。年はハロルドたちと同じぐらいに見えることから、3年生だろうか。
銀に近いブロンドの人はいるが彼のように完全な銀髪は初めて見る。おそらく獣人だろう。
「ようこそ、裏生徒会へ!」
「裏生徒会?」
「そう。魔法学園で起きる事件を解決している非公式の団体よ。あ、ザラは初めまして?ザラ・ウォーよ。」
銀髪のイケメンが小さく頷いてあいさつした。ちょっと近づき難い雰囲気がある。
「アレックス・ドーリンです。よろしく。みんな裏生徒会?のメンバーなの?」
「そうよ。今日はアレックスの実家のことで聞きたいことがあって呼んだの。あと、裏生徒会に入ってくれると嬉しい。」
実家のこと?
「実はね、今、魔法学園から紛失した”古の魔道具”の行方を追っているの。」
「”古の魔道具”?」
魔法学園では門外不出の魔道具を保管しているという魔法学園伝説があった。どれも人の心を操るような危険なものであり、使用は禁止されているとか。
「ハロルドがその噂の真偽を確かめるって言って、ちょっといろいろ探したら、その保管庫がみつかっちゃったの。」
アレックスは「え」と言ってハロルドを見た。魔法学園の学生でアクティブな学生は入学してすぐ広大な学園の敷地内を探検する。アレックスももちろんした。
立ち入り禁止の場所以外は見て回ったがそんな場所はなかった。…立ち入り禁止の場所に入ったのかな?
「私たちもそこに行ってみたんだけど、精神を操作するような魔道具がいっぱいあったわ。」
「その中の一つが紛失してたの?」
「正確には100年前に借りだされたまま返却されてないの。」
あ、古の魔道具って借りれるんだ。
「でね、その魔道具っていうのが、思想を塗り替えるものなの。魔道具を起動した人の思想を所有者に上書きする。
緑色の石のついたコテコテのネックレスなんだけど。」
そのネックレスの絵が描かれた紙をショーンが渡してくれた。…このネックレス、見たことある。母上がおばあ様から譲り受けたっていう、代々ドーリン家の嫁に受け継がれる予定のネックレスにそっくりだ。
夜会の度に母上がつけて出かけるからアレックスも度々目撃している。
あれが、魔道具だって?ドーリン家で代々受け継がれてきたものが、精神操作の魔道具?
「以前の夜会でこれにそっくりなネックレスをドーリン夫人がつけていたっていう話を聞いたの。アレックスのお母さん。覚えはない?」
「…ある。母上がおばあ様から譲り受けたネックレスで…将来的にはリアにあげるものだって。おばあ様が亡くなって、母上の所有になって…。」
アレックスはぞっとした。そういえば母上の貴族至上主義はおばあ様が亡くなって過激になった。もしかして、ネックレスのせいだったのか?
「確認する必要がある。もしそうなら…どうする?」
「取り上げなきゃ…。こんな状態良くないよ…。」
アレックスは純粋にそう思った。しかし、ザラには懸念点があるようだ。
「でも、話を聞くにもう6年以上洗脳状態にあったわけだから、相当上書きされた思想に侵されている。精神汚染は闇魔法の一種で、影響が長ければ長いほど術が解かれたときに精神に異常が出る場合がある。
例えば、廃人のようになってしまったり、幻覚を見るようになったり。」
アレックスは言葉をなくした。それなら精神汚染は解かない方がいい。
「洗脳の力を弱めることはできないかな?」
ノエルが言った。
「例えば、ネックレスの石を取り換えてしまうとか。それか、夜会にもつけさせないようにするとか。」
「所有者の思想を上書きするものだから、身に着ける頻度を落としたところで変わらない気がする。それに洗脳の力を弱めても今のままじゃ次の嫁に自動で受け継がれてしまって嫁が弱くとも洗脳を受けちゃうよ。
リアが貴族至上主義になるとは思いたくないけど、相当強力な魔道具だから…。」
「じゃあ、魔道具を徐々に弱めて、やがて壊れるように仕向ける。」
「どうやって?」
「…できるかも。」
ハロルドは眼鏡をかけて魔道具の設計図を眺める。
「この魔道具、おそらく仕組みは闇の魔法だ。物理的に壊すのは簡単だろうけど、形を壊さずに無効化するなら光魔法、ノエルの出番だ。」
ノエルはハロルドに言われて頷く。
「効果的な無効化方法は僕が見て調べる。本当に古の魔道具かどうかも。
そして、徐々に無効化するのは、ショーンの契約してる時の精霊に頼めば可能だ。」
「契約している?時の精霊?」
アレックスがきょとんとする。ショーンが自分の左肩をちらりと見るとノエルと同じ顔をした手に平サイズの女の子が現れた。
『ちょっとあんた生意気よ!私はね、ショーンの言うことしか聞かないの!ショーンに頼まれない限りやらないんだからね!』
「やってくれる?ビビ?」
『もちろんよ!ショーン!朝飯前よ!』
精霊…初めて見た…これが…ずいぶん元気でおしゃべりだな。それに気になるのは、その顔だ。
「何で顔がノエルにそっくりなの?精霊って好きな姿になれるんだよね?」
『この顔が一番ショーンの好きな顔なの。』
「あ、こら、ビビ!」
ショーンは慌てているが、アレックス以外は知っていたのだろう。特に大きな反応はしなかった。
「よし、じゃあ、ドーリン家に乗り込もう。ドーリン夫妻がいない時…これはアレックスに見極めてもらおう。僕とノエルは必ず。できればショーンも。ザラは…無理か。今回は控えで。」
ザラは少し不服そうだったが頷いた。
「決行は夏休み、だ。」
「アレックス、いらっしゃい。はい。こっちに入って。」
空き教室の壁にあったのは人気の魔道具”どこでも部屋”だ。そこを抜けると、魔法学園では珍しいカントリー調の部屋が現れ、中にはハロルドとショーンの他に銀髪のイケメンがいた。年はハロルドたちと同じぐらいに見えることから、3年生だろうか。
銀に近いブロンドの人はいるが彼のように完全な銀髪は初めて見る。おそらく獣人だろう。
「ようこそ、裏生徒会へ!」
「裏生徒会?」
「そう。魔法学園で起きる事件を解決している非公式の団体よ。あ、ザラは初めまして?ザラ・ウォーよ。」
銀髪のイケメンが小さく頷いてあいさつした。ちょっと近づき難い雰囲気がある。
「アレックス・ドーリンです。よろしく。みんな裏生徒会?のメンバーなの?」
「そうよ。今日はアレックスの実家のことで聞きたいことがあって呼んだの。あと、裏生徒会に入ってくれると嬉しい。」
実家のこと?
「実はね、今、魔法学園から紛失した”古の魔道具”の行方を追っているの。」
「”古の魔道具”?」
魔法学園では門外不出の魔道具を保管しているという魔法学園伝説があった。どれも人の心を操るような危険なものであり、使用は禁止されているとか。
「ハロルドがその噂の真偽を確かめるって言って、ちょっといろいろ探したら、その保管庫がみつかっちゃったの。」
アレックスは「え」と言ってハロルドを見た。魔法学園の学生でアクティブな学生は入学してすぐ広大な学園の敷地内を探検する。アレックスももちろんした。
立ち入り禁止の場所以外は見て回ったがそんな場所はなかった。…立ち入り禁止の場所に入ったのかな?
「私たちもそこに行ってみたんだけど、精神を操作するような魔道具がいっぱいあったわ。」
「その中の一つが紛失してたの?」
「正確には100年前に借りだされたまま返却されてないの。」
あ、古の魔道具って借りれるんだ。
「でね、その魔道具っていうのが、思想を塗り替えるものなの。魔道具を起動した人の思想を所有者に上書きする。
緑色の石のついたコテコテのネックレスなんだけど。」
そのネックレスの絵が描かれた紙をショーンが渡してくれた。…このネックレス、見たことある。母上がおばあ様から譲り受けたっていう、代々ドーリン家の嫁に受け継がれる予定のネックレスにそっくりだ。
夜会の度に母上がつけて出かけるからアレックスも度々目撃している。
あれが、魔道具だって?ドーリン家で代々受け継がれてきたものが、精神操作の魔道具?
「以前の夜会でこれにそっくりなネックレスをドーリン夫人がつけていたっていう話を聞いたの。アレックスのお母さん。覚えはない?」
「…ある。母上がおばあ様から譲り受けたネックレスで…将来的にはリアにあげるものだって。おばあ様が亡くなって、母上の所有になって…。」
アレックスはぞっとした。そういえば母上の貴族至上主義はおばあ様が亡くなって過激になった。もしかして、ネックレスのせいだったのか?
「確認する必要がある。もしそうなら…どうする?」
「取り上げなきゃ…。こんな状態良くないよ…。」
アレックスは純粋にそう思った。しかし、ザラには懸念点があるようだ。
「でも、話を聞くにもう6年以上洗脳状態にあったわけだから、相当上書きされた思想に侵されている。精神汚染は闇魔法の一種で、影響が長ければ長いほど術が解かれたときに精神に異常が出る場合がある。
例えば、廃人のようになってしまったり、幻覚を見るようになったり。」
アレックスは言葉をなくした。それなら精神汚染は解かない方がいい。
「洗脳の力を弱めることはできないかな?」
ノエルが言った。
「例えば、ネックレスの石を取り換えてしまうとか。それか、夜会にもつけさせないようにするとか。」
「所有者の思想を上書きするものだから、身に着ける頻度を落としたところで変わらない気がする。それに洗脳の力を弱めても今のままじゃ次の嫁に自動で受け継がれてしまって嫁が弱くとも洗脳を受けちゃうよ。
リアが貴族至上主義になるとは思いたくないけど、相当強力な魔道具だから…。」
「じゃあ、魔道具を徐々に弱めて、やがて壊れるように仕向ける。」
「どうやって?」
「…できるかも。」
ハロルドは眼鏡をかけて魔道具の設計図を眺める。
「この魔道具、おそらく仕組みは闇の魔法だ。物理的に壊すのは簡単だろうけど、形を壊さずに無効化するなら光魔法、ノエルの出番だ。」
ノエルはハロルドに言われて頷く。
「効果的な無効化方法は僕が見て調べる。本当に古の魔道具かどうかも。
そして、徐々に無効化するのは、ショーンの契約してる時の精霊に頼めば可能だ。」
「契約している?時の精霊?」
アレックスがきょとんとする。ショーンが自分の左肩をちらりと見るとノエルと同じ顔をした手に平サイズの女の子が現れた。
『ちょっとあんた生意気よ!私はね、ショーンの言うことしか聞かないの!ショーンに頼まれない限りやらないんだからね!』
「やってくれる?ビビ?」
『もちろんよ!ショーン!朝飯前よ!』
精霊…初めて見た…これが…ずいぶん元気でおしゃべりだな。それに気になるのは、その顔だ。
「何で顔がノエルにそっくりなの?精霊って好きな姿になれるんだよね?」
『この顔が一番ショーンの好きな顔なの。』
「あ、こら、ビビ!」
ショーンは慌てているが、アレックス以外は知っていたのだろう。特に大きな反応はしなかった。
「よし、じゃあ、ドーリン家に乗り込もう。ドーリン夫妻がいない時…これはアレックスに見極めてもらおう。僕とノエルは必ず。できればショーンも。ザラは…無理か。今回は控えで。」
ザラは少し不服そうだったが頷いた。
「決行は夏休み、だ。」
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