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第7章 ーノエル編ー

16 学園三年目

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「ノエル!ショーン!よく来たね!」

最寄りの駅に着くと、ハロルドが出迎えてくれた。いつにもまして嬉しそうだ。ハロルドはノエルと会うと楽しそうでザラと会うと嫌そうなのがデフォルトである。

「一度僕の家に行こう。あ、オズマはついてきたんだね?」

「うん。そうなの。ハロルドの家に連れて行ってもいい?」

「もちろんいいよ。家にも猫がいるから。」

魔法車で20分ほど移動すると、貴族街の中でも比較的大きな屋敷に到着した。よく手入れされた庭と屋敷が印象的だった。門の中に入り、魔法車を降りると見覚えのあるくすんだ茶髪の男性が、アッシュブロンドの女性と一緒に出迎えてくれた。


「いらっしゃい!よく来たね!ハロルドが家にお友達を連れてくるなんて、初めてのことで嬉しいよ!僕はハロルドの父のセドリック。こっちは妻だ。」

「ハロルドの母です。自分の家だと思って過ごしていってね。」


ハロルドの母のアッシュブロンドはシャーリーを思い起こさせる。確かハロルドとシャーリーはいとこだったか。

「ショーン・ロバートです。」

「ノエル・ボルトンです。」

「もしかして、ハロルドの初めてのお友達のノエルちゃんかな?」

「はい、お久しぶりです。」

「父上、母上、ノエルを部屋に案内するからあとでね。」

ハロルドはちょっと自分の親に冷たい。ノエルの手をぐいぐい引いて屋敷の中に入っていく。心なしか、とても楽しそうだ。


「ここがノエルの部屋だよ!ショーンの部屋はそっち。」

扉を開けて中に入るとそこは花柄のカーテンや家具でまとめられた可愛らしい部屋だった。印象的だったのは、部屋の印象にもよく合う、白い花が美しく花瓶に生けられていたことだ。

「かわいい部屋ね。お花が素敵。」

「そう!?これ僕が庭の花から選んでいけたんだよ!美しい配色の勉強もしたんだ!」

ハロルドがこれを!あのはちゃめちゃな色使いで私服は母親のコーディネートをそのまま来てるというハロルドが!

「すごいね。」

ハロルドは得意げである。きっと夏休み前にアレックスに『ノエルにあげたことないのに欲しがるのはわがまま』って言われたことを気にしていたのだろう。

「ありがとう、ハロルド!」


今度、クッキーぐらいは焼いてあげよう。

後で合流したショーンは、「僕の部屋の花、色がめちゃくちゃだったけど…そっか、ノエルの花の準備した余りをテキトーに突っ込んだんだね…。」と言っていた。



ー---



ハロルドの家に二泊することになっていた。一日目から大歓迎を受けた。

ハロルドの母はお菓子作りが趣味で腕前はプロ並みだった。シフォンケーキを食べたが、絶品だった。思わずオールディ語で「美味しい!」と言ってしまったぐらいである。

ハロルドの父はノエルたちが来たのを見届けた後、入れ違いのように首都に出発していった。セドリック魔法商会とはハロルドの父が立ち上げた商会らしく、首都と郊外を行ったり来たりして過ごしているそうだ。

ハロルドの家の使用人は年嵩の人物が多く、特に庭師は高齢でハロルドのことを「お嬢様。」と呼んでいた。そういえば、ハロルドと初めて会ったとき、彼は女装をしていた。
いや、女装、ではなく周りからも女の子として認識されていたと思う。その理由はまだ説明されていない。


そうして、翌日、アレックスの家にやってきた。アレックスの母の部屋に入ろうとしたところで問題が起きた。

カバンの中に入れていたオズマが暴れるので、入口の前で止まっていたらハロルドが何かに勘づいた。


「…この部屋。僕たちは入れないみたいだ。」

ハロルドがどこからかハンカチを取り出して入口に向かってぽいと投げると、部屋と廊下の狭間でバチバチと火花が散り、ハンカチが焦げた。

「多分、部屋主不在だと血縁者しか入れなくなるんだ。アレックス、ネックレス取ってこれる?」

「う、うん。」

アレックスが驚いた顔をしながらも部屋の中に入っていく。


「オズマ!すごい!いつも私を助けてくれるのよね!」

ノエルはカバンからオズマを抱き上げて花を合わせる。オズマも嬉しそうにニャーと鳴いた。

「オズマは今何歳なの?」

唐突にハロルドがきいてきた。

「うーん、出会ったときにはこの大きさだったわ。私が5歳の時よ。だから10歳よりは年上だと思うけど。」

「あんまり年齢を感じないよね?品種は?」

「多分ロシアンブルーだと思う。」

オールディの海を挟んで向こう側にある国で人気の猫で、オールディで暮らしていたころに貴族間で人気になっていた。

「ロシアンブルーにしては目が…。あ、アレックスが戻ってきた。」

アレックスがこちらに豪華な箱を持って歩いてくる。

「待った。アレックス。もしかしたらネックレスの持ち出しにも制約があるかも。この部屋の魔法、多分かけられたのは100年ぐらい前だ。この部屋に主がいる限り続くことになってる。もしかしたらそのネックレスがファクターになってるかも。」

「…この家、100年以上前からあるの?」

ノエルはちょっと驚いた。とても綺麗な建物に見えたからだ。

「貴族の家ってみんなそうだよ。魔法で綺麗に維持してるんだ。使用人も魔法使いな場合がほとんどだからね。」

「…我が家、掃除の使用人は雇ってないんだよ。ひいひいおばあ様が強い魔法使いで、強力なお掃除の魔法をかけてくれたから…。」

「それだ。アレックスはそこで箱をあけてネックレスを見せてくれる?」

アレックスは頷いてこちらに見えるように箱を開けて床に置く。中から出てきたのは緑色の大きな石が中央につき、その周りも同色の小さな石が飾っている、コテコテのネックレスだ。

「これだ。アレックス、一度部屋を出て。ノエル、試しにこの魔法越しにネックレスに光魔法がかけられそうかやってみて。ショーン、ビビを呼んで。」

ハロルドの指示に従い、入口越しに光魔法をかけてみる。ミネルバの文字通りのスパルタ指導を二年間受けたノエルはすっかり闇魔法に対抗する光魔法を身に着けていた。
怪力の方は…日々精進しているとだけ言っておこう。

「ハロルド、かけれるみたい。」

時の精霊のビビが魔法越しに時の魔法をかけるのも問題ないようだ。

「周りの石から一つずつ術がかかるようにしてほしいんだ。真ん中の大きな石には最後に術がかかるように。期間は3年間で全部完了するように。」

ショーンがハロルドの指示を復唱してビビに指示を出す。ビビはショーンの言うことしか聞かないのだ。

「これで、徐々に魔道具の力は弱くなっていくと思う。でもドーリン夫人の精神が健全に戻るとは保証できない。いきなり壊すよりかはましだと思うけど。
どうする?アレックス?始める?」

最後の選択権はアレックスに委ねられた。アレックスが少し震えている。それはそうだろう。自分の選択で母親が廃人になる可能性があるのだから。

「アレックス、大丈夫よ。どちらを選んでもアレックスのお母さんはアレックスのことを愛してるし、アレックスもそうでしょう?
話を聞いてるだけの私でもわかるわ。いつも心配してたくさん手紙をくださる素敵なお母さんじゃない?
…アレックスがお母さんのためだと思う方をすればいいのよ。」

「うん。…お願いします。魔道具を壊してください。」


ー---



その後、アレックスもハロルドの家に招いてランチパーティーをした。一人で家に置いておくのは少し不安だったから。その後、アレックスは家族が戻る前にと家に帰っていった。


「お母さんがよくなるといいわね。」

「古の魔道具だからね…わからないこともあるけれど、きっとよくなるよ。」

ハロルドが珍しく不確かなことを言っている。でもそうね、と頷いてアレックスを見送った。



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